第6章 ~遠い日の約束~
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***
ブーッブーッブーッ
テーブルに置かれたスマホがりおの異変を知らせる。昴は慌ててスマホを手に取った。
拉致直後作動したGPSは、りおの体調が安定するとスリープモードになっていた。その腕時計が再び作動している。
バイタルを確認すると、さくらの呼吸数と心拍数が普段よりだいぶ下がっていた。しかも、彼女がいる場所はアジトからだいぶ距離がある。
「ッ!? 拉致された直後はアジトに向かっていたはずだが……。まさか、どこかへ連れ出されたのか!?」
ジンによってアジト以外のところへ連れて行かれたとするならば、いったいどこへ? そしてそこで何を?
居ても立っても居られなくなった昴は、慌てて立ち上がりジャケットを手に取る。リビングを飛び出そうとした瞬間、持っていたスマホが再び震えた。
『沖矢さん、僕です。連絡が遅くなってしまってスミマセン』
着信をタップすると、やや息を切らした安室が電話口で謝罪した。
「そ、それでさくらは? 今バイタルに変化があったようなんです」
出来るだけ平常心を心掛け、昴は安室に問いかける。
『バイタルに? ベルモットのヤツいったい何を……あ、いや、僕がアジトに着いた時には、すでにさくらさんの姿はありませんでした。ウォッカの話によると、ベルモットがさくらさんを連れ出したそうです』
「ベルモットが!?」
そう叫んだ昴の声は少々上ずっていた。どんなに平常心を保とうとしても、目まぐるしく変わる状況にかき乱されてしまう。
ベルモットと一緒という状況は果たして良いのか悪いのか——スマホを握る手に力がこもる。
『ええ。でも彼女ならさくらさんを悪いようにはしません。むしろ、今は彼女といる方が安全かもしれない。ベルモットと連絡を取ります。それまで沖矢さんは絶対に動かないで下さいね』
今まさに動こうとして、ジャケットが手に握られているのが見えているのだろうか。
昴は小さくため息をついて「はい」と答え、体の緊張を解いた。
バーボンと昴が電話をしている頃、ベルモットの別荘(セーフハウス)では——
数ある客室の一室で、ベルモットは意識のないラスティーの服を脱がせ、別の服に着替えさせていた。
やや胸元の開いたシルクのナイティ。肌触りが良く、白いラスティーの肌に良く映える。着替えを終えると、そのまま広いベッドに寝かせた。
「薬が効いてよく眠ってる……」
満足そうにベッドサイドに座ると、ベルモットは愛おしそうにラスティーの胸元をさすった。
「ふふふ。あなたの彼氏はかなり熱烈なようね。このキスマークが消えないうちに、またあなたを抱く気だったのでしょう?」
鎖骨の下に赤い印。そのすぐそばには、ほぼ消えかかった同じような印。
察するに——抱くたびにそこに印を付け、その印が消えないうちにまた抱く。所有の印。
強い独占欲が垣間見えた。
「あのマジメそうな大学院生がねぇ……。よほどあなたを愛しているのね。大丈夫よ。すぐ彼氏のところに返してあげるわ。今は、あなたの身の安全が優先……。
呉がジンに獲物を献上しようと、あなたをつけ狙う可能性もあるのだから」
ベルモットはそっとラスティーの頭を撫でると立ち上がり、静かに部屋を出た。
ブーッ、ブーッ、ブーッ
部屋を出てすぐ、スマホが震える。画面にはよく知る名が表示されていた。
「ハァイ、なあに? バーボン」
『あなたのセーフハウスにラスティーがいるでしょう?』
いつもとは違う、余裕のないバーボンの声にベルモットは目を丸くする。
「あら、誰から聞いたの?」
スマホを耳に当てたままリビングへと移動した。
『ウォッカですよ。キールがラスティーを連れてきたところに、あなたが血相を変えてやってきたと。そのあとは車でラスティーを連れ出したと聞きました』
「ふふふ。そう……」
ベルモットはリビングのキャビネットに近づくと細身のタバコを取り出し、ソファーに腰かけた。
タバコをくわえ、ガラス製の卓上ライターを手に取る。シュボッと小さな音を立てて火を点けた。
「ふ——…」
タバコから口を放し煙を吐き出す。
あの時、ジンとベルモットの間でラスティーを抱えたまま、少しオロオロしていたウォッカの顔を思い出し笑みがこぼれた。
