第5.5章 ~危険なカクテル~
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電車を乗り継いで約束のカフェへと着いたラスティーは、アンティーク調の大きなドアを開け、中へと入った。
「星川様ですね。こちらでございます」
品の良いウエイターがラスティーに一礼すると、奥の個室へと案内してくれた。
どうぞ、とドアを開けられ中へと入る。ベルモットがちょうど席に着こうとしていた。
「あら、いいタイミングね」
コートを脱ぐラスティーに、ベルモットは笑顔を向けた。飲み物をオーダーして二人は向かい合わせで座る。
「急に会いたいなんて。あなたにしては珍しわね」
ラスティーは肩をすぼめ、おどけるように微笑んだ。
「ええ。バーボンからも色々聞いてね。これでも心配していたのよ?」
冷たい水の入ったグラスを手に取ると、ベルモットはコクリと一口飲む。
「あなたをつけ狙っていた奴ら、国会議員の三柳だったそうじゃないの。ずいぶん腕の立つボディーガードもいたらしいじゃない」
「ええ。ジンの情報屋……確か深(ふかし)だったかしら? 彼のおかげで難を逃れたわ。
三柳たちの企てをバーボンが匿名で警視庁にリークしてくれたおかげで、こちらは実害なしよ」
「そう……害が無かったのなら何よりね」
ベルモットは話をしながら、ラスティーの体を上から下へと目で追う。
耳…首元…うなじ…手首…
(さすがにキスマークは無いわね……。まあ、見えないところに付けているかもしれないけれど)
ベルモットは頬杖をついてラスティーの顔を見つめた。
「なあに? 人の顔をじっと……」
ラスティーは恥ずかしそうに下を向く。
「ん? きれいな顔をしているなと思ってね。
そういえば、あなた……好きな男はいるの?」
「ぇえッ?」
余りにも突然、しかも直接的な質問を投げかけられ、ラスティーは素っ頓狂な声を上げた。
そこへ、トントンと部屋をノックする音が響く。
「どうぞ」
ベルモットが声を掛けると、オーダーした飲み物を持ったウエイターが静かにドアを開ける。
一礼をして中に入ったウエイターは二人の前にそれぞれ飲み物を置くと、再び頭を下げて出て行った。
「急に何を言い出すのかと思えば……」
ウエイターの登場で少し頭が冷えたラスティーは、冷静なフリをして問いかけた。
「実はジンがね、あなたをアジトで襲った時『ラスティーは感度が良いから男がいるんじゃないか』って。
まあ、あなたも大人の女性。男の一人や二人いてもおかしくはないわ」
ベルモットは脚を組み直す。優しい表情は変わらないが、《少しの変化も見逃さない》という目でラスティーを見ている。
(言い逃れは厳しいか……)
ベルモットはかなり確信を持って訊いているに違いない。
それでも——なんとか誤魔化す事は出来ないか。
ラスティーは次の一手を模索した。
「そういえばね、ラスティー。先日大学で面白いウワサを聞いたわ。『森教授の助手に、最近《長身の彼》ができた』って」
「ッ!」
言い逃れはさせまいと、トドメの言葉をベルモットが口にする。
ラスティーは息を飲んだ。
確かに大学構内でそんなウワサが流れているのは事実だ。
しかも、それをベルモットが知っているとなると、わざわざ大学まで探りに行ったということか。
(こうなれば、下手に否定しない方が良い)
ラスティーは腹をくくった。
「……あのね、ベルモット。私だってアラサー女。浮いた話の一つも無い可哀想な助手に、いろいろ世話を焼く教授も多いのよ。
そういえば最近紹介されて、とりあえず付き合うことになった彼は……確かに背が高かったわね」
ちょっと苦しいか、と思いつつも、それっぽい言い訳を並べた。
「ふ~ん。ってことは一般人よね? そんな男があなたを守れるの?」
ベルモットは興味深げに問いかける。
「守ってくれる人なんて必要ない。私は一人だった。今までも。そしてこれからも」
