第6章 ~遠い日の約束~
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キャンティが高速道路を爆走している、ちょうどその頃———
ブーッブーッブーッ
りおのスマホが着信を知らせた。
「!?」
発信者の名を見てりおは目を見開く。すぐにスマホを手に取ると画面をタップした。
「喂 ?(もしもし?)」
『久しぶりね! さくら。元気?』
「チェンシー‼」
以前、中国に出掛けていた〈 藤枝〉に組織から暗殺命令が出された際、彼の安全確保を頼んだ中国警察の協力者、チェンシーからの電話だった。
《第2章オドゥム編より 》
『藤枝を牢屋にぶち込んだ時以来ね!』
「相変わらずね、チェンシー。あの時は本当に助かったわ。でもまさか、彼を牢屋に押し込んでしまうとは思わなかったけれど……。
あれからどうなの? 変わりはない?」
『もちろんよ。私を誰だと思ってるの? 毎日バリバリ仕事をしているわ。
そういえばあの時の〈藤枝〉って男は、FBIに逮捕されたんですってね。日本警察はそれで良かったの?』
チェンシーはやや呆れたように訊ねた。
アメリカ国籍のエミリーの遺骨を《家族》の代理として引き取ったFBIと、藤枝は司法取引をした。
その為、彼は日本警察ではなくFBIによって逮捕されている。
藤枝は元々武器商人として国際手配をされていたので、特に問題は無い。
「罪を犯した者が逮捕されて、正当に裁かれ罪を償えれば、国は何処でも良いと私は思っているわ」
さくらは自身の見解をチェンシーに伝える。
『え~。自分が追い詰めた相手なら自分で逮捕したいと思うんじゃないの? 私だったら、FBIに文句の一つも言ってやるのに…』
「ふふふ。あなたらしいわね」
元気なチェンシーの声に少し安心する。お互い危険な仕事をする身だ。いつ何があってもおかしくはない。
こうやって軽口を叩き合えるのは、互いが無事な証拠。
何より嬉しい瞬間だ。
『ところで、さくら。近々日本に行くから。その時にお茶、しない?』
「!」
軽口の流れそのままにお茶の誘いを受けたが、チェンシーの声がやや緊張している。
それが何を意味しているのか、さくらは瞬時に悟った。
「もちろん良いわよ。今回はどんな《お土産》付きなのかしらね?」
含みを持たせ、悪戯っぽく言葉を返す。
『ふふふ。さくら、相変わらず察しが良いわね』
チェンシーは参ったとばかりに小さくため息をついた。
『たまには、あなたと楽しいティータイムを過ごしたいところだけど、残念ながら悪い知らせよ。
あなたが以前、公安にリークした中国マフィアの男、覚えてる?』
少し低い声になったチェンシーの言葉を聞き、さくらは臓器売買の現場で見た、中国マフィアの男の事を思い出した。
6月——
バーボンと初めて組んだ任務の数日後、警視庁公安部はある暴力団の一斉摘発を行った。
その暴力団は中国マフィアと手を組み、違法な臓器売買をしていたのだ。
完全に不意を突いての摘発だった為、暴力団側の幹部はほぼ逮捕されたのだが、マフィアの構成員で検挙されたのは雑魚ばかり。
肝心のこの男(マフィアの幹部)は一歩及ばず、中国へと逃げられてしまっていた。
『そのマフィアの幹部《呉浩然(ウーハオラン)》が、2か月ほど前から日本に再び潜伏しているわよ』
「何ですって!?」
衝撃的な事実に思わず大きな声が出た。本を読んでいた昴が驚いてこちらに視線を向ける。
『詳しいことは会った時に話すけど……。また何か良からぬことを企んでいるんでしょうね。
こちらでも、それに関係して今抱えている仕事があるから、すぐには行けないけど。日本に着いたらまた連絡する。それじゃあ』
