第1章 ~運命の再会そして…~
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オブラートには包まず単刀直入に質問する。
「ふふふ。そんなに警戒しないで。この際だからはっきり言っておくわね。
たしかに私はジンに頼まれたあなたの監視役。先日のNOC疑惑が完全に晴れたわけではないってこと。でも私にはどうでも良い事よ」
警戒心をあらわにする安室に対して、さくらは僅かに微笑む。
「それよりも私が興味あるのはあの臓器売買。心臓や肺のない遺体を日本の近海にポンポン捨てられるのは良い気持ちがしないわ。
それにあの中国系のマフィア、裏の世界でもあまり良い噂を聞かない。もう少し調べてみたいの。
組織にとってマイナスにならないか。私が知りたいのはそれだけ」
(ふん。組織の忠実な下僕(しもべ)か)
安室はそう思ったが、こちらとて立場上臓器売買を見過ごす訳にはいかない。だが潜入捜査中の身で、自分の立場を悪くするような単独行動はできないため、臓器売買のことは諦めかけていた。
だがこの女のおかげでどうやら大手を振って調べることができそうだ。
「いいですよ。僕も力になります。で、何かいい作戦でもあるのですか?」
「ここの近くにあの暴力団のアジトがあるの。明後日、奴らがジンたちと取引をしている時、そこに忍び込んでPCから情報を盗み出す」
「なるほど。なかなか大胆だ。で、僕は何を?」
そこまで訊くと、さくらはニッと笑って安室を見た。
二日後———
暴力団のアジトは、とあるホテルの一室だった。足が付かないように場所を転々としているようだ。ますます怪しい。
さくらの作戦はこうだ。
通気口を通って彼女は奴らの部屋にあるPCからデータを盗む。その間、安室はなにか騒ぎを起こして奴らを引きつけ、部屋に入ってこないように足止めすることだった。
安室は変装をしてホテルのボーイに成りすます。
さくらからの情報によれば、ホテルの一室をアジトとして使っているのは幹部4名と組長の5名だけ。
今この時間、組長はジンたちとの取引に出かけているため、組長と護衛要員の幹部3名が不在だ。つまり、部屋には1名しかいない。
変装用のマスクの下にワイヤレスイヤホンを付け、さくらからの「準備OK」の連絡を合図に部屋のドアをノックした。
留守番役の一人が出てきたので
「申し訳ありません。他のお部屋のお客様から、こちらの部屋に何か匂いの強いものが運び込まれているとクレームがありまして。ちょっと確認をさせていただけないでしょうか?」
安室がそう嘘をつくと、留守番役の男は以前に運び込まれた「臓器」のことを言われていると思い込み、焦りだした。
「ななな、何言ってやがる。そんなものはねえ!」
明らかに動揺し始めた。
「そう言われましても。クレームが来ている以上、こちらも確認をさせて頂かないと困ります」
「どこのどいつだ!そんな言いがかりつけてくる奴は!」
こんな押し問答が延々続く。こちらの思惑通りに動いてくれるこの男と、しばらく楽しめそうだと安室は思った。
部屋の出入り口でホテルマンと言い争う声が聞こえた。
始まったな。そう察知して、さくらは通気口から室内に入る。すぐさまデスクにあるPCに電源を入れた。
PCが立ち上がると自身のタブレットと繋ぎ細工を施す。あっという間にパスワードが表示された。
パスワード入力画面にそのワードを入力すると、そこには麻薬や銃火器のリストの他に、「顧客リスト」や「臓器移植適合者一覧」の文字が並ぶ作業画面が映し出された。
すべてのデータをUSBにコピーしていく。
要した時間は数分だ。USBを抜き、すべての痕跡を消し去った後PCの電源を落とす。タブレットをボディバッグにしまうと、もと来た通気口へジャンプし、スルリとその中に体をすべり込ませる。
そっと蓋を締め、左耳のワイヤレスイヤホンをonにすると《作業終了》を伝えた。
安室はイヤホンから終了の声を聞き、
「分かりました。お客様。今回は私の方でクレームを処理します。今後また同じようなことがあれば、ご相談させていただきます」と切り出す。
留守番役の男は、