一方、電話の向こうでは——ベルモットがタバコをふかす様子を電話越しに聞きながら、バーボンが焦りを押し殺して次の言葉を待っていた。
「お察しの通りよ、バーボン。私のセーフハウスにラスティーを連れてきているわ。今彼女は眠っている。無茶をして飛び出さないようにね。
少々手荒かとも思ったのだけど、じゃじゃ馬な彼女をココ(セーフハウス)に留めておくには、これしか手が無くて……」
ベルモットは足を組み直し、満足げに話す。
「もう少しあの呉という男を調べて、尋問はそれからって事でジンと話を付けたわ。
さすがにジンも、胡散臭いマフィアの男を信じちゃいないようだったけど。それでも一度上がったNOC疑惑については、ちゃんと白黒つけたいみたい。
3日後にジンがラスティーに直接尋問することになったわ。その時は私も同席する。
つまり期限は3日しかないの。今はとにかく時間が必要なのよ。だけど、あの子ときたら待ったナシでしょ?」
ベルモットはやや呆れたようにため息をつく。彼女が何を言いたいか、バーボンはすぐにピンときた。ラスティーによる数々の《無茶な行動》を思い出し、思わず「ああ…」と額に手を当てた。
「ほっといたら、自分でカタを付けるとか言って呉に会いに行きかねない。それこそヤツの思うツボだわ。汚い手を使って、あの子を《献上品》に仕立てる可能性だってある。
しばらくは薬で眠らせておくけど、アブナイものじゃないから安心して。時が来たら、ちゃんと彼氏クンに返してあげるからって。あの子の彼氏にそう伝えておいてちょうだい」
『は、はぁ…』
危うく「はい」と言いそうになった。
《沖矢昴》は時々ポアロにコーヒーを飲みに来る客の一人にすぎない。あくまでも『店員と客』の関係なので、お互いの住まいも何も知らない事になっている。
容易く「はい」とは言えない。彼が店に来たら伝えます、と返事をした。
『呉に関することは僕も調べています。このあと情報のすり合わせをしましょう。僕もすぐそちらに向かいます。
あと潜伏に必要なものがあれば調達します。何かあれば連絡を』
「助かるわ、バーボン」
その後は身を隠すうえで必要な物を伝え、通話を切った。
与えられた猶予は3日。
「それまでに何とかしなければ……」
ベルモットはタバコを灰皿に押し付けた。
***
3日後——
少年探偵団の子どもたちは学校の帰り、博士の家に向かっていた。
「そういえばね~、この前の猫ちゃん達、無事に里親さんが見つかったんだって!」
歩美が嬉しそうに皆に報告した。
「ああ、先日雷の音に驚いて迷子になった5匹の子猫の事ですね!」
《短編集『夢の中でも愛して』》
光彦がぱぁっと顔を輝かせた。
「5匹とも家族が決まって良かったな~」
元太もカワイイ子猫の顔を思い出し、二ッと口角を上げる。
3人の嬉しそうな顔を見て、コナンと哀も微笑んだ。
「ま、あの場で酷い目に遭ったのは、さくらさんと私……あと、公衆の面前でさくらさんに濃厚なキスされた昴さんだったけどね」
「のッ! のう…こう…!?」
サラリとすごいことを言う哀に、コナンは毎回度肝を抜かれる。思わず顔を赤くして、涼しげな哀の顔を覗き込んだ。
「え…そ、っそ、そんなに…すごいチュ~だったんか?」
コナンは口元に手を当て、他の三人に聞こえないように問いかけた。
「ええ。すごかったわよ~。昴さんの首元に腕を回して……あ、ゴホン。
かなり積極的なさくらさん……もうあんなの目の前で見たら、江戸川君倒れちゃうんじゃないかしら?」
「ええええ~ッ?!」
顔色一つ変えずに話す哀に、コナンは思わず素っ頓狂な声を上げた。
「どうしたんですか? コナンくん」
「なんかあったのか? すっげぇ声出してたけど」
「なになに? 歩美も聞きたい」
子ども達がコナンの声に反応すると、一緒になって問いかけた。
ブーッブーッブーッ
テーブルに置かれたスマホがりおの異変を知らせる。昴は慌ててスマホを手に取った。
拉致直後作動したGPSは、りおの体調が安定するとスリープモードになっていた。その腕時計が再び作動している。
バイタルを確認すると、さくらの呼吸数と心拍数が普段よりだいぶ下がっていた。しかも、彼女がいる場所はアジトからだいぶ距離がある。
「ッ!? 拉致された直後はアジトに向かっていたはずだが……。まさか、どこかへ連れ出されたのか!?」
ジンによってアジト以外のところへ連れて行かれたとするならば、いったいどこへ? そしてそこで何を?