ブツッ………ツー…ツー…ツー…
チェンシーからの通話が切れても、りおはしばらく動けなかった。
りおの様子を不審に思った昴が立ち上がる。
「どうしたのです? 大きな声を出していましたけど……。中国語で話していましたから、例の中国警察の方ですか?」
りおの肩に手を置くと、その肩が小刻みに震えている。
「ッ!? りお?」
「あ…す、昴さん……ご、ごめ…ん。チェンシー…から電話、が…」
アンバーの瞳は明らかに動揺していた。少し呼吸が速い。
「分かった。分かったから。慌てなくていい。落ち着いてから、話してくれれば良いから……」
昴はりおの背中をさすり、優しく声をかける。
「ふ――…ふ――…ふ——…」
りおは深呼吸を繰り返し、呼吸を整える。やがて大きく息を吐き出した。
ようやく落ち着いたところで、真っすぐ昴の顔を見上げた。
「ごめんね、昴さん。チェンシーからの電話がちょっとショッキングで……。でも、もう大丈夫」
そう言って一度言葉を区切ると、意を決したように話し出した。
「臓器売買の時にいた、中国マフィアの幹部の男が再び日本に潜入しているみたいなの」
「ッ!? サカモトビルで見つけた、名刺の男か?」
細めていた目が開き、昴の顔が険しくなる。
「ええ。一斉検挙の時に一足遅れで中国へ逃げられた。
その男《呉浩然(ウーハオラン)》が日本に来ている。おそらく、新たなマーケットを探しに来ているんだと思うわ。
詳細はチェンシーが来日した際に教えてくれるって」
中国マフィアの幹部が日本に来ている——
おそらく前回も、組織と取引のある暴力団をあえて選んで臓器売買の話を持ち込んだのだろう。
その目的は——いずれ組織と繋がるためだ。前回それは失敗に終わっている。
そうなると、次は組織へ直接接触してくる可能性も捨てきれない。
(安室君が言っていた厄介なヤツの再潜入…この事か!)
新たな火種が徐々に大きくなっていく気がして、昴は不安を拭いきれなかった。
ブーッブーッブーッ
りおのスマホが着信を知らせた。
「!?」
発信者の名を見てりおは目を見開く。すぐにスマホを手に取ると画面をタップした。
「
『久しぶりね! さくら。元気?』
「チェンシー‼」
以前、中国に出掛けていた〈 藤枝〉に組織から暗殺命令が出された際、彼の安全確保を頼んだ中国警察の協力者、チェンシーからの電話だった。
《第2章オドゥム編より 》
『藤枝を牢屋にぶち込んだ時以来ね!』
「相変わらずね、チェンシー。あの時は本当に助かったわ。でもまさか、彼を牢屋に押し込んでしまうとは思わなかったけれど……。
あれからどうなの? 変わりはない?」
『もちろんよ。私を誰だと思ってるの? 毎日バリバリ仕事をしているわ。
そういえばあの時の〈藤枝〉って男は、FBIに逮捕されたんですってね。日本警察はそれで良かったの?』
チェンシーはやや呆れたように訊ねた。
アメリカ国籍のエミリーの遺骨を《家族》の代理として引き取ったFBIと、藤枝は司法取引をした。
その為、彼は日本警察ではなくFBIによって逮捕されている。
藤枝は元々武器商人として国際手配をされていたので、特に問題は無い。
「罪を犯した者が逮捕されて、正当に裁かれ罪を償えれば、国は何処でも良いと私は思っているわ」
さくらは自身の見解をチェンシーに伝える。
『え~。自分が追い詰めた相手なら自分で逮捕したいと思うんじゃないの? 私だったら、FBIに文句の一つも言ってやるのに…』
「ふふふ。あなたらしいわね」
元気なチェンシーの声に少し安心する。お互い危険な仕事をする身だ。いつ何があってもおかしくはない。
こうやって軽口を叩き合えるのは、互いが無事な証拠。
