第5.5章 ~危険なカクテル~
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「突然…スミマセンでした…」
昴に頭を下げ、ベルモットは踵を返すとそのまま足早に大学を出る。
あとはジンになんと報告して、彼(沖矢)を守るか——。
ベルモットの頭はその事でいっぱいだった。
昴は足早に駆けていく女子大生の後姿を見送る。メガネがキラリと光ると片方のペリドットの瞳がその姿を捉えた。
そのまま反対方向へと体の向きを変えると「フッ」と口角を上げ、その場を後にした。
昼過ぎ——
ガチャッ
工藤邸の玄関が開く音が聞こえ、りおは慌てて出迎えた。
「遅くなるってメールが来たけど、どこに行ってたの? お昼になっても帰ってこないから心配したわ」
昴が脱いだジャケットを受け取り、りおは安堵の表情を浮かべながら問いかけた。
「大学に行ってました。タバコを買いに出た時、ベルモットに尾行されたんですよ」
「え!?」
尾行されたと聞いて、りおは思わず手にしていたジャケットを落とす。
「工藤邸で同棲している、とまでは、まだ知られない方が良いだろうと思って、コンビニから以前あなたが使っていたアパートに行きました。カギを持っていたので助かりましたよ」
落ちたジャケットを拾いながら、ニッコリ微笑む昴とは対照的に、りおの顔は険しくなる。
「じゃ、じゃあベルモットがアパートに張り込む可能性が……」
「それは無いと思います」
「え…」
キッパリと断言する昴を見て、りおは不思議そうに小首をかしげた。
「おそらく大学にも来るだろうと思って、そのまま大学に向かい彼女を探しました。
女子大生に変装していたようですが、すぐに分かりましたよ。
私を普通の大学院生だと思っているらしく、色々揺さぶりをかけてきましたが……。良い彼氏を演じておきましたよ」
「ええ!? ベルモットと接触したの?」
驚くりおをよそに、昴は涼しい顔で答える。
「ええ。かなりの好印象を残したと思いますよ。満足した顔をしていましたから、アパートに張り付くことは無いでしょう」
それホントなの? とりおは頭を抱える。事後報告とはいえ心臓に悪い。
リビングに入ると、りおは脱力したようにソファーに座り込んだ。
「ベルモットさえ丸め込めば、彼女はジンに対して何かしらの予防線を張るでしょうから。しばらくは手出しをしてこないと思います」
ぐったりとするりおに、昴は笑顔を向ける。りおはチラリと視線を上げた。
「なら良いけど……。ジンは今、何か大きなビジネスを始めようとしている。ベルモットがそう言ってた」
「大きなビジネス?」
今度は昴の表情が険しくなる。
「ええ。降谷さんにも報告してある。一体何をする気なのか分からないけど……。
彼は今、ウォッカと日本を出ているの。どこへ行ったのか…誰も知らない…」
組織が何か大きなことを企んでいる。それを事前に察知するのが、降谷やりおたち《潜入捜査官》の務めだ。
「また…危険な事をしなければならない…と?」
昴は拳をグッと握りしめた。
「……ええ。ジンが帰ってくれば少しずつ探りを入れなければならないわ。大きなビジネス、というくらいだから、すぐに事が動くわけでは無いだろうけど……。
せめて何をしようとしているのか、早めに突き止めないと」
そう呟くりおの顔は暗い。組織が動くという事は、そこには必ず何かしらの犠牲が付きまとうことが多いからだ。
「だから、私たちに構っている暇はないとは思う。でも万が一って事もあるから……。昴さんも気を付けてね」
「分かりました。りお……あなたも無茶しないで下さいよ」
「うん。大丈夫。ベルモットも私に目を光らせてるから」
しばらくジンに近付かせてもらえないと思うわ、とりおは小さく笑う。
「遅くなっちゃったけど、お昼ご飯にしましょう」
ソファーから立ち上がったりおは昴に微笑むと、ダイニングへと足を向けた。
***
その日の夜——
ブーッ ブーッ ブーッ ブッ……
「Hi」
