第6.5章 ~宝探し~
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「アロンについては引き続き探っている。
東京にある彼の店は分かっているだけで4つ。
どれも《違法カジノ》だ。
うち一つは以前公安がガサ入れしたから、今は営業停止状態。つまり現在動いているのは3つ。
ただカジノで儲けた金は、全てが店の利益になっている、というわけではなさそうなんだ」
「え? どういうことですか?」
ルークの説明を聞いて降谷は眉根を寄せる。
違法カジノと言うからには、イカサマで客から金を巻き上げて店側が儲けるというのがセオリー。
店の利益以外に《違法カジノ》をやる意味とはいったい——。
「どうやら彼の店は『情報を仕入れる』ための店のようだ。つまり、『より良い情報を持ち込んだ客を儲けさせてやる…』ということさ」
それを聞いて降谷は「なるほど」とつぶやいた。
つまり、違法な手を使って店側が儲かるようなイカサマをするのではなく、アロンが欲しい情報を持って来た客に、その見返りとして『カジノで儲けさせる』ということらしい。
「情報提供者は金のために選りすぐりの情報をアロンに渡すだろう。そしてアロンもその対価を、何も知らないカジノの別の客に払わせる。自分は甘い蜜だけ吸って痛くもかゆくもない、ということか」
うまい方法をかんがえたものだ、と降谷は感心した。
「で、アロンが仕入れている情報というのは?」
降谷は伺うようにルークの顔を見る。ルークはバツが悪そうに笑った。
「残念ながらそこまではまだ分かってないんだ。客層を調べたが特に不審な点も無い。
カジノに出入りするくらいだから、やや上流階級の社長さんや会長さんなんかが多いし、中堅クラスのサラリーマンもいたなぁ…。独身貴族っていうの?
それなりに収入も多くて、全て自分の事に使える連中とかね。
今はカジノで儲けた連中を数人監視している。そのうち報告できると思う」
ルークは腕を組み、今報告できることを淡々と説明した。
「話は分かりました。では引き続きそのカジノで儲けた者たちの追跡調査をお願いします」
「わかった」
現状でアロンと組織の繋がりは見えてこない。なぜジンがバーボンを使ってアロンを調べさせたのか——。
各方面で捜査をしているものの、アロンをビジネスに引き込む利点が、いまだに見い出せないのだ。さすがの降谷も少々焦りを感じていた。
「あの……一つ伺っても良いでしょうか」
ずっと黙って聞いていた風見が、ルークに声をかけた。
「ああ、なんなりとどうぞ」
ルークは明るい笑顔を向け、風見に問いかける。
「あ、いや。直接今の話とは関係ないのですが……」
風見は謙遜(けんそん)するように前置きをして、ゴホンと咳ばらいをした。
「先日アメリカでハッキング事件がありましたよね? 日本でもニュースになっていたかと思います。《第5.5章より》
直接大きな被害は無かったものの、セキュリティーに力を入れている企業のホームページが改ざんされていた。
今後の危機管理のあり方についても考えねばならないと、多くの専門家がコメントしていました。
日本でも最近、直接的な略取ではありましたが、組織によってNOCリストを奪われそうになったことがあります。
降谷さんや広瀬の正体、今回のように公安的配慮によってもみ消した事実など、表に出せない情報はたくさんある。我々は今のままで良いのでしょうか。
もしまた、組織がそういった情報を狙っているとしたら……」
東都水族館での事件を思い出し、風見はブルリと身震いした。
事の発端はNOCリスト。
その情報の一部が漏れ、組織に潜入していたNOCが何人も殺された。最後は戦闘機による乱射事件にまで発展した。
一般人に死者は無かったものの、いつ『情報戦争』が一般人の死に結びつくか分からない。
「確かにそうだ。アメリカのハッキング事件も、結局のところ何も分かっていない。誰が何の目的で行ったのかさえ、だ。
これがもしどこかのテロ組織による〈予行練習〉だったとするならば……。
確実に世界で大きな『情報戦争』が起こる可能性が高い」
降谷はアゴに手をやり考え込んだ。
ルークも険しい顔を向ける。
「アメリカの事件は、俺も仲間に頼んで探っているんだ。だが未だに詳細が分からないんだよ。
アメリカにサイバー攻撃を仕掛けてくるヤツなんて、たくさんいるからね。
