第5章 ~カルト集団~
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翌日———
さくらはGPS付き腕時計をして、大学へと出勤した。
「最近の機器はすごいわね。私の体調に変化があれば、自動でGPSがONになるなんて」
腕時計を眺めながら、さくらは感嘆のため息をこぼす。
自分で提案をしておいてなんだが、四六時中居場所を知られるなんて、例え相手が昴だとしても、出来れば遠慮したい。
(トイレにだって、おちおち行けないわ……)
何かあった時だけGPSが作動するというのは本当にありがたいことだ。どうやら博士に頼んで作ってもらったらしい。
この時計をはめている限り、さくらのバイタルは常にチェックされており《心拍》以外にも《呼吸》や《体温》もチェックできる優れものだ。
朝、『絶対外すなよ!』 と念を押されて出て来たことを思い出し、昴の心配性には頭が下がるわ……と、さくらは再びため息をついた。
その日の夜——。
「はぁ~…。すっかり遅くなっちゃった」
今日は大学で職員による会議があり、帰宅がいつもより遅くなってしまった。連絡はしてあるものの、昴も心配しているだろう。
(そういえば…会議中何度かメール来たなぁ……)
ふと、つい先ほどまでの会議を思い出す。
今日の会議は理学部と関係ない話も多く、さくらは会議中、少しウトウトしてしまった。
(眠くて体温が上がったせいか、何度か昴さんから安否確認のメールが来たけど……。こりゃ完全な安眠妨害だわ……)
速足で歩きながら腕時計を見つめる。精度が良いのか、さくらの体の変化は寸分違わず送られているようだ。
(博士に頼んで、もう少し精度落とせないかなぁ……。教授の寒いギャグにも反応しそうでコワいわ)
やれやれと、今日何度目かのため息をついた。
コツ、コツ、コツ……
さくらの足音が静かな住宅街に響く。工藤邸へと向かう道はかなり暗くなっていた。
それでも街灯が点いているので、真っ暗なわけでは無い。時々犬の散歩をしている人や、コンビニの袋をぶら下げたサラリーマンとすれ違った。
コツ、コツ、(ザッ) コツ、コツ、(ザッ) コツ、コツ(ザッ)……
(やっぱり…つけられてる…)
大学を出てしばらくして、尾行されている事に気付いた。気配を消すのが上手く、すぐに以前自分をつけ狙っていた人物だと分かる。
その時と同じ小さな小さな足音が、さくらの耳にはしっかり聞こえていた。
しかも自分よりも足音の数が少ない。
それでも一定の距離を保っているということは、かなり大股で歩いていると推測される。
(私より身長が高い……着地音も私より重たい音がするから……おそらく男性、か)
時間が遅いせいで、今までより鮮明に尾行者の足音が聞こえる。
試しにこの先住宅街を抜ける通りへ曲がってみると、その尾行者も同じ角を曲がった。
そのままさくらは小さな公園へと足を踏み入れた。
公園の中ほどで立ち止まる。
「さっきから私をつけてきて……何か御用ですか?」
「ッ!」
どうやら相手は、尾行に気付かれているとは思わなかったらしい。さくらはゆっくり振り返る。
「え……」
初めて見る尾行者の姿。だが、その姿は上下黒い服を着た、ガタイの良い男だった。肩や腕、胸部にはガッシリとした筋肉が乗っている。
特に二の腕は小学生の腰回りほどもありそうだ。その上、異様な気を発し、鋭い眼差しを向けている。
さくらはいつになく緊張した。男は声を発することなく、ポケットからペンのようなものを取り出す。
チャキッ
それを下に向かって振り下ろすと、中から何かが飛び出した。
「伸縮型の警棒⁉」
男の手には長さ40センチほどの警棒が握られていた。
(ナイフや銃ではなく警棒って事は……気絶させて拉致するつもりね!)
さくらは眉を寄せる。
ジャリ……
男が一歩近づいた。同時にアンバーの瞳が鋭く光る。
男が警棒を振り上げた瞬間を狙って、さくらは素早く懐に飛び込んだ。
ブーッブーッブーッ
昴のスマホが振動する。
「ッ! りおの心拍が一気に上がってる⁉ 何かあったのか⁉」
昴の顔に緊張が走る。スマホの画面にはマップが表示され、赤い点が点滅していた。
「場所は……すぐ近くだ!」
キャビネットに置いてあった銃をホルダーに差し込むと、昴は急いで工藤邸を出た。
***
ひゅぅッ!
