第5.5章 ~危険なカクテル~
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ネオン街の細い路地に出た昴とさくらはマスターに案内され、カジノから程近い小さなバーへと向かう。
隠れ家のような店に入ると、「まあ座って」とマスターは二人に声をかけ、自身はカウンターの中へと身を滑り込ませた。
二人がカウンター席に座ると、目の前に居たマスターがズルリとウィッグを外した。
ついでのように、薄く色の入ったメガネと口元の髭もビリッと音を立ててはがす。
黒髪に口髭をたくわえたマスターが、あっという間に金髪に青い目のイケメンに変わった。
その顔を見て昴が驚く。
「お、お前……ッ! エヴァン‼」
かつてFBI捜査官として共に戦った男。
そして過去に起こった大きな暴動で、本来守るべき者を守れなかったことに絶望した。
そして——一度は自ら大天使を名乗って悪を裁こうとした。
りおと赤井と出会ってその過ちに気付き、公安とFBIの画策によって世間的には死亡したとされている。
その後はアメリカに帰国し、教会でボランティア活動をしながら、かつての夢を追っているはず…——
そのエヴァンが目の前で笑っている。昴(赤井)の驚きは計り知れない。
「なんで…お前が……」
「フフフ。シュウが驚くのも無理ないな。今回は仕事で来たんだよ。俺は今、教会で働きながら裏では情報屋をやってるんだ。日本の公安とFBIの……」
ニカッと笑う顔は昔も今も変わらない…屈託のない優しい笑顔だった。
昴の隣では、さくらがクスクスと笑ってその様子を見ていた。
「違法カジノのオーナーがアメリカの実業家なのでは? って疑惑が上がってね。テロ組織と繋がっているってウワサもあったから……。
アメリカに居るノエル……あ、今は《ルーク》と連絡を取り合っていたのよ」
「俺の知らないところでそんなことを……!」
昴は心底驚いた顔をした。毎日顔を合わせていたというのに、自分にも関わりがある男とコッソリ連絡を取っていたなんて!
「しょうがないでしょ。公安の機密情報だったんだから」とさくらは頬を膨らませている。
二人のやり取りを見てルークが笑い出した。
「ふっ…くっくっく…。シュウ、お前でもそんな顔するんだな」
今度はシュウの顔で見せてくれよ、とからかう。昴はバツが悪そうな顔をして黙り込んだ。
「フフッ、まあいいや。そういえば、お前達さっきのカジノで飲みっぱぐれただろ? 俺のおごりでどうだ?」
ルークは笑顔のまま、カチャカチャとカクテルを作る準備を始めた。
「シュウ、お前にはこれだな」
そう言って出されたカクテルは《ラスティ・ネイル》
「お前の愛しい《ラスティー》だ。カクテル言葉を知っているか?」
ニヤリと意地悪な笑みを浮かべてルークが問いかける。
「まったく…お前一言多いぞ…。カクテル言葉? …『いつでも親友でいよう』だろ?」
「その通り。よろしく頼むよ」
さすが! 好きなものは良く知ってるな、とトドメのツッコミを入れながら、ルークはにっこりとほほ笑んだ。
「さくらにはこれ」
目の前のコースターに置かれたカクテルは《クォーターデック》
「カクテル言葉は『いつも真っすぐなあなた』ね?」
二人のやり取りを笑いながら聞いていたさくらが、ルークに問われる前に答えた。
「ご名答。さくらにぴったりだろ?」
昴の顔をチラリと見て、ルークは悪戯っぽく笑った。
「で、俺はこれ」
そう言って目の前で作られるカクテルは《オリンピック》
「カクテル言葉は『待ち焦がれた再会』だ。お前たちにまた会えて嬉しいよ」
