第5章 ~カルト集団~
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りおが工藤邸に戻った、その日の夕方———
毛利探偵事務所で、小五郎は身なりを整えて依頼人を待っていた。
「ちょっとお父さん! どうしたのよ。そんなにバッチリおしゃれして……。あ、もしかして。今回の依頼人って美人さんなんじゃ……」
いつもはだらしない小五郎がビシッとスーツを着こなし、ヒゲや髪をセットして、ご丁寧に応接ソファーでポーズを決めている。
「ば、バカ! そ、そんなわけあるか! 仕事なんだからこれくらい当然だろう。ヘンな言いがかりをつけてくるんじゃない!」
図星な時ほど怒り口調になるのは小五郎の癖だ。本人は全くそれに気付いていないが。
(これで『名探偵』って名乗ってて、本当に良いのかしら……)
蘭はいつものことながら心配になる。
(どこをどー見たって、美人の依頼人が来るようにしか見えねぇよ……)
通常運転の小五郎を知っているコナンは半目のまま、やれやれと両手を広げた。
約束の時間は18時。時間ピッタリに依頼人が探偵事務所へとやってきた。
依頼人の名は《平永 実代/ひらなが みよ》28歳。都内の商社に勤めているという。
OLらしく清潔感のあるスーツを着て、髪は黒色。化粧も派手過ぎず、目鼻すじの通った美人だ。
実代が応接ソファーに座ると、小五郎は一瞬目をハートにして美人の来訪に大喜びだったが、すぐにワイルド感を匂わせ、女性に近づいた。
「平永実代さん…でしたか。で、今日はどのようなご依頼でしょうか」
さりげなく女性の隣に座り、いつもより低い声で問いかけた。
「え、ええ。実は……ある女性を調べて頂きたいんです」
小五郎の距離感に一瞬ギョッとしながらも、実代はそう切り出した。
「ある女性を? それはまたなぜです?」
身辺調査と聞いて小五郎は目を丸くすると、探偵らしく依頼内容について詳しく説明するよう促した。
「実は……私にはお付き合いしている男性がおりまして。その人とは結婚の約束もしているのですが、最近様子がおかしくて……。お恥ずかしい話なのですが、どうやら私の他に女性がいるようで……」
「なんですとッ!」
実代の話を聞いた小五郎が突然叫んだ。
「こんな素敵な女性と結婚の約束をしながら、別に女性がいるだなんて……。その男、けしからんですな!」
女性の気を引くためだろうか。小五郎は実代を擁護するように相手の男を非難した。
「あ、いえ。そ、それが……どうやら相手の女性の方が言い寄っているようなんです」
「え? そ、そうなんですか?」
風向きが怪しくなり、小五郎の声が小さくなる。
「ご、ゴホン。で、では、その言い寄っている女性を調べて欲しいと」
仕切り直すように、小五郎は今回の依頼内容を確認した。
「はい。その女性の名前や仕事、お住まい、素性も分かれば。もし裁判などになれば、相手の事を知っていた方が良いと思いますので」
(裁判か……。まだ結婚しているわけでもないのに。物騒だな……)
コナンはわずかに違和感を感じた。名前や職業、住所までは良いとしても、素性まで調べろとは……。
結婚前の婚約者にちょっかいを出す女の、血筋や家柄、育ちまでとなると、ちょっと異様な気もする。
「それでは、その女性の写真か何かお持ちですか?」
「それなら……先日友人に頼んで隠し撮りしたものがございます」
実代は自分のバッグに手を伸ばすと、写真の入った封筒を取り出した。
「どれ。拝見させていただきます」
小五郎が封筒を手に取り、中から写真を引き出す。コナンと蘭も覗き込んだ。
「「「ええッ⁉」」」」
写真を見た3人は同時に声を上げた。
「実代さんの彼に言い寄ってる女性って……さくらさん⁉」
小五郎が手にした写真には、大学の敷地内でたくさんの資料を抱えたさくらが写っていた。
「ちょ、ちょっと待ってください! さくらさんが人の婚約者にちょっかいだなんて……何かの間違いじゃないですか?」
蘭は立ち上がって叫んだ。
「そ、そうだよな……。あのお嬢さんには確か恋人が……」
小五郎も面識がある上、蘭たちからも話をよく聞く。さくらは二股をかけるような女性では無いと実代に説明した。
