第6章 ~遠い日の約束~
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同日夜———
マフィアの男、呉浩然(ウーハオラン)は、とあるバーで男を待っていた。
スーツの内ポケットからタバコを取り出す。
襟元を掴む左腕には派手なチェーンブレスレットがはめられ、ジャラリと音を立てた。
店のマッチを擦り、タバコに火をつけると軽く振って火を消し、灰皿に放り投げる。目の前でシェーカーを振るバーテンダーを、タバコを燻(くゆ)らせながらジッと見つめていた。
カラン…カラン…
やがて来客を知らせる鐘の音が聞こえた。
「いらっしゃいませ」
程よく通るバーテンの声が店内に響く。黒い服をまとい、銀の長髪を揺らした男が呉(ウー)の隣に座った。
「ワイン・コブラーを」
「かしこまりました」
低い声でオーダーを告げると、その男もタバコを取り出した。
ジジジ…
タバコの先が燃える音がすると、ふ~っと煙を吐き出す。しばらく二人は黙っていた。
「で。面白い話とはなんだ?」
銀の長髪の男、ジンが呉に声をかけた。
「ふふふ。あなたがすごく興味を持たれる話ですよ。あなたのお気に入り……《ラスティー》の事、ですからね」
《ラスティー》の名を聞いて、ジンの眉がピクッと動いた。
「その話の見返りはなんだ?」
「組織と取引を」
「まさかまた臓器か? そんなものに興味はない」
「いえ、あれは金になりますが手間がかかりすぎる。武器、もしくは戦闘機でしたら……。 確か東都水族館では1機、使い物にならなくなったでしょう? ゆくゆくはオドゥムとやり合うのでしたら、いかがです?」
ニヤリと笑う呉の顔を見て、ジンは心の中で舌打ちをする。
(フン。それでマウントを取ったつもりか?)
ジンの目がわずかに細められ、訝しげに呉を見る。だが呉は怯むこと無く、ジンから視線を反らさない。
「まあ良いだろう。取り引きするに値するほどの、面白い話…だったらな」
「もちろん期待は裏切りません。もっともラスティーは裏切り者、ですがね」
「なに?」
ジンは目を見開き、呉の顔を睨みつけた。
***
「ウォッカ! 車を出せ!!」
バーを出たジンは、すこぶる機嫌が悪かった。
「どうしたんすか、アニキ」
ウォッカはイライラしたジンに声を掛ける。この男は機嫌の良い時の方が少ない。いつもの事だと軽く考えていた。
「いいから…早く出せ……」
「わ、わかりやした…」
一際低く呟いた言葉にウォッカはゾクリと身を震わせる。
(今回はただ事じゃなさそうだ…)
いつも以上に負のオーラを纏うジンを、ウォッカはまともに見ることが出来なかった。
(ケンバリでラスティーが守っていたヤツらが《NOC》だっただと!?)
ポルシェ356Aに乗り込み、腕を組んだジンはギリリと奥歯を噛みしめる。
呉の話によれば、ケンバリ時代ラスティーは常にヤツら(NOC)と行動を共にしていたという。
特に中国警察のNOCだった《王宇辰(ワンユーチェン)》をかなり慕っていた。今となっては状況証拠しかないが、当時一緒にいた期間などを鑑みるに、ラスティーがどこかの警察組織に所属するNOCであることは間違いないという。
にわかには信じられなかった。
(共に行動していたと言っても、バディの組み合わせは上層部の指示だ。相手がNOCかどうかなんて知らなかった可能性も高い。
《疑わしきは罰する》と言いたいところだが、スキルの高いラスティーを葬るのは組織にとっても痛手……。もう少し泳がせて様子を見るか)
黙り込んでしまったウォッカを横目に、ジンは次の一手を考えていた。
***
安室が工藤邸を訪れた2日後———
ブーッブーッブーッ
りおのスマホがテーブルの上で震えている。画面には『K』の文字。りおはスマホを手に取った。
「もしもし?」
『……今、大丈夫か?』
電話の向こうの風見は、やや緊張しているようだった。
「はい。大丈夫です」
りおの返答に『ふう…』と風見の小さなため息がかすかに聞こえる。冴島も以前言っていたが、潜入捜査官に電話を掛けるのはかなり勇気がいるらしい。
