第6章 ~遠い日の約束~
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港での一件の翌日、ライブハウスの一斉摘発が行われた。多くの逮捕者を出したものの呉の姿はなく、公安とチェンシーは必死に彼を探した。
しかし懸命な捜索も虚しく、一斉摘発から3日後、郊外の林の中で呉は遺体となって発見された。
その遺体には無数の銃弾が撃ち込まれており、死後4日以上が経過していると司法解剖をした法医学研究室から連絡があった。
「本当に弾丸の『雨』をふらせたんだな……」
解剖結果を手にした降谷のつぶやきを、風見は黙って聞いていた。
その2日後、チェンシーは情報屋の趙を連れ、帰国の途に就く。彼は中国の司法局を通して裁かれることになっている。
前島については——
呉は万が一の時、彼を自分の《替え玉》にするつもりでいた為、組織には前島の存在を知られておらず、りお達はホッと胸を撫で下ろす。
ライブハウスでの違法取引にも関与はなかったのだが、りおや少年探偵団をつけ狙った罪と銃刀法違反については容疑を認め、現行犯逮捕となった。
もちろん沖矢昴への拉致・暴行の罪もあったのだが、実在しない人間を被害者には出来ないということで降谷がもみ消した。
前島は今、警察署の拘置場で起訴を待っている。
チェンシーが帰国した翌日——
港での事件から1週間が経ち、工藤邸ではりおが赤井のケガの処置をしていた。
「はい、湿布交換出来ましたよ。ようやくこれで変装出来るようになりますね」
「ああ。前島の最後の蹴り、かなり効いたからな……」
怒りに任せた蹴りをまともに食らった赤井の顔は盛大に腫れ上がり、変装が来ない状態だった。
お陰で沖矢昴は『大学のゼミで1週間泊まり込みの為、工藤邸には居ない』、という設定を作らざるを得ない状況となる。それがまた厄介だった。
昴が居ない事を心配した哀が「一人じゃ寂しいでしょ。一緒にご飯でもどう?」と、時々工藤邸に顔を出してくれるのだ。
それはそれでありがたいことなのだが。
今はまだ、《沖矢昴》が《赤井秀一》だと知られるわけにはいかない。哀が家にいる朝と夕方——赤井とりおは、何かと肝を冷やしたのだった。
りおは 残りのシップに封をして、包帯やサージカルテープを救急箱に戻した。ソファーから立ち上がり、剥がしたシップをゴミ箱に入れる。
「体の打撲だって内臓には問題なかったけど、かなり重傷でしたよ。腕の手錠の跡なんて……見るだけで切なくなる」
切なげに湿布の残骸を見つめ、りおはため息をついた。赤井も立ち上がり、りおに近づく。
「お前にはずいぶん心配かけた。本当に悪かったと思っている。おかげで1週間も禁欲生活で、そろそろ俺も限界だよ」
りおの体を後ろから抱きしめて、赤井はりおの耳元で吐息と共にささやく。
「はあぁ? 何言ってるの! まだダメですよ!」
ぴしゃりと手の甲を叩かれて、赤井は口を尖らせた。
「そんな事より、やっと腫れも引いたんだから、午後は変装して前島に会いに行きますからね!」
「はいはい……」
叩かれた手の甲をさすりながら、赤井は返事をした。
あの日以来、赤井はりおになかなか触れさせてもらっていなかった。
「ケガに障るから」
そういってスルリと赤井のハグから抜け出てしまう。
(きっと思うところがあるのだろうな。兄と慕った男が自分を愛していた。しかも、自分の親友ともいえる者がその男を愛していた。
三角関係……口で言うのは容易いが、NOCとして命を賭してきた仲間同士、思いは複雑だろう)
出かける準備を着々と進めるりおを、赤井は心配そうに見つめた。
午後一番で、さくらと昴は前島が勾留されている警察署へと向かう。助手席に乗るさくらが昴の顔を見た。
「やっぱり……まだ少し腫れてるね」
「変装、おかしいですか?」
「ううん。ちゃんと変装は出来てるよ」
はあ……とさくらは重いため息をつく。浮かない顔をするさくらを、昴はチラリと横目に見た。
「さくらがキスをしてくれれば、早く治ると思うのですが」
「へぇ~。キスにそんな効果が……。知らなかったな」
さくらは昴の言葉をさらりと交わし、窓の外を眺める。やはり表情の暗いさくらを見て、昴は小さく息を吐くとウインカーを出した。
