第4.5章 二人の遠出~長野旅行編~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
お腹の膨れた三人は店を出る。
「はぁぁ~! 美味しかった~」
「どれを食べても美味しくて。食べ過ぎてしまいました」
満足顔の二人を見て諸伏は嬉しそうに笑う。
「ははは。それは良かった。で、お二人のこの後のご予定は?」
「夕方の新幹線に乗る、くらいしか……」
「そうですか……今夜帰られるのですか?」
諸伏は残念そうな顔をする。
「せっかく来ていただいたのに事件続きで……。もし差し支えなければ、もう一泊していかれてはいかがです?」
確かに今回はさくらの心のメンテナンスの為に長野へ旅行に来た。だが行く先々で事件に遭遇してしまい、旅行どころでは無かった。(いや、自ら足を突っ込んだのだが。
「さくら、どうしますか?」
昴がさくらの顔を覗き込む。
「……もし出来るなら、もう少しココに居たい…」
コナンに押し切られたとはいえ、せっかく来たのだ。時折心をかき乱す《遠い記憶》や《得体のしれない不安》から、少しでも離れていたい。
さくらは無意識に昴の袖口を掴んでいた。
「そうですね。せっかく静養に来たのですから、もう少しゆっくりしていきましょうか」
昴は優しくさくらの肩を引き寄せた。
「それなら、この近くの民宿を手配しましょう。ちょっと待っていてくださいね」
諸伏はスマホを取り出すと、すぐにどこかへ電話をかけた。数分で通話は切られ、ニッコリ微笑んで二人の顔を見る。
「知り合いの旅館、予約が取れましたよ。ちょっと秘境ですが……とても良い所ですよ。ご案内しますね」
**
それから四十分程車を走らせると、諸伏の車は山の中の温泉街へと到着した。
渓谷に沿って民宿が立ち並び、中央にある大湯からは温泉の湯気が立ち上っている。そんな温泉街を覆いつくすように山の木々が茂り、その全てが赤や黄色に色づき始めていた。
「すご……。どこまで行っちゃうんだろうって心配になったけど」
「ええ。まさかこんな山の中に温泉街……!」
「なかなか雰囲気のある所でしょう。今日の宿はあそこですが、チェックインの前にちょっと寄りたいところがあるので……」
諸伏が再びアクセルを踏むと、車はさらに山の中の道を上っていく。
温泉街から十分程行くと、車は小さな駐車場に滑り込んだ。
「さて、ここから少し歩きますよ」
諸伏に案内され、二人は車道の脇から細い山道へと足を踏み入れた。
ドドドドド———ッ
姿は見えないが、大量の水が流れる音が聞こえる。
「すごい音だね——!!」
「え? さくら、何か言いましたか?」
水の音にかき消され、何を言っているか分からない。昴は耳に手を当てジェスチャーをしながら訊ねた。
「すーごーいーおーとーだーねー‼」
昴の耳元に口をよせ、さらに大声で話すがそれでやっと聞こえる程度。会話をするのはかなり骨が折れた。
「お二人とも‼ 着きましたよ‼」
やがて先を行く諸伏が振り返り、目的地に着いたことを知らせる。同時にその先にある物を指さした。
「な、なに? どうなってるの?」
二人の前に現れたのは大きな滝。しかも今歩いてきた道が滝の裏側に続いている。
「先に進んでみましょう」
諸伏に促され、その道をさらに進んだ。
「まさか……滝の裏側を見れるなんて!」
整備された道が滝の裏側まで続き、轟々と流れる滝の水を裏から見る事が出来る。
「この滝の名は《雷滝》。名の由来は諸説ありますが、この流れる音が雷のようだからともいわれているんですよ。また別名《裏見の滝》とも言います」
「なるほど」
日本全国名だたる滝は多いが、裏から見る事が出来る滝は数えるほどしかない。
「そんな珍しい滝が長野県にあったのね」
さくらは感慨深げにつぶやく。周りの紅葉と相まって、美しさと珍しさで昴もため息をこぼした。
「ほ~ぉ…素晴らしい眺めですね…」
三人は時間を忘れて景色を眺めていた。
流れる水の近くは気温が低く、さくらがブルリと身震いした。
「おっと。だいぶ日も傾きましたね。風邪を引いてしまっては元も子もありません。そろそろ民宿にチェックインしましょうか」
諸伏が再び先頭を歩き、二人はついていく。
「足元濡れているから気を付けて」
昴がさくらの手を取った。
「あ、ありがとう」
さながらエスコートをする王子のような所作に、さくらはドキリとした。動揺したせいか、濡れた岩場で足を滑らせてしまう。
「きゃぁ……」
「おっと!」
手を繋いでいたおかげで転倒は免れた。というより、しっかりと昴に抱き留められた。
「ご、ごめんなさい」
「いいえ。大丈夫ですか? 気温が下がって体の動きが悪くなってきてますね。あなた冷え性だから……」
いや、原因はそれだけじゃないけど…と思ったことは言わないでおいた。言ったところで滝の音で聞こえないし、中途半端に聞こえて『え? なんですか?』と聞き返されては恥ずかしいことこの上ない。
何も知らない昴は「危なっかしいから」と言って、駐車場まで手を離してくれなかった。
先ほどの温泉街に戻り、チェックインを済ませた。民宿の女将さんと諸伏警部が話をしている。すぐに「どうぞ~」と声をかけられた。
「では、私はこれで……。ああ、そうだ。明日の午前中この辺りの観光巡りを考えていますので、一時間程度お時間下さいね。それを踏まえて、明日何時の新幹線に乗るか連絡下さい。駅までお送りしますから」
諸伏が民宿の玄関で二人に声をかけた。
「何から何までありがとうございます。では後ほど連絡します」
お互い今日の労をねぎらって、二人は諸伏と別れた。