第6章 ~遠い日の約束~
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「えっと……アパートから持って来て、と……。あ、あった!」
クローゼットの奥にしまい込んでいた小さな缶の入れ物。子どもの頃の宝物が入っている。
祖父が亡くなって家の中を整理した時に、自室から見つけた。
両親の記憶のないりおは、祖母から『何かを思い出すきっかけになるかもしれないから、大切にしなさい』と言われ、それだけは大事に持っていた。
ケンバリ潜入時は、自身の荷物置き場として公安が用意してくれた小さなアパートに置きっぱなしになっていた。
「慌てて帰って来たと思ったら……いったい何を出してきたのですか?」
りおの部屋へと顔を出した昴は不思議そうだ。
「これ。前に昴さんにも見せたでしょ? 私の小さい頃の宝物」
「ええ。おばあさんごっこをしたルーペとお手玉が入っていましたね」
おばあさんごっこは例え話だよ……と口を尖らせながら、りおはフタを開けた。
「この中に何か気になるものでもあるのですか?」
「うん…。母の声で聴いた『ペンダント』って、もしかしてこのルーペの事なんじゃないかと思って……」
りおは缶の中からルーペを取り出す。手のひらに乗せ、ジッと観察した。
「これがペンダント? まあ確かに、ここに紐を通せばペンダントにならなくも無いですが……」
小さな突起物を指さし、昴が考え込む。
「でも、紐は無いんですよね? 元々紐すら付いていないものを果たして『ペンダント』と言って良いものかどうか……。
仮に紐が付いていたとして、それが短ければ『ペンダント』ではなく『キーホルダー』になりますし」
「うん。私もそれが気になって……」
りおも口元に手を当てて考え込んだ。
「でも他に『ペンダント』になりそうな物ってないんだよね」
缶の中を覗き込むと、次はウサギのお手玉を手に取った。
「お手玉が『ペンダント』になるわけ……ないよねぇ」
「そもそもそれはお手玉なのですか?」
「う~ん……。お手玉、だと思う…け…ど……
あれ? 何かついてる?」
ウサギのお腹側に何か硬いものが触れた。不思議に思い、ひっくり返して覗いてみると——。
「こ、これ……ポーチ? ファスナーが付いてる!」
コンシールファスナーという手法で縫い付けられたファスナーは《コンシール/隠す》という名の通り、取り付けられたファスナーが見えないようになっていた。
そっとファスナーを開け、中を確認する。
「中には……革紐が入ってる…。紐にはカニカンが付いているわ。このカンの素材……ルーペと一緒だ!!」
鈍く光るアンティーク調のカンを開き、ルーペの突起部分の穴にひっかけてみる。すると——
「これ……」
「間違いなく『ペンダント』ですね」
長さを調節できるように縛ってある革紐は、チョーカーやペンダントに施す手法と同じ。
革紐が付いただけで、間違いなくそれが『ペンダント』だと分かる。
「み、みつけた……! 両親が遺した『ペンダント』!」
そう言って口元に手を当てた瞬間、りおの目から涙が零れた。
「やりましたね!」
昴がりおの肩に手を置く。一つ謎が解けたことで、二人の顔には安堵の笑みがこぼれた。
「でも……このルーペがペンダントになったからといって、それが何なのかしら」
ただのルーペよね? と呟きながら持ち上げて透かして見る。しかし何も変わらない。
「それに、なんでカニカンだったんだろう。丸カンをつけて普通のペンダントにしなかった理由があるのかしら」
りおはペンダントを見つめて考え込んだ。
「カニカン……という事はつまり、付け外しをするつもりだった、という事ですよね? この紐の結び方だと丸カンに通した場合、すべて解かないとルーペ部分は外せませんし……。
ペンダントだとバレない為、とも考えられますが、他に理由があるのかもしれません」
昴はペンダントを手に取り、考えられる理由を模索する。りおの両親はこのペンダントに何を遺したのだろうか?
