第5章 ~カルト集団~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
翌日———冴島が見舞いに訪れた。
「沖矢くんから連絡を貰った時は驚いたよ。警察病院の完全個室に入院しているから、(警察関係者の)私でも見舞に来れると聞いてね。思ったより元気そうじゃないか」
ケーキの入った小さな箱をりおに手渡すと、冴島は昴が用意したイスに腰かけた。
「検査入院なのでピンピンしてますよ!
あと数日はいなきゃいけないって言われてるんですけど……。何ともないから早く帰りたい」
口を尖らせたりおは、箱の中身がラズベリームースと分かって顔を綻ばせた。
「確かにピンピンしていますけど、昨日だって酷いめまいに襲われたでしょう?
ちゃんと薬の効果が抜けないと、また酷い目にあいますよ」
お茶の準備をしながら昴は釘を刺す。
たくさん飲んでくださいねと、りおには大きめのマグカップにタップリお茶を入れた。
対照的に冴島には、小さな(標準的な)カップに入ったお茶を手渡す。
カップの大きさの違いにゲンナリしているりおと、ドヤ顔の昴。二人を見て冴島は大笑いした。
「お前達、良いコンビだな。沖矢くんは世話焼きなのかな? それとも、りおが意外とガサツなだけなのか……どっちなんだ?」
テンポの良いやり取りを見て、冴島は二人に問いかけた。
「え~!? 昴さんは世話焼きというより《過保護》なんですよ。私はいたって普通です!」
「はぁ!? 何言ってるんです! 自分の体の事は向こう見ずで、鉄砲玉のように飛んでいこうとするじゃないですか!
私が管理しないと、あなた命がいくつあっても足りませんよ!」
「あはは……確かに……昴さんの寿命もかなり縮めてるしね」
「まったくです」
《向こう見ず》なところは自覚があるらしく、りおはあっさりと認めた。
「ははは。まあ良かったじゃないか。じゃじゃ馬娘にちゃんとした管理人がついて」
二人のやり取りを見て冴島は笑顔を見せる。
「じゃじゃ馬って……。教官の中でも、私そういう印象だったんですか?」
ひどいな~、とりおは嘆く。まるで子どものように不貞腐れるりおに、冴島と昴は顔を見合わせて噴き出した。
**
面会時間の30分を過ぎたので、冴島はそろそろ行くよと立ち上がる。
「まためまいを起こしてもいけないし、見送りは私一人で行ってきます。りおは大人しく待っててくださいね」
「はぁ~い」
昴に言われ、りおは渋々返事をした。
そんな二人のやり取りを優しく見守っていた冴島が、「じゃあ」と言って扉に手を掛ける。
「教官、お見舞に来てくださってありがとうございました。また近いうちにお茶でもしましょう」
「ああ。お前もあまり無茶をするなよ。沖矢くんの胃に穴が開くことが無いように」
「冴島さん、もっと言ってやってください」
「あ~~ッ‼ もう分かったって! じゃあ、教官。私はここで失礼します」
「フフフ。ああ、またな」
片手を上げた冴島は、見送る昴と一緒に病室を出た。
エレベーターホールへの道すがら、昴は冴島に礼を言った。
「来ていただいてありがとうございました。あの通り強がってばかりで。冴島さんにああ言っていただかないと、《私の過保護》は度が過ぎると言って、聞く耳を持たなくて……」
昴はため息交じりに愚痴をこぼす。
「ははは。あの子はああ見えて、昔から頑固でね。おばあさんも手を焼いていたよ」
君も苦労するな、と冴島は昴の肩を叩いた。
「ところで。彼女の父親の事で一つお訊きしたいのですが……」
