第5章 ~カルト集団~
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夜11時――
まだ深夜というには早い時間だが、そろそろ客の一部は家路につく時間。都内の居酒屋で男が一人、酒を煽っていた。
カウンター席に男一人。その他のボックス席には会社帰りのサラリーマン達や、大学のサークル仲間などが楽しそうに一杯やっている。
賑やかな店内で男を気にする者は誰もいない。
ガラッ!
「いらっしゃい!」
店のドアが開き、店員の元気な声が聞こえた。
男はそれに気付かないのか、それとも無視しているのか、振り返る事もせずにタバコを取り出す。
ふ~~っと紫煙を燻らせると、男の隣に誰かが座った。
「あなたが…《深/ふかし》…さん?」
今来たばかりの男が声をかけた。
「あんたがジンの使いか」
ようやく視線を動かし目が合う。
「ええ。僕のコードネームは《バーボン》。今日はジンに頼まれて来ました」
「バーボン、ね……」
深はニヤリと笑う。あそこの組織はみんな酒の名前だったなぁ、と呑気につぶやいた。
「僕にも彼と同じものを」
「焼酎のお湯割りね。おまちください」
《バーボン》は早々に注文をすると、頬杖をついて深に微笑みかけた。
「バーボンが焼酎とは、とんだちゃんぽんだな」
深はからかうように言うと、チラリと横目でバーボンを観察した。
「ん~~。まあ、どの酒も嫌いじゃないので。コードネームはウイスキーですけど、僕が好きなのは日本酒です」
「ほ~ぉ。《バーボン》が今日は《焼酎》を頼んだが、本来好きなのは《日本酒》。
なんだか聞いてるだけでややこしくなってきたな……」
深はおかしくなってフフッと笑う。流暢な日本語をしゃべる割に、目立つ金の髪とやや色黒の肌。
そして年齢が全く読めないベビーフェイス。
(ヘンなヤツを使いによこしたな……)
深はお湯割りを一気に煽った。
「で、ジンが欲しがっている情報をあなたが持っていると聞いてきましたが?」
「まあ、そう焦るな。ココは人が多い。場所を変えよう。
店長! いつもの部屋借りるぞ」
店奥に居る店長に声をかけると、深はバーボンを連れて店の奥へと移動した。
「ここの店長は俺の知り合いでな。情報屋として仕事をする時はこの部屋を利用するんだ。
どこで聴き耳を立てているヤツがいるか、わからんからな」
ガチャリとドアを閉めると、深はそれまでの緊張した顔を緩め、少し穏やかな表情になる。
「ジンから《ラスティー》を追い回しているストーカー野郎について、情報を集めろと言われてね。
初めはオドゥムの関係かと思ったんだが、先の貿易会社の爆破から、組織の体制立て直しでそれどころじゃなさそうなんだ」
深は追加で頼んだ酒を一気に煽ると、口元を手で拭った。
「で、情報通のホームレスや半グレ集団のガキどもに聞き込みをしてみたんだが、なかなか面白い情報があったんだ。何だと思う?」
深は悪戯っぽく笑う。
「あなたがそこまで言うのだから、それなりに僕を驚かせる情報なのでしょう?
