第6.5章 ~宝探し~
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宝探しから帰った夜——
りおのスマホが着信を告げた。
「はい、星川です」
りおは電話に出ると偽名を名乗る。最近ちょこちょことメールや電話がくるが、そのほとんどが《星川さくら》にだ。
大学の業務連絡が主だが、中には明らかにりおに気がある者からのメールもある。
業務連絡にかこつけて、りおの気を引こうとあの手この手の文言が並んでいた。
りおはそんなメールにも丁寧に答えている。
赤井がりおの立場だったら、必要最小限の素っ気ない返信をするだけだろう。
優しいのも罪だな、などと考えながら、赤井は読んでいた本に集中する。りおが相手とどんなやり取りをしていても、赤井は特段心配はしていない。全然気にもしていない。
ただ時には——何か良からぬことに巻きこまれてはいなかと、内容を盗み見ることはあるが。
(誰からの電話だ?)
赤井は読んでいた本から目を離し、りおの方へチラリと視線を向けた。
「あ、はい……、ええ……あ~、そのファイルなら私のPCにデータが入っています。
尾沼さんのPCに送っておきましょうか?」
『良いのかい? 今体調悪くて休んでいるんだろ?』
「データを送るくらいは出来ますよ。PCも手元にありますし……。それに体調もだいぶ良くなったので、もうじき大学にも復帰予定なんです」
(職場の同僚か……)
今回は正真正銘の業務連絡のようだ。
話の内容を盗み聞き、赤井の視線は再び本へと向かった。
「そういえば尾沼さん、そちらの実験は順調ですか?」
担当している教授は違うが、同じ〈助手〉として仕事をしている《尾沼裕樹(おぬまひろき)》は職場の先輩にあたる。
こんな時間まで仕事をしている尾沼を心配して、さくらは問いかけた。
『う~ん……。順調とは言い難いかな。何回やっても失敗続きだよ。ウチの教授、《今日もモッくんがへそを曲げた》ってしょんぼりさ』
尾沼はため息交じりにグチをこぼす。
それを聞いてさくらの頭に「?」が浮かんだ。
「え…あの…《モッくん》ってどなたですか?」
尾沼が所属するのは免疫学専攻で細菌やウィルスを研究している研究室。
モッくんと呼ばれるような学生も助手もいない。新しい研究生だろうか。
『ああ、ごめん。今研究しているウィルスの名前なんだ。教授が付けたんだよ。
ウチの教授変わってるからさ、培養しているシャーレや試験管ごとに名前つけてるんだ』
「ああ、そういえばそんなウワサ……聞いたことあるような」
さくらは以前、自身が所属する理学部には東都大きっての変わり者がいると聞いたことがある。
頭脳は優秀だが、研究対象に対しておかしなネーミングばかりしている、と学生たちがまことしやかにウワサしていた。その時はさほど気にも留めなかったが……どうやらそれは尾沼の担当教授のことだったらしい。
『まあ、そんなところも憎めないけどね。
教授の実験が成功すれば、免疫学では革命的だよ。医学において大きな可能性が開けるんだ。そのお手伝いが出来るんだから、俺は幸せだよ。ちょっと変わり者だけど、俺は尊敬してる。
ただ名前のレパートリーが少ないから、同じ名前が何度も出てくるんだよね。どれが現在の《モッくん》で、どれが前の《ルミちゃん》だか、時々分からなくなるんだ』
《モッくん1号》《モッくん2号》みたいに使い分けて欲しい、と尾沼は笑う。
確かに、とさくらも思わず吹き出した。
『おっと、遅い時間だったのにごめんね。
データの方、もし大丈夫なら俺のPCの送っておいて。元気そうでよかったよ。
君が復帰したら夕飯でもおごるからさ、同じ助手の立場としてグチを聞いてくれよな』
「ふふふ。分かりました! ご飯、楽しみにしていますね。お互い変わり者の教授を持つと苦労しますね~」
まったくだよ! と笑う尾沼との電話を切ると、さくらはスマホをテーブルに置いた。
「誰かと飯、食いに行くのか?」
通話が切れたことを確認して、赤井がりおに声をかけた。
「あ、うん。理学部で別の教授の助手をしている人。尾沼さんっていって、私が東都大で助手として入った時に色々お世話になった人なの」
りおは答えながらPCを立ち上げた。
「男……か?」
スマホから漏れ聞こえた声は確かに男性の声だった。分かっているのに、赤井はりおに問いかける。
「うん、そうだよ。何だかんだ言って理系は男性が多いからね。あ……、もしかしてヤキモチ焼いてる?」
尾沼宛のメールにファイルを添付し送信をクリックすると、りおはニヤニヤしながら赤井に近づいた。
赤井の座っているソファーの背もたれに両ヒジをつき、本を見つめる赤井の顔を覗き込む。
「別に……」
赤井は表情を変えず、本を見つめたまま。
視線は文字を追っているが、内容は全然頭に入ってこない。それでもポーカーフェイスを決め込んで、興味なさそうに答えた。
「ふ~ん…な~んだ…そっか。じゃあ遠慮なく、大学に復帰したら尾沼さんとご飯行ってこ~よぉっと」
りおはつまらなそうにソファーから離れ、ボソリとつぶやく。
ガタタッ!!