「ああ、そうしてくれ。こちらも今後は気をつける」
そういって室内に入り、がチャリと鍵をかけてしまった。時計を見る。
(6分か…さすがだな)
小さく呟くとフロアを後にした。
10分後、ホテルにほど近い駐車場で落ち合った。RX-7に乗り込み、お互いの労をねぎらう。
「さすが…仕事が早いですね。6分とは恐れ入りました」
「安室さんも上手に煽っていましたね。引かず押さず。相手をキレさせず、かと言ってあくまで主導権は握っていましたし。おかげで安心して侵入できましたよ」
相手のスキルの高さに感心しあった。
「で、どうだったんですか?欲しい情報は得られました?」
安室が訊ねた。
「ええ。データ上は問題なかったけれど。1つ厄介なことが判明したわ。すぐにジンに伝えないと」
「え? それは一体?」
「さっきのPCハッキングされていたわ」
「なんだって?!」
「おそらく警視庁。でも大丈夫。今日取引をしている組織に繋がるものはPCに無かった。
最近日本の沿岸で見つかる不可解な死体を不審に思い、極秘に調査しているのかも」
たしかに先日一部臓器がない遺体が発見されたとニュースになっていた。可能性がないわけではない。
『既に警視庁が動いているなら、俺が動く必要はないか…』
安室は頭の中でこの後のことを考えていた。気が付くとさくらはジンに電話をかけていた。
「もしもし。ジン? 私、ラスティーよ。取引は終わったの? …そう。ちょっと遅かったか。実は耳に入れておきたいことがあるの」
今しがた、安室に説明したことと同じことをジンに説明していく。
「なんだと!?」
ジンの怒鳴り声が運転席の安室にも聞こえた。
「わかった。一旦キャンティたちと合流しろ。
ああ、いつもの場所だ。そこでブツを受け取り、奴らのアジトへ行け。今日取引したものが警察に渡るのはなんとしても避けねばならん…。
そうだ。取り替えてくればいい」
「了解」そう返事をして電話を切る。
「もう一つ任務が入ったわ。このままキャンティたちと合流する」
どうやら今日取引したものは、表沙汰になると困るものらしい。
「飛ばしますよ」
そう言うとRX-7はうなりをあげて疾走していった。
約束の場所でキャンティたちと落ち合う。
受け取ったのは白い粉だ。おそらく麻薬。
そのまま、さっき侵入したばかりのホテルへと戻った。
先ほどと同様に通気口から侵入する。今回は安室にも付いてきてもらった。
赤外線カメラで辺りを探るが、どうやら人はいないらしい。今日の取引が終わり、先ほどの留守番役も合流して組の本部へと帰ったようだ。
ホテルの一室とあってカメラなども設置されていなかった。アジトを転々と移動しているため、大掛かりな防犯装置は用意できないだろうし、足はつかないはずと油断もしている。
さくらにとって都合のいい現場だった。
安室に通気口で待機してもらい、PCの横にある電子レンジ程の大きさの金庫に近づく。耳を澄ましてダイヤルを右に左にと動かす。
カチリ……カチリ……
一つずつロックが外れる。やがて金庫の扉が開いた。
中には先ほどジンたちと取引した白い粉が有った。それを袋に入れ、通気口の中で待機していた安室に投げ渡す。
彼はそれをキャッチすると、今度はキャンティたちから受け取った白い粉をさくらに投げ渡す。
さくらは受け取った白い粉を先ほどの物と同じように積み上げた。綺麗に積み入れたあと、再びロックをかけた。
さくらが作業している間に安室は手元に有る白い粉を少量抜き取り、小さなチャック付きの袋に入れ、自分のポケットにしまった。
さくらは扉にロックがかかったことを確認し、再び通気口へとジャンプする。
すべての作業が終了し通気口の蓋を閉めるとき、ごくわずか白い粉が落ちていることにさくらは気がついたが、知らぬふりをした。
翌日早朝———
さくらは安室と別れ、自宅アパートから離れた駅にいた。駅の公衆電話から電話をかける。
「もしもし。風見さん? 渡したいものがあるの」
「広瀬か。……了解した。手はず通りに」
さくらは電話を切ると自宅に向かって歩き始めた。
それから3日後———
臓器売買を行っていた暴力団と中国系マフィアが摘発された。