「ッ!」
ラスティーの言葉を聞いて、ベルモットはハッと顔を上げる。
(『今までもこれからも…ずっと一人』だなんて……)
ラスティーを映していたライトブルーの瞳が僅かに揺れた。
ケンバリから無理やり連れてきた時、ボートの上でアジトの爆発を泣きながら見ていたラスティーを思い出す。
「そんな悲しい事を言わないで…」
「え?」
「あなたはどう思っているか分からないけれど……。私はあなたを仲間だと思っているわ」
少し悲しい顔をしてベルモットはラスティーを見る。
「ッ! ご、ごめんなさい。あなたは私の事をいつも心配してくれるのに、『一人』だなんて言って……。
あなたは私の大切な理解者。そして仲間よ」
ベルモットの言葉の意味をすぐに理解したラスティーは、慌てて謝罪の言葉を口にした。
「他意は無いの。自分を守るのは、しょせん自分。そう思ってこの世界に居るから……。
確かに今付き合っている男性とは住む世界が違う。だから、守ってもらおうなんて思ってないの。
教授の顔を立てるために今だけのお付き合いよ。だから……」
「嘘おっしゃいな」
ラスティーの言葉を遮るようにベルモットは声をかけた。
「あなた、その彼に抱かれているのでしょう? 鎖骨の下にキスマークがあったってジンが言っていたわ。
あなた身持ちが固いから、そんな軽い付き合いの男に体を許すはずが無い」
「そ、それは……」
自分の事を深く理解しているベルモットに、ラスティーは反論できない。
「付き合うことになった経緯は分からないけれど。それでも、今は愛してるんでしょう? その彼を」
ベルモットはスッとラスティーの顔に手を伸ばす。
そのまま頬を撫でると身を乗り出し、その首元に顔を寄せた。
「わずかにタバコのにおいがする。彼は喫煙者ね? あなたはタバコを吸わないから。
匂いが移るほど長時間一緒に居たか……それとも密接したか……。
もしかして電話に出れなかったのは、彼氏とお楽しみだった?」
「ッ!」
まるでどこぞの探偵のような推理に、ラスティーはドキリとした。
さすがにベルモットが言うようなことはしてないが、出かける間際に昴にハグをされたし、その頬にキスもしてきた。
その程度で匂いが移るはずは無いが、ずっと一緒にいるのは事実——
ラスティーは昴(赤井)との密接な日々を思い出し、カーッと顔が熱くなった。
「あら、冗談だったのに…。図星だった?」
「そ、そ、そんなわけないでしょッ」
「ふふふ。分かってるわよ。あなた、意外にこの手の話に弱いのね。顔が真っ赤よ」
ベルモットはラスティーから離れ、コーヒーに手を伸ばす。何事もなかったかのように、カップに口をつけた。
「心許せる彼がいるなら、それはそれで良い事よ。その人といることで、あなたの心が安らぐなら……。
ただ、ジンには気を付けて。彼も『ラスティーの男』に興味を示しているから」
「ッ‼」
予期せぬ言葉にラスティーはビクッと体を揺らす。
「じ、ジンが……は、…はぁ…は…ふ…」
その名を聞いただけで呼吸を乱すラスティーを見て、ベルモットが慌てて席を立った。
ラスティーの隣に座ると、ふわりと抱きしめる。
「ごめんなさい。脅かしてしまったわね。大丈夫よ。彼は今大きなビジネスを始めようとしているの。だから一般人を突然襲うほど暇じゃないわ。安心して」
優しくラスティーの背中をさすり「大丈夫、大丈夫」と繰り返す。
「ご、ごめんなさい。もう大丈夫」
大きく息を吐き出したラスティーは無理に笑顔を作って見せた。
「今まで通りで構わないと思うけど……。あまりジンを刺激しないようにね」
「……わかったわ」
ようやく落ち着いたラスティーにベルモットは飲み物を勧める。ラスティーもカップを受け取った。
『今まで通りで大丈夫』
液体に映る自身の顔を見つめ、言い聞かせるように何度もつぶやいた。
それでも……
心にわずかな不安を抱えたラスティーには、飲んだ飲み物の味がほとんど分からない。