何より嬉しい瞬間だ。
『ところで、さくら。近々日本に行くから。その時にお茶、しない?』
「!」
軽口の流れそのままにお茶の誘いを受けたが、チェンシーの声がやや緊張している。
それが何を意味しているのか、さくらは瞬時に悟った。
「もちろん良いわよ。今回はどんな《お土産》付きなのかしらね?」
含みを持たせ、悪戯っぽく言葉を返す。
『ふふふ。さくら、相変わらず察しが良いわね』
チェンシーは参ったとばかりに小さくため息をついた。
『たまには、あなたと楽しいティータイムを過ごしたいところだけど、残念ながら悪い知らせよ。
あなたが以前、公安にリークした中国マフィアの男、覚えてる?』
少し低い声になったチェンシーの言葉を聞き、さくらは臓器売買の現場で見た、中国マフィアの男の事を思い出した。
6月——
バーボンと初めて組んだ任務の数日後、警視庁公安部はある暴力団の一斉摘発を行った。
その暴力団は中国マフィアと手を組み、違法な臓器売買をしていたのだ。
完全に不意を突いての摘発だった為、暴力団側の幹部はほぼ逮捕されたのだが、マフィアの構成員で検挙されたのは雑魚ばかり。
肝心のこの男(マフィアの幹部)は一歩及ばず、中国へと逃げられてしまっていた。
『そのマフィアの幹部《呉浩然(ウーハオラン)》が、2か月ほど前から日本に再び潜伏しているわよ』
「何ですって!?」
衝撃的な事実に思わず大きな声が出た。本を読んでいた昴が驚いてこちらに視線を向ける。
『詳しいことは会った時に話すけど……。また何か良からぬことを企んでいるんでしょうね。
こちらでも、それに関係して今抱えている仕事があるから、すぐには行けないけど。日本に着いたらまた連絡する。それじゃあ』
ブツッ………ツー…ツー…ツー…
チェンシーからの通話が切れても、りおはしばらく動けなかった。
りおの様子を不審に思った昴が立ち上がる。
「どうしたのです? 大きな声を出していましたけど……。中国語で話していましたから、例の中国警察の方ですか?」
りおの肩に手を置くと、その肩が小刻みに震えている。
「ッ!? りお?」
「あ…す、昴さん……ご、ごめ…ん。チェンシー…から電話、が…」
アンバーの瞳は明らかに動揺していた。少し呼吸が速い。
「分かった。分かったから。慌てなくていい。落ち着いてから、話してくれれば良いから……」
昴はりおの背中をさすり、優しく声をかける。
「ふ――…ふ――…ふ——…」
りおは深呼吸を繰り返し、呼吸を整える。やがて大きく息を吐き出した。
ようやく落ち着いたところで、真っすぐ昴の顔を見上げた。
「ごめんね、昴さん。チェンシーからの電話がちょっとショッキングで……。でも、もう大丈夫」
そう言って一度言葉を区切ると、意を決したように話し出した。
「臓器売買の時にいた、中国マフィアの幹部の男が再び日本に潜入しているみたいなの」
「ッ!? サカモトビルで見つけた、名刺の男か?」
細めていた目が開き、昴の顔が険しくなる。
「ええ。一斉検挙の時に一足遅れで中国へ逃げられた。
その男《呉浩然(ウーハオラン)》が日本に来ている。おそらく、新たなマーケットを探しに来ているんだと思うわ。
詳細はチェンシーが来日した際に教えてくれるって」
中国マフィアの幹部が日本に来ている——
おそらく前回も、組織と取引のある暴力団をあえて選んで臓器売買の話を持ち込んだのだろう。
その目的は——いずれ組織と繋がるためだ。前回それは失敗に終わっている。
そうなると、次は組織へ直接接触してくる可能性も捨てきれない。
(安室君が言っていた厄介なヤツの再潜入…この事か!)
新たな火種が徐々に大きくなっていく気がして、昴は不安を拭いきれなかった。