第4.5章 二人の遠出~長野旅行編~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
チュン……チュンチュン…
ピピピピ…ピロロロ~…
いつもより賑やかな鳥の声で、りおは目を覚ます。
「…ん…? 外……小鳥?」
そうだ…山奥の温泉街だったんだ…。
自分たちが旅館に泊ったことを思い出し、鳥の声が賑やかなのに納得した。
重いまぶたを何とか開けて、目だけ動かし周りを見回す。すぐ隣では赤井が眠っている。スースーと気持ちよさそうに寝息を立てていた。
(あれ? 夕べワインを飲んで…)
少しずつ頭が覚醒してきて、ワインを飲んだことから記憶を辿る。そして——
(あわわ…そうだ…ワイン飲んで酔っ払って…!)
かなり大人な時間を過ごしたことを思い出す。途端に顔が真っ赤になった。
「……ん……りお?」
突然、名を呼ばれた。
「どうした? まだ時間が早い。もう少しこうして……」
伸びてきた腕に抱き寄せられ、赤井胸元にすっぽりと納まった。
(⁉ 私達…服、着てない…)
夕べは互いに何度も求め合って溶けあって、そのまま寝落ちした。
工藤邸にいる時は、途中でシャワーを浴びて身支度を整え、再びベッドにもぐることが多いが、今回は当然服など着ているはずが無かった。
赤井はりおをバックハグした状態で二度寝を決め込んでる。
一方りおは……一度意識してしまったせいで、恥ずかしさでドキドキしていた。
「どうした? …照れているのか? 夕べはお互い溶けるほど抱き合ったのに…」
赤井が耳元でささやく。その吐息と夕べの事を思い出して、りおの体がピクリと小さく跳ねた。
「ん? ……反応してるのか?」
嬉しそうに笑うと、赤井はツーッと手を動かした。
「ちょ……秀一さん! ま、まさか…」
悪い予感は的中した。
「……もう一回…良いか?」
「良いわけ…」
ないでしょと言う前に、弱い所を撫でられた。
「ぅッん! ッぁ…」
思わず声が出て、背中をしならせた時には遅かった。
「りお…逃げるな……逃げないでくれ」
そのまま揺さぶられれば、もう言葉を発することは出来ず、結局二人が布団から出たのは、それから二時間後の事だった。
**
「りお…大丈夫か?」
「……体が…イタイ…だるい…」
「あ~~……悪かった…」
謝罪の言葉は口にするが、あの状況では致し方ないだろうと赤井は思う。
(朝起きたら、目の前に寝起きの恋人がいるんだぞ? 服着てないんだぞ? 《据え膳食わぬは男の恥》って言うだろう)
窓際のイスに座ってぐったりしながら、りおが赤井を睨んでいる。
「りお…睨むなよ…。美人が台無しだ」
「だって…今日はもう歩けないよ? 駅での乗り換えとかどうするの⁉ 車イスとかイヤだよ!」
「おんぶは?」
「もっとイヤ」
ぴしゃりと言われて赤井はため息をついた。
朝食準備の為に、仲居がドアをノックした時、二人はギリギリ身支度を整えたところだった。
「おはようございます」と仲居が朝食を手に笑顔を向ける。
布団は半分に畳まれていたが、二人の笑顔が若干引きつっていたのと、昴の髪がボサボサだったのはご愛敬……といったところか。
そうこうしているうちに、時計の針が九時を指す。諸伏が旅館の前まで車を回してくれた。
チェックアウトをして靴を履き、二人は外へと出た。
「おはようございます。今朝は冷えましたね。大丈夫でしたか?」
諸伏が薄手のコートの襟を立て、笑顔で立っていた。
「ええ。いつもより賑やかな小鳥のさえずりで目が覚めました。部屋の空調のおかげで寒さは感じませんでしたよ」
(小鳥のさえずりで起きたのは私だし、これでもかってくらいくっついてたから寒くなかっただけでしょ)
さくらは心の中でツッコむ。
それが顔に出ていたのか、昴の笑顔が若干引きつっていた。
「10時59分長野発はくたか558号でしたね?」
諸伏が昴に確認をした。
「ええ。お昼過ぎには東京に着くので、午後はゆっくり家で過ごします」
「分かました。では、この辺りの紅葉を少し見てから、駅までお送りしますね」
どうぞ、と言われて二人は諸伏の車に乗り込んだ。
昨日訪れた雷滝よりやや手前に、展望台がある。
駐車スペースに車を停めると、諸伏が後部座席の方へ振り返った。
「ちょっと寒いので、良かったらそこのブランケット使ってください」
キレイにたたまれたブランケットが後部座席に置かれていた。今朝急に寒くなったので、さくらを気付かって持って来てくれたのだろう。
「ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えて」
ブランケットを広げて肩にかけ、さくらは車から降りた。
昨日より風が強い。黄色や赤の落ち葉が風で舞い上がる。木々がザワザワと音を立てていた。
「ふぅ…さむ…」
さくらは冷たい風にブルリと身を震わせる。体がだるいせいか足元がフラついていた。それを見て、昴はさくらの風上に立つと肩を抱く。
三人は車道を横切り、展望台へと上がった。
「わあぁ~…。キレイ…」
風が強いものの天気が良く、朝日が当たる山の紅葉は色鮮やかだった。夜露を反射して近くの木々はキラキラと光っている。山裾に隠れて視界は狭いが、遠くの山々も見えた。
「ココからだと山裾ですべては見えませんが、この視界の先には《北信五岳》という山々が連なっています。
妙高山(みょうこうさん)、斑尾山(まだらおやま)、黒姫山(くろひめやま)、戸隠山(とがくしやま)、飯綱山(いいづなやま)の五つの山の事をいうんです。この後、山を下りる途中で見られますよ」
「わぁ~。楽しみです! 初日に行った戸隠山も北信五岳の一つなんですね」
地元でも有名な山だったのかと、さくらは感慨深い。
そして紅葉に彩られた美しい渓谷と澄んだ空気、流れる白い雲——。
青空の下に広がるキラキラした景色を、その目に焼き付けた。
「キレイね…」
「ええ。あなたと見れて良かった…」
諸伏に聞こえるか聞こえないかくらいの、小さな声で二人はそっとつぶやいた。
この先、まだまだ二人は戦わなければならない。
戦って戦って、また心が悲鳴を上げることがあったら……。またここに戻って来よう。
この景色を見る時は、いつも二人で。言葉で語らずとも二人の思いは一緒だった。
10時39分——
諸伏の車は長野駅に到着した。
「警部、今回はお誘いいただきありがとうございました」
「いえいえ。結局事件に巻き込んでしまって…。でも、リフレッシュできたなら良かった」
諸伏は満面の笑みで二人を見る。そして右手を差し出した。
「沖矢さん。次は……桜の時期に」
「ええ。東京の桜、是非見に来て下さい。さくらと待っています」
「そうだ。桜の時はコナンくんも誘っておいてください」
「分かりました!」
さくらとも握手をして、三人は再び顔を見る。
「それでは」
「お気をつけて」
後ろ髪を惹かれつつ、さくらと昴は諸伏に別れを告げた。
プルルルルル
新幹線の発車ベルが鳴る。二人を乗せた新幹線はゆっくりと動き出した。
「さくら、体は大丈夫ですか?」
「うん。思ったより動けたよ」
さくらはホッとしたように微笑むと昴を見上げる。
「無理させてしまって…スミマセン」
「……いいよ…ご、合意…だったんだし…」
顔を赤くして目を泳がせるさくらを見て、昴も微笑んだ。スルリとさくらの手を取ると、昴は指を絡ませる。
「夕べの疲れ、まだ取れてないでしょ。行きは私が寝させてもらいましたから、帰りはあなたが寝て良いですよ。東京に着くまでお守りします」
そう言われて、さくらの顔がさらに赤くなる。
「じゃ、お言葉に甘えて…」
手を繋いだまま、昴の肩に頭を寄せる。
「おやすみなさい」
新幹線の優しい揺れが、さくらを眠りの淵へと誘った。
「お客さ~ん。 東京に着きましたよ」
「…ん…着い…た…?」
駅員さんに声をかけられ、さくらは目を擦った。
「あれ、昴さんは…」
慌てて体を起こして隣にいたはずの昴を見る。
すぅ……——。
「え? 寝てる?」
隣には気持ち良さそうに眠る昴の姿。二人ですっかり寝落ちしていたようだ。
「誰だっけ? 『お守りします』って言ってたの」
珍しくぐっすり眠っている昴を見て、さくらはクスクス笑った。
「ほら! 昴さん! 起きて! 東京着いたよ」
「…ん? ……俺、寝てたか?」
「うん。思いっきりね。旅の疲れが出たのかな」
「いや、たぶん夕べ腰を振……」
「さ~~あ、降りるよ~!!」
寝ぼけた昴がとんでもないことを言い出しそうだったので、それを制止して立ち上がる。
「あ、さくら! ちょ、ちょっと待って……」
まだ寝ぼけ眼の昴は、慌ててさくらを追いかけた。
(いろいろあったが……いい気分転換になったな)
真っ赤な顔をしてズンズン歩くさくらを見て、昴は微笑む。
(なんだ、ちゃんと歩けてるじゃないか。じゃあ長野の余韻に浸りながら——)
この時、昴が恐ろしいことを考えていたとは。さくらは夜まで気付かなかった。
==第4.5章完==