先ほどの悪ふざけの時とは違う、ちょっと神妙な顔をしたルークが、優しい笑顔を二人に向ける。それにつられる様に二人の顔も綻んだ。
「「「再会に乾杯」」」
三人はグラスを傾けた。
「で?」
それぞれが一口ずつカクテルを口にしたタイミングで、ルークが小首を傾げる。
「さっき言ってた『イケナイ遊び』ってなんだ?」
「ブッ‼」
思わず昴が噴き出す。
「わぁッ! お前何やってるんだよ」
「昴さん、大丈夫?」
ゴホゴホとむせる昴に、さくらがハンカチを差し出した。
「と、突然ヘンな事訊くなよ…」
受け取ったハンカチで口元を拭うと、わずかに顔を赤くした昴がルークを睨んだ。
「何がヘンなんだ? 元々お前たちが話してたんだろ? 『イケナイ遊びは後でのお楽しみ』って」
「あ~~……言ってたわね……」
さくらは恥ずかしそうに目を泳がせた。確かにルークの言う通り。場内の注意を引くために男の元へと行く直前、そんな話をしていた。
「お前……まさか、さくらにヘンなプレイを……」
ルークの目が訝しげに細められた。それに反論するように、昴がドンと、テーブルを叩く。
「ば、バカ言うな! そんな真似するわけがないだろう。
俺がさくらを抱くときはこう…手順を踏んでだな…お互いが盛り上がってから……」
「す、スト————ップ!!!」
どさくさ紛れに何を力説しちゃっているの、とさくらが真っ赤になって止めた。それでも尚「こういうことはハッキリしておかないと」と話を続けようとする昴に、さくらは「ホントやめて……」と懇願する。
そんな二人を、ルークはニヤニヤしながら見ていた。
「ふふっ。コイツ根はマジメだから、こういう話もすぐマジメに答えるんだよ」
面白いだろとルークは笑う。
「マジメ過ぎるのも考えものね!」
さくらは真っ赤になってそっぽを向いた。
「誰がマジメだって? 俺は変な誤解をされないように、エヴァンにきちんと説明を……」
「はいはい。昴さん、ちょっと落ち着こうか。もうその話は終わりにしましょ。はい、お酒。もう少し飲んだ方が良いんじゃないかしら」
「くっくっくっ。お前達…面白いな…」
二人のやり取りを聞いて、ルークは楽しそうに笑う。彼のペースに乗せられると、さすがの昴(赤井)も調子が狂うばかりだ。
まったく厄介なヤツと再会したものだ、と昴は酒に口をつけつつ、ため息をついた。
「で、お前はいつまでこっち(日本)に居るんだよ。今回のガサ入れで仕事は片付いたんだろ?」
話も一段落して、昴はルークに問いかけた。
「あ、ああ」
「?」
一瞬だけルークが真顔になったことを、昴は見逃さなかった。
「今……実は日本で情報網作りをしていてね。さすがに死んだはずの《ノエル》の情報網をそのまま使うわけにはいかないからな」
ルークはグイッとカクテルを煽ると「ふ~」と息を吐いた。
「バーのマスターとして、もうしばらくここで潜伏するんだ。だから、時間があるようなら時々飲みに来てくれよ」
「……危険な仕事、なのか?」
何かを察し、昴は厳しい顔で問いかける。
「いや、前に比べりゃたいしたことでは無い。ただ情報網を一から作り直さなければならなくてね。それが厄介なだけさ。
でもまあ、俺には夢があるんだ。でっかい夢が」
「夢?」
さくらが問いかける。
「学校を……アメリカ中に作るんだ。貧しい地域に。黒人とか白人とか、金持ちか貧乏かも関係ない。もちろん国籍も性別も。
学びたい奴が学べる場。そいつを作るのが俺の夢だ」
「フッ。本当に大きく出たな」
ルークの夢を聞いて昴が微笑む。
「ああ。夢は大きいほど良いんだよ。叶え甲斐があるってもんだろう?」
ルークはニカッと歯を見せて笑った。
「ところでさくら、お前の夢は何だ?」