「ん? 何だい?」
「ここでは何ですので。ちょっとだけお時間戴けますか?」
「ああ。構わないよ」
冴島の返事を聞いて、昴はナースステーションの看護師に声をかける。
隣のカンファレンス室の使用許可を貰った。
「ほう…。こんな所も借りることが出来るのか」
小さなカンファレンス室に入ると、冴島は感心したように部屋を見回す。
「ええ。彼女は公安の潜入捜査官ですから。警察病院も配慮してくれます」
昴の説明に、冴島はなるほどとうなずいた。
「で、訊きたいこととは何だい?」
椅子に腰かけた冴島は、真面目な顔で昴に問いかけた。
「今回の入院の経緯は、電話でお話した通りなんですが、その無認可の薬の影響で、彼女は昨日、幻覚を見たようなんです」
「幻覚?」
楽観視できない言葉に、冴島の眉間に深いしわが寄る。
「ええ。酷いめまいに襲われて、一時的に意識を失いました。目を覚ました直後はボンヤリとしていて、こちらの問いかけにも答えられませんでした。しばらくしてから、私の顔を見て『パパ』と……」
「パパ? まさか、一真の事を思い出したのか?」
焦りの色を見せる冴島に、昴は首を横に振る。
「いいえ。思い出したのではなく、心の奥底に仕舞われていた記憶が、薬の影響で偶然現れただけだと思います。
今は私を『パパ』と呼んだことすら覚えていません」
昴の言葉に、冴島は表情を緩めた。現状で両親の事を思い出すのは決して良い結果を生まないと冴島も心得ている。
記憶が戻る事を手放しでは喜べないのだ。
「私を『パパ』と呼んだ時、『いつものお話を聞かせて欲しい』と言っていました。いつもの話……。
それが何なのか、冴島さんはご存じですか?」
昴からの問いかけに冴島は頭をひねる。
「いつもの話……さあ…俺もそれについては知らないな。
一真がりおと会うのは月に1~2回程度だったし、その時に何をしていたかなんて……訊ねたことは無かったな」
「そうですか……」
冴島が知らないとなれば、『いつもの話』についてこれ以上知る手立ては無い。昴は肩を落とす。
「読み聞かせをしていたのだろうな、というのは何となく察しがつきました。
たまにしか会えない父と子。しかも組織や周りの目を気にしながらの帰宅だったろうと思います。二人の時間は常に家という密室の中。
幼い我が子に父親が出来ることといったら、本を読んだり絵を描いたり、それくらいしか……」
「ああ。たぶんな。一真の奴はいったい何の話を聞かせていたんだ? 全く想像もつかないなぁ……」
結局ヒントも手掛かりも無いまま話を終えた。二人はカンファレンス室を出る。
(焦る必要はない。いつか必ず分かる時が来る)
昴はそれ以上『父と子の思い出』について追及することを止めた。
「ずいぶん遅かったね」
病室へと戻ってきた昴に、りおが声を掛ける。
「ええ。あなたのじゃじゃ馬っぷりについて、冴島さんにたくさん愚痴を聞いて頂いたんですよ。そしたら、思いのほか盛り上がってしまって」
へ~ぇ、人の居ない所で悪口言ってたんだ~、とりおはずっと文句を言っていたが、昴はそれを全てスルーした。
「さあ、少し横になったらどうです? 疲れたんじゃないですか?」
「何もしてないから全然疲れてないよ。むしろ寝すぎなんじゃ……」
「はい、ベッド倒しますよ~」
りおの意見などお構いなしに、昴はベッドを倒す。
「ちょ、ちょっと昴さん! 私の話も聞い…」
ちゅ
「!?」
ちゅ、ちゅく…
りおの抗議をキスでふさいだ。
何度か唇をついばんで、少しおとなしくなったところで舌を入れた。
「…ッん…ぅん…ん」