「あら、この女性は毛利探偵のお知り合いでしたか。なら話は早いですわ。あなた方がそこまでおっしゃるなら尚の事、この女性について調べてください。本当にこの方が彼を誘惑していないという証拠を見せて頂ければ、私も裁判については考え直します」
「…ッ」
実代が取り乱すことなく淡々とそう告げると、小五郎は何も言い返せず黙ってしまった。
「期限は1週間。名探偵毛利小五郎の手にかかれば、この程度の調査はすぐに出来ますでしょ?」
実代は立ち上がり、「では1週間後の同じ時間に」という言葉を残して事務所を出て行った。
「ちょっと…お父さん。この依頼受けるの?」
蘭が不安そうに小五郎に問いかける。
「こうなったら受けねぇワケにはいかねぇだろ。むしろ、ちゃんとあのお嬢さんの無実を証明してやった方が良い」
「…そっか…そうだね…」
小五郎の言葉に蘭も納得する。
(あの《実代》って女性、妙に冷静だった……。何か引っかかるな……)
コナンは胸騒ぎを覚え、実代が出て行ったドアをジッと見つめた。
***
数日後——
「ふぅ~…」
小五郎はネクタイを緩めると応接用ソファーにドッカリと腰を下ろした。
あれから《星川さくら》について調べているが、これと言って気になる事はない。
ごく普通の家庭で育って、ごく普通に高校・大学と進み、その大学の恩師の元で働いている。
むしろ普通過ぎて、どこも突っつくところが無い。
「強いて言やぁ、ご両親は今海外暮らし……。
娘一人日本に置いて海外とはなぁ~。まあ、あの探偵ボウズの家も同じか。
あとは叩いてもホコリ一つ出やしない。学生や教授の間でも評判良いし……」
小五郎は調査資料をテーブルに投げ置くと、足を乗せ「あ~あ」と伸びをした。
「んじゃ、次は行動確認と行きますか!」
伸ばした両腕をソファーの背もたれにかけると、小五郎は部屋の時計を見上げた。
同日夕方——
(また誰かつけて来る……。でもこの前の人とは明らかに違う……)
さくらは資料を片手に大学構内を歩いていた。
つい数日前までベルモットのセーフハウスで身を隠してから、尾行や盗撮は無かったのだが。
再び誰かにつけ狙われ、さすがにそろそろ相手の正体を突き止めなければと思った。しかしどうも先日の尾行者とは違うようだ。
(選手交代? それとも別の?)
あらゆる可能性を模索しながら構内を歩く。
やがてさくらは構内の建物の角を曲がった。尾行していた黒い影が慌てて後を追う。
影は建物の壁に背中を付け、そっとさくらの様子を伺い見た。
「ッ! い、いない⁉」
(確かにこの角を曲がったはずなのに…)
黒い影はキョロキョロと辺りを見回すと、慌てた様子で駆けて行った。
(なぜ毛利さんが……?)
小五郎が走り去っていく後姿を、建物の2階の窓からさくらが見ていた。
その頃、工藤邸のダイニングでは、昴とコナンがコーヒーを飲んでいた。
カップを持つ昴の顔が険しい。対面するコナンの表情も硬かった。
「なるほど。さくらの素性を調べてくれと、毛利探偵に依頼があったんですね」
「うん。さくらさんが依頼者の恋人に言い寄っているって。裁判になっても良いように、相手の女性を調べてくれって言ってきたんだ」
コナンの話を聞いて昴は「ふぅ」と小さくため息をついた。
「恋人を寝取られそうだというのに取り乱す様子も無いし……。かといって、まだ結婚もしていないのに裁判の事まで視野に入れてる。
そのギャップが逆に引っかかるんだよ…」
コナンは依頼に来た時の実代の様子を思い出し、アゴに手を当てた。
「そういう時の君のカンは、結構当たりますからね。どうやら最近さくらをつけ狙っていた犯人が、その女性と関係があると見て、間違いないかもしれません」
昴の言葉にコナンが驚いたように顔を上げる。
「さくらさん、最近誰かに狙われてたの⁉」
「ええ。特に危害を加えてくるわけではないのですが、後をつけられたり写真を撮られたりしたようです。
毛利探偵に見せた写真は、おそらくその時に撮られた物でしょう。
しばらく身を隠していたので、最近は気配を感じないとさくらは言っていましたが……。
どうやら向こうは、探偵を使って探し出そうと考えたのではないでしょうか」
「じゃ、じゃあ、さくらさんを狙っている奴らは、まだ諦めていないって事?」
「ええ、たぶん。そうでしょうね」
(実代って女…いったい何者だ…? なぜりおをつけ狙う?)
