第5章 ~カルト集団~
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手当を終えたりおは、疲労のせいかソファーで眠っている。救急箱を片付けていた昴は、その姿を見て大きなため息をついた。
(確かに骨には異常はなさそうだ。回避は出来なかったが、体を引いてダメージを最小限にしたのか……。
いつもながら、ギリギリで致命傷や大ケガを避けている。器用なヤツだ)
それでも殴られた事には変わりなく、皮膚は青く内出血を起こしていた。背中の内出血の痕も、ようやく消えたばかりだというのに……。
昴はりおに近づき顔を見る。
(お前の白くてキレイな肌に、また傷がついてしまったな)
まぶたが閉じられ、アンバーの瞳は見えない。
(誰にも傷つけられないように。これ以上傷つかないように。お前をどこかに仕舞っておけたら、どんなにラクか……)
出来ないと分かっていながら、ふとそんなことを考えてしまう。思わず手を伸ばし優しくその頬を撫でた。
「⁉」
頬に触れた瞬間、りおの目がパッと開いた。美しいアンバーの瞳と目が合う。まだ戦闘の緊張が残っているのだろう。その目は鋭い。
目の前に居るのが昴だと分かった途端、ふにゃりと表情が緩んだ。
「あ…、ごめんなさい。寝ちゃってた」
「す、すまない。俺の方こそ、起こしてしまったな」
昴は少し残念そうに手を引っ込めると、謝罪の言葉を口にした。
「いよいよ向こうも切羽詰まって来たのか、直接手を下してきたな」
「…うん。さっきの男、かなりの手練れだよ。もしかすると軍人か、傭兵……もしくは要人警護とかの経験者かもしれない。
クライアントを守るため、自分の体すらも盾にする。そんな鍛え方だった」
「ほう、お前の攻撃をくらっても平気なヤツとは……。確かにそっち系の可能性はあるな。
何にしても気を抜くなよ。お前を手に入れるためには、手段を選ばないだろうからな」
「わかった」
前回は身辺調査をして周りを固め、夜中に薬でも使って拉致する手はずだったのだろうが、コナンの機転で回避できた。そして今回正攻法で攻めて来たものの、それも失敗に終わった。
(次はどんな手で来るのか……)
りおの腕に巻かれた包帯を見て、昴は不安を覚えた。
***
ピアノの生演奏が流れる深夜のバー。美しい調べに耳を傾ける者、会話を楽しむ者、洒落た名のついたカクテルを眺め、味わう者——。
客たちが自分の好みに合わせて夜を楽しむ。
そんな中、ベルモットは一人、カウンター席にに座っていた。細身のタバコに火をつけ、ふ~っと静かに煙を吐き出す。
タバコを指に挟んだまま、目の前のマティーニに口を付けると「ギィッ」と椅子が鳴り、待ち人が隣に座った。
「遅かったじゃない。今日は来ないんじゃないかと思ったわ」
「こっちだって暇じゃねぇんだよ」
長い銀髪を揺らし、ジンはそう吐き捨てるように言うと、バーテンに向かって手を上げた。
「いらっしゃいませ」
「マンハッタンを」
「かしこまりました」
ジンのオーダーを聞いたバーテンは、すぐに必要な材料をカウンター下へ準備する。カクテルを作る美しい所作を、ベルモットは何となく目で追っていた。
「で、ラスティーを狙うヤツの事は分かったの?」
グラスの中で揺れるオリーブをピックで弄びながら、ベルモットはジンに問いかけた。
「今あっちこっちの情報屋に当たらせている。
そのうちの一人が、何か良いネタを持っているらしい。直々に俺が出向いて話を聞きたかったが、タイミングが悪くてな……。
俺は明日からしばらく日本を離れる。そっちはバーボンに任せてある」
ジンはタバコを取り出すとそれを口元に運ぶ。
ジジジ……
左手でマッチを擦ると、咥えたタバコの先に火を近付ける。慣れた手つきでタバコを指に挟んだジンは、気怠そうに紫煙を燻らせた。
「安心しろ、ベルモット。後の指示も、ラスティーへの連絡も、すべてバーボンに任せておいた。
フッ。ラスティーも俺から連絡するより、ヤツから聞いた方が良いだろ」
何度か煙を吐き出すと、いつもの様に吸い口を噛み潰す。その顔は疲れているようにも見えた。
「ずいぶんお疲れのようね」
一部始終を眺めていたベルモットが、声をかける。
「それとも……あの時、ラスティーを抱けなくて欲求不満なのかしら?」
ベルモットの嫌味に、ジンの目がギラリと険しくなった。
「お前さえ部屋に入ってこなければ、アイツを思う存分汚せたものを……。よくもまあ、俺の邪魔をしてくれたな」
「私の可愛いラスティーを、あなたに汚されるなんてまっぴらよ。今後は謹んでちょうだい。
これ以上あの子を傷つけないで」
鋭い目を向け、ベルモットはジンを威嚇する。それを見てジンはフッと鼻で笑った。
「そんな怖い顔するな。分かったよ。俺もあの方の怒りを買ってまで、アイツを汚す気は無い。
今後は今まで通り【組織の仲間】という位置でいよう。……だが」
そこまで言って、ジンはベルモットの横顔に自身の顔を近づける。
「お前が知っている通り、俺は気まぐれだ。またいつ、アイツを抱きたくなるかは分からん。
まあ、ラスティーには『気を付けろ』とでも言っておけ」
すぐに顔が離れ、再び煙を吸い込む。その横顔をベルモットは睨みつけた。
「お待たせいたしました」
ジンの前に、出来上がったマンハッタンが置かれる。それに口づける様子を、ベルモットはただ黙って見ていた。
その後はお互い大した話もしないまま、ジンのグラスが空になる。
「おっと…そうだ」
席を立ち、店を出ようとしたジンが、何か思い出したようにベルモットに声をかけた。
「お前の可愛いラスティーだが……。アイツ、男に抱かれているぞ。かなり感度が良いし、左の鎖骨の下……ちょうど服で隠れる所だが、キスマークがあった」
「ッ!」
ジンは自身の鎖骨あたりをトントン、と指さした。ベルモットは驚き、目を見開く。
「どんな男に、毎夜抱かれているんだろうなァ」
くっくっと楽しそうにジンは笑う。
「アイツがその男の下で、どんなふうに乱れて啼くのか……興味をそそられるところだが、それを見下ろす男がどんなヤツなのか、一目見てやりたいと思わないか?」
動揺するベルモットの顔を見て、ジンは満足そうに口角を上げる。
「まあ、ひと目見て……その頭に風穴を開けてやるがな。来葉峠の……赤井秀一のように」
表情は変わらなかったが、ゾクリとするほど冷たい声で言い放つ。
ベルモットがごくりと唾を飲み込んだのを見て、ジンは笑いながら店を出て行った。
「あの子も大人の女性だもの。そんな相手が居てもおかしくないわ……」
ベルモットは声に出して、そう自分に言い聞かせる。しかし自分でも驚くほど動揺している事に気付いた。
「でも……あの子を抱いている男って……いったい誰?」
ベルモットの目が訝(いぶか)しげに細められた。