りおの弱いところを重点的になぞれば、その体は力を失い、腕だけが昴の首に巻きつく。
「ん……りお…これ以上はダメだ」
キスを仕掛けた本人もわずかに息が上がり、体に熱が溜まる。
「ん……」
ようやく唇を話して顔を見れば、すっかり蕩けて静かになったりおが、息を切らしてグッタリしている。
「キスで…黙らせて…ひどい…」
「フフフ。これが一番効果的でね」
昴は何度か頭を撫でる。りおはそのまま目を閉じた。
(これまでも散々無理をした。そして退院すればまた潜入捜査官としての日常が始まる。休める時に休んでおくんだ)
「おやすみ、りお」
そっと布団を引き上げ、昴はりおの頬にキスを落とした。
翌日——。
血液検査により、基準値を下回ったことが確認できたりおは、ようやく退院の許可が下りる。
昴の車に荷物を詰め込み、車は工藤邸に向けて出発した。
「はぁ~~。やっと帰れる。これでようやく昴さんのカフェオレが飲めるわ~~」
「フフフ。そうですね。帰ったらさっそく淹れますよ」
運転のため視線を前に向けたまま、昴も笑顔を見せた。
車は病院の駐車場を出て、街路樹が立ち並ぶ大通りを走る。おしゃれなテラスを併設する小さなカフェが、街路樹の間からチラリと見えた。
「あ、ねぇ。今日じゃなくても良いんだけど……また外で、前みたいに待ち合わせしない?」
「デートですか?」
「うん」
「一緒に住んでるのに?」
「だって……新鮮で良いって昴さんも言ってたでしょ」
りおはわずかに頬を赤くして、恥ずかしそうに視線を泳がせる。
「フッ。しょうがないですね。またやりましょうか」
「やった!」
嬉しそうにガッツポーズをするりおを見て、『それくらいお安い御用さ』と、昴の顔も綻ぶ。
工藤邸に向かう車の中は二人の笑顔が溢れていた。
そんな楽しげな二人の後ろで、りおのバッグが小さく振動していた。スマホが着信を告げている。バイブにしてあったため、二人はそれに気がつかない。
その電話の相手が『ベルモット』だということも。ベルモットが《りおの恋人》に興味を持ち始めたことにも——。
==第5章完==
「沖矢くんから連絡を貰った時は驚いたよ。警察病院の完全個室に入院しているから、(警察関係者の)私でも見舞に来れると聞いてね。思ったより元気そうじゃないか」
ケーキの入った小さな箱をりおに手渡すと、冴島は昴が用意したイスに腰かけた。
「検査入院なのでピンピンしてますよ!
あと数日はいなきゃいけないって言われてるんですけど……。何ともないから早く帰りたい」
口を尖らせたりおは、箱の中身がラズベリームースと分かって顔を綻ばせた。
「確かにピンピンしていますけど、昨日だって酷いめまいに襲われたでしょう?
ちゃんと薬の効果が抜けないと、また酷い目にあいますよ」
お茶の準備をしながら昴は釘を刺す。
たくさん飲んでくださいねと、りおには大きめのマグカップにタップリお茶を入れた。
対照的に冴島には、小さな(標準的な)カップに入ったお茶を手渡す。
カップの大きさの違いにゲンナリしているりおと、ドヤ顔の昴。二人を見て冴島は大笑いした。
「お前達、良いコンビだな。沖矢くんは世話焼きなのかな? それとも、りおが意外とガサツなだけなのか……どっちなんだ?」
テンポの良いやり取りを見て、冴島は二人に問いかけた。
「え~!? 昴さんは世話焼きというより《過保護》なんですよ。私はいたって普通です!」
「はぁ!? 何言ってるんです! 自分の体の事は向こう見ずで、鉄砲玉のように飛んでいこうとするじゃないですか!
