第5章 ~カルト集団~
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***
「ん? わずかだがバイタルに変化が?」
昴のスマホがブルリと震え、さくらのバイタルに小さな変化があったことを知らせた。
「一瞬だけ血圧が上がったが……その後は戻ったな。教授に無理難題でも押し付けられたか?」
念のため起動したGPSを確認するが、その後はゆっくりと大学構内を移動しているようだ。
バイタルが正常になったので、やがてGPSもスリープモードに入り、地図上の点は消えた。
わずかに感じる胸騒ぎ。
昴は心配になり、さくらのスマホにメッセージを送る。
『間もなく教授の見送りですね。予定に変更はありませんか?』
ブーッブーッブーッ
すぐに昴のスマホがメールの着信を知らせた。
『はい』
いつもよりそっけないメールが帰って来た。
「講演の準備で忙しいのか? このまま何事も無ければ良いが……」
わずかな不安は残るものの、あまり干渉しすぎるとさくらも嫌がるので、しばらく様子を見ることにした。
それから二時間程過ぎた、午後三時ちょっと前。昴のスマホに電話がかかってきた。
「もしもし?」
『沖矢さん! 大変だ! さくらさんが行方不明になった!』
「なにっ⁉」
切羽詰まった安室の声に、昴の表情が一気に変わった。
安室からの情報によると、昼過ぎに総務・学生課の建物で目撃されて以降、行方が分からない。
教授の講義が終わる時間になっても理学部に戻ってこなかったので、職員と研究生、さらに講義を終えた森教授も加わって探したが見つからなかったという。
その後すぐに、教授が風見刑事に連絡をした。現在スマホに付けられている公安のGPSを追跡中だという。
昴と安室が話をしている最中に、安室の耳に差し込まれたワイヤレスイヤホンから連絡が入った。
『降谷さん! 広瀬のバッグを都内の公園で発見しました』
「それで広瀬は?」
『周辺をくまなく探しましたがいません!
バッグの中にスマホも貴重品も入ったままで……恐らく追跡を警戒してバッグごと公園に放置していったものと思われます』
「くッ! 広瀬ッ…いったいどこに…」
忌々しそうに安室は拳でテーブルを叩いた。
その様子を電話越しに聞いていた昴も、成す統べなく立ち尽くした。
***
夕方
安室は昴を訪ねていた。
「彼女が大学構内で簡単に拉致されるなんて……」
安室は信じられないという顔をしていた。昴もまた、アゴに手を当てて思案している。
「確かに彼女ほどの警察官が、人目の多い大学構内で拉致されたという事実に、私も引っかかりを感じます。そして、その拉致した相手の正体も、まだ分かっていません」
ソファーに座り、じっくりと考え込む昴の姿を見て、安室は不思議に思った。
「沖矢さん……。その割にずいぶん冷静ですね。もっと取り乱しているかと思いました」
さくらが単身ジンに会いに行ったと連絡をよこした時は、もっと焦っていたのに。
「冷静……ではありませんが、実は彼女にGPS付き腕時計を渡してあります」
昴は安室の顔を見ると、静かに説明した。
「バイタルに異常が有った場合や、彼女自身が手動でONにすれば、すぐにGPSが起動します。
今のところ起動していないですから、彼女自身に危害は加えられてはいないものの、気絶させられているのではないでしょうか?」
「なるほど。では、彼女が目を覚ませば居場所を突き止められるということですね」
「ええ」
この非常時に昴が冷静でいる理由が分かり、さすがだなと安室はため息をつく。
「では、彼女を拉致したやつらの正体については、僕が説明しますよ」
自分も負けてはいられないと、安室も余裕の表情を作って見せた。
「『女神アウロラ』ですか?」
安室は深から得た情報を昴に話した。