「冴島さんは何か知っているかもしれませんね。彼なら何か思い当たる事があるかもしれません」
「あ、そうだね。ちょっと電話してみようかな」
ベッドの横に置いたバッグから、りおはスマホを取り出す。それを見て、昴はりおの手をそっと握った。
「ちょっと待って、りお。冴島さんに連絡するのは少し休んでからにしましょう。あなた……顔色が良くない」
発作の直後だからだろうか。りおの顔は酷く青ざめていた。握った手も氷のように冷たい。
「え? そ、そうかな。まだ少し頭痛がするから……そのせいかも」
りおは額に手を当て小さくため息をついた。
「ベッドで横になりましょう。なんなら私が添い寝もしましょうか?」
持っていたペンダントをデスクに置き、昴はりおの肩に触れる。
「ん……一緒に寝てくれるの? 昴さん、もう体に触れても痛くない?」
りおは昴の腹部に手を伸ばす。
「ええ。大丈夫ですよ。じゃあ、ほら……ベッドに入って」
二人でりおのベッドに潜り込む。昴に腕枕をしてもらい、二人は抱き合った。
「昴さん…温かい…ね……」
りおは昴の胸元に頬をすり寄せた。
わずかに香るタバコの匂い。
息をするたびに上下する胸。
トクトク、と規則正しく打つ鼓動。
昴(赤井)が生きて、自分のそばに居る。それだけで驚くほど安心した。
「お願い…もっと…抱きしめて…もっと…強く…」
「ああ、良いよ。苦しかったら言ってくれ」
「ん…だい…じょう…ぶ…」
昴に抱きしめてもらい目を閉じたりおは、やがてウトウトとまどろみ始める。そのまますぅっと眠ってしまった。
「ふぅ。ようやく寝たな……。発作を起こしたというのに頑張りすぎだ」
昴はそっとりおの頬を撫でた。血色が無いためか、触れた頬も冷たい。
しばらくそうやってりおの寝顔を見ていた昴は、完全にりおが眠った事を確認すると、ベッドからスルリと這い出た。
「冴島さんには俺から連絡をするよ。発作も起こして精神的に少し不安定だ。新しい情報はどんな影響があるか分からんからな……」
部屋のドアを閉める前に、昴はもう一度りおの顔を見る。
(ゆっくりお休み)
少し幼く見える寝顔に微笑んで、昴は部屋を後にした。
***
警察学校の校長をしている冴島は、この時間勤務中のはずだ。昴は詳細をメールに書いて送る。
送信後10分程で冴島から昴のスマホへ電話がかかってきた。
『沖矢くんか?』
「はい。メールはご覧になりましたか?」
少し緊張した冴島の声を聞いて、何かあると昴は察知した。
『ああ。一真が遺したペンダントのことだったな。確かにりおは幼い頃、その【ルーペ】を大事にしていたよ。
小学校に上がる頃だったか……『パパとママから貰った』といって、一度だけ見せてもらった記憶がある。ずいぶん変わったプレゼントだと思ったんだ。
チェーンや紐は付いていなかったから、まさかそれが【ペンダント】になるとは知らなかったが……。どうやらそれが、重要な役割を果たしているのは間違いないだろうな』
いつになく慎重に言葉を選ぶ冴島に、昴は自分たちが謎の核心に迫りつつあることを感じる。
『俺が一真から言われたことは、《りおにパパ(一真)との思い出は何かを訊け》と言う事だけなんだ。
りおが一真と過ごした時間はそんなにない。だとするならば、先日病院で君が言っていた《いつものお話》というのが、一真の言う《思い出》なんじゃないだろうか?』
先日宗教団体に拉致されたりおが、聖水という名の無認可の薬をわずかに摂取し、朦朧とした意識の中で口走った『パパ、いつものお話聞かせて』という言葉。冴島はその事を言っているのだろう。
「しかし、りおはその《いつものお話》については覚えていませんでした。
あの時は薬の影響下で、記憶の底にあったものが偶然、本人の意識が無い状態で出て来たにすぎません。現状でその事をりおに思い出させるのは……」
いつかセーフハウスで起きた、大きな発作を思い出し昴の顔が曇る。
『ああ。また、あの時のような発作を起こしてしまう可能性がある。それは出来るだけ避けた方が良いだろう。今のあの子には負担が大きすぎる。どんな弊害があるか…我々には分からない』