『チェンシーが来日した。この後、沖矢さんと一緒に警視庁に来ることは出来るか?』
先ほどとは打って変わって風見の声は明るい。どうやら、その後ろにチェンシーがいるらしい。
『さくら~! 早く会いたいわ~。来なさいよ~』
特徴的なイントネーションの日本語でチェンシーが叫んでいた。
「ふふっ! 風見さん大変ですね……分かりました。すぐ向かいます」
『体調は大丈夫なのか? 無理しなくていいぞ』
チェンシーのテンションについていけてない風見が、心配そうに声をかけた。
「大丈夫ですよ。風見さん一人じゃチェンシーの相手は無理でしょう? 彼女すっごいテンション高いから」
『コイツ、いつもこんななのか?』
「ええ。それが彼女の通常運転ですよ。ほっとけば彼女のオンステージです」
マジか……と言ったまま目がテンになっているであろう上司の顔を想像し、りおはクスクス笑った。
「では、30分後に」
『あ、ああ。気を付けてな』
笑顔のまま、りおが風見との電話を切ると、すかさず昴が話しかけてきた。
「チェンシーが来日したのですね」
「ええ。これから会いに行きます」
「私もご一緒しても良いですか?」
「もちろん。っていうか風見さん、『沖矢さんと一緒に来い』って……」
(風見さん、昴さんを私の保護者か何かと思ってるのかな……)
一応、彼は日本警察の組織外(FBI)の人間なのだが——。セットで呼ばれることが通常化しているような気がして、りおはやや複雑な気持ちになる。
対して昴は笑顔だ。いまや昴とさくらの関係は公然と認められたも同然。離れている時間が少なくなることはありがたい。
二人は準備をして警視庁へと向かった。
***
「さくら~! 会いたかたよ~! げんき~だたか~?」
会議室のドアを開けると、チェンシーが日本語を話しながら抱きついてきた。
「あなたの日本語……いつ聞いても、うまくならないわね」
クスクスと笑いながら、さくらもチェンシーを抱きしめかえす。
「日本語~むつかしいね~。風見サンもさくらみたいに中国語しゃべれればいいのにさ~」
チェンシーの言葉を聞いて、さくらは思わず風見の方へ振り返る。さくらと目が合った風見は『そりゃ無理だ』と露骨に嫌な顔をした。
「そんなイヤな顔しないでヨ。イイ男、台無しになるね~」
チェンシーが冷やかすように、はやし立てる。
「余計なお世話だ‼」
フンッ! と顔を背けた風見を見て、さくらとチェンシーは声をあげて笑った。
マフィアの男、呉浩然(ウーハオラン)は、とあるバーで男を待っていた。
スーツの内ポケットからタバコを取り出す。
襟元を掴む左腕には派手なチェーンブレスレットがはめられ、ジャラリと音を立てた。
店のマッチを擦り、タバコに火をつけると軽く振って火を消し、灰皿に放り投げる。目の前でシェーカーを振るバーテンダーを、タバコを燻(くゆ)らせながらジッと見つめていた。
カラン…カラン…
やがて来客を知らせる鐘の音が聞こえた。
「いらっしゃいませ」
程よく通るバーテンの声が店内に響く。黒い服をまとい、銀の長髪を揺らした男が呉(ウー)の隣に座った。
「ワイン・コブラーを」
「かしこまりました」
低い声でオーダーを告げると、その男もタバコを取り出した。
ジジジ…
タバコの先が燃える音がすると、ふ~っと煙を吐き出す。しばらく二人は黙っていた。
「で。面白い話とはなんだ?」
銀の長髪の男、ジンが呉に声をかけた。
「ふふふ。あなたがすごく興味を持たれる話ですよ。あなたのお気に入り……《ラスティー》の事、ですからね」
《ラスティー》の名を聞いて、ジンの眉がピクッと動いた。
「その話の見返りはなんだ?」
「組織と取引を」
「まさかまた臓器か? そんなものに興味はない」
「いえ、あれは金になりますが手間がかかりすぎる。武器、もしくは戦闘機でしたら……。 確か東都水族館では1機、使い物にならなくなったでしょう? ゆくゆくはオドゥムとやり合うのでしたら、いかがです?」
ニヤリと笑う呉の顔を見て、ジンは心の中で舌打ちをする。
(フン。それでマウントを取ったつもりか?)
