第7章 ~記憶の扉が開くとき~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ただいま~」
「ああ、おかえりなさい。りお」
ダイニングから昴の声が聞こえる。洗い物をしていたのか、エプロンをかけた姿で手を拭きながら玄関まで出迎えてくれた。
「久々の出勤でお腹すいたでしょ。今日はあなたの好きな肉じゃがです」
「えっ、本当!?」
ぱぁっと表情を明るくしたりおは、すぐさま靴を脱ぎ玄関を上がった。そのまま二人はハグをする。
「あ~……確かに昴さんから肉じゃがの匂いがする~!」
昴の胸元に顔をうずめて、りおはクンと鼻を鳴らす。エプロンからは醤油とみりんの匂いがした。
ギュッとすがりつくと、頬には昴の体温とわずかにタバコの匂い。耳を押し付ければトクトクと鼓動を感じる。
たったそれだけなのに、先程までの不安がウソのように和らいだ。
「お腹すいた~。すぐ着替えてくるわ」
「ええ。ダイニングで待っていますよ」
抱きついたまますり寄るりおに、まるで猫のようだと昴は微笑む。
二人はゆっくり体を離し、昴はダイニングへ。りおは自室へと向かった。
「久々の出勤はどうでした?」
湯気が立つ夕食を囲み、昴が問いかける。
「ふふふ。教授も研究生たちも相変わらずでホッとしました。教授なんて、手土産に持っていったクッキー3つ一気に食べちゃうんだもの。血糖値高いってドクターから言われているのに……」
楽しそうに話すりおを見て、昴も安心したように微笑んだ。
「そうですか。研究室の方々はみんな甘党だと言っていましたし、手土産も気に入って頂けて良かったですね。それにしても森教授は本当に甘いものがお好きなんですね」
教授の甘党は筋金入りよ、とりおは笑う。
帰ったばかりの時は疲れていたのか、少し青い顔をしていた。今は頬に赤みがさしている。美味しそうに肉じゃがを食べるりおを、昴は嬉しそうに見つめた。
食後りおは入浴を済ませ、リビングで『ペンダント』を手にボンヤリとしていた。
子どもの頃の宝物だったルーぺ。ウサギの小さなポーチに入っていた革紐。それらが組み合わさって『ペンダント』になった。
両親はそのペンダントを……——
(どうしろって言ってたんだろう……)
目の前にかざしてルーペ部分を覗く。当然向こう側はぼやけていてよく見えない。
ゆらゆらと揺れるルーペ。時々照明の光を受けてキラリと光る。そのまま手のひらに乗せても、何も思い出せなかった。
ガチャ
赤井が入浴を終えリビングへと戻ってきた。いつもはオールバックにしている前髪が下がり、少し若く見える。
「どうした? 難しい顔して」
ウィスキーの入ったロックグラスをテーブルに置いてソファーに座ると、赤井は考え込むりおに声をかけた。
「う~ん…。『ペンダント』の事考えていたの。このペンダントをどうしろって両親は言ってたかな、って」
再びペンダントを目の前にかざす。ルーペがゆらゆらと揺れた。
「冴島さんにも訊いたが、それについて何も知らないって言ってたしな」
「うん。たぶん、ペンダントととは別に何かヒントがあるんだと思う。それが無いと、このペンダントも意味を成さないと思うの。私……両親から何か言われたんじゃないかな。それが何なのか、全然思い出せないけど」
りおはソファーの背もたれに体を預けると、大きなため息をつく。そのまま目を閉じた。
両親からの言葉……
それどころか、りおは両親と過ごした記憶すらほとんど残ってはいない。
時々わずかに思い出すことはあっても、それは至極断片的で、まるでほとんどピースが揃っていないジグソーパズル。
ピースのない部分は真っ暗な闇のよう。
その記憶が悲しかった思い出なのか、楽しかった思い出なのか、それすらも分からない。
