第1章 ~運命の再会そして…~
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新しい薬の研究をするとき、当然研究室が必要になる。その研究室=「ラボ」は組織の中では1ヶ所しかない。
宮野志保もかつてここにいた。
そこの《メインコンピューターをハッキングしてエンジェルダストに関する情報を入手する》とさくらは紙に書き込む。
当然入手する情報は『現在どこで、誰が製造責任者で、製品管理は誰がしているか。現時点でどれくらい生産されているか』だ。
その後、それぞれの責任者をマークし、エンジェルダストの精製レポートを入手し、内容を改ざんする。
既に生産されているエンジェルダストの数が把握できれば、生産工場の数も粗方特定できるというわけだ。
おそらく工場内での生産ラインは普通の麻薬と別ラインで作っているはず。工場そのものを壊滅させるのではなく、エンジェルダストの生産ラインのみダメージを与える方が、大掛かりにならず効率がいい。
生産ラインを止めた後、エンジェルダストのガセネタを流す。これで万が一、エンジェルダストをいっぺんに焼失できなくても、取引はストップする。
また現在までの生産量をメインコンピューターのデータから把握できているので、未焼失の数も把握できる。
これについては後日追うことも可能だが出来るだけ最少に留めておいた方が良いだろう。
精製レポートも改ざんされているので、新たに生産することも不可能。後は作った人間の頭に残った知識だけだ。
さくらはキーワードになる言葉を紙に書き、矢印や線を描きながら二人に分かるように記入していく。
メモの最後に『関係者 逮捕または…暗殺』の文字を書いてペンを置いた。
コナンがゴクリと唾を飲み込む。
(いったいどんな気持ちでこの文字を書いているんだ…)
ペンを置いた後、さくらは手話で『ラボのハッキングは私がやる』とふたりに伝えた。確かにこの作戦なら3ヶ月あれば十分だろう。
コナンと昴は顔を見合わせる。
さらに、現在組織が手にしているエンジェルダストの数を出来るだけ正確に割り出すならば、メインコンピューターからの情報だけでなく、取引を希望している国や組織を割り出して、取引される量を大方把握すればいい。
『これについてはFBIにお願いできる?』
さくらは筆談で尋ねる。
日本国内なら日本警察が一番情報を持っているが、海外は不得手だ。
「いいでしょう。ボスに頼んでみます」
『ラボへの潜入は私が』
「「えっ!!」」
昴とコナンの声が重なる。
「潜入って…・まさか、ラボのメインコンピューターに直接盗みに行く気か?!」
『はい』
「「な?!!」」
昴とコナンは驚き、顔を見合わせた。
「そんなことさせられるわけないでしょう!! あなた、自分の体のこと分かって…」
『だから…ですよ』
ふたりの焦りをよそに、さくらは冷静だ。
『組織のラボはここ1ヶ所しかありません。つまり医療機関もここです』
「?!」
『今の体の状態なら、おそらくここに入院になるでしょう。そうなればデータを狙うチャンスが増える。
データを盗んだ痕跡は残しません。盗みさえすれば、後は適当な理由をつけて戻ってきます』
「危険だ。させられない」
昴の姿と声をしているものの、表情も言葉遣いもすでに赤井そのものだ。
『私しかできない。外からのハッキングはおそらく無理。あそこのメインコンピューターは組織の肝。そう簡単にハッキングできない』
さくらの見解を聞き、コナンは唇をかみしめる。
さくらが言っていることが正解だと、赤井も分かっているはずだ。それでも頑なに首を縦に振らないのは、彼女の身を案じてのことだ。
「俺が潜入する」
『?!』
何度かの押し問答の末、昴が発した言葉を聞いて、さすがのさくらもキレた。
パンッ!
昴の左頬をさくらは平手打ちする。
ほとんど声なんて出ていないが、酷く掠れた小さなささやき声で、
「あなたが《昴》になるためにコナン君や工藤さんにどれだけ協力してもらったと思っているの? そしてあなたを死んだと思わされていた、ジョディさんやキャメルさん、私をなんだと思っているの!
