第4.5章 二人の遠出~長野旅行編~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
**
バタン
ブロロロ~……
電車からタクシーに乗り換え、十分程。二人はタクシーを降りてワイナリーの建物を望む。
「わぁ…オシャレな建物…」
ヨーロッパを思わせるような可愛らしい建物と、その周りを取り囲む様に芝生の庭が続く。広い敷地の中にはワイナリーレストランもあるらしい。遠くにはワイン用のブドウ畑も見えた。
建物の中に入るとワインはもちろん、ジャムやパスタソース、自家製のハムやソーセージなどが所狭しと並んでいる。
「たくさんあって迷っちゃうな~」
観光客で賑わう店内を、二人はゆっくり回った。
「コレ、哀ちゃんと博士に。低カロリーだから哀ちゃんも安心ね」
「これはコナンくんにどうですか? 食べ盛りの彼にピッタリですよ」
それぞれの個性にあったお土産を見繕う。他にも探偵団の子ども達や、大学のゼミのメンバー、ジョディやキャメル、ジェームズにもお土産を購入した。
「結構な量ですから送ってしまいましょうか」
「うん、そうだね」
お店の人に頼んで、お土産は宅配をお願いした。送り状を記入し、お土産を預けると二人は店の外に出る。
「ねえ、あそこ行ってみない?」
店の出口からL字型にデッキが設置されていた。勾配を利用した広いデッキは景色が良く、手前には色づき始めた雑木林。その向こうには薄っすら雲に隠れた市街地と、さらに遠くには雄大な山々が連なっている。
「キレイですね~」
昴が景色を眺めて大きく深呼吸した。チラリと視線を移すとさくらも同じ景色を眺めている。心地よい風がさくらの髪を揺らしていた。
「このまま……」
「え?」
「あ、いえ。何でもありません」
「どうしたの? 昴さん」
急に口をつぐんでしまった昴を見て、さくらは小首を傾げる。昴はそれ以上何も言わず景色を見つめていた。
『このままここで暮らすか?』
すべてを捨てて。
そう口に出しそうになった。
愛する人と何の心配もなく、幸せに暮らす。今の自分たちには出来ないことだ。
振り返った瞬間、もうそこに愛する人が居ないかもしれない。そんな不安を抱えながら過ごす日々。時には逃げてしまいたいと思う事もある。
「このままここで……あなたと暮らしても良いけど」
「え?」
たった今、自分が飲み込んだ言葉。昴はハッとしてさくらの顔を見る。
「結局事件に首を突っ込むし、ケガはするし、崖の下には落ちるし。東京にいた時と変わらないわね」
そこまで言うとさくらは体を昴の方に向けてニッコリ微笑む。
「まあ、つまり……どこに居たって、あなたと一緒なら幸せよ。あなたとなら、どんな困難なことも乗り越えられるもの」
「ッ‼」
柔らかなさくらの微笑みを見て、昴は驚いた。
いつからこんなに強くなった? 自分が感じている不安と同じものを、彼女はもっと強く、もっと恐ろしく感じていたはずだ。
大切な人を失った悲しみはそう簡単には無くならない。それをりおは何度も経験している。大切な人を失う不安は相当なはずなのに。
「なぜ…そう思えるのですか?」
真剣な面持ちで、昴はさくらに問いかける。
「信じてるから。あなたは絶対に私を一人にしないって。だから私もあなたを一人にしない。絶対に」
そう言って昴を見上げるさくらの瞳は、太陽の光を受けてキラキラしている。
『愛してる』と言われる以上にグッと来た。
「あなたには…敵いませんね…」
昴はそっとさくらの肩を引き寄せる。
(どこに居ても一緒なら幸せ…か…)
昴は噛みしめるように、その言葉を何度も心の中で繰り返した。
**
二人は場所を移動してワイナリーへ。
「ん~。良い香りがする」
無垢材で作られたカウンターを中心にして、たくさんの種類が並べられ、ワイングラスで試飲ができるらしい。
「こっちの赤飲んでみようかな。
……ん! もっと渋いのかと思ったけど…甘くて…美味しい!」
「私はこっちの白。
……ほ~ぉ。とてもフルーティーだ…。ほんのり甘くて女性向かもしれません」
二人は次々とカウンターに並んだワインを味わう。作った年やブドウの種類、製造方法——。わずかな違いでまったく違う香りや味。そして色。ワインの奥深さを感じながら、二人はワインを堪能した。
しばらくワイナリー内を行き来しているうちに、昴がある異変に気付く。
「ちょ、ちょっとさくら…さっきから結構飲んでますけど大丈夫ですか?」
さくらの酒癖の悪さを知る昴が、心配そうに顔を覗き込んだ。
「ん? ぜ~んぜんだいじょーぶだよ~。ねえ、昴さん…コレすごくおいしいの……気に入っちゃった……ふふふ♬」
(そ、そろそろだな…さくらのヤツだいぶ酔ってきたぞ…)
口調が砕けてきているし、何より目元がとろんとしている。そろそろマズイ。
「そ、そうですか。じゃあ…それ買っていきましょう。私はこの赤…両方とも宅配で…」
店員さんに声をかけて宅配と会計をお願いし、昴はさくらを店の外へと連れ出した。
ワインっておいしーね~、と上機嫌のさくらの手を引き、広い芝生の庭へと出た。木陰にあるガーデンチェアに二人で腰掛ける。
「ふ~。まったく…飲み過ぎですよ!」
当の本人は「昴さぁ~ん」とすり寄って、ふにゃふにゃと笑っている。つないでいた左手はすでに彼女のお気に入りとなっていて、程よく揉まれていた。戦闘態勢の彼女からはとても想像できない。
(こんな無防備な姿…他のヤツに見せらんな…)
俺だけにしておいてくれよ、と心の中で呟きつつ、ヨシヨシと頭を撫で、酔いがさめるのを待つことにした。