赤井の手から滑り落ちた本が、ハデな音を立てて床に落ちた。
「ん? どうしたの?」
音のした方へりおが振り返った。
「あ…ッ…いや…その…。て…手がすべってな…。すまない。大きな音を立てて…」
動揺を見せる赤井の様子を見て、りおがクスクスと笑い出す。
「『別の男と飯なんか食いに行くな』って言えば良いのに」
りおは再び赤井の方へ歩み寄り、隣に腰かけた。
「いや……お前にだって付き合いがあるだろうし…。飯ぐらい行ったって構わない…ただ…」
「ただ?」
りおは小首を傾げてその先の言葉を待つ。
「出来れば…二人きりではなく何人かで行ってもらえると…。俺も余計な心配をしなくて済む」
どうやら〈りおに何かあったら〉ということを心配しているらしい。
確かに過去には安室やジンに襲われそうになったこともある。一般人相手に不覚を取るつもりも無いが、油断は禁物だろう。
「ふふふ。分かったわ。尾沼さんとご飯って言っても、きっと助手の人たちみんなで行くし…。心配いらないわよ」
ちゅっ
バツが悪そうに下を向く赤井の頬に、りおはキスを落とす。
一瞬驚いた顔をした赤井も、それに答えるようにりおの頬に手を伸ばし、お返しのキスをした。
「それは誘っているのか?」
何度か触れるだけのキスをして、それ以上の侵入は許さず。
しかし甘えるようにりおは赤井の肩口にすり寄った。
「飛びきり優しく抱いてくれるなら……メールをコッソリ見てたことも許してあげるわ」
(!?)
赤井はぎくりと体を揺らした。
「ば、バレてたか」
「秀一さん、ヘンなところでツメが甘いんだもん」
阿笠邸に盗聴器仕掛けているのも、きっと哀ちゃんにバレてるわよ、とりおは笑う。
「それは俺の《ツメ》というより、女性陣のカンが良すぎるんじゃないか?」
赤井は半ば呆れた様に言った。
「あはは、それはあるかもね。女性のカンをなめてると、世の男性たちは痛い目を見るわよ」
楽しそうに笑うりおを見て、赤井も微笑んだ。
「そうだな。では我が女神には敬意を払って、ベッドルームまでお連れしよう」
本日のキーワードだった《女神》になぞらえて、赤井はりおを抱き上げる。
「お願い、女神はやめて……思い出しちゃうから」
過去の女神騒動の際、大勢の前で舞った舞を思い出し、りおは真っ赤になって赤井の首に抱きついた。
子どもたちとの楽しい謎解きと、ほんの少しのヤキモチと。
今日一日の余韻に浸りながら、二人の夜は更けていった。
***
バタン
ベルモットが部屋に入ると、そこにはジンとウォッカが向かい合わせで座っていた。
ベルモットの到着に気付くと、ジンはソファーをきしませ、吸っていたタバコを灰皿に押し付ける。
「遅かったな、ベルモット」
ジンは鋭い視線を一瞬だけベルモットに向けると、再び書類に向かう。
