第5章 ~カルト集団~
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***
同日、警視庁刑事部捜査一課。
三件目の事件発生からすでに六日。報道からは四日が経っている。
「事件が起きないのは良い事だけど……。これまで三日周期で起きていた事件が、パッタリ無くなったのは不気味ね」
佐藤刑事が自分のデスクでコーヒーを飲みながらつぶやいた。
履いていたパンプスを脱いで、足を投げ出すようにして組んでいる。聞き込みで歩き過ぎた足は、パンパンに浮腫んでいた。
「ええ。連日の聞き込みでも目撃証言が出てきませんし、事件直前に被害者を見た人もいない……。
捜査は難航しています。いつ次の犠牲者が出てもおかしくないのに、この沈黙が怖いですね」
首元のネクタイを緩め、同じく疲れた顔をした高木刑事が佐藤刑事のデスクに近づいて答えた。
「犯人の目的は何だったのかしら……。三人の被害者の共通点って二十代の女性ってことくらいよね?
職業もまるで違うし、出身もバラバラ。三人に接点も無い。着衣の乱れも無いし、イタズラ目的でもない。全然突破口が見えてこないわね……。
鑑識から新しい情報とか上がって来てない?」
はいこれあなたの分、とコーヒーカップを差し出す佐藤の問いかけに、高木はハッとする。
カップを受け取り、急いで自分のデスクに戻ると鑑識の資料を持ってきた。
「そういえば今朝鑑識から、新しい情報来てます!」
「え? 何か共通点あったのかしら?」
高木の言葉に佐藤は身を乗り出す。
「え~~っと…『三名ともコンタクトレンズをしていた』そうです」
「……」
「……」
「え? それだけ?」
「はい。それだけです」
「はぁ?」
今のご時世、近視や乱視の人間はめずらしくない。しかもコンタクトレンズをしている人なんて腐るほどいる。
そんなことを言い出したら、被害者はみんな人間だし、日本人だし、都内に住んでいる。共通点だらけだ。
「それだけじゃあ全然絞り込めないし、なんの参考にもならないなぁ……」
佐藤は大きなため息をついた。
「ですよね…」
たいした情報じゃなかった事に、高木も肩を落とす。佐藤は、もう何度も目を通した鑑識の資料を、再びめくった。
「それにしても、ナイフで心臓を一突きって、それなりに知識と力が無いと出来ないわよね。犯人は男性ってことかしら?」
法医学から上がってきた被害者の資料には、凶器の形状や、心臓にどの角度から刃物が侵入したのか等、事細かに書いてある。
専門的な事は分からないにしても、肋骨の隙間を狙って心臓を一突きしているのだから、素人の仕業とは到底思えない。
「刃物の進入角度からしても、女性より身長が高い可能性が有りますが、被害者が座り込んでいた場合はこの限りではありません。
知識さえあれば女性の力でも可能だと法医学の先生はおっしゃっていましたが……」
高木は自分のメモを見ながら答える。
「はぁぁ~…。つまり、犯人は男か女かも分からないって事ね。ただ、人の体の事については知識がある、ってことか。
でも、そんなの今の時代、医者じゃなくたってその気になれば、医療サイトや闇サイトで調べることだって出来るしなぁ……」
どこを紐解いても、事件解決の糸口は見つからない。
佐藤はイスに体をダラリと預け、脱力したまま目を閉じた。
***
「ちょっと、りお! しばらく帰らないってどういうことですか?」
夕方になってりおからかかってきた電話に、昴は声を荒げた。
『最近、大学でも後をつけられたり、写真を撮られたりしてるの。
かなり手慣れているらしくて、尾行者の顔も確認できてないから、組織の者かどうかも未だに分からないのよ……。
だから安室さんにお願いして、公安のセーフハウスを使えるようにしてもらったの。
ついさっきコインロッカーから部屋のカギと、当面の生活に必要な物を取ってきたから、詳細が分かるまでそっちで生活するわ』
りおの口から安室の名が出たことに、昴は少々ムッとした。
自分の身は自分で守るし、例え《星川さくら》と《沖矢昴》の接点を組織に知られたとしても、そう簡単に《沖矢昴》=《赤井秀一》だとバレるようなヘマはしない。
そもそも先日駅で感じた気配は、組織とは違うと感じている。りおは心配しすぎだと昴は思っていた。
「りお、あなたエヴァンに言われたことを覚えていますか? 何のために一緒に暮らす事を決めたんです? 体も心もまだ本調子では無いのに……。
まして誰かにつけ狙われているなら、尚更心配です。私のそばに居てくだ……」
『ごめん。昴さん』
昴の言葉にかぶせるように、りおはつぶやいた。
『私……絶対に秀一さんを失いたくないの。だから、今は……一緒に居れない。
今日の夜、アジトに行ってジンに探りを入れてくる。
NOCを疑って尾行者を付けているとするなら、その指示を出したのは間違いなくジンのはずだから。私をつけ狙うヤツが組織の人間じゃないって分かったら、ちゃんと戻るから。
それまで……ごめんなさい』
『ブツッ…ツー…ツー…ツー…』
自分の言いたいことだけ言って、通話を切ってしまったりおに、昴はため息をつく。
「今日の夜ジンの所へ行くだと? ヤツが、お前を自分のものにしようと狙っているのにか⁉」
昴は、いや赤井は、その場に駆けつけることが出来ないというのに。昴は眉間にしわを寄せ、奥歯をギリッと噛みしめる。
一つ深呼吸をして、手にしていたスマホに視線を向けた。
同日、警視庁刑事部捜査一課。
三件目の事件発生からすでに六日。報道からは四日が経っている。
「事件が起きないのは良い事だけど……。これまで三日周期で起きていた事件が、パッタリ無くなったのは不気味ね」
佐藤刑事が自分のデスクでコーヒーを飲みながらつぶやいた。
履いていたパンプスを脱いで、足を投げ出すようにして組んでいる。聞き込みで歩き過ぎた足は、パンパンに浮腫んでいた。
「ええ。連日の聞き込みでも目撃証言が出てきませんし、事件直前に被害者を見た人もいない……。
捜査は難航しています。いつ次の犠牲者が出てもおかしくないのに、この沈黙が怖いですね」
首元のネクタイを緩め、同じく疲れた顔をした高木刑事が佐藤刑事のデスクに近づいて答えた。
「犯人の目的は何だったのかしら……。三人の被害者の共通点って二十代の女性ってことくらいよね?