居ても立っても居られなくなった昴は、慌てて立ち上がりジャケットを手に取る。リビングを飛び出そうとした瞬間、持っていたスマホが再び震えた。
『沖矢さん、僕です。連絡が遅くなってしまってスミマセン』
着信をタップすると、やや息を切らした安室が電話口で謝罪した。
「そ、それでさくらは? 今バイタルに変化があったようなんです」
出来るだけ平常心を心掛け、昴は安室に問いかける。
『バイタルに? ベルモットのヤツいったい何を……あ、いや、僕がアジトに着いた時には、すでにさくらさんの姿はありませんでした。ウォッカの話によると、ベルモットがさくらさんを連れ出したそうです』
「ベルモットが!?」
そう叫んだ昴の声は少々上ずっていた。どんなに平常心を保とうとしても、目まぐるしく変わる状況にかき乱されてしまう。
ベルモットと一緒という状況は果たして良いのか悪いのか——スマホを握る手に力がこもる。
『ええ。でも彼女ならさくらさんを悪いようにはしません。むしろ、今は彼女といる方が安全かもしれない。ベルモットと連絡を取ります。それまで沖矢さんは絶対に動かないで下さいね』
今まさに動こうとして、ジャケットが手に握られているのが見えているのだろうか。
昴は小さくため息をついて「はい」と答え、体の緊張を解いた。
バーボンと昴が電話をしている頃、ベルモットの別荘(セーフハウス)では——
数ある客室の一室で、ベルモットは意識のないラスティーの服を脱がせ、別の服に着替えさせていた。
やや胸元の開いたシルクのナイティ。肌触りが良く、白いラスティーの肌に良く映える。着替えを終えると、そのまま広いベッドに寝かせた。
「薬が効いてよく眠ってる……」
満足そうにベッドサイドに座ると、ベルモットは愛おしそうにラスティーの胸元をさすった。
「ふふふ。あなたの彼氏はかなり熱烈なようね。このキスマークが消えないうちに、またあなたを抱く気だったのでしょう?」
鎖骨の下に赤い印。そのすぐそばには、ほぼ消えかかった同じような印。
察するに——抱くたびにそこに印を付け、その印が消えないうちにまた抱く。所有の印。
強い独占欲が垣間見えた。
「あのマジメそうな大学院生がねぇ……。よほどあなたを愛しているのね。大丈夫よ。すぐ彼氏のところに返してあげるわ。今は、あなたの身の安全が優先……。
呉がジンに獲物を献上しようと、あなたをつけ狙う可能性もあるのだから」
ベルモットはそっとラスティーの頭を撫でると立ち上がり、静かに部屋を出た。
ブーッ、ブーッ、ブーッ
部屋を出てすぐ、スマホが震える。画面にはよく知る名が表示されていた。
「ハァイ、なあに? バーボン」
『あなたのセーフハウスにラスティーがいるでしょう?』
いつもとは違う、余裕のないバーボンの声にベルモットは目を丸くする。
「あら、誰から聞いたの?」
スマホを耳に当てたままリビングへと移動した。
『ウォッカですよ。キールがラスティーを連れてきたところに、あなたが血相を変えてやってきたと。そのあとは車でラスティーを連れ出したと聞きました』
「ふふふ。そう……」
ベルモットはリビングのキャビネットに近づくと細身のタバコを取り出し、ソファーに腰かけた。
タバコをくわえ、ガラス製の卓上ライターを手に取る。シュボッと小さな音を立てて火を点けた。
「ふ——…」
タバコから口を放し煙を吐き出す。
あの時、ジンとベルモットの間でラスティーを抱えたまま、少しオロオロしていたウォッカの顔を思い出し笑みがこぼれた。
一方、電話の向こうでは——ベルモットがタバコをふかす様子を電話越しに聞きながら、バーボンが焦りを押し殺して次の言葉を待っていた。