ジンの目がわずかに細められ、訝しげに呉を見る。だが呉は怯むこと無く、ジンから視線を反らさない。
「まあ良いだろう。取り引きするに値するほどの、面白い話…だったらな」
「もちろん期待は裏切りません。もっともラスティーは裏切り者、ですがね」
「なに?」
ジンは目を見開き、呉の顔を睨みつけた。
***
「ウォッカ! 車を出せ!!」
バーを出たジンは、すこぶる機嫌が悪かった。
「どうしたんすか、アニキ」
ウォッカはイライラしたジンに声を掛ける。この男は機嫌の良い時の方が少ない。いつもの事だと軽く考えていた。
「いいから…早く出せ……」
「わ、わかりやした…」
一際低く呟いた言葉にウォッカはゾクリと身を震わせる。
(今回はただ事じゃなさそうだ…)
いつも以上に負のオーラを纏うジンを、ウォッカはまともに見ることが出来なかった。
(ケンバリでラスティーが守っていたヤツらが《NOC》だっただと!?)
ポルシェ356Aに乗り込み、腕を組んだジンはギリリと奥歯を噛みしめる。
呉の話によれば、ケンバリ時代ラスティーは常にヤツら(NOC)と行動を共にしていたという。
特に中国警察のNOCだった《王宇辰(ワンユーチェン)》をかなり慕っていた。今となっては状況証拠しかないが、当時一緒にいた期間などを鑑みるに、ラスティーがどこかの警察組織に所属するNOCであることは間違いないという。
にわかには信じられなかった。
(共に行動していたと言っても、バディの組み合わせは上層部の指示だ。相手がNOCかどうかなんて知らなかった可能性も高い。
《疑わしきは罰する》と言いたいところだが、スキルの高いラスティーを葬るのは組織にとっても痛手……。もう少し泳がせて様子を見るか)
黙り込んでしまったウォッカを横目に、ジンは次の一手を考えていた。
***
安室が工藤邸を訪れた2日後———
ブーッブーッブーッ
りおのスマホがテーブルの上で震えている。画面には『K』の文字。りおはスマホを手に取った。
「もしもし?」
『……今、大丈夫か?』
電話の向こうの風見は、やや緊張しているようだった。
「はい。大丈夫です」
りおの返答に『ふう…』と風見の小さなため息がかすかに聞こえる。冴島も以前言っていたが、潜入捜査官に電話を掛けるのはかなり勇気がいるらしい。
『チェンシーが来日した。この後、沖矢さんと一緒に警視庁に来ることは出来るか?』
先ほどとは打って変わって風見の声は明るい。どうやら、その後ろにチェンシーがいるらしい。
『さくら~! 早く会いたいわ~。来なさいよ~』
特徴的なイントネーションの日本語でチェンシーが叫んでいた。
「ふふっ! 風見さん大変ですね……分かりました。すぐ向かいます」
『体調は大丈夫なのか? 無理しなくていいぞ』
チェンシーのテンションについていけてない風見が、心配そうに声をかけた。
「大丈夫ですよ。風見さん一人じゃチェンシーの相手は無理でしょう? 彼女すっごいテンション高いから」
『コイツ、いつもこんななのか?』
「ええ。それが彼女の通常運転ですよ。ほっとけば彼女のオンステージです」
マジか……と言ったまま目がテンになっているであろう上司の顔を想像し、りおはクスクス笑った。
「では、30分後に」
『あ、ああ。気を付けてな』
笑顔のまま、りおが風見との電話を切ると、すかさず昴が話しかけてきた。
「チェンシーが来日したのですね」
「ええ。これから会いに行きます」
「私もご一緒しても良いですか?」
「もちろん。っていうか風見さん、『沖矢さんと一緒に来い』って……」
(風見さん、昴さんを私の保護者か何かと思ってるのかな……)
一応、彼は日本警察の組織外(FBI)の人間なのだが——。セットで呼ばれることが通常化しているような気がして、りおはやや複雑な気持ちになる。
対して昴は笑顔だ。いまや昴とさくらの関係は公然と認められたも同然。離れている時間が少なくなることはありがたい。
二人は準備をして警視庁へと向かった。
***
「さくら~! 会いたかたよ~! げんき~だたか~?」
会議室のドアを開けると、チェンシーが日本語を話しながら抱きついてきた。
「あなたの日本語……いつ聞いても、うまくならないわね」
クスクスと笑いながら、さくらもチェンシーを抱きしめかえす。
「日本語~むつかしいね~。風見サンもさくらみたいに中国語しゃべれればいいのにさ~」
チェンシーの言葉を聞いて、さくらは思わず風見の方へ振り返る。さくらと目が合った風見は『そりゃ無理だ』と露骨に嫌な顔をした。
「そんなイヤな顔しないでヨ。イイ男、台無しになるね~」
チェンシーが冷やかすように、はやし立てる。
「余計なお世話だ‼」
フンッ! と顔を背けた風見を見て、さくらとチェンシーは声をあげて笑った。