「ええ。あちらも忙しいらしくて。でも、あなたに言われてコンタクトを取った後は、ちゃんと定期的に会ってるわ。今は具体的な話を聞いているところよ」
ベルモットは二人が座る応接セットに近付くと、空いてる席に座った。
「……そろそろ本格的な実験もしたいそうなの」
先程よりも低い声で、ベルモットはジンに語りかけた。
「実験?」
ジンの目がベルモットの姿を捉える。
「ええ。すでにあちらの独断で、数回実行に移されたものも有るようだけど……。今後さらに踏み込んだ実験を何回かに分けて行いたい、と言っていたわ。
かなり準備は進んでいるようよ。その援護を頼むと言われたの」
実験の大まかな流れをジンに説明し、ベルモットは当日自分以外にも援護をする者が必要だと伝えた。
「わかった。それならウォッカ、お前が手伝え。それで良いな」
「ええ」
「わかりやした」
ジンの指示に二人が返事をした。
「実験をやるのは良いが、サツやFBIに気取られるなよ」
「分かってますぜ。アニキ」
ウォッカが余裕の笑みを見せる。
「あと……ヤツらにもな。まあ、どうせどこかで俺たちの動きを探っているだろうがな」
ギラリと鋭くなるジンの目を見て、ベルモットが「YES」とも、ため息ともつかない返事をした。
「なんだ、ベルモット。何か心配事か?」
いつもより口数が少ないベルモットにジンは問いかけた。
「ええ、まあ……。今回私達の行動範囲はかなり限定されているわ。ラスティーが一般人として潜んでいる地域とかぶっているし…。
この計画を知れば、かなりあの子の精神に負荷をかける。内容を知らせるのは出来るだけ先にした方が良いと思うの」
いつになく真剣に話すベルモットの様子に、ジンは眉根を寄せる。
「それは分かっている。だから組織の中でも、ごく一部にしか計画の全容を知らせていない。俺もラスティーにはギリギリまで知らせるつもりは無いから、後はお前が上手くやれ」
「ええ。そのつもりよ」
短いやり取りをすると、ジンは再び書類に目を落とした。
りおのスマホが着信を告げた。
「はい、星川です」
りおは電話に出ると偽名を名乗る。最近ちょこちょことメールや電話がくるが、そのほとんどが《星川さくら》にだ。
大学の業務連絡が主だが、中には明らかにりおに気がある者からのメールもある。
業務連絡にかこつけて、りおの気を引こうとあの手この手の文言が並んでいた。
りおはそんなメールにも丁寧に答えている。
赤井がりおの立場だったら、必要最小限の素っ気ない返信をするだけだろう。
優しいのも罪だな、などと考えながら、赤井は読んでいた本に集中する。りおが相手とどんなやり取りをしていても、赤井は特段心配はしていない。全然気にもしていない。
ただ時には——何か良からぬことに巻きこまれてはいなかと、内容を盗み見ることはあるが。
(誰からの電話だ?)
