第1章 ~運命の再会そして…~
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次の日———
コナンが朝早くやってきた。今日は学校が休みらしい。
「灰原から聞いたけど…さくらさん大丈夫?」
「…」
コナンの問いかけに昴の表情が曇る。
ほんの少し間を置くと、昴は昨日の詳細と失声症のこと、血を見てからの様子などを伝えた。
「早く元気になると良いね…」
コナンは少し悲しげに微笑んだ。
「で、コナンくんは何か情報があるから来たのでしょう」
「うん。その安室さん情報なんだけど…」
コナンは少し言い辛そうに、安室からの情報を伝えた。
「公安の作戦が功を奏して、取引を申し出ていた組織や国が二の足を踏んでいるようなんだ。
最短でも3ヶ月はおとなしくしていた方が良さそうだと、黒の組織も判断したらしい。次の策を講じるのにそれくらい必要だって。
組織が莫大なお金をかけて作った薬だから、失敗するわけにはいかないからって」
3ヶ月…———
さくらの病状を考えると3ヶ月は短い…。
昨日の大きな発作で、治療は後退したと考えて間違いない。
そこへさくらがリビングへ入ってきた。
「あ、さくらさんおはよ~」
コナンは笑顔で挨拶した。
『おはよう』
さくらも笑顔を見せ、手話で挨拶をしてくれた。
『昴さん、コナンくんにあのお菓子出してあげるわね』
「ああ、そうですね。お願いします」
昴とさくらは口話と手話を上手に使って、不自由なくコミュニケーションを取っている。
その姿は自然で…なんというかカッコイイ。
「昴さん、手話分かるの?」
「ええ、昔少しだけ。でもだいぶ忘れてしまったので、スマホ頼りですよ」
そう言ってスマホのアプリを見せてくれた。
しばらくするとダイニングからさくらが戻ってくる。
昴の肩を軽くたたくと、
『お菓子が戸棚の中にあって届かないの。取ってくれる?』と手話で訴えた。
「ああ、そうでしたね。コナンくんちょっと待っていてください」
そう言ってふたりでキダイニングに向かう。
(そうか。声が出ないから、ダイニングから呼ぶことが出来ないんだ。それでは昴さんがそばにいない時に何かあったら…。そうだ!)
コナンはかつての自分の部屋に行き、物入れの中を漁る。
「えっと…確か……あった!」
それを持って再びリビングに戻った。
紅茶とお菓子を用意して、ふたりで仲良くダイニングから戻ってきた。こうやって見ると夫婦みたいだ。
「お待ちどうさま」
紅茶とお菓子がサーブされる。あたりに紅茶のいい香りが広がった。
「ありがとう。昴さん、さくらさん」
『どういたしまして。さあどうぞ』
ひとくち紅茶を飲む。アールグレイの香りが口いっぱいに広がった。続いてチョコチップが乗った少し大きめのクッキーにかぶりつく。ちょっぴりビターなチョコが紅茶に合った。
「おいしい…」
「お口に合って良かったです」
昴がニコニコしながら答えた。
「そうだ、これさくらさんにあげるよ」
お菓子を頂きながら、コナンは先ほど部屋から持ってきた物をさくらに手渡した。
ちりり~ん…
少し音に余韻が残り、鈴よりわずかに甲高い音がする。フォルムも鈴というよりは、親指ほどの鐘の形をしたキーホルダーだった。
「前に友達からお土産でもらったんだけど、小さい割に音が響くからなかなか使えなくて、ずっとしまってあったんだ」
もぐもぐとクッキーを咀嚼し、ごくりと飲み込むとコナンは続ける。
「今さくらさん声が出ないでしょ。昴さんがそばにいない時に何かあっても、助けを呼ぶことができないじゃない。
さっきだって声が出れば、ダイニングから呼ぶことが出来たのに、わざわざリビングまで呼びに来ていたでしょ」
『ありがとう! そうなの! コナンくんの言う通り。
昴さんが近くにいない時どうしようって、私もさっき思ったのよ』
コナンの優しい気遣いに嬉しくなる。
『ありがとう。大切に使うね』
**
コナンと昴は3ヶ月の猶予の中で何が準備できるか、エンジェルダストの取引をどう回避するか、考えていた。
薬自体は完成しているとみて間違いない。
取引を持ちかけているということは、大量生産も可能な状態だろう。
だとするならば、生産工場を割り出して破壊するか、エンジェルダストは不完全な状態で不良品であるとガセネタを流すかだ。
前者はエンジェルダストを根絶できるが、工場がいくつあるか定かでない。ましてや根絶やしにするには同時攻撃をしかけなければ闇ルートですぐに隠されてしまう。
工場の数を正確に把握するのに、相当の時間がかかる。
後者は簡単に行動に移せるが、ガセとバレればすぐにでも取引が開始してしまう。時間稼ぎ程度にしか使えない。
しかも効果はそれほど期待できないだろう。
昴とコナンはため息をつく。圧倒的に時間が足りない。
3か月で出来ることなどたかが知れている。
しかも組織はすでに取引の段階に入っている。
手をこまねいていれば3か月と言わず、段階的に取引再開に踏み出す可能性もあるのだ。
さくらは黙ってふたりの話を聞いているような、聞いていないような状態だった。ソファーに体を預け、ぼんやり空を眺めている。
ふとさくらの視線が左手の包帯に移る。包帯には少し血がにじんでいた。無意識にするすると包帯を外していく。
「…」
包帯が取れると、昨日ガラスで切った傷口があらわになる。手をぐっと強く握り締めると、くっついていた傷口が再び開き血が溢れ出す。さくらはそれをじっと見つめていた。
コナンがちらっとさくらを見る。
「ホントにぼんやりしているね」
「ええ、心ここにあらずって感じで」
昴は手元のメモを見ながら答えた。
「?」
コナンはさくらの様子がおかしいことに気付く。
「?! さくらさん! 何やってるの?!」
「!?」
コナンの声に昴も驚いて顔を上げる。
見ると昨日の傷口が開き、出血しているではないか。
さくらの着ている服はすでに血だらけだ。
昴は慌てて駆け寄る。すぐに傷口を押さえた。幸い出血は止まり、再び包帯が巻かれた。
「さくら、着替えをしましょう」
昴が声をかける。だが反応がない。
「さくら?」
何度か名前を呼ぶがぼんやりしたままだ。その様子に昴は焦りを感じた。
「さくら! おい! しっかりしろ!」
両腕を掴み、強く揺すった。その勢いでポケット入っていたコナンのキーホールダーが床に落ちる。
ちりり~ん
その音で、さくらの両目が大きく開いた。
『? 私…?』
必死の形相の昴を見て、どうしたのかと不思議そうな顔をした。そんなさくらの様子にふたりは不安を隠せなかった。
**
廊下に出て新出に連絡を取った。
さくらの様子を伝えると、大きな発作を起こしたばかりなので、もう少し様子を見るようにと言われた。
『むしろ血を見てフラッシュバックが起きなくなったことに意味があるかもしれません。不安はあると思いますが、前向きに捉えてください』
(良い方に向かっているのなら良いんだがな)
電話を切って昴はため息をついた。
リビングに戻ると、いつもの様子に戻ったさくらが先ほどのコナンと昴のメモを見ていた。
そしてテーブルに肘を突き、口元に手を当てて何か考えて出した。
突然何か思いついたようにペンを持つと、余白がある紙にサラサラと書き込んでいく。
コナンと昴は一瞬顔を見合わせるが、すぐにそのメモを覗き込んだ。