「私の夢?」
突然ルークに問われて、さくらは驚いた声を上げる。
「夢、か……。考えた事、無かったな……」
そうつぶやいてハッとした。
昔、同じような会話をしたような気がする。
『広瀬はどんな警察官になりたいんだ?』
『さあ…考えた事なかったな…』
警察学校で景光と交わした言葉。
(あの時と…一緒…だ)
夢を語る、キラキラした諸伏の笑顔を思い出す。
あの頃は何もかも必死だったけど、心は一番穏やかだったかもしれない。
肉親と呼べる人は誰もいなくなって寂しかったけれど、心がバラバラになってしまうような悲しみも苦しみも知らなかった。ただ、両親のことが知りたくて、警察官になることだけを考えていた。
「ッ…!」
そしてもう一つ。
遠い昔……———
繰り返し掛けられた言葉が脳裏に蘇った。
『……いつか3人で…一緒に暮らそう…』
『それが…パパとママの夢なんだ…』
『それまで…ごめんね、りお…』
『…』
「さくら?」
動きを止めたさくらを、二人は不思議そうに見つめた。
甦る遠い日の記憶——
父に
母に
会うたびに問いかけていた。
『どうして一緒に居てくれないの?』
その問いかけにはいつも、一瞬の沈黙があった。
そして『いつか必ず一緒に暮らそう』と言って抱きしめてくれた。
両親の夢は私の夢———
そう思いながら過ごす日々。
その『いつか』が早く来ないかと、ずっと待っていた——。
(…いつから…夢を持たなくなったんだろう。両親が死んでから? あの頃の記憶は断片的で…よく覚えてない……事故の時…私は…?)
見えそうで見えない過去の自分。過去の思い出。それを必死にたどるうち、酷いめまいに襲われた。
車に乗って右へ左へと振られるような——
そして強烈な刺激臭。それは紛れもなくガソリンの匂い———
「ッ!」
ドクリと心臓が跳ね、さくらは胸を押さえた。
隠れ家のような店に入ると、「まあ座って」とマスターは二人に声をかけ、自身はカウンターの中へと身を滑り込ませた。
二人がカウンター席に座ると、目の前に居たマスターがズルリとウィッグを外した。
ついでのように、薄く色の入ったメガネと口元の髭もビリッと音を立ててはがす。
黒髪に口髭をたくわえたマスターが、あっという間に金髪に青い目のイケメンに変わった。
その顔を見て昴が驚く。
「お、お前……ッ! エヴァン‼」
かつてFBI捜査官として共に戦った男。
そして過去に起こった大きな暴動で、本来守るべき者を守れなかったことに絶望した。
そして——一度は自ら大天使を名乗って悪を裁こうとした。
りおと赤井と出会ってその過ちに気付き、公安とFBIの画策によって世間的には死亡したとされている。
その後はアメリカに帰国し、教会でボランティア活動をしながら、かつての夢を追っているはず…——
そのエヴァンが目の前で笑っている。昴(赤井)の驚きは計り知れない。
「なんで…お前が……」
「フフフ。シュウが驚くのも無理ないな。今回は仕事で来たんだよ。俺は今、教会で働きながら裏では情報屋をやってるんだ。日本の公安とFBIの……」
ニカッと笑う顔は昔も今も変わらない…屈託のない優しい笑顔だった。
昴の隣では、さくらがクスクスと笑ってその様子を見ていた。
「違法カジノのオーナーがアメリカの実業家なのでは? って疑惑が上がってね。テロ組織と繋がっているってウワサもあったから……。
アメリカに居るノエル……あ、今は《ルーク》と連絡を取り合っていたのよ」
「俺の知らないところでそんなことを……!」
昴は心底驚いた顔をした。毎日顔を合わせていたというのに、自分にも関わりがある男とコッソリ連絡を取っていたなんて!