赤井は読んでいた本から目を離し、りおの方へチラリと視線を向けた。
「あ、はい……、ええ……あ~、そのファイルなら私のPCにデータが入っています。
尾沼さんのPCに送っておきましょうか?」
『良いのかい? 今体調悪くて休んでいるんだろ?』
「データを送るくらいは出来ますよ。PCも手元にありますし……。それに体調もだいぶ良くなったので、もうじき大学にも復帰予定なんです」
(職場の同僚か……)
今回は正真正銘の業務連絡のようだ。
話の内容を盗み聞き、赤井の視線は再び本へと向かった。
「そういえば尾沼さん、そちらの実験は順調ですか?」
担当している教授は違うが、同じ〈助手〉として仕事をしている《尾沼裕樹(おぬまひろき)》は職場の先輩にあたる。
こんな時間まで仕事をしている尾沼を心配して、さくらは問いかけた。
『う~ん……。順調とは言い難いかな。何回やっても失敗続きだよ。ウチの教授、《今日もモッくんがへそを曲げた》ってしょんぼりさ』
尾沼はため息交じりにグチをこぼす。
それを聞いてさくらの頭に「?」が浮かんだ。
「え…あの…《モッくん》ってどなたですか?」
尾沼が所属するのは免疫学専攻で細菌やウィルスを研究している研究室。
モッくんと呼ばれるような学生も助手もいない。新しい研究生だろうか。
『ああ、ごめん。今研究しているウィルスの名前なんだ。教授が付けたんだよ。
ウチの教授変わってるからさ、培養しているシャーレや試験管ごとに名前つけてるんだ』
「ああ、そういえばそんなウワサ……聞いたことあるような」
さくらは以前、自身が所属する理学部には東都大きっての変わり者がいると聞いたことがある。
頭脳は優秀だが、研究対象に対しておかしなネーミングばかりしている、と学生たちがまことしやかにウワサしていた。その時はさほど気にも留めなかったが……どうやらそれは尾沼の担当教授のことだったらしい。
『まあ、そんなところも憎めないけどね。
教授の実験が成功すれば、免疫学では革命的だよ。医学において大きな可能性が開けるんだ。そのお手伝いが出来るんだから、俺は幸せだよ。ちょっと変わり者だけど、俺は尊敬してる。
ただ名前のレパートリーが少ないから、同じ名前が何度も出てくるんだよね。どれが現在の《モッくん》で、どれが前の《ルミちゃん》だか、時々分からなくなるんだ』
《モッくん1号》《モッくん2号》みたいに使い分けて欲しい、と尾沼は笑う。
確かに、とさくらも思わず吹き出した。
『おっと、遅い時間だったのにごめんね。
データの方、もし大丈夫なら俺のPCの送っておいて。元気そうでよかったよ。
君が復帰したら夕飯でもおごるからさ、同じ助手の立場としてグチを聞いてくれよな』
「ふふふ。分かりました! ご飯、楽しみにしていますね。お互い変わり者の教授を持つと苦労しますね~」
まったくだよ! と笑う尾沼との電話を切ると、さくらはスマホをテーブルに置いた。
「誰かと飯、食いに行くのか?」
通話が切れたことを確認して、赤井がりおに声をかけた。
「あ、うん。理学部で別の教授の助手をしている人。尾沼さんっていって、私が東都大で助手として入った時に色々お世話になった人なの」
りおは答えながらPCを立ち上げた。
「男……か?」
スマホから漏れ聞こえた声は確かに男性の声だった。分かっているのに、赤井はりおに問いかける。
「うん、そうだよ。何だかんだ言って理系は男性が多いからね。あ……、もしかしてヤキモチ焼いてる?」
尾沼宛のメールにファイルを添付し送信をクリックすると、りおはニヤニヤしながら赤井に近づいた。
赤井の座っているソファーの背もたれに両ヒジをつき、本を見つめる赤井の顔を覗き込む。
「別に……」
赤井は表情を変えず、本を見つめたまま。
視線は文字を追っているが、内容は全然頭に入ってこない。それでもポーカーフェイスを決め込んで、興味なさそうに答えた。
「ふ~ん…な~んだ…そっか。じゃあ遠慮なく、大学に復帰したら尾沼さんとご飯行ってこ~よぉっと」
りおはつまらなそうにソファーから離れ、ボソリとつぶやく。
ガタタッ!!
赤井の手から滑り落ちた本が、ハデな音を立てて床に落ちた。
「ん? どうしたの?」
音のした方へりおが振り返った。
「あ…ッ…いや…その…。て…手がすべってな…。すまない。大きな音を立てて…」
動揺を見せる赤井の様子を見て、りおがクスクスと笑い出す。
「『別の男と飯なんか食いに行くな』って言えば良いのに」
りおは再び赤井の方へ歩み寄り、隣に腰かけた。
「いや……お前にだって付き合いがあるだろうし…。飯ぐらい行ったって構わない…ただ…」
「ただ?」
りおは小首を傾げてその先の言葉を待つ。
「出来れば…二人きりではなく何人かで行ってもらえると…。俺も余計な心配をしなくて済む」
どうやら〈りおに何かあったら〉ということを心配しているらしい。
確かに過去には安室やジンに襲われそうになったこともある。一般人相手に不覚を取るつもりも無いが、油断は禁物だろう。
「ふふふ。分かったわ。尾沼さんとご飯って言っても、きっと助手の人たちみんなで行くし…。心配いらないわよ」
ちゅっ
バツが悪そうに下を向く赤井の頬に、りおはキスを落とす。
一瞬驚いた顔をした赤井も、それに答えるようにりおの頬に手を伸ばし、お返しのキスをした。
「それは誘っているのか?」
何度か触れるだけのキスをして、それ以上の侵入は許さず。
しかし甘えるようにりおは赤井の肩口にすり寄った。
「飛びきり優しく抱いてくれるなら……メールをコッソリ見てたことも許してあげるわ」
(!?)
