第5.5章 ~危険なカクテル~
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カランコロ~ン
「いらっしゃいませ~」
「こんにちは~」
「あら! さくらさんに沖矢さん。いらっしゃい」
ポアロに着くと梓が笑顔で迎えてくれた。
「お二人ともいつもので良いかしら?」
「はい。お願いします」
カウンター席に二人は並んで座る。
「今日、梓さんに頂いたチケットで美術館に行ってきたんですよ」
さくらが梓に声をかけた。
「あら、どうだった? イケメンさんに会えた?」
梓は写真よりイケメンカメラマンの方が興味あるらしい。
「残念ながら会えませんでしたけど……写真とっても素晴らしかったですよ。ありがとうございました」
喜んでもらって良かった~、と梓が微笑む。
「何しろ、その前島さん本人がお店に来た時に、チケット置いて行ってくれたんだから」
「え? そうだったんですか?」
初めて聞く話だったので、さくらは驚いた声を上げた。
「安室さんが淹れたコーヒーをずいぶん気に入ってくれてね。写真展のペアチケットを彼に渡したんだけど……あいにく探偵の仕事が入ったらしくて。
『梓さん行きますか?』って言われたんだけど、そんな相手もいないから……。そしたら『じゃあさくらさん達に渡してください』って言われてね」
「なるほど。そんな経緯で私たちにチャンスが回ってきたわけですね」
昴は梓の話を聞いて納得していた。おかげで良い経験が出来ましたと、梓に礼を言った。
程なくしてコーヒーの良い香りが店中に広がる。お昼の混雑もひと段落したのか、店内には数えるほどしかお客が居ない。
「安室さんがお休みの日は結構こんな感じなのよ」
コーヒーとカフェオレを持って、梓が奥から出てくると、二人の前に飲み物を置いた。
「さすが! ポアロの看板店員ね」
さくらはフフッと笑みをこぼした。安室目当ての客は多い。ポアロの売り上げの良し悪しは安室の出勤で左右すると言っても過言ではないだろう。もちろん、梓目当ての客も多いので、安室が居なくてもマイナスになるわけでは無いが。
「ところで…デートはどうでした?」
梓がニヤニヤしながら訊ねた。
「風景が得意って言うだけあって、すごく良かったですよ。目で見た通りの美しさが、そのまま切り取られていて……」
先ほどの感動を思い出したのか、さくらは嬉々として語っている。
その様子をニコニコしながら昴は見ていた。
「ねえ、沖矢さんって、本当にさくらさんより年下なの?」
二人の様子を見ていた梓が突然訊ねた。
「えっ? どうしてそう思うんですか?」
「どうしてって……。さくらさんを見ている沖矢さんから『大人の余裕』みたいなのが出ているから……。とても年下には見えないわ」
昴をマジマジと見ながら梓は答える。
「年齢が上がれば、年の差なんてさほど分かりませんよ。まあ私が《大人》な訳ではなく、さくらが実年齢より《幼い》のかもしれませんけどね」
昴は手にコーヒーカップを持ったまま、静かに自身の見解を話す。
「えッ!? ねえ、なんかサラッとひどいこと言ってるよね?」
「そうですか? 私は事実を言ったまでですが」
「ぷッ。くくく…あははは」
二人のやり取りを聞いて梓は吹き出した。
「あ、梓さん! 笑い事じゃないですよ。口では絶対に昴さんに敵わないの! ホント毎回悔しい思いをしてるんだから!」
「おや、私だってあなたの頑固さには勝てませんよ。言い出したら聞かないところなんか、かなり手を焼いているんですけどね」
ああ言えばこう言いの攻防を繰り広げる二人に、梓はおかしくて仕方がない。
「ふふふっ。まあまあ、二人とも。それくらいにしておいて。それだけ仲良しって事で良いじゃない。うらやましいわ」
見せつけられちゃったわね~と言いながら、梓はカウンターに頬杖をついた。
どちらも幸せそうな顔をしちゃって…、と梓は交互に二人の顔を見る。
(私も早く彼氏作ろうかな…)
仲睦まじい二人を見て梓はため息をついた。
その後しばらく三人で談笑し、昴とさくらはポアロを出た。
「は~ぁ。楽しかったね」
「ええ。コーヒーも美味しかったですね」
さて帰ろうか、とさくらが工藤邸へと足を向けた時、昴が何かを思い出したように「あ」と声を上げた。
「どうしたの?」
「さくら、ちょっと寄り道しませんか?」
「寄り道? 良いけど……どこへ行くんですか?」
「内緒です」
「?」
昴はいたずらっ子のような笑みを浮かべ、工藤邸とは反対の方向へと歩き出した。
通りに出て昴はタクシーを拾うと、歓楽街方面へ行くよう指示を出す。
どこへ行こうとしているのか、さくらには皆目見当もつかなかった。
歓楽街の入り口辺りでタクシーを降りると、どうやら明確な目的地があるらしく、昴はスタスタと歩き出す。
(どこ行く気なんだろう?)