ベルモットと別れてカフェを出た時には、言い表しようのない不安と倦怠感に襲われた。
「星川様ですね。こちらでございます」
品の良いウエイターがラスティーに一礼すると、奥の個室へと案内してくれた。
どうぞ、とドアを開けられ中へと入る。ベルモットがちょうど席に着こうとしていた。
「あら、いいタイミングね」
コートを脱ぐラスティーに、ベルモットは笑顔を向けた。飲み物をオーダーして二人は向かい合わせで座る。
「急に会いたいなんて。あなたにしては珍しわね」
ラスティーは肩をすぼめ、おどけるように微笑んだ。
「ええ。バーボンからも色々聞いてね。これでも心配していたのよ?」
冷たい水の入ったグラスを手に取ると、ベルモットはコクリと一口飲む。
「あなたをつけ狙っていた奴ら、国会議員の三柳だったそうじゃないの。ずいぶん腕の立つボディーガードもいたらしいじゃない」
「ええ。ジンの情報屋……確か深(ふかし)だったかしら? 彼のおかげで難を逃れたわ。
三柳たちの企てをバーボンが匿名で警視庁にリークしてくれたおかげで、こちらは実害なしよ」
「そう……害が無かったのなら何よりね」
ベルモットは話をしながら、ラスティーの体を上から下へと目で追う。
耳…首元…うなじ…手首…
(さすがにキスマークは無いわね……。まあ、見えないところに付けているかもしれないけれど)
ベルモットは頬杖をついてラスティーの顔を見つめた。
「なあに? 人の顔をじっと……」
ラスティーは恥ずかしそうに下を向く。
「ん? きれいな顔をしているなと思ってね。
そういえば、あなた……好きな男はいるの?」
「ぇえッ?」
余りにも突然、しかも直接的な質問を投げかけられ、ラスティーは素っ頓狂な声を上げた。
そこへ、トントンと部屋をノックする音が響く。
「どうぞ」
ベルモットが声を掛けると、オーダーした飲み物を持ったウエイターが静かにドアを開ける。
一礼をして中に入ったウエイターは二人の前にそれぞれ飲み物を置くと、再び頭を下げて出て行った。
「急に何を言い出すのかと思えば……」
ウエイターの登場で少し頭が冷えたラスティーは、冷静なフリをして問いかけた。
「実はジンがね、あなたをアジトで襲った時『ラスティーは感度が良いから男がいるんじゃないか』って。
まあ、あなたも大人の女性。男の一人や二人いてもおかしくはないわ」
ベルモットは脚を組み直す。優しい表情は変わらないが、《少しの変化も見逃さない》という目でラスティーを見ている。
(言い逃れは厳しいか……)
ベルモットはかなり確信を持って訊いているに違いない。
それでも——なんとか誤魔化す事は出来ないか。
ラスティーは次の一手を模索した。
「そういえばね、ラスティー。先日大学で面白いウワサを聞いたわ。『森教授の助手に、最近《長身の彼》ができた』って」
「ッ!」
言い逃れはさせまいと、トドメの言葉をベルモットが口にする。
ラスティーは息を飲んだ。
確かに大学構内でそんなウワサが流れているのは事実だ。
しかも、それをベルモットが知っているとなると、わざわざ大学まで探りに行ったということか。
(こうなれば、下手に否定しない方が良い)
ラスティーは腹をくくった。
「……あのね、ベルモット。私だってアラサー女。浮いた話の一つも無い可哀想な助手に、いろいろ世話を焼く教授も多いのよ。
そういえば最近紹介されて、とりあえず付き合うことになった彼は……確かに背が高かったわね」
ちょっと苦しいか、と思いつつも、それっぽい言い訳を並べた。
「ふ~ん。ってことは一般人よね? そんな男があなたを守れるの?」
ベルモットは興味深げに問いかける。
「守ってくれる人なんて必要ない。私は一人だった。今までも。そしてこれからも」
「ッ!」
ラスティーの言葉を聞いて、ベルモットはハッと顔を上げる。
(『今までもこれからも…ずっと一人』だなんて……)