カチカチカチカチ……
軽快な音と共にランプが明滅し、減速したスバル360が左へと曲がる。ゆっくりと警察署の敷地へと入った。
駐車スペースに車が停まると、さくらはシートベルトを外し車外へ出ようとした。
「ちょっと待って」
「?」
自らのシートベルトを外した昴は左手でさくらの右肩を掴んだ。
そのまま自分の方へ引き寄せると、右手でさくらの頬に触れ、そのまま唇を重ねる。
「すば……」
さくらの言葉を奪うように昴が舌を差し入れる。すぐさま、さくらの体はピクリと反応した。1週間ぶりの口づけは、二人の気持ちを近づけるのには十分過ぎて。昴の優しいキスにさくらはいつしか夢中になった。
昴の右手の指が、りおの髪を梳くように差し入れられる。そのまま頭を支え、キスはより深さを増した。
「ふ……ぅ…ン……」
「は……っん……りお…」
相手の感じ入る声はゾクリと快感を呼び起こす。やがて静かに唇を離した。
「すまん……どうしても我慢できなかった…」
わずかに顔を紅潮させ、昴は赤井の口調で謝罪した。
「ううん。私こそごめんなさい。避けてたわけじゃないの……ただ、気持ちが乗らないっていうか……」
ウーチェンやチェンシーの事も心に影を落とす。
そして何より、赤井のケガに障るんじゃないかと思うと、申し訳なくてそんな気にならなかったのだという。
「あのなぁ、男なんて単純なんだ。好きな相手と触れ合ったりキスしたりするだけで元気になるんだよ」
お前のせいで全治3日が全治1週間になったんだぞ、と昴はいたずらっぽい笑みを見せた。
「え~。私のせいで伸びたの? それは悪いことしちゃったね」
さくらは昴を見上げクスクスと笑い出す。久しぶりに見る笑顔だった。
「そうやって笑っていてくれよ……」
昴はボソリとつぶやいた。
「え?」
「お前が笑っていてくれれば……俺はそれだけで……」
「笑っていればキスは要らない?」
「それは要る」
「キスだけで良い?」
「ハグも」
「それだけ?」
今度はさくらが悪い笑みを浮かべ、次々と問いかけた。
「もちろん…」
そこまで言って、昴は唇をさくらの耳元に近づける。そこでささやかれた言葉に、さくらはパッと顔を赤くした。
「さあ、行くぞ」
満足げに微笑むと昴は車を降りた。
しかし懸命な捜索も虚しく、一斉摘発から3日後、郊外の林の中で呉は遺体となって発見された。
その遺体には無数の銃弾が撃ち込まれており、死後4日以上が経過していると司法解剖をした法医学研究室から連絡があった。
「本当に弾丸の『雨』をふらせたんだな……」
解剖結果を手にした降谷のつぶやきを、風見は黙って聞いていた。
その2日後、チェンシーは情報屋の趙を連れ、帰国の途に就く。彼は中国の司法局を通して裁かれることになっている。
前島については——
呉は万が一の時、彼を自分の《替え玉》にするつもりでいた為、組織には前島の存在を知られておらず、りお達はホッと胸を撫で下ろす。
ライブハウスでの違法取引にも関与はなかったのだが、りおや少年探偵団をつけ狙った罪と銃刀法違反については容疑を認め、現行犯逮捕となった。
もちろん沖矢昴への拉致・暴行の罪もあったのだが、実在しない人間を被害者には出来ないということで降谷がもみ消した。
前島は今、警察署の拘置場で起訴を待っている。
チェンシーが帰国した翌日——
港での事件から1週間が経ち、工藤邸ではりおが赤井のケガの処置をしていた。
「はい、湿布交換出来ましたよ。ようやくこれで変装出来るようになりますね」
「ああ。前島の最後の蹴り、かなり効いたからな……」
怒りに任せた蹴りをまともに食らった赤井の顔は盛大に腫れ上がり、変装が来ない状態だった。
お陰で沖矢昴は『大学のゼミで1週間泊まり込みの為、工藤邸には居ない』、という設定を作らざるを得ない状況となる。それがまた厄介だった。
昴が居ない事を心配した哀が「一人じゃ寂しいでしょ。一緒にご飯でもどう?」と、時々工藤邸に顔を出してくれるのだ。
それはそれでありがたいことなのだが。
今はまだ、《沖矢昴》が《赤井秀一》だと知られるわけにはいかない。哀が家にいる朝と夕方——赤井とりおは、何かと肝を冷やしたのだった。