職業もまるで違うし、出身もバラバラ。三人に接点も無い。着衣の乱れも無いし、イタズラ目的でもない。全然突破口が見えてこないわね……。
鑑識から新しい情報とか上がって来てない?」
はいこれあなたの分、とコーヒーカップを差し出す佐藤の問いかけに、高木はハッとする。
カップを受け取り、急いで自分のデスクに戻ると鑑識の資料を持ってきた。
「そういえば今朝鑑識から、新しい情報来てます!」
「え? 何か共通点あったのかしら?」
高木の言葉に佐藤は身を乗り出す。
「え~~っと…『三名ともコンタクトレンズをしていた』そうです」
「……」
「……」
「え? それだけ?」
「はい。それだけです」
「はぁ?」
今のご時世、近視や乱視の人間はめずらしくない。しかもコンタクトレンズをしている人なんて腐るほどいる。
そんなことを言い出したら、被害者はみんな人間だし、日本人だし、都内に住んでいる。共通点だらけだ。
「それだけじゃあ全然絞り込めないし、なんの参考にもならないなぁ……」
佐藤は大きなため息をついた。
「ですよね…」
たいした情報じゃなかった事に、高木も肩を落とす。佐藤は、もう何度も目を通した鑑識の資料を、再びめくった。
「それにしても、ナイフで心臓を一突きって、それなりに知識と力が無いと出来ないわよね。犯人は男性ってことかしら?」
法医学から上がってきた被害者の資料には、凶器の形状や、心臓にどの角度から刃物が侵入したのか等、事細かに書いてある。
専門的な事は分からないにしても、肋骨の隙間を狙って心臓を一突きしているのだから、素人の仕業とは到底思えない。
「刃物の進入角度からしても、女性より身長が高い可能性が有りますが、被害者が座り込んでいた場合はこの限りではありません。
知識さえあれば女性の力でも可能だと法医学の先生はおっしゃっていましたが……」
高木は自分のメモを見ながら答える。
「はぁぁ~…。つまり、犯人は男か女かも分からないって事ね。ただ、人の体の事については知識がある、ってことか。
でも、そんなの今の時代、医者じゃなくたってその気になれば、医療サイトや闇サイトで調べることだって出来るしなぁ……」
どこを紐解いても、事件解決の糸口は見つからない。
佐藤はイスに体をダラリと預け、脱力したまま目を閉じた。
***
「ちょっと、りお! しばらく帰らないってどういうことですか?」
夕方になってりおからかかってきた電話に、昴は声を荒げた。
『最近、大学でも後をつけられたり、写真を撮られたりしてるの。
かなり手慣れているらしくて、尾行者の顔も確認できてないから、組織の者かどうかも未だに分からないのよ……。
だから安室さんにお願いして、公安のセーフハウスを使えるようにしてもらったの。
ついさっきコインロッカーから部屋のカギと、当面の生活に必要な物を取ってきたから、詳細が分かるまでそっちで生活するわ』
りおの口から安室の名が出たことに、昴は少々ムッとした。
自分の身は自分で守るし、例え《星川さくら》と《沖矢昴》の接点を組織に知られたとしても、そう簡単に《沖矢昴》=《赤井秀一》だとバレるようなヘマはしない。
そもそも先日駅で感じた気配は、組織とは違うと感じている。りおは心配しすぎだと昴は思っていた。
「りお、あなたエヴァンに言われたことを覚えていますか? 何のために一緒に暮らす事を決めたんです? 体も心もまだ本調子では無いのに……。
まして誰かにつけ狙われているなら、尚更心配です。私のそばに居てくだ……」
『ごめん。昴さん』
昴の言葉にかぶせるように、りおはつぶやいた。
『私……絶対に秀一さんを失いたくないの。だから、今は……一緒に居れない。
今日の夜、アジトに行ってジンに探りを入れてくる。
NOCを疑って尾行者を付けているとするなら、その指示を出したのは間違いなくジンのはずだから。私をつけ狙うヤツが組織の人間じゃないって分かったら、ちゃんと戻るから。
それまで……ごめんなさい』
『ブツッ…ツー…ツー…ツー…』
自分の言いたいことだけ言って、通話を切ってしまったりおに、昴はため息をつく。
「今日の夜ジンの所へ行くだと? ヤツが、お前を自分のものにしようと狙っているのにか⁉」
昴は、いや赤井は、その場に駆けつけることが出来ないというのに。昴は眉間にしわを寄せ、奥歯をギリッと噛みしめる。
一つ深呼吸をして、手にしていたスマホに視線を向けた。