「しょうがないでしょ。公安の機密情報だったんだから」とさくらは頬を膨らませている。
二人のやり取りを見てルークが笑い出した。
「ふっ…くっくっく…。シュウ、お前でもそんな顔するんだな」
今度はシュウの顔で見せてくれよ、とからかう。昴はバツが悪そうな顔をして黙り込んだ。
「フフッ、まあいいや。そういえば、お前達さっきのカジノで飲みっぱぐれただろ? 俺のおごりでどうだ?」
ルークは笑顔のまま、カチャカチャとカクテルを作る準備を始めた。
「シュウ、お前にはこれだな」
そう言って出されたカクテルは《ラスティ・ネイル》
「お前の愛しい《ラスティー》だ。カクテル言葉を知っているか?」
ニヤリと意地悪な笑みを浮かべてルークが問いかける。
「まったく…お前一言多いぞ…。カクテル言葉? …『いつでも親友でいよう』だろ?」
「その通り。よろしく頼むよ」
さすが! 好きなものは良く知ってるな、とトドメのツッコミを入れながら、ルークはにっこりとほほ笑んだ。
「さくらにはこれ」
目の前のコースターに置かれたカクテルは《クォーターデック》
「カクテル言葉は『いつも真っすぐなあなた』ね?」
二人のやり取りを笑いながら聞いていたさくらが、ルークに問われる前に答えた。
「ご名答。さくらにぴったりだろ?」
昴の顔をチラリと見て、ルークは悪戯っぽく笑った。
「で、俺はこれ」
そう言って目の前で作られるカクテルは《オリンピック》
「カクテル言葉は『待ち焦がれた再会』だ。お前たちにまた会えて嬉しいよ」
先ほどの悪ふざけの時とは違う、ちょっと神妙な顔をしたルークが、優しい笑顔を二人に向ける。それにつられる様に二人の顔も綻んだ。
「「「再会に乾杯」」」
三人はグラスを傾けた。
「で?」
それぞれが一口ずつカクテルを口にしたタイミングで、ルークが小首を傾げる。
「さっき言ってた『イケナイ遊び』ってなんだ?」
「ブッ‼」
思わず昴が噴き出す。
「わぁッ! お前何やってるんだよ」
「昴さん、大丈夫?」
ゴホゴホとむせる昴に、さくらがハンカチを差し出した。
「と、突然ヘンな事訊くなよ…」
受け取ったハンカチで口元を拭うと、わずかに顔を赤くした昴がルークを睨んだ。
「何がヘンなんだ? 元々お前たちが話してたんだろ? 『イケナイ遊びは後でのお楽しみ』って」
「あ~~……言ってたわね……」
さくらは恥ずかしそうに目を泳がせた。確かにルークの言う通り。場内の注意を引くために男の元へと行く直前、そんな話をしていた。
「お前……まさか、さくらにヘンなプレイを……」
ルークの目が訝しげに細められた。それに反論するように、昴がドンと、テーブルを叩く。
「ば、バカ言うな! そんな真似するわけがないだろう。
俺がさくらを抱くときはこう…手順を踏んでだな…お互いが盛り上がってから……」
「す、スト————ップ!!!」
どさくさ紛れに何を力説しちゃっているの、とさくらが真っ赤になって止めた。それでも尚「こういうことはハッキリしておかないと」と話を続けようとする昴に、さくらは「ホントやめて……」と懇願する。
そんな二人を、ルークはニヤニヤしながら見ていた。
「ふふっ。コイツ根はマジメだから、こういう話もすぐマジメに答えるんだよ」
面白いだろとルークは笑う。
「マジメ過ぎるのも考えものね!」
さくらは真っ赤になってそっぽを向いた。
「誰がマジメだって? 俺は変な誤解をされないように、エヴァンにきちんと説明を……」
「はいはい。昴さん、ちょっと落ち着こうか。もうその話は終わりにしましょ。はい、お酒。もう少し飲んだ方が良いんじゃないかしら」