う~ん……。検討も付かないな。何かヒントをくださいよ」
謎解きはキライじゃない。おそらくこの深という男も、その手の会話が好きなのだろう。楽し気にバーボンの返答を待つ目は、好奇心で輝いているようにも見えた。
「フフ、そうだな。じゃあ、ヒントを一つやろう。《ゾーリンゲン》これで分かったらたいしたものだ」
深は腕を組み、片手でアゴに触れながらヒントを一つひねり出した。
「《ゾーリンゲン》? ドイツの都市ですね。そこで有名なものと言ったら……」
深のヒントからバーボンはある物を思い浮かべた。
「ドイツのゾーリンゲンと言ったら、ナイフの生産地として有名ですね。
BOKER、ヘンケルス、PUMAなどの有名なナイフブランドは《ゾーリンゲン》が起源だ」
バーボンの答えに深はニヤリと笑う。どうやらアタリのようだ。
「ほぅ! さすがだな。その通り。ではその《ナイフ》《旬なもの》なら何を思い浮かべる?」
「旬?」
《ナイフ》だけでは確かに範囲が広すぎるが、《旬なもの》と限定された。今《旬》な話と言えば……。
「もしかして…都内で発生している連続殺人の事ですか?」
バーボンが少し声を低くして答えると、深の眉が片方だけ上がる。そしてゆっくりと口角を引き上げた。
「ご名答。君はかなり頭が回るんだな」
バーボンとのやり取りがよほど楽しかったらしい。深は向けていた警戒心を少しだけ解いた。
「20代の女がナイフで一突き。その上動機も犯人像も、そして目撃者さえも上がっていない。今巷を賑わせている連続殺人さ。
実は半グレのガキが、その事件の被害者……たしか3人目の女だと思うが、その女を目撃したらしいんだ」
「連続殺人の被害者を目撃した⁉」
連日、刑事部が聞き込みをしているが、証拠はおろか目撃者一人見つかっていない。
(まさか半グレ集団の少年が見ていたとは…)
バーボンは深に分からないように小さく息を吐いた。
非行少年たちは警察を見ると逃げてしまうため、聞き込みをするのは容易ではない。目撃した少年も、どうやら警察の目をかいくぐって職質には捕まらなかったのだろう。
「ラスティーをつけ狙うヤツが、その連続殺人犯だとでも?」
自分達でもその事実にたどり着いたのは昨日だ。夕方昴から連絡が来て、二人の推理を聞かせてもらったばかりだった。
「ああ。その半グレのガキが、都内の廃ビルで薬(ヤク)の売人と接触した時に、偶然被害者と犯人が会っているところを見かけたらしいんだ。
犯人は二人組。一人は男でガタイが良く、周囲に対する警戒心は並ではなかったらしい。
もう一人の方は性別不明。かなり小柄だったらしく、ガキの予想は女なんじゃないかと言ってたな。
二人とも揃いの衣装を着て、頭巾みたいなものをかぶっていたから顔は見えなかったそうだ。
ガキは被害女性とその犯人の会話を聞いたらしいんだが…」
そこまで話すと深はやや困った顔をした。
「何か問題でも発生したのですか?」
バーボンはにわかに緊張した顔になる。
「いや、問題なのはガキの方さ。犯人と被害女性の話していた内容が難しすぎて、さっぱり理解できなかったらしいんだ。
ガキが聞き取れたワードは2つ。
《女神アウロラ》と《太陽の雫の瞳を持つ女性》これだけだ」
深は呆れたように頭を掻いた。アイツら学校をフケてばかりだからなぁ…とつぶやく。
「まあ、これだけでも聞き取れただけ大手柄ってもんさ。
犯人たちは揃いの衣装を着て《女神》について話していた…とすれば、最近の法改正で都内には新興宗教が乱立している。
そのどれか一つが、今回の連続殺人に関係している…と言えるんじゃないか?」
「なるほど」
深の見解にバーボンは感心したようにうなずいた。
「殺害された女性は金色っぽい目をしていたらしい。もっとも、裸眼ではなくコンタクトだったことが分かって犯人たちにバラされたらしいが。
《ラスティー》も、確か琥珀色の瞳をしていたな。
今回は組織の諜報員(ラスティー)をつけ狙っているわけではなく、《太陽の雫の瞳を持つ》《女神アウロラ》として狙われている——。
俺はそう見ている」
「確かにそう考えた方が自然ですね。
しかし都内には新興宗教を含めて百以上の宗教団体がある。そのどれに狙われているか……探すのは手間だな」
バーボンは腕を組み、手を口元に当てて考え込んだ。
「そんなに難しくはないさ」
バーボンの言葉に、深はニヤリと笑みを見せた。
「《女神アウロラ》といえばローマ神話の暁(あかつき)の女神のことさ。
ローマ神話の最高神は《ユピテル》。宗教としちゃかなりレアな神様だよ。
この神様を祀っている宗教団体はそんなに多くないはずだ。すぐに突き止められるだろう」
深はそこまで話すとさらに口角を上げ、悪い顔をする。
「もちろん、これ次第だがね」
親指と人差し指をつけて丸を作ると、その指サインをバーボンに見せつける。いわゆる『金』のサインだ。
それを見て、バーボンはあからさまに大きなため息をついた。
「はぁぁ~。まあ、それがあなたの仕事ですから仕方がありません。良い情報を期待していますよ」
バーボンは胸ポケットから厚みのある茶色い封筒と、小さな紙きれを出しテーブルに置いた。
「これ、今回の分。ジンからです。新たな情報はこの連絡先に。
今回の件、僕はすべてジンから任されていますので」
「分かった」
深は封筒を掴むとさっそく中を確かめ、今日一番の笑顔を見せてそう答えた。
まだ深夜というには早い時間だが、そろそろ客の一部は家路につく時間。都内の居酒屋で男が一人、酒を煽っていた。
カウンター席に男一人。その他のボックス席には会社帰りのサラリーマン達や、大学のサークル仲間などが楽しそうに一杯やっている。
賑やかな店内で男を気にする者は誰もいない。
ガラッ!