同じことを思ったのだろう。冴島の声もわずかに沈んだ。
『沖矢くん……今はそっとしておこう。りおが自然に思い出すまで……静かに見守ろうじゃなか』
冴島の提案に昴もうなずく。
「はい、私も同感です。おそらく記憶の糸は、両親が亡くなるあの事故へとつながるはずです。りおの両親は死を覚悟した時に、何か彼女に伝えたはずですから……」
二人は相談して、ペンダントの事については《冴島は何もきいていない》とりおに伝える旨を確認した。
『何から何まで君に任せっぱなしですまないな』
電話の向こうで冴島が申し訳なさそうにつぶやく。
「いいえ、私が彼女の世話を焼きたいんです。私にとっても、彼女はかけがえのない存在ですから」
淀みなく伝えた本心を聞いて、冴島はそうか……と安堵したようにつぶやいた。
『じゃあ、沖矢くん。頼んだよ』
どこか父親のような優しさを含んだ冴島の声が聞こえ、電話は切れた。
昴はスマホをポケットにしまうと「ふぅ」と息を吐き、窓の外を見る。まだ昼を過ぎたばかりだというのに、すでに日の光は弱い。確実に秋は過ぎ去り、本格的な冬はもうすぐそこまで来ていた。
冴島との電話を切った後、昴は物思いにふけりながら一服し、りおの部屋へと足を運んだ。りおはよく眠っている。
「今回も……色々あったな」
昴は小さくつぶやいた。
チェンシーとのわだかまりも、前島の誤解も、呉の事件を通し解決した。結果論ではあるが、二人とは将来的に良い関係を構築できたと言って良いだろう。
そして——
昴はデスクの上のペンダントに視線を移す。
また一つ両親の謎が解けた。それはつまり、また一つりおが真実の扉を開けたことを意味する。
同時に、彼女が心の奥底に仕舞い込んだ核心部分へも近づいたことになる。果たして、すべてを思い出すことが彼女の為になるのだろうか。
答えの見えない問いを昴は繰り返す。昴はベッドへ腰かけるとりおの顔を覗き込んだ。
(何があっても……俺が必ず守ってやるよ)
もう何度目かになる誓いを心に秘め、昴は眠るりおの頬に触れる。その温かさにフッと微笑んで、そこに優しい口づけを落とした。
==第6章完==
クローゼットの奥にしまい込んでいた小さな缶の入れ物。子どもの頃の宝物が入っている。
祖父が亡くなって家の中を整理した時に、自室から見つけた。
両親の記憶のないりおは、祖母から『何かを思い出すきっかけになるかもしれないから、大切にしなさい』と言われ、それだけは大事に持っていた。
ケンバリ潜入時は、自身の荷物置き場として公安が用意してくれた小さなアパートに置きっぱなしになっていた。
「慌てて帰って来たと思ったら……いったい何を出してきたのですか?」
りおの部屋へと顔を出した昴は不思議そうだ。
「これ。前に昴さんにも見せたでしょ? 私の小さい頃の宝物」
「ええ。おばあさんごっこをしたルーペとお手玉が入っていましたね」
おばあさんごっこは例え話だよ……と口を尖らせながら、りおはフタを開けた。
「この中に何か気になるものでもあるのですか?」
「うん…。母の声で聴いた『ペンダント』って、もしかしてこのルーペの事なんじゃないかと思って……」
りおは缶の中からルーペを取り出す。手のひらに乗せ、ジッと観察した。
「これがペンダント? まあ確かに、ここに紐を通せばペンダントにならなくも無いですが……」
小さな突起物を指さし、昴が考え込む。
「でも、紐は無いんですよね? 元々紐すら付いていないものを果たして『ペンダント』と言って良いものかどうか……。
仮に紐が付いていたとして、それが短ければ『ペンダント』ではなく『キーホルダー』になりますし」
「うん。私もそれが気になって……」
りおも口元に手を当てて考え込んだ。
「でも他に『ペンダント』になりそうな物ってないんだよね」
缶の中を覗き込むと、次はウサギのお手玉を手に取った。
「お手玉が『ペンダント』になるわけ……ないよねぇ」
「そもそもそれはお手玉なのですか?」
「う~ん……。お手玉、だと思う…け…ど……
あれ? 何かついてる?」