国内のハッカーかもしれないし、どこぞの組織かもしれない。もしかしたらロシアや中国などの国家権力かもしれない。
つまり《容疑者》がたくさんいる。しかもその事件は実害が無かったから、目的も分からない。目的が分からなければ当然容疑者も絞れない。八方ふさがりさ」
ルークはソファーに背中を預け、『参った』と両手を広げた。
「相当セキュリティーシステムに詳しい連中だろうというのは想像できる。解明にはまだまだ時間がかかるかもね。
日本はアメリカと比べて、かなりセキュリティー管理が甘い。気を付けた方がいいよ」
「ああ、今後も上に進言し続けるよ。
こういうのを『遠慮近憂(えんりょきんゆう)』っていうんだろうな。
《この先の未来のことを考えて行動しないと、突然切迫した心配事が起きる》
日本はこういうところ少々疎いから、気を付けないと」
日本のセキュリティーの甘さを十分理解している降谷は何度もうなずいた。
その後はいくつか情報交換をして、ルークは席を立つ。
「じゃあまた詳細が分かったら連絡するよ。
組織の方は…まだ時間がかかりそうだ。
焦る気持ちもわかるが、今はジッとしていた方がいい。ヘンに動いて勘繰られると厄介だ」
「ああ、分かっている」
じゃあな、と軽く手を上げてルークは部屋を出て行った。
***
街は完全に日が暮れて、夜の帳が降りていた。
あちらこちらでまばゆいネオンが輝き、帰宅時間を過ぎた大通りは車が多く行き交っている。
信号が変わったスクランブル交差点は人々がごった返し、仕事を終えたサラリーマンや学生たちが、立ち並ぶ店へと吸い込まれていく。
そんな街の喧騒から外れた細い裏通り——音もなく歩く数人の影。
周りに人が居ない事を確認しながら、影たちはとある廃ビルへと足を踏み入れた。
ジャリ…ジャリ…ジャリ……キ——……
階段を使って2階に昇り、部屋のドアを開ける。部屋の隅には蜘蛛の巣が張り、ドアはきしんだ音を立てた。
一人、また一人と黒い人影が部屋の中へ。
やがて遅れて来た数人も部屋へと入り、十数人が顔を揃える。
「これで全員か?」
「はい。例の者達は今月中には到着予定です」
「そうか。いよいよだな」
リーダー的な存在の男が前に出ると、そこにいる全員に声をかけた。
「まずは報告を」
「はっ!」
男の問いかけに影の一人が一歩前に出た。
「例の組織の関係では、中国マフィアの《呉浩然(ウーハオラン)》が《ジン》と接触したことを確認しました。情報屋の《趙天明》も行動を共にしていたようです。
その後、呉は組織の者に殺害され、趙は中国警察に逮捕されました」
「……あの臓器売買の男か。バカなヤツだ。組織に取り入ろうとして失敗したか」
報告を聞いてリーダー格の男は鼻で笑った。
「何をどう算段したかは知らないが、あの用心深い男(ジン)がマフィアの幹部など相手にするはずが無い。
まして、ヤツの周りには頭の回る幹部がたくさんいる。どうせ最初(ハナ)から相手にされていなかっただろう。サルの浅知恵では到底かなうまい」
無駄死にだったな、と男はせせら笑った。
「他には?」
報告した男はスッと元の位置に戻り、リーダー格の男が再び問いかけた。
別の男が一歩前に進み、背筋を伸ばす。
「その《ジン》ですが、先日数週間ほどアメリカに滞在し、帰国後アメリカに住む何者かと頻繁にメールなどのやり取りをしています。
内容は暗号化されており、解読にはかなりの時間がかかりそうです」
報告を終えた男は先程の男と同様、サッと元の位置へと戻る。
リーダーの男は数回うなずいた。
「ジンが日本を出ていたことは承知している。が、目的地がアメリカだったとはな。
今回も裏切り者を始末しに行ったのか、あるいは……。まあいい。とりあえず上には報告しておく。
今の我々では調べられることは限られているからな。まあそれもあと数日限りだ」
リーダーの男はニヤリと笑う。
「今日は皆に良い報告がある。念願だった我々の《拠点》がいよいよ稼働する」
リーダーの言葉に、そこにいた者たちが「おお!」とどよめいた。
「次の報告はそこで行う。各自拠点までの行き方と入室の仕方を確認しておけ。
くれぐれも例の組織や他のハエどもに気取られぬよう細心の注意を払え。
あとは何かわかり次第、順次私の方へ連絡をするように!」
「「「はッ!!!」」」
リーダーの男が一際大きな声を発すると、影たちは背筋を伸ばして敬礼をした。