「いらっしゃい!」
店のドアが開き、店員の元気な声が聞こえた。
男はそれに気付かないのか、それとも無視しているのか、振り返る事もせずにタバコを取り出す。
ふ~~っと紫煙を燻らせると、男の隣に誰かが座った。
「あなたが…《深/ふかし》…さん?」
今来たばかりの男が声をかけた。
「あんたがジンの使いか」
ようやく視線を動かし目が合う。
「ええ。僕のコードネームは《バーボン》。今日はジンに頼まれて来ました」
「バーボン、ね……」
深はニヤリと笑う。あそこの組織はみんな酒の名前だったなぁ、と呑気につぶやいた。
「僕にも彼と同じものを」
「焼酎のお湯割りね。おまちください」
《バーボン》は早々に注文をすると、頬杖をついて深に微笑みかけた。
「バーボンが焼酎とは、とんだちゃんぽんだな」
深はからかうように言うと、チラリと横目でバーボンを観察した。
「ん~~。まあ、どの酒も嫌いじゃないので。コードネームはウイスキーですけど、僕が好きなのは日本酒です」
「ほ~ぉ。《バーボン》が今日は《焼酎》を頼んだが、本来好きなのは《日本酒》。
なんだか聞いてるだけでややこしくなってきたな……」
深はおかしくなってフフッと笑う。流暢な日本語をしゃべる割に、目立つ金の髪とやや色黒の肌。
そして年齢が全く読めないベビーフェイス。
(ヘンなヤツを使いによこしたな……)
深はお湯割りを一気に煽った。
「で、ジンが欲しがっている情報をあなたが持っていると聞いてきましたが?」
「まあ、そう焦るな。ココは人が多い。場所を変えよう。
店長! いつもの部屋借りるぞ」
店奥に居る店長に声をかけると、深はバーボンを連れて店の奥へと移動した。
「ここの店長は俺の知り合いでな。情報屋として仕事をする時はこの部屋を利用するんだ。
どこで聴き耳を立てているヤツがいるか、わからんからな」
ガチャリとドアを閉めると、深はそれまでの緊張した顔を緩め、少し穏やかな表情になる。
「ジンから《ラスティー》を追い回しているストーカー野郎について、情報を集めろと言われてね。
初めはオドゥムの関係かと思ったんだが、先の貿易会社の爆破から、組織の体制立て直しでそれどころじゃなさそうなんだ」
深は追加で頼んだ酒を一気に煽ると、口元を手で拭った。
「で、情報通のホームレスや半グレ集団のガキどもに聞き込みをしてみたんだが、なかなか面白い情報があったんだ。何だと思う?」
深は悪戯っぽく笑う。
「あなたがそこまで言うのだから、それなりに僕を驚かせる情報なのでしょう?
