第5章 ~カルト集団~
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RX-7は控えめに住宅街を走る。工藤邸の2ブロック手前で降谷は車を停めた。
「赤井より先に僕のところに来たのはまずいぞ。家の前までこの車で行ったらアイツ絶対嫉妬するから。ここからは歩けよ」
「は、はい……」
車を降りたりおは軽く頭を下げた。
「じゃあな」と言って発進した降谷の車は、次の十字路で右折し、工藤邸までの真っすぐな道にはりおしかいない。意を決して、工藤邸に向かって歩き出す。
しかし、その足取りは重い。普通に歩けば数分のところを、りおは十五分以上かけてたどり着いた。
リンゴ~ン
工藤邸のチャイムが鳴り響く。
ガチャッ!
インターホンでの応答はなく、いきなり玄関のドアが開いた音が聞こえ、りおの体は反射的に強張った。
キ——…
ゆっくり門扉が開くと、りおは思わず下を向く。
「あ、あの……」
「おかえり。まずは中へ」
昴の声ではあったものの、いつもよりずいぶん低い。二の腕を掴まれて、そのまま家の中へと引き入れられた。
ふたりで玄関に入ると、昴はガチャリとカギをかけた。靴を脱ぐ暇もほとんど与えられず、脱ぎ捨てるような状態で寝室へと連れて行かれる。
部屋のドアを閉めるとようやく腕を離され、お互い違う方向に体を向けたまま押し黙った。
いたたまれなくなったりおが口火を切る。
「あ、あの…昴さん……か、勝手な事をして…ごめんなさい。
私をつけ狙っているヤツがジンかどうか…それだけどうしても確かめたくて……。結果的にジンじゃなくて……。でも、迂闊だったって反省してる。心配かけて、ごめんなさい」
謝罪の言葉を聞き、昴はりおの方へ視線を向けた。そのまなざしは鋭く、そして冷たい。りおは思わず目を背けた。
ピッ!
「りお」
変声機の電源を切ると、赤井の声でりおの名を呼んだ。名を呼ばれただけで、その威圧感にりおの肩がビクッと揺れる。
昴は視線だけではなく、体ごとりおの方へ向き直ると、ウィッグとメガネを外しベッドサイドに置いた。
「ジンに……どこまでされた?」
「え?」
「どこまでされたのか聞いている」
「どこまで…って…。き、キスされて……シャツを破られて…上半身を触られ…——」
訊かれた事に答えている途中で、赤井はりおの肩を掴むとベッドに押し倒した。
「え? ちょ、しゅ……」
ベッドの上とはいえ、背中から着地した衝撃でアザになった背中が痛む。
「痛ッ…!」
思わず声が出てしまった。赤井は一瞬ハッとしたが、その衝動を止めることが出来ず、着ていたシャツを強引に脱がす。
ボタンが一つはじけ飛んだ。首元のスカーフを乱暴に取ると、赤井は息を飲んだ。
「ッ‼ こ、これは…ッ!」
首から胸元まではっきりと付けられたキスマークの数々。日にちが経ってだいぶ薄くなってはいるが、かなり強く肌を吸われたことがうかがえる。
その他にも強く押さえ込まれた時についた打撲痕や圧迫痕が痛々しい。
りおの右肩を掴んで体を横向きにさせると、先ほど痛んだであろう背中側を見た。
「ッ‼」
背中は広範囲が赤黒く変色していた。かなりの力で壁に叩きつけられたのだろう。
一時意識が飛んで、翌日には熱も出したと聞いてはいたが、まさかここまでとは。
「お前…これ…打撲じゃすまないだろ…」
背中のアザを見つめるペリドットが、動揺で揺れる。
「正直に言え。熱を出したと聞いた。背中のケガはどの程度だったんだ? ドクターには診せたのか?」
赤井の声が震えていた。怒りと心配と——色んな感情が入り混じった声だった。
「ベルモットのセーフハウスに連れて行かれて…しばらく休んでたんだけど…少し息が苦しくなって。そしたら……吐血……しちゃって……」
「吐血⁉」
赤井は驚き、思わず大きな声で叫んでしまう。
「吐血って、お前それ…肺挫傷だろう?! 骨は? 肺に損傷は⁉」
りおの顔を覗き込み、まくしたてるように問いかけた。