さくらは小首を傾げつつ、昴の後をついていく。やがてとあるビルの前で昴は立ち止まった。
「このビル……」
そこはさくらも一度だけ訪れたことがあるビルだった。
「屋上までいきますよ」
昴はニッコリと微笑んだ。
ガチャ
扉を開けると、二人はコンクリート打ちっぱなしの屋上に出た。足元にはいくつかの配管と、空調の室外機が並んでいる。
なんてことは無い、どこにでもあるような殺風景な屋上だ。
手すりのところまで近づき、景色を眺めた。
手前には雑居ビルが立ち並ぶものの、少し離れた所に高層ビル群と霞んだ街並み。整然と並ぶその光景は美しい。
太陽の光を受け、ビルの窓がキラキラと光っていた。
日が傾き、柔らかくなった太陽の光が筋状の雲を照らす。
東の空はグレーがかった初冬の青空。遥か遠くには薄っすらと富士山らしき山も見えた。
秋から冬へ——。
季節の移り変わりを感じる、美しい風景が広がっていた。
「ベルモット、ライ、ラスティーの3人で組んだ任務。お前がコードネームを付けられて、最初の仕事だったな」
「ええ」
『ラスティー』としての初任務。警察に目を付けられた武器商人を消す任務だった。
《短編『カフェオレ(回想)』》
「ラスティーがターゲットと接触するのを待つ間、俺はここでライフルを準備していた。その時、この景色を見ていたんだ」
昴は手すりの上で腕を組み、遠くを見つめる。冷たい風が昴の明るい髪を揺らした。
「その時は何も感じなかった。キレイだとも何とも。ただ目の前に景色があるだけだった。
でも今、お前と二人でこの景色を見ると『キレイだ』って思える」
昴は遠くを見つめるさくらの横顔を見た。
「今日の写真展でも同じことを感じたんだ。今までたくさんの景色を見てきたはずなのに、どれも『キレイだ』と感じた記憶が無い。
キレイだったと思い出す景色には必ず、お前がいた」
昴の言葉にさくらが振り向く。二人の目が合った。
「確かめたくて……ここへ来たんだ。どうやら俺の思い違いではなさそうだ」
さくらの顔を見て昴は微笑む。
さくらは昴の腕に自分の腕を絡めると、そっと頬を寄せた。その顔は少し赤い。
「私はあなたの『特別』なんだって、自惚れて良い?」
「ああ。しっかり自覚してくれ」
体を寄せ合うふたりは、そのまましばらく都会の景色を眺めていた。
「いらっしゃいませ~」
「こんにちは~」
「あら! さくらさんに沖矢さん。いらっしゃい」
ポアロに着くと梓が笑顔で迎えてくれた。
「お二人ともいつもので良いかしら?」
「はい。お願いします」
カウンター席に二人は並んで座る。
「今日、梓さんに頂いたチケットで美術館に行ってきたんですよ」
さくらが梓に声をかけた。
「あら、どうだった? イケメンさんに会えた?」
梓は写真よりイケメンカメラマンの方が興味あるらしい。
「残念ながら会えませんでしたけど……写真とっても素晴らしかったですよ。ありがとうございました」
喜んでもらって良かった~、と梓が微笑む。
「何しろ、その前島さん本人がお店に来た時に、チケット置いて行ってくれたんだから」
「え? そうだったんですか?」
初めて聞く話だったので、さくらは驚いた声を上げた。
「安室さんが淹れたコーヒーをずいぶん気に入ってくれてね。写真展のペアチケットを彼に渡したんだけど……あいにく探偵の仕事が入ったらしくて。
『梓さん行きますか?』って言われたんだけど、そんな相手もいないから……。そしたら『じゃあさくらさん達に渡してください』って言われてね」
「なるほど。そんな経緯で私たちにチャンスが回ってきたわけですね」
昴は梓の話を聞いて納得していた。おかげで良い経験が出来ましたと、梓に礼を言った。
程なくしてコーヒーの良い香りが店中に広がる。お昼の混雑もひと段落したのか、店内には数えるほどしかお客が居ない。
「安室さんがお休みの日は結構こんな感じなのよ」
コーヒーとカフェオレを持って、梓が奥から出てくると、二人の前に飲み物を置いた。
「さすが! ポアロの看板店員ね」
さくらはフフッと笑みをこぼした。安室目当ての客は多い。ポアロの売り上げの良し悪しは安室の出勤で左右すると言っても過言ではないだろう。もちろん、梓目当ての客も多いので、安室が居なくてもマイナスになるわけでは無いが。
「ところで…デートはどうでした?」
梓がニヤニヤしながら訊ねた。
「風景が得意って言うだけあって、すごく良かったですよ。目で見た通りの美しさが、そのまま切り取られていて……」
先ほどの感動を思い出したのか、さくらは嬉々として語っている。
その様子をニコニコしながら昴は見ていた。
