第4.5章 二人の遠出~長野旅行編~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「お部屋にご案内しますね」
仲居さんが二人の荷物を持つと、どうぞと言って奥へと案内してくれた。
「良い部屋ね~」
「ええ。畳の部屋も良いですね」
モダン和風といった感じの部屋で、畳のスペースとフローリングのスペースが有る。間接照明がより一層部屋を柔らかく照らし、黒塗りの柱や床が明かりを受けて鈍く光っていた。
昴は畳の上に座り、長い足を投げ出した。
「はぁ~。なんだか長い一日でしたね」
「うん。県警本部で事情聴取したのが、もうずいぶん前みたい……」
確かに…と昴は相槌を打って、備え付けの冷蔵庫に手を伸ばした。
「おや、ココにもワインありますよ」
「え、ホント?」
さくらは嬉しそうに昴を見る。
「二人だけですし、夜一緒に飲みましょうか?」
「うん! やったぁ!」
満面の笑みで歓声を上げたさくらを、昴はマジマジと見た。
「あなた……意外とお酒好きですよね⁉」
ワイナリーでの飲みっぷりを見て、何となくそうかなとは思っていたけれど。
「あはは~。実は好き。酒癖悪いって言われているから我慢してるだけだよ。友達にも昴さんにも、人前で飲まないでって禁止されてるし」
さくらは照れたように頬を掻く。
「私の前だけなら……飲んでも良いですよ」
一定の量であれば、さすがのさくらもポーッとするだけだ。(その一定を越えると変貌するのだが)酔ってぽやぽやしているくらいのさくらはカワイイ。昴はニッコリと微笑む。
「酔わせてどうする気やら」
「さあ? ご想像にお任せします」
イタズラっぽくお互いの顔を見た後、アハハと笑い合った。
夕食は美味しい山の幸を存分に味わい、部屋に併設された露天風呂を堪能した。素の姿に戻った赤井とりおは、約束通り冷蔵庫の中のワインを開けた。
「長野最後の夜に」
「ええ。乾杯」
二人はワイングラスを傾けた。
「ん! わりと辛口だな。酸味があって…香りも素晴らしい」
「ホントだ! すごくさわやか…。これならどんなお料理にも合いそう…」
赤井とりおはゆっくりとワインを味わう。
鼻に抜ける香りはピュアな果実を連想させる。少し強めの酸味は口の中にさわやかさを残すが、いつまでも後を引くわけでは無い。主張しすぎない所は、まさに肉にも魚にも合うワインと言えるだろう。
「どちらかと言うと俺は赤の方が好きだが、この白ワインはなかなか…」
赤井はワインが気に入ったらしく、一口飲んでは眺め、眺めては飲んで…を繰り返している。
「てっきりバーボンしか飲まないかと思ったけど、秀一さん、結構なんでも飲めるのね」
赤井の様子を楽しげに見ていたりおは、意外そうな顔をした。
「前に博士からもらった日本酒も美味かったが、あれは口当たりが良過ぎていかんな。翌日酷い目にあった」
「いやいや、酷い目にあったのは私の方ですけど……」
ベロベロに酔った赤井は、すっかり甘えモードにシフトチェンジしたものの、ベッドの上では抑えの利かない野獣と化した。
《短編『Don’t say cute.』》
「覚えてないな」
「都合が悪いことはすぐ誰かさんのせいにしたり、忘れたことにして…」
「あ―あ―あ―、なんだ? 聞こえないな」
そっぽを向いて聞こえないフリをするとは。いったい誰の押し売りやら。
「もぉ〜! 秀一さんったら!」
りおは口を尖らせる。赤井はグラスに入ったワインを飲み干すと、そんなりおに近づいた。
「今夜はお前が俺を酔わせてくれるんだろう? それともその誰かさん……昴の方が良いのか?」
分かってて言ってくるなんて……赤井は本当に意地が悪い。
「昴さんが良いって言ったら、妬くでしょ?」
「は? 本気で言ってるのか?」
赤井は急に素になって問いかけた。りおがそんなことを言い出すなんて予想していなかったから、ちょっと驚いたようなそれでいて怒ったような、複雑な顔をしている。
「ふふっ。そんなワケないでしょ。あなた以外に抱かれるつもりはないわ」
りおは赤井の首に腕を回す。アルコールのせいでほんの少し潤んだ目で赤井を見上げた。
「ふふふ。さ~て、どっちが良いのかしら?」
「ん?」
「甘えたい? それとも甘えて欲しい?」
りおはわざと赤井の耳元で、吐息と共にささやいた。
「ッ!」
りおの息がかかって、赤井はピクリと体を揺らす。
「俺は…甘えて欲しいし…甘えたい…」
最後の言葉は照れて小さくなった。りおは目を丸くする。
「は、初めて聞いたかも。秀一さんが『甘えたい』だなんて」
しまった。これは録音しておくべきだった。
「お、お前だけだ。俺が甘えたいだなんて思った相手は……」
ちょっとムキになって答えるところが、なんともカワイイ。ライフルを構えた赤井からはとても想像できない。
りおは自分のグラスを手に取ると、残っていたワインを口に含んだ。
そのまま膝立ち状態になって、座っている赤井に口づける。
「!」
赤井の口の中に、ゆっくりワインを注ぐ。
こく…こく…
赤井の喉が、ワインを飲み込むたびに上下した。
お互いの口の中が空になると、今度は舌を絡め合う。ワインのアルコールも手伝って、キスが熱い。
唾液か…ワインか…
赤井の口から一筋液体が流れ落ちた。
「ふ…ン…ぅ…しゅ…ちさ……はぁ…」
「ん……んぁ…りお……」
お互いを求めて息が上がる。
キスだけでは足りなくて、素肌に触れたくなる。濃厚なキスはそのままに、互いの服に手を掛ける。部屋の浴衣は苦も無く肌から滑り落ちた。
二人はぴったりと肌をくっつけ合う。戸隠の崖下で暖を取った、あの時のように。
唇を離し強く抱き合った。相手の体温を感じただけで心が満たされる。だがそれもつかの間——もっと相手を欲しくなる。
「りお…もっと触れたい。もっとお前が欲しい」
「ん…。私も…秀一さんにもっと触って欲しい。もっと触りたい」
抱き合ったままお互いの首を、腕を、そして背中を——余すところなく触れあう。
「りお…抱きたい…良いか?」
「うん…抱いて……私…も…う…」
「りお…!」
赤く上気した体をしならせ、りおは赤井を求めた。赤井もまた呼吸を乱して、りおを押し倒す。お互いの名を甘く呼び合う声だけが、部屋に響いた。