そこに居た全員の左胸には小さな青いバッチが付いている。
廃ビルの近くにある街灯の光を受けて、それが怪しく光った。
東京にある彼の店は分かっているだけで4つ。
どれも《違法カジノ》だ。
うち一つは以前公安がガサ入れしたから、今は営業停止状態。つまり現在動いているのは3つ。
ただカジノで儲けた金は、全てが店の利益になっている、というわけではなさそうなんだ」
「え? どういうことですか?」
ルークの説明を聞いて降谷は眉根を寄せる。
違法カジノと言うからには、イカサマで客から金を巻き上げて店側が儲けるというのがセオリー。
店の利益以外に《違法カジノ》をやる意味とはいったい——。
「どうやら彼の店は『情報を仕入れる』ための店のようだ。つまり、『より良い情報を持ち込んだ客を儲けさせてやる…』ということさ」
それを聞いて降谷は「なるほど」とつぶやいた。
つまり、違法な手を使って店側が儲かるようなイカサマをするのではなく、アロンが欲しい情報を持って来た客に、その見返りとして『カジノで儲けさせる』ということらしい。
「情報提供者は金のために選りすぐりの情報をアロンに渡すだろう。そしてアロンもその対価を、何も知らないカジノの別の客に払わせる。自分は甘い蜜だけ吸って痛くもかゆくもない、ということか」
うまい方法をかんがえたものだ、と降谷は感心した。
「で、アロンが仕入れている情報というのは?」
降谷は伺うようにルークの顔を見る。ルークはバツが悪そうに笑った。
「残念ながらそこまではまだ分かってないんだ。客層を調べたが特に不審な点も無い。
カジノに出入りするくらいだから、やや上流階級の社長さんや会長さんなんかが多いし、中堅クラスのサラリーマンもいたなぁ…。独身貴族っていうの?
それなりに収入も多くて、全て自分の事に使える連中とかね。
今はカジノで儲けた連中を数人監視している。そのうち報告できると思う」
ルークは腕を組み、今報告できることを淡々と説明した。
「話は分かりました。では引き続きそのカジノで儲けた者たちの追跡調査をお願いします」
「わかった」
現状でアロンと組織の繋がりは見えてこない。なぜジンがバーボンを使ってアロンを調べさせたのか——。
各方面で捜査をしているものの、アロンをビジネスに引き込む利点が、いまだに見い出せないのだ。さすがの降谷も少々焦りを感じていた。
「あの……一つ伺っても良いでしょうか」
ずっと黙って聞いていた風見が、ルークに声をかけた。
「ああ、なんなりとどうぞ」
ルークは明るい笑顔を向け、風見に問いかける。
「あ、いや。直接今の話とは関係ないのですが……」
風見は謙遜(けんそん)するように前置きをして、ゴホンと咳ばらいをした。
「先日アメリカでハッキング事件がありましたよね? 日本でもニュースになっていたかと思います。《第5.5章より》
直接大きな被害は無かったものの、セキュリティーに力を入れている企業のホームページが改ざんされていた。
今後の危機管理のあり方についても考えねばならないと、多くの専門家がコメントしていました。
日本でも最近、直接的な略取ではありましたが、組織によってNOCリストを奪われそうになったことがあります。
降谷さんや広瀬の正体、今回のように公安的配慮によってもみ消した事実など、表に出せない情報はたくさんある。我々は今のままで良いのでしょうか。
もしまた、組織がそういった情報を狙っているとしたら……」
東都水族館での事件を思い出し、風見はブルリと身震いした。
事の発端はNOCリスト。
その情報の一部が漏れ、組織に潜入していたNOCが何人も殺された。最後は戦闘機による乱射事件にまで発展した。
一般人に死者は無かったものの、いつ『情報戦争』が一般人の死に結びつくか分からない。
「確かにそうだ。アメリカのハッキング事件も、結局のところ何も分かっていない。誰が何の目的で行ったのかさえ、だ。
これがもしどこかのテロ組織による〈予行練習〉だったとするならば……。
確実に世界で大きな『情報戦争』が起こる可能性が高い」
降谷はアゴに手をやり考え込んだ。
ルークも険しい顔を向ける。
「アメリカの事件は、俺も仲間に頼んで探っているんだ。だが未だに詳細が分からないんだよ。
アメリカにサイバー攻撃を仕掛けてくるヤツなんて、たくさんいるからね。
国内のハッカーかもしれないし、どこぞの組織かもしれない。もしかしたらロシアや中国などの国家権力かもしれない。