「お察しの通りよ、バーボン。私のセーフハウスにラスティーを連れてきているわ。今彼女は眠っている。無茶をして飛び出さないようにね。
少々手荒かとも思ったのだけど、じゃじゃ馬な彼女をココ(セーフハウス)に留めておくには、これしか手が無くて……」
ベルモットは足を組み直し、満足げに話す。
「もう少しあの呉という男を調べて、尋問はそれからって事でジンと話を付けたわ。
さすがにジンも、胡散臭いマフィアの男を信じちゃいないようだったけど。それでも一度上がったNOC疑惑については、ちゃんと白黒つけたいみたい。
3日後にジンがラスティーに直接尋問することになったわ。その時は私も同席する。
つまり期限は3日しかないの。今はとにかく時間が必要なのよ。だけど、あの子ときたら待ったナシでしょ?」
ベルモットはやや呆れたようにため息をつく。彼女が何を言いたいか、バーボンはすぐにピンときた。ラスティーによる数々の《無茶な行動》を思い出し、思わず「ああ…」と額に手を当てた。
「ほっといたら、自分でカタを付けるとか言って呉に会いに行きかねない。それこそヤツの思うツボだわ。汚い手を使って、あの子を《献上品》に仕立てる可能性だってある。
しばらくは薬で眠らせておくけど、アブナイものじゃないから安心して。時が来たら、ちゃんと彼氏クンに返してあげるからって。あの子の彼氏にそう伝えておいてちょうだい」
『は、はぁ…』
危うく「はい」と言いそうになった。
《沖矢昴》は時々ポアロにコーヒーを飲みに来る客の一人にすぎない。あくまでも『店員と客』の関係なので、お互いの住まいも何も知らない事になっている。
容易く「はい」とは言えない。彼が店に来たら伝えます、と返事をした。
『呉に関することは僕も調べています。このあと情報のすり合わせをしましょう。僕もすぐそちらに向かいます。
あと潜伏に必要なものがあれば調達します。何かあれば連絡を』
「助かるわ、バーボン」
その後は身を隠すうえで必要な物を伝え、通話を切った。
与えられた猶予は3日。
「それまでに何とかしなければ……」
ベルモットはタバコを灰皿に押し付けた。
***
3日後——
少年探偵団の子どもたちは学校の帰り、博士の家に向かっていた。
「そういえばね~、この前の猫ちゃん達、無事に里親さんが見つかったんだって!」
歩美が嬉しそうに皆に報告した。
「ああ、先日雷の音に驚いて迷子になった5匹の子猫の事ですね!」
《短編集『夢の中でも愛して』》
光彦がぱぁっと顔を輝かせた。
「5匹とも家族が決まって良かったな~」
元太もカワイイ子猫の顔を思い出し、二ッと口角を上げる。
3人の嬉しそうな顔を見て、コナンと哀も微笑んだ。
「ま、あの場で酷い目に遭ったのは、さくらさんと私……あと、公衆の面前でさくらさんに濃厚なキスされた昴さんだったけどね」
「のッ! のう…こう…!?」
サラリとすごいことを言う哀に、コナンは毎回度肝を抜かれる。思わず顔を赤くして、涼しげな哀の顔を覗き込んだ。
「え…そ、っそ、そんなに…すごいチュ~だったんか?」
コナンは口元に手を当て、他の三人に聞こえないように問いかけた。
「ええ。すごかったわよ~。昴さんの首元に腕を回して……あ、ゴホン。
かなり積極的なさくらさん……もうあんなの目の前で見たら、江戸川君倒れちゃうんじゃないかしら?」
「ええええ~ッ?!」
顔色一つ変えずに話す哀に、コナンは思わず素っ頓狂な声を上げた。
「どうしたんですか? コナンくん」
「なんかあったのか? すっげぇ声出してたけど」
「なになに? 歩美も聞きたい」
子ども達がコナンの声に反応すると、一緒になって問いかけた。