警棒が空を切る。
ギリギリのところでさくらが避けた。
「はぁ……はぁ……はぁ……痛ッ…」
先ほど殴られた左腕がズキズキと痛む。
相手にも、さくらの蹴りや手刀が何発か決まっている。が、予想以上に筋肉質で、とても効いているようには見えない。
(相当訓練を積んでいるわ。その上……何なの? あの鋼のような筋肉。私の力で攻撃を入れてもびくともしないなんて……。軍人でもここまで鍛えている人を見た事無いわ)
尚も警棒を振りかざし、男は連続攻撃を仕掛けてくる。
さくらはそれを素早く避けた。が、それもそろそろ限界だ。長野の時と比べればだいぶマシになったとはいえ、まだ体力は完全ではない。
ましてやかなりの体格差。明らかに不利だ。
「おのれ! ちょこまかと逃げやがって」
イラついた男がさらに力を込め、さくらに襲い掛かる。さくらがそれを避けようと足に力を入れた瞬間、カクンと膝の力が抜けた。
(あ、だめだ……避けきれない)
片膝をつき、衝撃に耐えようと身を固くした。男がさくらの目の前に迫る。
(取った!!)
その顔は勝利を確信したように笑っていた。
「さくらっ!」
昴の声が聞こえ、男の攻撃がさくらに当たる直前で止まる。
「チッ! 騒ぎになると面倒だ」
昴がこちらに向かって走ってくるのが見える。男は、後ろ向きに数歩下がると、舌打ちをして足早にその場を去った。
さくらは左腕を押さえ、その場にぺたりと座り込む。
「さくら! 大丈夫ですか⁉」
昴が駆け寄り、膝をついてさくらの顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫……腕、殴られたけど……骨は折れて、ない」
はぁはぁと息を切らし、真っ青な顔をしている。
「とにかく。帰って手当をしましょう」
昴はさくらを立たせると体を支え、その場を後にした。
さくらはGPS付き腕時計をして、大学へと出勤した。
「最近の機器はすごいわね。私の体調に変化があれば、自動でGPSがONになるなんて」
腕時計を眺めながら、さくらは感嘆のため息をこぼす。
自分で提案をしておいてなんだが、四六時中居場所を知られるなんて、例え相手が昴だとしても、出来れば遠慮したい。
(トイレにだって、おちおち行けないわ……)
何かあった時だけGPSが作動するというのは本当にありがたいことだ。どうやら博士に頼んで作ってもらったらしい。
この時計をはめている限り、さくらのバイタルは常にチェックされており《心拍》以外にも《呼吸》や《体温》もチェックできる優れものだ。
朝、『絶対外すなよ!』 と念を押されて出て来たことを思い出し、昴の心配性には頭が下がるわ……と、さくらは再びため息をついた。
その日の夜——。
「はぁ~…。すっかり遅くなっちゃった」
今日は大学で職員による会議があり、帰宅がいつもより遅くなってしまった。連絡はしてあるものの、昴も心配しているだろう。
(そういえば…会議中何度かメール来たなぁ……)
ふと、つい先ほどまでの会議を思い出す。
今日の会議は理学部と関係ない話も多く、さくらは会議中、少しウトウトしてしまった。
(眠くて体温が上がったせいか、何度か昴さんから安否確認のメールが来たけど……。こりゃ完全な安眠妨害だわ……)
速足で歩きながら腕時計を見つめる。精度が良いのか、さくらの体の変化は寸分違わず送られているようだ。
(博士に頼んで、もう少し精度落とせないかなぁ……。教授の寒いギャグにも反応しそうでコワいわ)
やれやれと、今日何度目かのため息をついた。
コツ、コツ、コツ……
さくらの足音が静かな住宅街に響く。工藤邸へと向かう道はかなり暗くなっていた。
それでも街灯が点いているので、真っ暗なわけでは無い。時々犬の散歩をしている人や、コンビニの袋をぶら下げたサラリーマンとすれ違った。
コツ、コツ、(ザッ) コツ、コツ、(ザッ) コツ、コツ(ザッ)……
(やっぱり…つけられてる…)