ラスティーを映していたライトブルーの瞳が僅かに揺れた。
ケンバリから無理やり連れてきた時、ボートの上でアジトの爆発を泣きながら見ていたラスティーを思い出す。
「そんな悲しい事を言わないで…」
「え?」
「あなたはどう思っているか分からないけれど……。私はあなたを仲間だと思っているわ」
少し悲しい顔をしてベルモットはラスティーを見る。
「ッ! ご、ごめんなさい。あなたは私の事をいつも心配してくれるのに、『一人』だなんて言って……。
あなたは私の大切な理解者。そして仲間よ」
ベルモットの言葉の意味をすぐに理解したラスティーは、慌てて謝罪の言葉を口にした。
「他意は無いの。自分を守るのは、しょせん自分。そう思ってこの世界に居るから……。
確かに今付き合っている男性とは住む世界が違う。だから、守ってもらおうなんて思ってないの。
教授の顔を立てるために今だけのお付き合いよ。だから……」
「嘘おっしゃいな」
ラスティーの言葉を遮るようにベルモットは声をかけた。
「あなた、その彼に抱かれているのでしょう? 鎖骨の下にキスマークがあったってジンが言っていたわ。
あなた身持ちが固いから、そんな軽い付き合いの男に体を許すはずが無い」
「そ、それは……」
自分の事を深く理解しているベルモットに、ラスティーは反論できない。
「付き合うことになった経緯は分からないけれど。それでも、今は愛してるんでしょう? その彼を」
ベルモットはスッとラスティーの顔に手を伸ばす。
そのまま頬を撫でると身を乗り出し、その首元に顔を寄せた。
「わずかにタバコのにおいがする。彼は喫煙者ね? あなたはタバコを吸わないから。
匂いが移るほど長時間一緒に居たか……それとも密接したか……。
もしかして電話に出れなかったのは、彼氏とお楽しみだった?」
「ッ!」
まるでどこぞの探偵のような推理に、ラスティーはドキリとした。
さすがにベルモットが言うようなことはしてないが、出かける間際に昴にハグをされたし、その頬にキスもしてきた。
その程度で匂いが移るはずは無いが、ずっと一緒にいるのは事実——
ラスティーは昴(赤井)との密接な日々を思い出し、カーッと顔が熱くなった。
「あら、冗談だったのに…。図星だった?」
「そ、そ、そんなわけないでしょッ」
「ふふふ。分かってるわよ。あなた、意外にこの手の話に弱いのね。顔が真っ赤よ」
ベルモットはラスティーから離れ、コーヒーに手を伸ばす。何事もなかったかのように、カップに口をつけた。
「心許せる彼がいるなら、それはそれで良い事よ。その人といることで、あなたの心が安らぐなら……。
ただ、ジンには気を付けて。彼も『ラスティーの男』に興味を示しているから」
「ッ‼」
予期せぬ言葉にラスティーはビクッと体を揺らす。
「じ、ジンが……は、…はぁ…は…ふ…」
その名を聞いただけで呼吸を乱すラスティーを見て、ベルモットが慌てて席を立った。
ラスティーの隣に座ると、ふわりと抱きしめる。
「ごめんなさい。脅かしてしまったわね。大丈夫よ。彼は今大きなビジネスを始めようとしているの。だから一般人を突然襲うほど暇じゃないわ。安心して」
優しくラスティーの背中をさすり「大丈夫、大丈夫」と繰り返す。
「ご、ごめんなさい。もう大丈夫」
大きく息を吐き出したラスティーは無理に笑顔を作って見せた。
「今まで通りで構わないと思うけど……。あまりジンを刺激しないようにね」
「……わかったわ」
ようやく落ち着いたラスティーにベルモットは飲み物を勧める。ラスティーもカップを受け取った。
『今まで通りで大丈夫』
液体に映る自身の顔を見つめ、言い聞かせるように何度もつぶやいた。
それでも……
心にわずかな不安を抱えたラスティーには、飲んだ飲み物の味がほとんど分からない。
ベルモットと別れてカフェを出た時には、言い表しようのない不安と倦怠感に襲われた。