「だ、大丈夫。ドクターにも診察してもらったし。骨も肺組織にも問題ないって。吐血って言ってもたいした量じゃないの。呼吸も普通に出来るし、肺は大丈夫。
後は背中の……打撲が酷いだけだから」
りおの説明を聞いて、赤井は安心したように大きく息を吐くと、脱力してベッドに突っ伏した。
安室に抱かれそうになった時もキスマークやアザがあったが、こんなに酷くはなかった。
何より決定的に違うのは、そこに愛情があるかどうか。安室はりおを愛するが故の行動だったがジンは違う。彼はただ単に、美しいものを汚したいだけだ。
「くそっ!」
赤井の表情が苦しげに歪む。
「バカ野郎! お前…っ! こんな酷い事されて……!」
赤井はりおの背中に負担がかからぬよう、覆いかぶさるようにしてその体を強く抱きしめた。
やがて、赤井の手は力を緩め、りおの顔へと移動する。
りおの頬を優しく撫でると、ジッと瞳を見つめた。りおがそれを見つめ返すと、フッとペリドットの瞳は閉じ、それまでの激しい行動とは真逆の、優しいキスをりおの唇に落とした。
右手でりおの左手を取って指を絡め、左手はりおの頭を支えると、キスは次第に深くなる。
ジンに触れられたところは全て上書きするかの如く、深く浅くりおの舌を翻弄した。
「ぅ…ン、ぁ……しゅ……さ…」
息をする合間に、りおは赤井の名を呼ぶ。
「ん…りお………は…ぁ…」
赤井もまた返事をするようにりおの名を呼び、再び深く口づける。
やがて唇が離れると、赤井はキスマーク一つ一つにキスを落とし、舌を這わせた。優しく労わるように。
ジンにキスマークをつけられた時のような、痛みや不快感は無い。
りおは赤井の体に手を伸ばす。洋服越しにも感じる赤井の体温。たった数日離れていただけだというのに、懐かしく感じた。
私はここよ。俺はここにいる。
離れていた時間を埋めるように、二人は触れ合った。
「は…ぁ……んぅ……ふ…」
赤井の愛撫にりおは時折甘い声をもらした。ジワジワと体に熱が溜まり、甘いしびれが襲う。溶けてしまうような感覚に自然と息が上がる。
「お前は俺のものだ…。誰にも触れさせない」
全てのキスマークに上書きをして、赤井はりおの耳元でそうささやく。
赤井の強い愛情を感じたりおは、全身を紅潮させ、潤んだアンバーの瞳で赤井を見上げた。
「私を抱いて良いのは…あなただけ…」
りおは赤井のシャツのボタンに手を伸ばす。
一つ、また一つと外れていくのを見ていた赤井は、自分の呼吸が少しずつ荒くなっていくのを感じていた。
「は……はぁ……りお……」
赤井の目元は朱に染まり、興奮しているのが分かる。ボタンを全て外し終えたりおは、赤井に向かって両手を伸ばした。
「抱いて。秀一さん」
その言葉に吸い寄せられるように、赤井はりおと肌を重ねた。
***
どれくらいか時間が経ち、りおが目を覚ます。
どうやら赤井に腕枕をしてもらった状態で眠っていたようだ。
「起きたか」
「…ん…私…落ちてた?」
「ああ。すまん。手加減できなかった」
りおの隣で裸の赤井が、申し訳なさそうに言った。
「謝らないで。秀一さんは悪くない。こんなに心配をかけた私がいけないの」
りおは赤井の顔に手を伸ばす。そっと触れて、そのまま赤井に抱きついた。
「りお。頼むからこんな無茶はこれっきりにしてくれ。俺たちは離れてはダメなんだ。
万が一、お前をつけ狙っているヤツが組織の者だったとしても、俺の正体がバレないようにする方法はいくらでもある。
だから、一人で何とかしようとするな。それとも、俺がいるだけでは不安か?」
赤井はりおを抱きしめたまま語りかけた。
「私、ちょっと冷静じゃなかった。あなたを失ったらどうしようって。それが怖くて……とても冷静じゃいられなかったの。
でも、私たちはどんな時も一緒じゃなきゃいけなかったんだよね。一人で突っ走って……本当にごめんなさい」
りおは体を離し、真っすぐ赤井を見る。アンバーの瞳に涙が浮かんだ。
「分かってくれればそれでいい。俺のそばにいてくれ。俺もお前のそばにいるから」
赤井はりおを再び強く抱きしめた。