何も覚えていないことに寂しさと申し訳なさだけが募る。
りおは『ペンダント』を強く握りしめた。
「まあ焦るな。じっくり謎解きと行こうじゃないか。俺も付き合うから」
ゆっくり思い出せば良い、と赤井は言う。お前はひとりじゃないよ。俺がいるじゃないか。
優しいペリドットがりおを見つめ、微笑みかけた。
「うん」
りおはそれを見て嬉しそうにうなずいた。
翌日——
自室で出勤準備の最中、スマホが鳴った。
「降谷…さん?」
りおは画面に出た「0」の文字を見て、慌てて電話に出る。
「はい」
「広瀬か。忙しい時間にすまない。一つ確認したくて連絡したんだ」
いくぶん緊張した降谷の声を聞き、りおもピリッと神経を張り詰める。
「最近 ベルモットとは会ったか?」
「いいえ。郊外のセーフハウスで別れてからは会っていません」
りおは即座に答えた。
ラスティーにかかったNOC疑惑。それを払拭するまでの間、ベルモットとラスティーはセーフハウスで一緒に過ごした。
そこで別れて以降、会うどころか連絡も取っていない。
「そうか……。実はベルモットが最近誰かと頻繁に会っているようなんだ。それが誰なのかは、まだまったく分かっていない。
ジンの新たなビジネスに関係しているのか、または彼女が独断で会っているだけなのか、それさえも……な。
もし、ベルモットと接触があった時は、一応探りを入れてくれ」
「分かりました」
短い会話をして電話を切る。
(誰かと会ってる? 昨日大学で見たあのバイク……あれはベルモット?)
帰り際に見た大型バイクのテールランプ。
アレがベルモットだったかどうかは分からない。あの時に感じた香りだけで、彼女だと断定するのは時期尚早だろう。
確かに高価なものではあるが、彼女の特注品というわけでは無く、普通に売られているものだからだ。
(近いうちに会えるといいけど……)
りおはスマホをバッグに仕舞うと、出勤の準備を済ませて部屋を後にした。
「ああ、おかえりなさい。りお」
ダイニングから昴の声が聞こえる。洗い物をしていたのか、エプロンをかけた姿で手を拭きながら玄関まで出迎えてくれた。
「久々の出勤でお腹すいたでしょ。今日はあなたの好きな肉じゃがです」
「えっ、本当!?」
ぱぁっと表情を明るくしたりおは、すぐさま靴を脱ぎ玄関を上がった。そのまま二人はハグをする。
「あ~……確かに昴さんから肉じゃがの匂いがする~!」
昴の胸元に顔をうずめて、りおはクンと鼻を鳴らす。エプロンからは醤油とみりんの匂いがした。
ギュッとすがりつくと、頬には昴の体温とわずかにタバコの匂い。耳を押し付ければトクトクと鼓動を感じる。
たったそれだけなのに、先程までの不安がウソのように和らいだ。
「お腹すいた~。すぐ着替えてくるわ」
「ええ。ダイニングで待っていますよ」
抱きついたまますり寄るりおに、まるで猫のようだと昴は微笑む。
二人はゆっくり体を離し、昴はダイニングへ。りおは自室へと向かった。
「久々の出勤はどうでした?」
湯気が立つ夕食を囲み、昴が問いかける。
「ふふふ。教授も研究生たちも相変わらずでホッとしました。教授なんて、手土産に持っていったクッキー3つ一気に食べちゃうんだもの。血糖値高いってドクターから言われているのに……」
楽しそうに話すりおを見て、昴も安心したように微笑んだ。
「そうですか。研究室の方々はみんな甘党だと言っていましたし、手土産も気に入って頂けて良かったですね。それにしても森教授は本当に甘いものがお好きなんですね」
教授の甘党は筋金入りよ、とりおは笑う。
帰ったばかりの時は疲れていたのか、少し青い顔をしていた。今は頬に赤みがさしている。美味しそうに肉じゃがを食べるりおを、昴は嬉しそうに見つめた。