「ええ。宗教としては大変珍しいですが、ローマ神話の神、最高神ユピテルを祀る新興宗教です。ジンが囲っている情報屋からのタレコミですから、かなり信ぴょう性が高い。
また、この情報屋は他にも彼女を狙っている者がいるかどうか探っていたようですが、現時点で可能性が有るのはココだけだと」
安室は昴が出してくれたコーヒーを一口飲んだ。
「つまり……今回さくらを拉致したのは、その宗教団体で間違いない、と?」
昴は自分のコーヒーには手を付けず、安室の顔を見る。
「ええ、間違いないと思います。その宗教団体ではある伝説を信じているようなんですよ」
「伝説……ですか?」
昴は眉を顰める。
「ただ…その伝説については途中までしか分かっていません」
「なるほど。……で、その分かっている部分は?」
昴は真剣な面持ちで聞き返した。
「『太陽の雫の瞳を持ちし《女神アウロラ》がこの地に現れし時』という部分と、『光輝く王国(クラールク)』、そして『高貴なる香りが女神を包む…』とかなんとか」
「ふむ。『太陽の雫』ですか…。元々琥珀には《太陽の輝き》であるとか、《燃える石》という意味があると聞きます。
つまり彼らは、その女神が琥珀色の瞳をしている、と思っている。
それで金の瞳を持つ女性たちが、次々とターゲットになったというわけですね」
なるほど、と言って、昴は自身のあごを何度か擦る。しばし考えて再び安室に訊ねた。
「ですが……そもそもローマ神話にそのような伝説があるのでしょうか?」
「少なくとも僕は聞いたことがありません。
異国の古い神話。そのすべてが分かっている訳ではありませんからね」
たしかに、と昴はつぶやく。
この伝説とやらが、ローマ神話で語られている正規の物か、それとも犯人たちが自分たちに都合が良いように作り上げたものか。
どちらにしてもそれを利用して、さくらを拉致した事には変わりない。
後は彼女を拉致して、いったい何を企んでいるのか。肝心なところが分かっていない。
二人の会話が途切れた時、工藤邸のチャイムが鳴った。
「ん? わずかだがバイタルに変化が?」
昴のスマホがブルリと震え、さくらのバイタルに小さな変化があったことを知らせた。
「一瞬だけ血圧が上がったが……その後は戻ったな。教授に無理難題でも押し付けられたか?」
念のため起動したGPSを確認するが、その後はゆっくりと大学構内を移動しているようだ。
バイタルが正常になったので、やがてGPSもスリープモードに入り、地図上の点は消えた。
わずかに感じる胸騒ぎ。
昴は心配になり、さくらのスマホにメッセージを送る。
『間もなく教授の見送りですね。予定に変更はありませんか?』
ブーッブーッブーッ
すぐに昴のスマホがメールの着信を知らせた。
『はい』
いつもよりそっけないメールが帰って来た。
「講演の準備で忙しいのか? このまま何事も無ければ良いが……」
わずかな不安は残るものの、あまり干渉しすぎるとさくらも嫌がるので、しばらく様子を見ることにした。
それから二時間程過ぎた、午後三時ちょっと前。昴のスマホに電話がかかってきた。
「もしもし?」
『沖矢さん! 大変だ! さくらさんが行方不明になった!』
「なにっ⁉」
切羽詰まった安室の声に、昴の表情が一気に変わった。
安室からの情報によると、昼過ぎに総務・学生課の建物で目撃されて以降、行方が分からない。
教授の講義が終わる時間になっても理学部に戻ってこなかったので、職員と研究生、さらに講義を終えた森教授も加わって探したが見つからなかったという。
その後すぐに、教授が風見刑事に連絡をした。現在スマホに付けられている公安のGPSを追跡中だという。
昴と安室が話をしている最中に、安室の耳に差し込まれたワイヤレスイヤホンから連絡が入った。
『降谷さん! 広瀬のバッグを都内の公園で発見しました』
「それで広瀬は?」
『周辺をくまなく探しましたがいません!