話をする昴は、終始険しい顔を崩さなかった。
毛利探偵事務所で、小五郎は身なりを整えて依頼人を待っていた。
「ちょっとお父さん! どうしたのよ。そんなにバッチリおしゃれして……。あ、もしかして。今回の依頼人って美人さんなんじゃ……」
いつもはだらしない小五郎がビシッとスーツを着こなし、ヒゲや髪をセットして、ご丁寧に応接ソファーでポーズを決めている。
「ば、バカ! そ、そんなわけあるか! 仕事なんだからこれくらい当然だろう。ヘンな言いがかりをつけてくるんじゃない!」
図星な時ほど怒り口調になるのは小五郎の癖だ。本人は全くそれに気付いていないが。
(これで『名探偵』って名乗ってて、本当に良いのかしら……)
蘭はいつものことながら心配になる。
(どこをどー見たって、美人の依頼人が来るようにしか見えねぇよ……)
通常運転の小五郎を知っているコナンは半目のまま、やれやれと両手を広げた。
約束の時間は18時。時間ピッタリに依頼人が探偵事務所へとやってきた。
依頼人の名は《平永 実代/ひらなが みよ》28歳。都内の商社に勤めているという。
OLらしく清潔感のあるスーツを着て、髪は黒色。化粧も派手過ぎず、目鼻すじの通った美人だ。
実代が応接ソファーに座ると、小五郎は一瞬目をハートにして美人の来訪に大喜びだったが、すぐにワイルド感を匂わせ、女性に近づいた。
「平永実代さん…でしたか。で、今日はどのようなご依頼でしょうか」
さりげなく女性の隣に座り、いつもより低い声で問いかけた。
「え、ええ。実は……ある女性を調べて頂きたいんです」
小五郎の距離感に一瞬ギョッとしながらも、実代はそう切り出した。
「ある女性を? それはまたなぜです?」
身辺調査と聞いて小五郎は目を丸くすると、探偵らしく依頼内容について詳しく説明するよう促した。
「実は……私にはお付き合いしている男性がおりまして。その人とは結婚の約束もしているのですが、最近様子がおかしくて……。お恥ずかしい話なのですが、どうやら私の他に女性がいるようで……」
「なんですとッ!」
実代の話を聞いた小五郎が突然叫んだ。
「こんな素敵な女性と結婚の約束をしながら、別に女性がいるだなんて……。その男、けしからんですな!」
女性の気を引くためだろうか。小五郎は実代を擁護するように相手の男を非難した。
「あ、いえ。そ、それが……どうやら相手の女性の方が言い寄っているようなんです」
「え? そ、そうなんですか?」
風向きが怪しくなり、小五郎の声が小さくなる。
「ご、ゴホン。で、では、その言い寄っている女性を調べて欲しいと」
仕切り直すように、小五郎は今回の依頼内容を確認した。
「はい。その女性の名前や仕事、お住まい、素性も分かれば。もし裁判などになれば、相手の事を知っていた方が良いと思いますので」
(裁判か……。まだ結婚しているわけでもないのに。物騒だな……)
コナンはわずかに違和感を感じた。名前や職業、住所までは良いとしても、素性まで調べろとは……。
結婚前の婚約者にちょっかいを出す女の、血筋や家柄、育ちまでとなると、ちょっと異様な気もする。
「それでは、その女性の写真か何かお持ちですか?」
「それなら……先日友人に頼んで隠し撮りしたものがございます」
実代は自分のバッグに手を伸ばすと、写真の入った封筒を取り出した。
「どれ。拝見させていただきます」
小五郎が封筒を手に取り、中から写真を引き出す。コナンと蘭も覗き込んだ。
「「「ええッ⁉」」」」
写真を見た3人は同時に声を上げた。
「実代さんの彼に言い寄ってる女性って……さくらさん⁉」
小五郎が手にした写真には、大学の敷地内でたくさんの資料を抱えたさくらが写っていた。
「ちょ、ちょっと待ってください! さくらさんが人の婚約者にちょっかいだなんて……何かの間違いじゃないですか?」
蘭は立ち上がって叫んだ。
「そ、そうだよな……。あのお嬢さんには確か恋人が……」
小五郎も面識がある上、蘭たちからも話をよく聞く。さくらは二股をかけるような女性では無いと実代に説明した。
「あら、この女性は毛利探偵のお知り合いでしたか。なら話は早いですわ。あなた方がそこまでおっしゃるなら尚の事、この女性について調べてください。本当にこの方が彼を誘惑していないという証拠を見せて頂ければ、私も裁判については考え直します」