つまり《容疑者》がたくさんいる。しかもその事件は実害が無かったから、目的も分からない。目的が分からなければ当然容疑者も絞れない。八方ふさがりさ」
ルークはソファーに背中を預け、『参った』と両手を広げた。
「相当セキュリティーシステムに詳しい連中だろうというのは想像できる。解明にはまだまだ時間がかかるかもね。
日本はアメリカと比べて、かなりセキュリティー管理が甘い。気を付けた方がいいよ」
「ああ、今後も上に進言し続けるよ。
こういうのを『遠慮近憂(えんりょきんゆう)』っていうんだろうな。
《この先の未来のことを考えて行動しないと、突然切迫した心配事が起きる》
日本はこういうところ少々疎いから、気を付けないと」
日本のセキュリティーの甘さを十分理解している降谷は何度もうなずいた。
その後はいくつか情報交換をして、ルークは席を立つ。
「じゃあまた詳細が分かったら連絡するよ。
組織の方は…まだ時間がかかりそうだ。
焦る気持ちもわかるが、今はジッとしていた方がいい。ヘンに動いて勘繰られると厄介だ」
「ああ、分かっている」
じゃあな、と軽く手を上げてルークは部屋を出て行った。
***
街は完全に日が暮れて、夜の帳が降りていた。
あちらこちらでまばゆいネオンが輝き、帰宅時間を過ぎた大通りは車が多く行き交っている。
信号が変わったスクランブル交差点は人々がごった返し、仕事を終えたサラリーマンや学生たちが、立ち並ぶ店へと吸い込まれていく。
そんな街の喧騒から外れた細い裏通り——音もなく歩く数人の影。
周りに人が居ない事を確認しながら、影たちはとある廃ビルへと足を踏み入れた。
ジャリ…ジャリ…ジャリ……キ——……
階段を使って2階に昇り、部屋のドアを開ける。部屋の隅には蜘蛛の巣が張り、ドアはきしんだ音を立てた。
一人、また一人と黒い人影が部屋の中へ。
やがて遅れて来た数人も部屋へと入り、十数人が顔を揃える。
「これで全員か?」
「はい。例の者達は今月中には到着予定です」
「そうか。いよいよだな」
リーダー的な存在の男が前に出ると、そこにいる全員に声をかけた。
「まずは報告を」
「はっ!」
男の問いかけに影の一人が一歩前に出た。
「例の組織の関係では、中国マフィアの《呉浩然(ウーハオラン)》が《ジン》と接触したことを確認しました。情報屋の《趙天明》も行動を共にしていたようです。
その後、呉は組織の者に殺害され、趙は中国警察に逮捕されました」
「……あの臓器売買の男か。バカなヤツだ。組織に取り入ろうとして失敗したか」
報告を聞いてリーダー格の男は鼻で笑った。
「何をどう算段したかは知らないが、あの用心深い男(ジン)がマフィアの幹部など相手にするはずが無い。
まして、ヤツの周りには頭の回る幹部がたくさんいる。どうせ最初(ハナ)から相手にされていなかっただろう。サルの浅知恵では到底かなうまい」
無駄死にだったな、と男はせせら笑った。
「他には?」
報告した男はスッと元の位置に戻り、リーダー格の男が再び問いかけた。
別の男が一歩前に進み、背筋を伸ばす。
「その《ジン》ですが、先日数週間ほどアメリカに滞在し、帰国後アメリカに住む何者かと頻繁にメールなどのやり取りをしています。
内容は暗号化されており、解読にはかなりの時間がかかりそうです」
報告を終えた男は先程の男と同様、サッと元の位置へと戻る。
リーダーの男は数回うなずいた。
「ジンが日本を出ていたことは承知している。が、目的地がアメリカだったとはな。
今回も裏切り者を始末しに行ったのか、あるいは……。まあいい。とりあえず上には報告しておく。
今の我々では調べられることは限られているからな。まあそれもあと数日限りだ」
リーダーの男はニヤリと笑う。
「今日は皆に良い報告がある。念願だった我々の《拠点》がいよいよ稼働する」
リーダーの言葉に、そこにいた者たちが「おお!」とどよめいた。
「次の報告はそこで行う。各自拠点までの行き方と入室の仕方を確認しておけ。
くれぐれも例の組織や他のハエどもに気取られぬよう細心の注意を払え。
あとは何かわかり次第、順次私の方へ連絡をするように!」
「「「はッ!!!」」」
リーダーの男が一際大きな声を発すると、影たちは背筋を伸ばして敬礼をした。
そこに居た全員の左胸には小さな青いバッチが付いている。
廃ビルの近くにある街灯の光を受けて、それが怪しく光った。