ましてや、あなたの生存がばれたら、キールの命が危ないのよ!!」
そこまでなんとか喋るとゴホッゴホッと咳き込んだ。
これ以上しゃべることは無理だろう。
昴はふぅ~と大きなため息をつくと、
「初めて会った時もお風呂の時も…。あなたは言い出したら本当言うことを聞きませんね…」
と独り言のように呟いた。
「負けましたよ…」
昴はグリーンの瞳をさくらに向けた。
「あなたの言う通りです。この作戦はあなたにしか出来ない。
そのかわり約束してください。絶対無理はしないと。あなたを失うことは私が耐えられそうもありませんので」
『……分かりました』
昴の言葉に、さくらはそう手話で答えた。
昴の、いや、赤井の突然の告白に、コナンは自分の顔が赤くなるのを感じた。
その後数日かけて哀からラボの詳細な見取りと、メインコンピューターの場所を教えられた。
また、麻薬関係はコードネーム:ギムレットという男が管理しているところまで分かった。
コナンはさくらの体調が心配で昴に様子を聞くが、無理してでも食べるようにしているし、体も少し動かしているという。
「体を動かすって何してるの?」
「後で見てみるといい」
昴はそう言うとフッと笑った。
決行を数日後に控え、綿密な打ち合わせをした。
ラボへの潜入期間は最長で3日間。3日以内に退院という形でラボを出るのが理想だ。
さくらが医療機関に入院という形で潜入後、バーボンがここ数週間の治療の様子を伝える名目でラボに潜入し、必要な道具などをさくらに届ける。
データ入手後はバーボンが運び屋となって理事官へ届けられる計画だ。
できればデータと一緒にさくらを連れて出るのが一番望ましい。後は決行日を待つばかりとなった。
心配なのはさくらの体調だけだ。コナンは「ふぅ」とため息をついた。
(後で見てみろって言われたけど…いったい何やってるんだ? さくらさん…)
トントン
ふいに肩を叩かれた。コナンは慌てて振り返る。
『私の心配をしているでしょ』
そこには笑顔を見せ、コナンの思考をよんださくらが居た。
「う、うん…そりゃぁ…心配だよ」
『じゃあ、良いもの見せてあげる』
ニコニコ顔でさくらはコナンの手を引き、庭へと向かった。
塀に囲まれた工藤邸の庭は外からは見えない。それなりに広さもあるので、キャッチボールくらいなら余裕でできる。
コナンとさくらが庭に到着すると、昴もそこにいた。上着を脱いで、軽く体をほぐしている。
(一体何が始まるんだ?)
さくらはにっこりコナンに笑いかけ、
『まあ、見ててね』と手話で伝えると、昴のもとにかけていった。
ふたりは一定の距離で向かい、軽くお辞儀をする。ピリッと空気が張り詰めた事をコナンは感じ取る。
すると、さくらがいきなり蹴りを仕掛けた。
すんでのところで昴が避ける。
間髪入れずに反対の足からも回し蹴りを仕掛けるが、ジークンドーの手業で軽く流された。
その流れで昴の拳がさくらを狙うが、素早く体勢を低くして避けた。
ヒュゥッ!!
重心が低くなったさくらに昴は蹴りを仕掛けるが、上手くかわされ、昴の足は空を切る。
そのスキにさくらは昴の軸足に蹴りを入れて、逆に彼の体勢を崩しにかかる。しかしわずかにブレただけで、倒れるところまでは行かない。
「ッ!」
空振りをした昴の足が今度は軸足となり、後ろ蹴りを仕掛けるが、さくらはすぐに横に飛んで避けた。
さくらと昴の間に距離ができる。
ふたりの動きがあまりに速く、流れるように動くので、コナンはぽかーんと口を開いたまま固まってしまった。
その後もふたりは組手を続け、昴の拳がさくらの顔の前でピタッ! と止まったところでふたりの動きが完全に止まった。
『あ~あ、また負けちゃった』
さくらはつまらなそうに手話で伝える。
「いやあ、その前にあなたの左の蹴りが本当に入っていたら肋の2本はやられていましたよ」
寸止めしてもらって良かったですなんて、昴は嬉しそうに話している。
このふたり、夫婦になったら夫婦喧嘩ちょ~怖ぇ…。
コナンは想像して半目になった。
『どうだった?』
さくらは笑顔でコナンを見る。
「意識を失っていない限り、さくらに勝てる輩はそうそういないですよ」
昴もうれしそうだ。
『これでコナンくんの心配はひとつ減ったでしょ』
昴とさくらの仲睦まじい様子に、
(きっと無事に任務を終えるために二人で考えて準備したんだな…)
コナンは遠巻きに二人を見つめ、微笑んだ。