赤井はぎくりと体を揺らした。
「ば、バレてたか」
「秀一さん、ヘンなところでツメが甘いんだもん」
阿笠邸に盗聴器仕掛けているのも、きっと哀ちゃんにバレてるわよ、とりおは笑う。
「それは俺の《ツメ》というより、女性陣のカンが良すぎるんじゃないか?」
赤井は半ば呆れた様に言った。
「あはは、それはあるかもね。女性のカンをなめてると、世の男性たちは痛い目を見るわよ」
楽しそうに笑うりおを見て、赤井も微笑んだ。
「そうだな。では我が女神には敬意を払って、ベッドルームまでお連れしよう」
本日のキーワードだった《女神》になぞらえて、赤井はりおを抱き上げる。
「お願い、女神はやめて……思い出しちゃうから」
過去の女神騒動の際、大勢の前で舞った舞を思い出し、りおは真っ赤になって赤井の首に抱きついた。
子どもたちとの楽しい謎解きと、ほんの少しのヤキモチと。
今日一日の余韻に浸りながら、二人の夜は更けていった。
***
バタン
ベルモットが部屋に入ると、そこにはジンとウォッカが向かい合わせで座っていた。
ベルモットの到着に気付くと、ジンはソファーをきしませ、吸っていたタバコを灰皿に押し付ける。
「遅かったな、ベルモット」
ジンは鋭い視線を一瞬だけベルモットに向けると、再び書類に向かう。
「ええ。あちらも忙しいらしくて。でも、あなたに言われてコンタクトを取った後は、ちゃんと定期的に会ってるわ。今は具体的な話を聞いているところよ」
ベルモットは二人が座る応接セットに近付くと、空いてる席に座った。
「……そろそろ本格的な実験もしたいそうなの」
先程よりも低い声で、ベルモットはジンに語りかけた。
「実験?」
ジンの目がベルモットの姿を捉える。
「ええ。すでにあちらの独断で、数回実行に移されたものも有るようだけど……。今後さらに踏み込んだ実験を何回かに分けて行いたい、と言っていたわ。
かなり準備は進んでいるようよ。その援護を頼むと言われたの」
実験の大まかな流れをジンに説明し、ベルモットは当日自分以外にも援護をする者が必要だと伝えた。
「わかった。それならウォッカ、お前が手伝え。それで良いな」
「ええ」
「わかりやした」
ジンの指示に二人が返事をした。
「実験をやるのは良いが、サツやFBIに気取られるなよ」
「分かってますぜ。アニキ」
ウォッカが余裕の笑みを見せる。
「あと……ヤツらにもな。まあ、どうせどこかで俺たちの動きを探っているだろうがな」
ギラリと鋭くなるジンの目を見て、ベルモットが「YES」とも、ため息ともつかない返事をした。
「なんだ、ベルモット。何か心配事か?」
いつもより口数が少ないベルモットにジンは問いかけた。
「ええ、まあ……。今回私達の行動範囲はかなり限定されているわ。ラスティーが一般人として潜んでいる地域とかぶっているし…。
この計画を知れば、かなりあの子の精神に負荷をかける。内容を知らせるのは出来るだけ先にした方が良いと思うの」
いつになく真剣に話すベルモットの様子に、ジンは眉根を寄せる。
「それは分かっている。だから組織の中でも、ごく一部にしか計画の全容を知らせていない。俺もラスティーにはギリギリまで知らせるつもりは無いから、後はお前が上手くやれ」
「ええ。そのつもりよ」
短いやり取りをすると、ジンは再び書類に目を落とした。