「ねえ、沖矢さんって、本当にさくらさんより年下なの?」
二人の様子を見ていた梓が突然訊ねた。
「えっ? どうしてそう思うんですか?」
「どうしてって……。さくらさんを見ている沖矢さんから『大人の余裕』みたいなのが出ているから……。とても年下には見えないわ」
昴をマジマジと見ながら梓は答える。
「年齢が上がれば、年の差なんてさほど分かりませんよ。まあ私が《大人》な訳ではなく、さくらが実年齢より《幼い》のかもしれませんけどね」
昴は手にコーヒーカップを持ったまま、静かに自身の見解を話す。
「えッ!? ねえ、なんかサラッとひどいこと言ってるよね?」
「そうですか? 私は事実を言ったまでですが」
「ぷッ。くくく…あははは」
二人のやり取りを聞いて梓は吹き出した。
「あ、梓さん! 笑い事じゃないですよ。口では絶対に昴さんに敵わないの! ホント毎回悔しい思いをしてるんだから!」
「おや、私だってあなたの頑固さには勝てませんよ。言い出したら聞かないところなんか、かなり手を焼いているんですけどね」
ああ言えばこう言いの攻防を繰り広げる二人に、梓はおかしくて仕方がない。
「ふふふっ。まあまあ、二人とも。それくらいにしておいて。それだけ仲良しって事で良いじゃない。うらやましいわ」
見せつけられちゃったわね~と言いながら、梓はカウンターに頬杖をついた。
どちらも幸せそうな顔をしちゃって…、と梓は交互に二人の顔を見る。
(私も早く彼氏作ろうかな…)
仲睦まじい二人を見て梓はため息をついた。
その後しばらく三人で談笑し、昴とさくらはポアロを出た。
「は~ぁ。楽しかったね」
「ええ。コーヒーも美味しかったですね」
さて帰ろうか、とさくらが工藤邸へと足を向けた時、昴が何かを思い出したように「あ」と声を上げた。
「どうしたの?」
「さくら、ちょっと寄り道しませんか?」
「寄り道? 良いけど……どこへ行くんですか?」
「内緒です」
「?」
昴はいたずらっ子のような笑みを浮かべ、工藤邸とは反対の方向へと歩き出した。
通りに出て昴はタクシーを拾うと、歓楽街方面へ行くよう指示を出す。
どこへ行こうとしているのか、さくらには皆目見当もつかなかった。
歓楽街の入り口辺りでタクシーを降りると、どうやら明確な目的地があるらしく、昴はスタスタと歩き出す。
(どこ行く気なんだろう?)
さくらは小首を傾げつつ、昴の後をついていく。やがてとあるビルの前で昴は立ち止まった。
「このビル……」
そこはさくらも一度だけ訪れたことがあるビルだった。
「屋上までいきますよ」
昴はニッコリと微笑んだ。
ガチャ
扉を開けると、二人はコンクリート打ちっぱなしの屋上に出た。足元にはいくつかの配管と、空調の室外機が並んでいる。
なんてことは無い、どこにでもあるような殺風景な屋上だ。
手すりのところまで近づき、景色を眺めた。
手前には雑居ビルが立ち並ぶものの、少し離れた所に高層ビル群と霞んだ街並み。整然と並ぶその光景は美しい。
太陽の光を受け、ビルの窓がキラキラと光っていた。
日が傾き、柔らかくなった太陽の光が筋状の雲を照らす。
東の空はグレーがかった初冬の青空。遥か遠くには薄っすらと富士山らしき山も見えた。
秋から冬へ——。
季節の移り変わりを感じる、美しい風景が広がっていた。
「ベルモット、ライ、ラスティーの3人で組んだ任務。お前がコードネームを付けられて、最初の仕事だったな」
「ええ」
『ラスティー』としての初任務。警察に目を付けられた武器商人を消す任務だった。
《短編『カフェオレ(回想)』》
「ラスティーがターゲットと接触するのを待つ間、俺はここでライフルを準備していた。その時、この景色を見ていたんだ」
昴は手すりの上で腕を組み、遠くを見つめる。冷たい風が昴の明るい髪を揺らした。
「その時は何も感じなかった。キレイだとも何とも。ただ目の前に景色があるだけだった。
でも今、お前と二人でこの景色を見ると『キレイだ』って思える」
昴は遠くを見つめるさくらの横顔を見た。
「今日の写真展でも同じことを感じたんだ。今までたくさんの景色を見てきたはずなのに、どれも『キレイだ』と感じた記憶が無い。
キレイだったと思い出す景色には必ず、お前がいた」
昴の言葉にさくらが振り向く。二人の目が合った。
「確かめたくて……ここへ来たんだ。どうやら俺の思い違いではなさそうだ」
さくらの顔を見て昴は微笑む。
さくらは昴の腕に自分の腕を絡めると、そっと頬を寄せた。その顔は少し赤い。
「私はあなたの『特別』なんだって、自惚れて良い?」
「ああ。しっかり自覚してくれ」
体を寄せ合うふたりは、そのまましばらく都会の景色を眺めていた。