第6.5章 ~宝探し~
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翌日昼過ぎ——
リンゴ~ン
工藤邸に来客を告げる呼び鈴が鳴る。
さくらがインターホンの受話器を手に取った。
モニターを見ると、映っていたのは少年探偵団の面々。さくらはすぐに玄関へと行きドアを開ける。
「「「こんにちは~!」」」
「あら、みんないらっしゃい!」
さくらが「どうぞ」と声をかけると、5人は「お邪魔します」といって順番に工藤邸へと入った。
「おや、みなさんお揃いで。どうしたんですか?」
読んでいた本をテーブルに置くと、昴は立ち上がる。全員が座れるように席をあけた。
「今日は昴さんとさくらさんにお願いがあって来たんだ」
元太が出された菓子に手を伸ばし、美味しそうに頬張る横で、コナンが笑顔で切り出した。
「お願い?」
二人は不思議そうに顔を見合わせる。
「実は……少年探偵団に依頼が来たんです。
『名家に伝わる謎』を解いて欲しいって」
光彦が依頼内容と、ここに来るまでのいきさつを詳しく話してくれた。
「なるほど。つまりその謎解きには、
『仲間を連れてこなくてはならない』
『使える物は何でも使って良い』
『どこを探しても、何をしても良いが、壊してはいけない』
というルールがある。
名家の家の中で家探しの可能性もあるので保護者として誰か大人が一緒に来て欲しい、ということですか?」
昴が子どもたちの説明をかいつまんで復唱してみせた。
「そうなんだ。その家はけっこうなお金持ちで、かなり高価なものもあるらしいんだよ。博士は今発明品の修理で忙しいし、ボク達だけじゃちょっと心配で……」
コナンがチラリと元太や光彦を見る。
「それに『使える物は何でも使って良い』ってありますから、もしも分からない問題が有った時にはお二人の知恵も借りられるかな~なんて思ってまして」
光彦がちょっと得意げに話す。
「まったく。調子良いんだから……」
その横で哀が小さくため息をついた。
「まあ、そういう事なら。謎解きは好きですし、ご一緒しましょう」
昴が笑顔で答えると、子どもたちは「やった~」と歓声を上げた。
1時間後———
少年探偵団と昴、さくらの7人は東都では名家で知られる「園城寺(えんじょうじ)家」の門の前に居た。
「うわ~ぁ…でけぇ家だな…」
「すごいですね…」
「お寺か神社みたい」
子どもたちが声を上げるほど、園城寺家のお屋敷は大きい。
『数寄屋門』と呼ばれる屋根付きの門は見上げるほど大きく、そこから連なる塀はどこまでも続いている。目視は出来ないが、どうやら広い敷地をぐるりと囲んでいるらしい。
門をくぐるとその家の象徴ともいえる、立派な『榊(さかき)』の大木が葉を茂らしていた。
あまりの立派な邸宅に、子どもたちはため息しか出ない。これはもう『城』と言っても良いのではないか。
それでもあの『鈴木財閥』には足元にも及ばないというから、みんなはさらに驚いた。
早速家の中に通してもらい、いよいよ当主と顔を合わせることになる。
「どんな人なんですかね」
「こわいおじさんだったらどうしよう…」
「茶菓子は何が出るかな…」
(おいおい、ココに来て茶菓子の心配かよ…)
長い廊下を歩きながら、コナンは顔を引きつらせた。
広い畳の部屋に通され、7人は正座をして待つ。
部屋の中には大きな神棚があり、他にも高価な壺や掛け軸等が飾られていた。
「あれ、いったいいくらするんだ?」
「しっ! 元太君…失礼ですよ値段の話は!」
落ち着かないのか、子どもたちはソワソワしていた。昴も慣れない正座に四苦八苦している。
『昴さん、当主の方がみえるまで足崩してて良いですよ。後で歩けなくなっちゃいますから』
『あ、はい。どうも正座は慣れなくて……』
さくらが見かねて小声でアドバイスすると、昴は助かった…といわんばかりに足を崩した。