ウサギのお腹側に何か硬いものが触れた。不思議に思い、ひっくり返して覗いてみると——。
「こ、これ……ポーチ? ファスナーが付いてる!」
コンシールファスナーという手法で縫い付けられたファスナーは《コンシール/隠す》という名の通り、取り付けられたファスナーが見えないようになっていた。
そっとファスナーを開け、中を確認する。
「中には……革紐が入ってる…。紐にはカニカンが付いているわ。このカンの素材……ルーペと一緒だ!!」
鈍く光るアンティーク調のカンを開き、ルーペの突起部分の穴にひっかけてみる。すると——
「これ……」
「間違いなく『ペンダント』ですね」
長さを調節できるように縛ってある革紐は、チョーカーやペンダントに施す手法と同じ。
革紐が付いただけで、間違いなくそれが『ペンダント』だと分かる。
「み、みつけた……! 両親が遺した『ペンダント』!」
そう言って口元に手を当てた瞬間、りおの目から涙が零れた。
「やりましたね!」
昴がりおの肩に手を置く。一つ謎が解けたことで、二人の顔には安堵の笑みがこぼれた。
「でも……このルーペがペンダントになったからといって、それが何なのかしら」
ただのルーペよね? と呟きながら持ち上げて透かして見る。しかし何も変わらない。
「それに、なんでカニカンだったんだろう。丸カンをつけて普通のペンダントにしなかった理由があるのかしら」
りおはペンダントを見つめて考え込んだ。
「カニカン……という事はつまり、付け外しをするつもりだった、という事ですよね? この紐の結び方だと丸カンに通した場合、すべて解かないとルーペ部分は外せませんし……。
ペンダントだとバレない為、とも考えられますが、他に理由があるのかもしれません」
昴はペンダントを手に取り、考えられる理由を模索する。りおの両親はこのペンダントに何を遺したのだろうか?
「冴島さんは何か知っているかもしれませんね。彼なら何か思い当たる事があるかもしれません」
「あ、そうだね。ちょっと電話してみようかな」
ベッドの横に置いたバッグから、りおはスマホを取り出す。それを見て、昴はりおの手をそっと握った。
「ちょっと待って、りお。冴島さんに連絡するのは少し休んでからにしましょう。あなた……顔色が良くない」
発作の直後だからだろうか。りおの顔は酷く青ざめていた。握った手も氷のように冷たい。
「え? そ、そうかな。まだ少し頭痛がするから……そのせいかも」
りおは額に手を当て小さくため息をついた。
「ベッドで横になりましょう。なんなら私が添い寝もしましょうか?」
持っていたペンダントをデスクに置き、昴はりおの肩に触れる。
「ん……一緒に寝てくれるの? 昴さん、もう体に触れても痛くない?」
りおは昴の腹部に手を伸ばす。
「ええ。大丈夫ですよ。じゃあ、ほら……ベッドに入って」
二人でりおのベッドに潜り込む。昴に腕枕をしてもらい、二人は抱き合った。
「昴さん…温かい…ね……」
りおは昴の胸元に頬をすり寄せた。
わずかに香るタバコの匂い。
息をするたびに上下する胸。
トクトク、と規則正しく打つ鼓動。
昴(赤井)が生きて、自分のそばに居る。それだけで驚くほど安心した。
「お願い…もっと…抱きしめて…もっと…強く…」
「ああ、良いよ。苦しかったら言ってくれ」
「ん…だい…じょう…ぶ…」
昴に抱きしめてもらい目を閉じたりおは、やがてウトウトとまどろみ始める。そのまますぅっと眠ってしまった。
「ふぅ。ようやく寝たな……。発作を起こしたというのに頑張りすぎだ」
昴はそっとりおの頬を撫でた。血色が無いためか、触れた頬も冷たい。
しばらくそうやってりおの寝顔を見ていた昴は、完全にりおが眠った事を確認すると、ベッドからスルリと這い出た。
「冴島さんには俺から連絡をするよ。発作も起こして精神的に少し不安定だ。新しい情報はどんな影響があるか分からんからな……」
部屋のドアを閉める前に、昴はもう一度りおの顔を見る。
(ゆっくりお休み)
少し幼く見える寝顔に微笑んで、昴は部屋を後にした。