私が管理しないと、あなた命がいくつあっても足りませんよ!」
「あはは……確かに……昴さんの寿命もかなり縮めてるしね」
「まったくです」
《向こう見ず》なところは自覚があるらしく、りおはあっさりと認めた。
「ははは。まあ良かったじゃないか。じゃじゃ馬娘にちゃんとした管理人がついて」
二人のやり取りを見て冴島は笑顔を見せる。
「じゃじゃ馬って……。教官の中でも、私そういう印象だったんですか?」
ひどいな~、とりおは嘆く。まるで子どものように不貞腐れるりおに、冴島と昴は顔を見合わせて噴き出した。
**
面会時間の30分を過ぎたので、冴島はそろそろ行くよと立ち上がる。
「まためまいを起こしてもいけないし、見送りは私一人で行ってきます。りおは大人しく待っててくださいね」
「はぁ~い」
昴に言われ、りおは渋々返事をした。
そんな二人のやり取りを優しく見守っていた冴島が、「じゃあ」と言って扉に手を掛ける。
「教官、お見舞に来てくださってありがとうございました。また近いうちにお茶でもしましょう」
「ああ。お前もあまり無茶をするなよ。沖矢くんの胃に穴が開くことが無いように」
「冴島さん、もっと言ってやってください」
「あ~~ッ‼ もう分かったって! じゃあ、教官。私はここで失礼します」
「フフフ。ああ、またな」
片手を上げた冴島は、見送る昴と一緒に病室を出た。
エレベーターホールへの道すがら、昴は冴島に礼を言った。
「来ていただいてありがとうございました。あの通り強がってばかりで。冴島さんにああ言っていただかないと、《私の過保護》は度が過ぎると言って、聞く耳を持たなくて……」
昴はため息交じりに愚痴をこぼす。
「ははは。あの子はああ見えて、昔から頑固でね。おばあさんも手を焼いていたよ」
君も苦労するな、と冴島は昴の肩を叩いた。
「ところで。彼女の父親の事で一つお訊きしたいのですが……」
「ん? 何だい?」
「ここでは何ですので。ちょっとだけお時間戴けますか?」
「ああ。構わないよ」
冴島の返事を聞いて、昴はナースステーションの看護師に声をかける。
隣のカンファレンス室の使用許可を貰った。
「ほう…。こんな所も借りることが出来るのか」
小さなカンファレンス室に入ると、冴島は感心したように部屋を見回す。
「ええ。彼女は公安の潜入捜査官ですから。警察病院も配慮してくれます」
昴の説明に、冴島はなるほどとうなずいた。
「で、訊きたいこととは何だい?」
椅子に腰かけた冴島は、真面目な顔で昴に問いかけた。
「今回の入院の経緯は、電話でお話した通りなんですが、その無認可の薬の影響で、彼女は昨日、幻覚を見たようなんです」
「幻覚?」
楽観視できない言葉に、冴島の眉間に深いしわが寄る。
「ええ。酷いめまいに襲われて、一時的に意識を失いました。目を覚ました直後はボンヤリとしていて、こちらの問いかけにも答えられませんでした。しばらくしてから、私の顔を見て『パパ』と……」
「パパ? まさか、一真の事を思い出したのか?」
焦りの色を見せる冴島に、昴は首を横に振る。
「いいえ。思い出したのではなく、心の奥底に仕舞われていた記憶が、薬の影響で偶然現れただけだと思います。
今は私を『パパ』と呼んだことすら覚えていません」
昴の言葉に、冴島は表情を緩めた。現状で両親の事を思い出すのは決して良い結果を生まないと冴島も心得ている。
記憶が戻る事を手放しでは喜べないのだ。
「私を『パパ』と呼んだ時、『いつものお話を聞かせて欲しい』と言っていました。いつもの話……。
それが何なのか、冴島さんはご存じですか?」
昴からの問いかけに冴島は頭をひねる。
「いつもの話……さあ…俺もそれについては知らないな。
一真がりおと会うのは月に1~2回程度だったし、その時に何をしていたかなんて……訊ねたことは無かったな」