やがて園城寺家12代目当主《園城寺 衛(えんじょうじ まもる)》が部屋へと入ってきた。子どもも大人もサッと座り直し、背筋を伸ばす。
「やあ、少年探偵団のみんな。今日はお呼び立てして悪かったね。まあ、ラクにして」
年齢は60代前半くらいだろうか。子どもたちを見ると穏やかな笑顔を見せた。
「ところで今回、探偵団に謎解きのご依頼を頂いたそうなんですが」
昴が保護者として口火を切る。
「ええ。実は我が家には代々受け継がれた『言い伝え』がありましてね。
園城寺家の子どもが『大人』の年齢になった時に、ある謎解きをするんですよ」
「『大人』の年齢?」
歩美が不思議そうに訊ねた。
「ふふふ。昔はね、15歳になると『元服』といって大人の仲間入りをするんだよ。その時に、この謎解きをするのが我が家の習わしなんだ」
衛は歩美たちに分かるように説明をしてくれた。
「私の子どもたちは二人とも20歳を過ぎていてね。彼らも15歳の誕生日にこの謎解きにチャレンジしたんだよ。もちろん、私も15歳の時にやったんだ」
衛は当時を懐かしむ様に優しい顔になる。
「じゃあなんでまた、その謎解きをオレたちにやらせるんだ? もう答えを知ってるんだろ?」
今度は話を聞いていた元太が訊ねた。
「ああ。答えは知ってるよ。実はね、先日少年探偵団のチラシを見たんだ。『依頼募集』って書いてあったのを見てね。我が家の『言い伝え』を思い出したんだよ。是非君たちにも解いて欲しいなって思ったんだ。
ま、年寄りの道楽…とでも言ったら良いかな。謎解きをしている子どもの顔が、私は大好きでね。
しかもこの謎を解いた後には、『宝物』が手に入るんだぞ。値が付けられないほどの高価なものだ」
「「「宝物!?」」」
宝と聞いて子どもたちの目が輝く。
冷静なコナンや哀とは対照的に、3人のやる気に火が付いた。
「よ~し! その依頼引き受けた! オレたち少年探偵団に解けない謎はねぇからな!」
「そうですよ! 必ずや宝物を見つけてみせます!」
「歩美も頑張る!」
3人は意気揚々と立ち上がった。
(やれやれ…やる気満々だな…オイ)
コナンはため息をついた。とはいえ、コナンとて謎解きは嫌いじゃない。見れば昴の顔もやる気に——
(ってあれ? 昴さんどうしたんだ?)
いつも穏やかな顔をしている昴の表情が強張っている。
(まさか……何か事件に繋がるようなものを見つけたとか)
コナンの顔がスッと険しくなった。
『ごめん、コナンくん。特に何でも無いの……』
コナンの顔を見て察したのか、さくらが耳打ちした。
『でも昴さん……ちょっと怖い顔して——』
コナンは口元に手を当ててさくらに話しかける。それを聞いてさくらは苦笑いした。
『ホントに何でも無いの…昴さん…足、しびれちゃったみたいで…』
「は?」
さくらの言葉にコナンの目がテンになる。
『ホラ、海外生活長いから正座をする習慣無いし……工藤邸も基本イスやソファーだからね』
『ああ……そういえばそうだね…ハハハ…』
FBIの凄腕スナイパーも正座は苦手らしい。
やや冷や汗をかいている昴を見て、コナンは顔を引きつらせた。
「で、最初に何をすればいいんだ?」
元太が衛に問いかけた。衛は良い質問だね、といって微笑む。
「まずは地図探しからだよ。この家のどこかに地図があるんだ。ヒントはね、この『言い伝え』がとても古くからあるってこと。じゃあ、後はどこを探しても何をしても良いよ。但し壊さないようにね」
衛の説明を聞いて、5人はさっそく自分たちがいる部屋から探し始めた。
「昴さん、大丈夫?」
子どもたちが家探ししている間に、さくらは昴に声をかける。
「あ、ああ。でも、待って…まだ触らないでください……ッ」
昴はようやく足を崩し、いまだビリビリとしびれる足先を見つめる。