「くっくっくっ。お前達…面白いな…」
二人のやり取りを聞いて、ルークは楽しそうに笑う。彼のペースに乗せられると、さすがの昴(赤井)も調子が狂うばかりだ。
まったく厄介なヤツと再会したものだ、と昴は酒に口をつけつつ、ため息をついた。
「で、お前はいつまでこっち(日本)に居るんだよ。今回のガサ入れで仕事は片付いたんだろ?」
話も一段落して、昴はルークに問いかけた。
「あ、ああ」
「?」
一瞬だけルークが真顔になったことを、昴は見逃さなかった。
「今……実は日本で情報網作りをしていてね。さすがに死んだはずの《ノエル》の情報網をそのまま使うわけにはいかないからな」
ルークはグイッとカクテルを煽ると「ふ~」と息を吐いた。
「バーのマスターとして、もうしばらくここで潜伏するんだ。だから、時間があるようなら時々飲みに来てくれよ」
「……危険な仕事、なのか?」
何かを察し、昴は厳しい顔で問いかける。
「いや、前に比べりゃたいしたことでは無い。ただ情報網を一から作り直さなければならなくてね。それが厄介なだけさ。
でもまあ、俺には夢があるんだ。でっかい夢が」
「夢?」
さくらが問いかける。
「学校を……アメリカ中に作るんだ。貧しい地域に。黒人とか白人とか、金持ちか貧乏かも関係ない。もちろん国籍も性別も。
学びたい奴が学べる場。そいつを作るのが俺の夢だ」
「フッ。本当に大きく出たな」
ルークの夢を聞いて昴が微笑む。
「ああ。夢は大きいほど良いんだよ。叶え甲斐があるってもんだろう?」
ルークはニカッと歯を見せて笑った。
「ところでさくら、お前の夢は何だ?」
「私の夢?」
突然ルークに問われて、さくらは驚いた声を上げる。
「夢、か……。考えた事、無かったな……」
そうつぶやいてハッとした。
昔、同じような会話をしたような気がする。
『広瀬はどんな警察官になりたいんだ?』
『さあ…考えた事なかったな…』
警察学校で景光と交わした言葉。
(あの時と…一緒…だ)
夢を語る、キラキラした諸伏の笑顔を思い出す。
あの頃は何もかも必死だったけど、心は一番穏やかだったかもしれない。
肉親と呼べる人は誰もいなくなって寂しかったけれど、心がバラバラになってしまうような悲しみも苦しみも知らなかった。ただ、両親のことが知りたくて、警察官になることだけを考えていた。
「ッ…!」
そしてもう一つ。
遠い昔……———
繰り返し掛けられた言葉が脳裏に蘇った。
『……いつか3人で…一緒に暮らそう…』
『それが…パパとママの夢なんだ…』
『それまで…ごめんね、りお…』
『…』
「さくら?」
動きを止めたさくらを、二人は不思議そうに見つめた。
甦る遠い日の記憶——
父に
母に
会うたびに問いかけていた。
『どうして一緒に居てくれないの?』
その問いかけにはいつも、一瞬の沈黙があった。
そして『いつか必ず一緒に暮らそう』と言って抱きしめてくれた。
両親の夢は私の夢———
そう思いながら過ごす日々。
その『いつか』が早く来ないかと、ずっと待っていた——。
(…いつから…夢を持たなくなったんだろう。両親が死んでから? あの頃の記憶は断片的で…よく覚えてない……事故の時…私は…?)
見えそうで見えない過去の自分。過去の思い出。それを必死にたどるうち、酷いめまいに襲われた。
車に乗って右へ左へと振られるような——
そして強烈な刺激臭。それは紛れもなくガソリンの匂い———
「ッ!」
ドクリと心臓が跳ね、さくらは胸を押さえた。