「…ッ」
実代が取り乱すことなく淡々とそう告げると、小五郎は何も言い返せず黙ってしまった。
「期限は1週間。名探偵毛利小五郎の手にかかれば、この程度の調査はすぐに出来ますでしょ?」
実代は立ち上がり、「では1週間後の同じ時間に」という言葉を残して事務所を出て行った。
「ちょっと…お父さん。この依頼受けるの?」
蘭が不安そうに小五郎に問いかける。
「こうなったら受けねぇワケにはいかねぇだろ。むしろ、ちゃんとあのお嬢さんの無実を証明してやった方が良い」
「…そっか…そうだね…」
小五郎の言葉に蘭も納得する。
(あの《実代》って女性、妙に冷静だった……。何か引っかかるな……)
コナンは胸騒ぎを覚え、実代が出て行ったドアをジッと見つめた。
***
数日後——
「ふぅ~…」
小五郎はネクタイを緩めると応接用ソファーにドッカリと腰を下ろした。
あれから《星川さくら》について調べているが、これと言って気になる事はない。
ごく普通の家庭で育って、ごく普通に高校・大学と進み、その大学の恩師の元で働いている。
むしろ普通過ぎて、どこも突っつくところが無い。
「強いて言やぁ、ご両親は今海外暮らし……。
娘一人日本に置いて海外とはなぁ~。まあ、あの探偵ボウズの家も同じか。
あとは叩いてもホコリ一つ出やしない。学生や教授の間でも評判良いし……」
小五郎は調査資料をテーブルに投げ置くと、足を乗せ「あ~あ」と伸びをした。
「んじゃ、次は行動確認と行きますか!」
伸ばした両腕をソファーの背もたれにかけると、小五郎は部屋の時計を見上げた。
同日夕方——
(また誰かつけて来る……。でもこの前の人とは明らかに違う……)
さくらは資料を片手に大学構内を歩いていた。
つい数日前までベルモットのセーフハウスで身を隠してから、尾行や盗撮は無かったのだが。
再び誰かにつけ狙われ、さすがにそろそろ相手の正体を突き止めなければと思った。しかしどうも先日の尾行者とは違うようだ。
(選手交代? それとも別の?)
あらゆる可能性を模索しながら構内を歩く。
やがてさくらは構内の建物の角を曲がった。尾行していた黒い影が慌てて後を追う。
影は建物の壁に背中を付け、そっとさくらの様子を伺い見た。
「ッ! い、いない⁉」
(確かにこの角を曲がったはずなのに…)
黒い影はキョロキョロと辺りを見回すと、慌てた様子で駆けて行った。
(なぜ毛利さんが……?)
小五郎が走り去っていく後姿を、建物の2階の窓からさくらが見ていた。
その頃、工藤邸のダイニングでは、昴とコナンがコーヒーを飲んでいた。
カップを持つ昴の顔が険しい。対面するコナンの表情も硬かった。
「なるほど。さくらの素性を調べてくれと、毛利探偵に依頼があったんですね」
「うん。さくらさんが依頼者の恋人に言い寄っているって。裁判になっても良いように、相手の女性を調べてくれって言ってきたんだ」
コナンの話を聞いて昴は「ふぅ」と小さくため息をついた。
「恋人を寝取られそうだというのに取り乱す様子も無いし……。かといって、まだ結婚もしていないのに裁判の事まで視野に入れてる。
そのギャップが逆に引っかかるんだよ…」
コナンは依頼に来た時の実代の様子を思い出し、アゴに手を当てた。
「そういう時の君のカンは、結構当たりますからね。どうやら最近さくらをつけ狙っていた犯人が、その女性と関係があると見て、間違いないかもしれません」
昴の言葉にコナンが驚いたように顔を上げる。
「さくらさん、最近誰かに狙われてたの⁉」
「ええ。特に危害を加えてくるわけではないのですが、後をつけられたり写真を撮られたりしたようです。
毛利探偵に見せた写真は、おそらくその時に撮られた物でしょう。
しばらく身を隠していたので、最近は気配を感じないとさくらは言っていましたが……。
どうやら向こうは、探偵を使って探し出そうと考えたのではないでしょうか」
「じゃ、じゃあ、さくらさんを狙っている奴らは、まだ諦めていないって事?」
「ええ、たぶん。そうでしょうね」
(実代って女…いったい何者だ…? なぜりおをつけ狙う?)
話をする昴は、終始険しい顔を崩さなかった。