「ははは。お兄さん大丈夫ですか? 最近の方は畳の上で正座をする機会が無いですからね」
衛は「まあまずは足を伸ばして」と、昴の近くにあった座布団をよけた。
「申し訳ない……」
昴は恥ずかしそうに下を向いた。
感覚の無い足を片方ずつ動かして、なんとか前に出す。そのとたん、ヒリヒリともビリビリとも表現出来る、イヤな痺れが昴を襲った。
なんとも形容しがたい状態だが、とにかく誰にも、どんな物にも触れられたくは無い。動かすことだってしたくない。
そんな気持ちの悪い痺れだった。
「昴さん、ごめん。最初だけガマンして」
「えっ!?」
何かが触れただけで叫びたくなるような違和感がある足を、あろう事かさくらはぎゅっと掴んだ。
「ちょ、さくら何して…ッくぅッ!」
感覚のおかしい痺れた足をぎゅっと握ったり離したりを繰り返す。
「さくらッ! も、もう勘弁してく……って…あ、あれ?」
「ほら、もう大丈夫でしょ?」
気付いた時にはもうさくらは足に触れていなかった。しかも叫び出したくなるような、あの変な痺れはもう無い。
「正座で血液の巡りが悪くなると痺れちゃうの。だからさっきみたいに握って開いてをすると血流が良くなって痺れが改善するのよ」
ポカーンとしている昴にさくらは優しく説明した。
まだわずかに痺れがあり、立つことは無理そうだが、足に触れることも動かすことも出来る。
昴は「ほぉ…」と言いながら自身の足を何度も動かしてみる。
その様子を衛が優しく見守っていた。
「ところで……私たちのようなよそ者に、園城寺家の宝物を探させて良いのですか?」
あの子たち宝物を貰う気満々ですよ、とさくらは衛に訊ねた。
衛はさくらの顔を見るとニッコリと微笑む。
「ええ。大丈夫ですよ。心配いりません」
「はぁ……」
キッパリと断言する衛を見て、さくらは小首をかしげた。
「全然見つかりませんねぇ…」
「この部屋だけでこんなに時間かかってんじゃぁ、この先どうすんだよ。他にいくつ部屋あるんだよ、この家!」
「今日だけじゃ無理かも…」
三人で手分けしても、今いる部屋はまだ半分も探せていない。
これがお屋敷全体となれば時間が全然足りないことに3人は気付いた。
「バカね。手あたり次第探したって見つかりっこないわ。さっき重要なヒントを貰ったじゃない。
この言い伝えはかなり古いって。しかも謎解きをするのは日常的にではなく、この家の子どもが大人になった、いわばお祝いをする時。そんなものを生活する場に置きっこないわ」
哀が腕を組んだまま呆れたように3人の顔を見た。元太たちは顔を見合わせ、首をかしげる。
「この家の玄関に入る時、《倉》が有るのが見えたわ。そこを探した方が良いと思うけど」
「倉?」
歩美が哀の言葉を繰り返した。
「ああ、《倉》ってのは昔の物置みてーなもんだな。普段使わない道具なんかをしまっておくところなんだ」
コナンが補足するように説明した。
「じゃあみんなでその《倉》ってところに行こうぜ」
元太が先陣を切って部屋を出る。
「あ、待ってください! 元太く~ん!」
「あ、二人とも待って~!」
それに続けとばかりに光彦と歩美が部屋を出た。
「やれやれ、じゃオレたちも行くか」
「ええ、そうね」
コナンと哀も三人を追いかける。部屋に残っているのは大人たちだけになった。
「ほら、昴さん……そろそろ行けそう?
子ども達みんな行っちゃったよ」
さくらが昴の顔を覗き込んだ。
「ああ……やっと感覚が戻ってきた。これで立てますよ」
畳に足の裏がつく感触を確かめて、昴が立ち上がる。
「では、子どもたちを追います」
昴が護に軽く会釈をして踵を返した。
「あ…、あの…」
昴とさくらが部屋を出ようとした時、不意に衛が声をかけた。
「はい、何でしょう?」
さくらが振り返る。
「あ、いえ……何でも無いです。気を付けて行ってらっしゃい」
「? は、はい…」
衛に見送られて二人は倉へと急いだ。