食後りおは入浴を済ませ、リビングで『ペンダント』を手にボンヤリとしていた。
子どもの頃の宝物だったルーぺ。ウサギの小さなポーチに入っていた革紐。それらが組み合わさって『ペンダント』になった。
両親はそのペンダントを……——
(どうしろって言ってたんだろう……)
目の前にかざしてルーペ部分を覗く。当然向こう側はぼやけていてよく見えない。
ゆらゆらと揺れるルーペ。時々照明の光を受けてキラリと光る。そのまま手のひらに乗せても、何も思い出せなかった。
ガチャ
赤井が入浴を終えリビングへと戻ってきた。いつもはオールバックにしている前髪が下がり、少し若く見える。
「どうした? 難しい顔して」
ウィスキーの入ったロックグラスをテーブルに置いてソファーに座ると、赤井は考え込むりおに声をかけた。
「う~ん…。『ペンダント』の事考えていたの。このペンダントをどうしろって両親は言ってたかな、って」
再びペンダントを目の前にかざす。ルーペがゆらゆらと揺れた。
「冴島さんにも訊いたが、それについて何も知らないって言ってたしな」
「うん。たぶん、ペンダントととは別に何かヒントがあるんだと思う。それが無いと、このペンダントも意味を成さないと思うの。私……両親から何か言われたんじゃないかな。それが何なのか、全然思い出せないけど」
りおはソファーの背もたれに体を預けると、大きなため息をつく。そのまま目を閉じた。
両親からの言葉……
それどころか、りおは両親と過ごした記憶すらほとんど残ってはいない。
時々わずかに思い出すことはあっても、それは至極断片的で、まるでほとんどピースが揃っていないジグソーパズル。
ピースのない部分は真っ暗な闇のよう。
その記憶が悲しかった思い出なのか、楽しかった思い出なのか、それすらも分からない。
何も覚えていないことに寂しさと申し訳なさだけが募る。
りおは『ペンダント』を強く握りしめた。
「まあ焦るな。じっくり謎解きと行こうじゃないか。俺も付き合うから」
ゆっくり思い出せば良い、と赤井は言う。お前はひとりじゃないよ。俺がいるじゃないか。
優しいペリドットがりおを見つめ、微笑みかけた。
「うん」
りおはそれを見て嬉しそうにうなずいた。
翌日——
自室で出勤準備の最中、スマホが鳴った。
「降谷…さん?」
りおは画面に出た「0」の文字を見て、慌てて電話に出る。
「はい」
「広瀬か。忙しい時間にすまない。一つ確認したくて連絡したんだ」
いくぶん緊張した降谷の声を聞き、りおもピリッと神経を張り詰める。
「最近 ベルモットとは会ったか?」
「いいえ。郊外のセーフハウスで別れてからは会っていません」
りおは即座に答えた。
ラスティーにかかったNOC疑惑。それを払拭するまでの間、ベルモットとラスティーはセーフハウスで一緒に過ごした。
そこで別れて以降、会うどころか連絡も取っていない。
「そうか……。実はベルモットが最近誰かと頻繁に会っているようなんだ。それが誰なのかは、まだまったく分かっていない。
ジンの新たなビジネスに関係しているのか、または彼女が独断で会っているだけなのか、それさえも……な。
もし、ベルモットと接触があった時は、一応探りを入れてくれ」
「分かりました」
短い会話をして電話を切る。
(誰かと会ってる? 昨日大学で見たあのバイク……あれはベルモット?)
帰り際に見た大型バイクのテールランプ。
アレがベルモットだったかどうかは分からない。あの時に感じた香りだけで、彼女だと断定するのは時期尚早だろう。
確かに高価なものではあるが、彼女の特注品というわけでは無く、普通に売られているものだからだ。
(近いうちに会えるといいけど……)
りおはスマホをバッグに仕舞うと、出勤の準備を済ませて部屋を後にした。