ベルモットが電話に出ると『俺だ』というジンの声が聞こえた。
「あら、ジン。久しぶりね。今どこに居るのかしら?」
湯上りだったベルモットはバスローブを羽織り、手にはワイングラスを持っている。
『フフ。ご機嫌だなベルモット。さてはラスティーの男でも探し当てたか?』
機嫌が良いのはジンも一緒のようで、心なしか彼の声が浮かれているようにも聞こえた。
そして、その後ろは——朝なのだろうか。賑やかな人々の雑踏と車の往来が聞こえる。
「ええ。とても誠実な、それでいてどこかミステリアスな雰囲気の良い青年だったわ。彼女の精神が安定しているのは彼のおかげね。
あなたもラスティーに《いい仕事》をして欲しいなら、無粋な真似はしない方が良いわ」
ベルモットはジンの神経を逆なでしないよう、細心の注意を払う。
今彼は新しいビジネスの事で頭がいっぱいのはずだ。
そのビジネスを成功に導くには、スキルの高いラスティーが安定している方が良いに決まっている。ベルモットはそこを突いた。
『フフフ。なかなか痛いところを突いて来るじゃないか、ベルモット。分かったよ。《ラスティーの男》に関しては目を瞑ろう』
ジンの言葉に、ベルモットは気付かれないようホッと息を吐く。
「で、何か用なの? そんなことを聞くために連絡をよこしたわけでは無いでしょう?」
『ああ、そうだったな……。今からメールで送るヤツと近いうちに接触して欲しい。指示もメールで送る』
隣に居るであろうウォッカが「ベルモットのPCで良いんですかい?」と訊ねているのが聞こえる。
『それからもう一つ。厄介なヤツが日本に再潜入しているようだ。近いうちにヤツと会う。何か交渉してくるだろうが、断るつもりでいる。
もしその後、お前たちに接触してきても一切相手をするな』
「了解」
(厄介なヤツ…ね…。面倒な事にならなきゃいいけど)
ベルモットはワイングラスに口を付けた。
『連絡は以上だ。あと1週間程で日本に戻る』
一方的に通話が切れ、ベルモットはスマホを置いた。ワイングラスを持ったままPCに近づくと電源をONにする。
送られたデータを眺めながら、グラスを一気に煽った。
昴に頭を下げ、ベルモットは踵を返すとそのまま足早に大学を出る。
あとはジンになんと報告して、彼(沖矢)を守るか——。
ベルモットの頭はその事でいっぱいだった。
昴は足早に駆けていく女子大生の後姿を見送る。メガネがキラリと光ると片方のペリドットの瞳がその姿を捉えた。
そのまま反対方向へと体の向きを変えると「フッ」と口角を上げ、その場を後にした。
昼過ぎ——
ガチャッ
工藤邸の玄関が開く音が聞こえ、りおは慌てて出迎えた。
「遅くなるってメールが来たけど、どこに行ってたの? お昼になっても帰ってこないから心配したわ」
昴が脱いだジャケットを受け取り、りおは安堵の表情を浮かべながら問いかけた。
「大学に行ってました。タバコを買いに出た時、ベルモットに尾行されたんですよ」
「え!?」
尾行されたと聞いて、りおは思わず手にしていたジャケットを落とす。
「工藤邸で同棲している、とまでは、まだ知られない方が良いだろうと思って、コンビニから以前あなたが使っていたアパートに行きました。カギを持っていたので助かりましたよ」
落ちたジャケットを拾いながら、ニッコリ微笑む昴とは対照的に、りおの顔は険しくなる。
「じゃ、じゃあベルモットがアパートに張り込む可能性が……」
「それは無いと思います」
「え…」
キッパリと断言する昴を見て、りおは不思議そうに小首をかしげた。
「おそらく大学にも来るだろうと思って、そのまま大学に向かい彼女を探しました。
女子大生に変装していたようですが、すぐに分かりましたよ。
私を普通の大学院生だと思っているらしく、色々揺さぶりをかけてきましたが……。良い彼氏を演じておきましたよ」
「ええ!? ベルモットと接触したの?」
驚くりおをよそに、昴は涼しい顔で答える。
「ええ。かなりの好印象を残したと思いますよ。満足した顔をしていましたから、アパートに張り付くことは無いでしょう」