大学を出てしばらくして、尾行されている事に気付いた。気配を消すのが上手く、すぐに以前自分をつけ狙っていた人物だと分かる。
その時と同じ小さな小さな足音が、さくらの耳にはしっかり聞こえていた。
しかも自分よりも足音の数が少ない。
それでも一定の距離を保っているということは、かなり大股で歩いていると推測される。
(私より身長が高い……着地音も私より重たい音がするから……おそらく男性、か)
時間が遅いせいで、今までより鮮明に尾行者の足音が聞こえる。
試しにこの先住宅街を抜ける通りへ曲がってみると、その尾行者も同じ角を曲がった。
そのままさくらは小さな公園へと足を踏み入れた。
公園の中ほどで立ち止まる。
「さっきから私をつけてきて……何か御用ですか?」
「ッ!」
どうやら相手は、尾行に気付かれているとは思わなかったらしい。さくらはゆっくり振り返る。
「え……」
初めて見る尾行者の姿。だが、その姿は上下黒い服を着た、ガタイの良い男だった。肩や腕、胸部にはガッシリとした筋肉が乗っている。
特に二の腕は小学生の腰回りほどもありそうだ。その上、異様な気を発し、鋭い眼差しを向けている。
さくらはいつになく緊張した。男は声を発することなく、ポケットからペンのようなものを取り出す。
チャキッ
それを下に向かって振り下ろすと、中から何かが飛び出した。
「伸縮型の警棒⁉」
男の手には長さ40センチほどの警棒が握られていた。
(ナイフや銃ではなく警棒って事は……気絶させて拉致するつもりね!)
さくらは眉を寄せる。
ジャリ……
男が一歩近づいた。同時にアンバーの瞳が鋭く光る。
男が警棒を振り上げた瞬間を狙って、さくらは素早く懐に飛び込んだ。
ブーッブーッブーッ
昴のスマホが振動する。
「ッ! りおの心拍が一気に上がってる⁉ 何かあったのか⁉」
昴の顔に緊張が走る。スマホの画面にはマップが表示され、赤い点が点滅していた。
「場所は……すぐ近くだ!」
キャビネットに置いてあった銃をホルダーに差し込むと、昴は急いで工藤邸を出た。
***
ひゅぅッ!
警棒が空を切る。
ギリギリのところでさくらが避けた。
「はぁ……はぁ……はぁ……痛ッ…」
先ほど殴られた左腕がズキズキと痛む。
相手にも、さくらの蹴りや手刀が何発か決まっている。が、予想以上に筋肉質で、とても効いているようには見えない。
(相当訓練を積んでいるわ。その上……何なの? あの鋼のような筋肉。私の力で攻撃を入れてもびくともしないなんて……。軍人でもここまで鍛えている人を見た事無いわ)
尚も警棒を振りかざし、男は連続攻撃を仕掛けてくる。
さくらはそれを素早く避けた。が、それもそろそろ限界だ。長野の時と比べればだいぶマシになったとはいえ、まだ体力は完全ではない。
ましてやかなりの体格差。明らかに不利だ。
「おのれ! ちょこまかと逃げやがって」
イラついた男がさらに力を込め、さくらに襲い掛かる。さくらがそれを避けようと足に力を入れた瞬間、カクンと膝の力が抜けた。
(あ、だめだ……避けきれない)
片膝をつき、衝撃に耐えようと身を固くした。男がさくらの目の前に迫る。
(取った!!)
その顔は勝利を確信したように笑っていた。
「さくらっ!」
昴の声が聞こえ、男の攻撃がさくらに当たる直前で止まる。
「チッ! 騒ぎになると面倒だ」
昴がこちらに向かって走ってくるのが見える。男は、後ろ向きに数歩下がると、舌打ちをして足早にその場を去った。
さくらは左腕を押さえ、その場にぺたりと座り込む。
「さくら! 大丈夫ですか⁉」
昴が駆け寄り、膝をついてさくらの顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫……腕、殴られたけど……骨は折れて、ない」
はぁはぁと息を切らし、真っ青な顔をしている。
「とにかく。帰って手当をしましょう」
昴はさくらを立たせると体を支え、その場を後にした。