バッグの中にスマホも貴重品も入ったままで……恐らく追跡を警戒してバッグごと公園に放置していったものと思われます』
「くッ! 広瀬ッ…いったいどこに…」
忌々しそうに安室は拳でテーブルを叩いた。
その様子を電話越しに聞いていた昴も、成す統べなく立ち尽くした。
***
夕方
安室は昴を訪ねていた。
「彼女が大学構内で簡単に拉致されるなんて……」
安室は信じられないという顔をしていた。昴もまた、アゴに手を当てて思案している。
「確かに彼女ほどの警察官が、人目の多い大学構内で拉致されたという事実に、私も引っかかりを感じます。そして、その拉致した相手の正体も、まだ分かっていません」
ソファーに座り、じっくりと考え込む昴の姿を見て、安室は不思議に思った。
「沖矢さん……。その割にずいぶん冷静ですね。もっと取り乱しているかと思いました」
さくらが単身ジンに会いに行ったと連絡をよこした時は、もっと焦っていたのに。
「冷静……ではありませんが、実は彼女にGPS付き腕時計を渡してあります」
昴は安室の顔を見ると、静かに説明した。
「バイタルに異常が有った場合や、彼女自身が手動でONにすれば、すぐにGPSが起動します。
今のところ起動していないですから、彼女自身に危害は加えられてはいないものの、気絶させられているのではないでしょうか?」
「なるほど。では、彼女が目を覚ませば居場所を突き止められるということですね」
「ええ」
この非常時に昴が冷静でいる理由が分かり、さすがだなと安室はため息をつく。
「では、彼女を拉致したやつらの正体については、僕が説明しますよ」
自分も負けてはいられないと、安室も余裕の表情を作って見せた。
「『女神アウロラ』ですか?」
安室は深から得た情報を昴に話した。
「ええ。宗教としては大変珍しいですが、ローマ神話の神、最高神ユピテルを祀る新興宗教です。ジンが囲っている情報屋からのタレコミですから、かなり信ぴょう性が高い。
また、この情報屋は他にも彼女を狙っている者がいるかどうか探っていたようですが、現時点で可能性が有るのはココだけだと」
安室は昴が出してくれたコーヒーを一口飲んだ。
「つまり……今回さくらを拉致したのは、その宗教団体で間違いない、と?」
昴は自分のコーヒーには手を付けず、安室の顔を見る。
「ええ、間違いないと思います。その宗教団体ではある伝説を信じているようなんですよ」
「伝説……ですか?」
昴は眉を顰める。
「ただ…その伝説については途中までしか分かっていません」
「なるほど。……で、その分かっている部分は?」
昴は真剣な面持ちで聞き返した。
「『太陽の雫の瞳を持ちし《女神アウロラ》がこの地に現れし時』という部分と、『光輝く王国(クラールク)』、そして『高貴なる香りが女神を包む…』とかなんとか」
「ふむ。『太陽の雫』ですか…。元々琥珀には《太陽の輝き》であるとか、《燃える石》という意味があると聞きます。
つまり彼らは、その女神が琥珀色の瞳をしている、と思っている。
それで金の瞳を持つ女性たちが、次々とターゲットになったというわけですね」
なるほど、と言って、昴は自身のあごを何度か擦る。しばし考えて再び安室に訊ねた。
「ですが……そもそもローマ神話にそのような伝説があるのでしょうか?」
「少なくとも僕は聞いたことがありません。
異国の古い神話。そのすべてが分かっている訳ではありませんからね」
たしかに、と昴はつぶやく。
この伝説とやらが、ローマ神話で語られている正規の物か、それとも犯人たちが自分たちに都合が良いように作り上げたものか。
どちらにしてもそれを利用して、さくらを拉致した事には変わりない。
後は彼女を拉致して、いったい何を企んでいるのか。肝心なところが分かっていない。
二人の会話が途切れた時、工藤邸のチャイムが鳴った。