う~ん……。検討も付かないな。何かヒントをくださいよ」
謎解きはキライじゃない。おそらくこの深という男も、その手の会話が好きなのだろう。楽し気にバーボンの返答を待つ目は、好奇心で輝いているようにも見えた。
「フフ、そうだな。じゃあ、ヒントを一つやろう。《ゾーリンゲン》これで分かったらたいしたものだ」
深は腕を組み、片手でアゴに触れながらヒントを一つひねり出した。
「《ゾーリンゲン》? ドイツの都市ですね。そこで有名なものと言ったら……」
深のヒントからバーボンはある物を思い浮かべた。
「ドイツのゾーリンゲンと言ったら、ナイフの生産地として有名ですね。
BOKER、ヘンケルス、PUMAなどの有名なナイフブランドは《ゾーリンゲン》が起源だ」
バーボンの答えに深はニヤリと笑う。どうやらアタリのようだ。
「ほぅ! さすがだな。その通り。ではその《ナイフ》《旬なもの》なら何を思い浮かべる?」
「旬?」
《ナイフ》だけでは確かに範囲が広すぎるが、《旬なもの》と限定された。今《旬》な話と言えば……。
「もしかして…都内で発生している連続殺人の事ですか?」
バーボンが少し声を低くして答えると、深の眉が片方だけ上がる。そしてゆっくりと口角を引き上げた。
「ご名答。君はかなり頭が回るんだな」
バーボンとのやり取りがよほど楽しかったらしい。深は向けていた警戒心を少しだけ解いた。
「20代の女がナイフで一突き。その上動機も犯人像も、そして目撃者さえも上がっていない。今巷を賑わせている連続殺人さ。
実は半グレのガキが、その事件の被害者……たしか3人目の女だと思うが、その女を目撃したらしいんだ」
「連続殺人の被害者を目撃した⁉」
連日、刑事部が聞き込みをしているが、証拠はおろか目撃者一人見つかっていない。
(まさか半グレ集団の少年が見ていたとは…)
バーボンは深に分からないように小さく息を吐いた。
非行少年たちは警察を見ると逃げてしまうため、聞き込みをするのは容易ではない。目撃した少年も、どうやら警察の目をかいくぐって職質には捕まらなかったのだろう。
「ラスティーをつけ狙うヤツが、その連続殺人犯だとでも?」
自分達でもその事実にたどり着いたのは昨日だ。夕方昴から連絡が来て、二人の推理を聞かせてもらったばかりだった。
「ああ。その半グレのガキが、都内の廃ビルで薬(ヤク)の売人と接触した時に、偶然被害者と犯人が会っているところを見かけたらしいんだ。
犯人は二人組。一人は男でガタイが良く、周囲に対する警戒心は並ではなかったらしい。
もう一人の方は性別不明。かなり小柄だったらしく、ガキの予想は女なんじゃないかと言ってたな。
二人とも揃いの衣装を着て、頭巾みたいなものをかぶっていたから顔は見えなかったそうだ。
ガキは被害女性とその犯人の会話を聞いたらしいんだが…」
そこまで話すと深はやや困った顔をした。
「何か問題でも発生したのですか?」
バーボンはにわかに緊張した顔になる。
「いや、問題なのはガキの方さ。犯人と被害女性の話していた内容が難しすぎて、さっぱり理解できなかったらしいんだ。
ガキが聞き取れたワードは2つ。
《女神アウロラ》と《太陽の雫の瞳を持つ女性》これだけだ」
深は呆れたように頭を掻いた。アイツら学校をフケてばかりだからなぁ…とつぶやく。
「まあ、これだけでも聞き取れただけ大手柄ってもんさ。
犯人たちは揃いの衣装を着て《女神》について話していた…とすれば、最近の法改正で都内には新興宗教が乱立している。
そのどれか一つが、今回の連続殺人に関係している…と言えるんじゃないか?」
「なるほど」
深の見解にバーボンは感心したようにうなずいた。
「殺害された女性は金色っぽい目をしていたらしい。もっとも、裸眼ではなくコンタクトだったことが分かって犯人たちにバラされたらしいが。
《ラスティー》も、確か琥珀色の瞳をしていたな。
今回は組織の諜報員(ラスティー)をつけ狙っているわけではなく、《太陽の雫の瞳を持つ》《女神アウロラ》として狙われている——。
俺はそう見ている」
「確かにそう考えた方が自然ですね。
しかし都内には新興宗教を含めて百以上の宗教団体がある。そのどれに狙われているか……探すのは手間だな」
バーボンは腕を組み、手を口元に当てて考え込んだ。
「そんなに難しくはないさ」
バーボンの言葉に、深はニヤリと笑みを見せた。
「《女神アウロラ》といえばローマ神話の暁(あかつき)の女神のことさ。
ローマ神話の最高神は《ユピテル》。宗教としちゃかなりレアな神様だよ。
この神様を祀っている宗教団体はそんなに多くないはずだ。すぐに突き止められるだろう」
深はそこまで話すとさらに口角を上げ、悪い顔をする。
「もちろん、これ次第だがね」
親指と人差し指をつけて丸を作ると、その指サインをバーボンに見せつける。いわゆる『金』のサインだ。
それを見て、バーボンはあからさまに大きなため息をついた。
「はぁぁ~。まあ、それがあなたの仕事ですから仕方がありません。良い情報を期待していますよ」
バーボンは胸ポケットから厚みのある茶色い封筒と、小さな紙きれを出しテーブルに置いた。
「これ、今回の分。ジンからです。新たな情報はこの連絡先に。
今回の件、僕はすべてジンから任されていますので」
「分かった」
深は封筒を掴むとさっそく中を確かめ、今日一番の笑顔を見せてそう答えた。