それホントなの? とりおは頭を抱える。事後報告とはいえ心臓に悪い。
リビングに入ると、りおは脱力したようにソファーに座り込んだ。
「ベルモットさえ丸め込めば、彼女はジンに対して何かしらの予防線を張るでしょうから。しばらくは手出しをしてこないと思います」
ぐったりとするりおに、昴は笑顔を向ける。りおはチラリと視線を上げた。
「なら良いけど……。ジンは今、何か大きなビジネスを始めようとしている。ベルモットがそう言ってた」
「大きなビジネス?」
今度は昴の表情が険しくなる。
「ええ。降谷さんにも報告してある。一体何をする気なのか分からないけど……。
彼は今、ウォッカと日本を出ているの。どこへ行ったのか…誰も知らない…」
組織が何か大きなことを企んでいる。それを事前に察知するのが、降谷やりおたち《潜入捜査官》の務めだ。
「また…危険な事をしなければならない…と?」
昴は拳をグッと握りしめた。
「……ええ。ジンが帰ってくれば少しずつ探りを入れなければならないわ。大きなビジネス、というくらいだから、すぐに事が動くわけでは無いだろうけど……。
せめて何をしようとしているのか、早めに突き止めないと」
そう呟くりおの顔は暗い。組織が動くという事は、そこには必ず何かしらの犠牲が付きまとうことが多いからだ。
「だから、私たちに構っている暇はないとは思う。でも万が一って事もあるから……。昴さんも気を付けてね」
「分かりました。りお……あなたも無茶しないで下さいよ」
「うん。大丈夫。ベルモットも私に目を光らせてるから」
しばらくジンに近付かせてもらえないと思うわ、とりおは小さく笑う。
「遅くなっちゃったけど、お昼ご飯にしましょう」
ソファーから立ち上がったりおは昴に微笑むと、ダイニングへと足を向けた。
***
その日の夜——
ブーッ ブーッ ブーッ ブッ……
「Hi」
ベルモットが電話に出ると『俺だ』というジンの声が聞こえた。
「あら、ジン。久しぶりね。今どこに居るのかしら?」
湯上りだったベルモットはバスローブを羽織り、手にはワイングラスを持っている。
『フフ。ご機嫌だなベルモット。さてはラスティーの男でも探し当てたか?』
機嫌が良いのはジンも一緒のようで、心なしか彼の声が浮かれているようにも聞こえた。
そして、その後ろは——朝なのだろうか。賑やかな人々の雑踏と車の往来が聞こえる。
「ええ。とても誠実な、それでいてどこかミステリアスな雰囲気の良い青年だったわ。彼女の精神が安定しているのは彼のおかげね。
あなたもラスティーに《いい仕事》をして欲しいなら、無粋な真似はしない方が良いわ」
ベルモットはジンの神経を逆なでしないよう、細心の注意を払う。
今彼は新しいビジネスの事で頭がいっぱいのはずだ。
そのビジネスを成功に導くには、スキルの高いラスティーが安定している方が良いに決まっている。ベルモットはそこを突いた。
『フフフ。なかなか痛いところを突いて来るじゃないか、ベルモット。分かったよ。《ラスティーの男》に関しては目を瞑ろう』
ジンの言葉に、ベルモットは気付かれないようホッと息を吐く。
「で、何か用なの? そんなことを聞くために連絡をよこしたわけでは無いでしょう?」
『ああ、そうだったな……。今からメールで送るヤツと近いうちに接触して欲しい。指示もメールで送る』
隣に居るであろうウォッカが「ベルモットのPCで良いんですかい?」と訊ねているのが聞こえる。
『それからもう一つ。厄介なヤツが日本に再潜入しているようだ。近いうちにヤツと会う。何か交渉してくるだろうが、断るつもりでいる。
もしその後、お前たちに接触してきても一切相手をするな』
「了解」
(厄介なヤツ…ね…。面倒な事にならなきゃいいけど)
ベルモットはワイングラスに口を付けた。
『連絡は以上だ。あと1週間程で日本に戻る』
一方的に通話が切れ、ベルモットはスマホを置いた。ワイングラスを持ったままPCに近づくと電源をONにする。
送られたデータを眺めながら、グラスを一気に煽った。