りおは 残りのシップに封をして、包帯やサージカルテープを救急箱に戻した。ソファーから立ち上がり、剥がしたシップをゴミ箱に入れる。
「体の打撲だって内臓には問題なかったけど、かなり重傷でしたよ。腕の手錠の跡なんて……見るだけで切なくなる」
切なげに湿布の残骸を見つめ、りおはため息をついた。赤井も立ち上がり、りおに近づく。
「お前にはずいぶん心配かけた。本当に悪かったと思っている。おかげで1週間も禁欲生活で、そろそろ俺も限界だよ」
りおの体を後ろから抱きしめて、赤井はりおの耳元で吐息と共にささやく。
「はあぁ? 何言ってるの! まだダメですよ!」
ぴしゃりと手の甲を叩かれて、赤井は口を尖らせた。
「そんな事より、やっと腫れも引いたんだから、午後は変装して前島に会いに行きますからね!」
「はいはい……」
叩かれた手の甲をさすりながら、赤井は返事をした。
あの日以来、赤井はりおになかなか触れさせてもらっていなかった。
「ケガに障るから」
そういってスルリと赤井のハグから抜け出てしまう。
(きっと思うところがあるのだろうな。兄と慕った男が自分を愛していた。しかも、自分の親友ともいえる者がその男を愛していた。
三角関係……口で言うのは容易いが、NOCとして命を賭してきた仲間同士、思いは複雑だろう)
出かける準備を着々と進めるりおを、赤井は心配そうに見つめた。
午後一番で、さくらと昴は前島が勾留されている警察署へと向かう。助手席に乗るさくらが昴の顔を見た。
「やっぱり……まだ少し腫れてるね」
「変装、おかしいですか?」
「ううん。ちゃんと変装は出来てるよ」
はあ……とさくらは重いため息をつく。浮かない顔をするさくらを、昴はチラリと横目に見た。
「さくらがキスをしてくれれば、早く治ると思うのですが」
「へぇ~。キスにそんな効果が……。知らなかったな」
さくらは昴の言葉をさらりと交わし、窓の外を眺める。やはり表情の暗いさくらを見て、昴は小さく息を吐くとウインカーを出した。
カチカチカチカチ……
軽快な音と共にランプが明滅し、減速したスバル360が左へと曲がる。ゆっくりと警察署の敷地へと入った。
駐車スペースに車が停まると、さくらはシートベルトを外し車外へ出ようとした。
「ちょっと待って」
「?」
自らのシートベルトを外した昴は左手でさくらの右肩を掴んだ。
そのまま自分の方へ引き寄せると、右手でさくらの頬に触れ、そのまま唇を重ねる。
「すば……」
さくらの言葉を奪うように昴が舌を差し入れる。すぐさま、さくらの体はピクリと反応した。1週間ぶりの口づけは、二人の気持ちを近づけるのには十分過ぎて。昴の優しいキスにさくらはいつしか夢中になった。
昴の右手の指が、りおの髪を梳くように差し入れられる。そのまま頭を支え、キスはより深さを増した。
「ふ……ぅ…ン……」
「は……っん……りお…」
相手の感じ入る声はゾクリと快感を呼び起こす。やがて静かに唇を離した。
「すまん……どうしても我慢できなかった…」
わずかに顔を紅潮させ、昴は赤井の口調で謝罪した。
「ううん。私こそごめんなさい。避けてたわけじゃないの……ただ、気持ちが乗らないっていうか……」
ウーチェンやチェンシーの事も心に影を落とす。
そして何より、赤井のケガに障るんじゃないかと思うと、申し訳なくてそんな気にならなかったのだという。
「あのなぁ、男なんて単純なんだ。好きな相手と触れ合ったりキスしたりするだけで元気になるんだよ」
お前のせいで全治3日が全治1週間になったんだぞ、と昴はいたずらっぽい笑みを見せた。
「え~。私のせいで伸びたの? それは悪いことしちゃったね」
さくらは昴を見上げクスクスと笑い出す。久しぶりに見る笑顔だった。
「そうやって笑っていてくれよ……」
昴はボソリとつぶやいた。
「え?」
「お前が笑っていてくれれば……俺はそれだけで……」
「笑っていればキスは要らない?」
「それは要る」
「キスだけで良い?」
「ハグも」
「それだけ?」
今度はさくらが悪い笑みを浮かべ、次々と問いかけた。
「もちろん…」
そこまで言って、昴は唇をさくらの耳元に近づける。そこでささやかれた言葉に、さくらはパッと顔を赤くした。
「さあ、行くぞ」
満足げに微笑むと昴は車を降りた。