***
警察学校の校長をしている冴島は、この時間勤務中のはずだ。昴は詳細をメールに書いて送る。
送信後10分程で冴島から昴のスマホへ電話がかかってきた。
『沖矢くんか?』
「はい。メールはご覧になりましたか?」
少し緊張した冴島の声を聞いて、何かあると昴は察知した。
『ああ。一真が遺したペンダントのことだったな。確かにりおは幼い頃、その【ルーペ】を大事にしていたよ。
小学校に上がる頃だったか……『パパとママから貰った』といって、一度だけ見せてもらった記憶がある。ずいぶん変わったプレゼントだと思ったんだ。
チェーンや紐は付いていなかったから、まさかそれが【ペンダント】になるとは知らなかったが……。どうやらそれが、重要な役割を果たしているのは間違いないだろうな』
いつになく慎重に言葉を選ぶ冴島に、昴は自分たちが謎の核心に迫りつつあることを感じる。
『俺が一真から言われたことは、《りおにパパ(一真)との思い出は何かを訊け》と言う事だけなんだ。
りおが一真と過ごした時間はそんなにない。だとするならば、先日病院で君が言っていた《いつものお話》というのが、一真の言う《思い出》なんじゃないだろうか?』
先日宗教団体に拉致されたりおが、聖水という名の無認可の薬をわずかに摂取し、朦朧とした意識の中で口走った『パパ、いつものお話聞かせて』という言葉。冴島はその事を言っているのだろう。
「しかし、りおはその《いつものお話》については覚えていませんでした。
あの時は薬の影響下で、記憶の底にあったものが偶然、本人の意識が無い状態で出て来たにすぎません。現状でその事をりおに思い出させるのは……」
いつかセーフハウスで起きた、大きな発作を思い出し昴の顔が曇る。
『ああ。また、あの時のような発作を起こしてしまう可能性がある。それは出来るだけ避けた方が良いだろう。今のあの子には負担が大きすぎる。どんな弊害があるか…我々には分からない』
同じことを思ったのだろう。冴島の声もわずかに沈んだ。
『沖矢くん……今はそっとしておこう。りおが自然に思い出すまで……静かに見守ろうじゃなか』
冴島の提案に昴もうなずく。
「はい、私も同感です。おそらく記憶の糸は、両親が亡くなるあの事故へとつながるはずです。りおの両親は死を覚悟した時に、何か彼女に伝えたはずですから……」
二人は相談して、ペンダントの事については《冴島は何もきいていない》とりおに伝える旨を確認した。
『何から何まで君に任せっぱなしですまないな』
電話の向こうで冴島が申し訳なさそうにつぶやく。
「いいえ、私が彼女の世話を焼きたいんです。私にとっても、彼女はかけがえのない存在ですから」
淀みなく伝えた本心を聞いて、冴島はそうか……と安堵したようにつぶやいた。
『じゃあ、沖矢くん。頼んだよ』
どこか父親のような優しさを含んだ冴島の声が聞こえ、電話は切れた。
昴はスマホをポケットにしまうと「ふぅ」と息を吐き、窓の外を見る。まだ昼を過ぎたばかりだというのに、すでに日の光は弱い。確実に秋は過ぎ去り、本格的な冬はもうすぐそこまで来ていた。
冴島との電話を切った後、昴は物思いにふけりながら一服し、りおの部屋へと足を運んだ。りおはよく眠っている。
「今回も……色々あったな」
昴は小さくつぶやいた。
チェンシーとのわだかまりも、前島の誤解も、呉の事件を通し解決した。結果論ではあるが、二人とは将来的に良い関係を構築できたと言って良いだろう。
そして——
昴はデスクの上のペンダントに視線を移す。
また一つ両親の謎が解けた。それはつまり、また一つりおが真実の扉を開けたことを意味する。
同時に、彼女が心の奥底に仕舞い込んだ核心部分へも近づいたことになる。果たして、すべてを思い出すことが彼女の為になるのだろうか。
答えの見えない問いを昴は繰り返す。昴はベッドへ腰かけるとりおの顔を覗き込んだ。
(何があっても……俺が必ず守ってやるよ)
もう何度目かになる誓いを心に秘め、昴は眠るりおの頬に触れる。その温かさにフッと微笑んで、そこに優しい口づけを落とした。
==第6章完==