「そうですか……」
冴島が知らないとなれば、『いつもの話』についてこれ以上知る手立ては無い。昴は肩を落とす。
「読み聞かせをしていたのだろうな、というのは何となく察しがつきました。
たまにしか会えない父と子。しかも組織や周りの目を気にしながらの帰宅だったろうと思います。二人の時間は常に家という密室の中。
幼い我が子に父親が出来ることといったら、本を読んだり絵を描いたり、それくらいしか……」
「ああ。たぶんな。一真の奴はいったい何の話を聞かせていたんだ? 全く想像もつかないなぁ……」
結局ヒントも手掛かりも無いまま話を終えた。二人はカンファレンス室を出る。
(焦る必要はない。いつか必ず分かる時が来る)
昴はそれ以上『父と子の思い出』について追及することを止めた。
「ずいぶん遅かったね」
病室へと戻ってきた昴に、りおが声を掛ける。
「ええ。あなたのじゃじゃ馬っぷりについて、冴島さんにたくさん愚痴を聞いて頂いたんですよ。そしたら、思いのほか盛り上がってしまって」
へ~ぇ、人の居ない所で悪口言ってたんだ~、とりおはずっと文句を言っていたが、昴はそれを全てスルーした。
「さあ、少し横になったらどうです? 疲れたんじゃないですか?」
「何もしてないから全然疲れてないよ。むしろ寝すぎなんじゃ……」
「はい、ベッド倒しますよ~」
りおの意見などお構いなしに、昴はベッドを倒す。
「ちょ、ちょっと昴さん! 私の話も聞い…」
ちゅ
「!?」
ちゅ、ちゅく…
りおの抗議をキスでふさいだ。
何度か唇をついばんで、少しおとなしくなったところで舌を入れた。
「…ッん…ぅん…ん」
りおの弱いところを重点的になぞれば、その体は力を失い、腕だけが昴の首に巻きつく。
「ん……りお…これ以上はダメだ」
キスを仕掛けた本人もわずかに息が上がり、体に熱が溜まる。
「ん……」
ようやく唇を話して顔を見れば、すっかり蕩けて静かになったりおが、息を切らしてグッタリしている。
「キスで…黙らせて…ひどい…」
「フフフ。これが一番効果的でね」
昴は何度か頭を撫でる。りおはそのまま目を閉じた。
(これまでも散々無理をした。そして退院すればまた潜入捜査官としての日常が始まる。休める時に休んでおくんだ)
「おやすみ、りお」
そっと布団を引き上げ、昴はりおの頬にキスを落とした。
翌日——。
血液検査により、基準値を下回ったことが確認できたりおは、ようやく退院の許可が下りる。
昴の車に荷物を詰め込み、車は工藤邸に向けて出発した。
「はぁ~~。やっと帰れる。これでようやく昴さんのカフェオレが飲めるわ~~」
「フフフ。そうですね。帰ったらさっそく淹れますよ」
運転のため視線を前に向けたまま、昴も笑顔を見せた。
車は病院の駐車場を出て、街路樹が立ち並ぶ大通りを走る。おしゃれなテラスを併設する小さなカフェが、街路樹の間からチラリと見えた。
「あ、ねぇ。今日じゃなくても良いんだけど……また外で、前みたいに待ち合わせしない?」
「デートですか?」
「うん」
「一緒に住んでるのに?」
「だって……新鮮で良いって昴さんも言ってたでしょ」
りおはわずかに頬を赤くして、恥ずかしそうに視線を泳がせる。
「フッ。しょうがないですね。またやりましょうか」
「やった!」
嬉しそうにガッツポーズをするりおを見て、『それくらいお安い御用さ』と、昴の顔も綻ぶ。
工藤邸に向かう車の中は二人の笑顔が溢れていた。
そんな楽しげな二人の後ろで、りおのバッグが小さく振動していた。スマホが着信を告げている。バイブにしてあったため、二人はそれに気がつかない。
その電話の相手が『ベルモット』だということも。ベルモットが《りおの恋人》に興味を持ち始めたことにも——。
==第5章完==