第4.5章 二人の遠出~長野旅行編~
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「一緒に落ちた男は?」
「分からない…。男は崖の垂直面から体が離れていたから、どこにも掴まる事が出来ずに落下していったの。草木ですぐに見えなくなったわ…。
私は崖をすべり落ちる感じだったから、途中で木に掴まる事が出来たの。崖伝いに少し水平移動したから、男の落下地点とはズレたと思う」
結局途中からまた滑り落ちちゃったけど、とりおは残念そうに言う。
「わかった。ちょっと見てくる。生きていれば手当をしてやらねばならん」
「うん。生きてると…良いね…」
りおは辛そうに昴を見た。
昴は立ち上がると、りおが落ちた地点から下流に進む。崖面は緩やかに左にカーブしており、沢が崖下まで近づいていた。
岩がゴロゴロする足場の悪い場所を行くと、大きな岩の陰でその男を見つけた。近づいて男の顔を覗き込む。
「…首の骨が折れて頭も割れている…もうダメだ…」
落ちたところが沢の岩場だった。岩に激しく頭を打ったらしくかなりの出血があり、首の向きもおかしい。手足も…恐らく折れてしまっているのだろう。ひと目見て即死だったと分かる。
「救助が来たら迎えに来てもらうように伝えるから。もう少しここで我慢してくれ」
昴はそのまま踵を返し、りおの元へと戻った。
「彼は?」
りおの問いかけに昴は黙って首を横に振る。
「…そう…」
「救助が来たら彼も回収してもらおう」
りおは黙ってうなずいた。
その時、昴の顔にぽつりと雨粒が落ちた。
「雨か…マズイな…。どこか身を寄せるところは…」
白い息を吐きながら周りを見回すと、少し離れた崖下にえぐられたような窪みがある。昔大雨で沢の水が増えた時に浸食されたのだろう。雨風くらいならしのげそうだ。昴はりおを抱き上げると崖の窪みに急いだ。
昴は窪みの奥側にりおを座らせ頬に触れる。出血と気温低下で震えていた。
「すぐ戻るから。これを掛けてラクな体勢でいるんだぞ」
昴は自分のウィンドブレーカーをりおにかけると、窪みを出て雑木林へと向かった。
サ——ッ
やがて霧雨が降りだし、あたりは白く煙っている。りおは心配そうに昴が行った方向を見つめていた。
十五分程して枯れ枝をたくさん抱えた昴が戻ってきた。雨に濡れた昴の髪からは、ぽたりぽたりと雫が落ちる。昴はそれに構うことなくバッグからパンフレットを取り出した。
枯れ枝を組み上げ、パンフレットをクシャッと丸めるとズボンのポケットからマッチを取り出す。
燃えたパンフレットを小さな枯れ枝の近くに置くとあっという間に火が燃え移った。
「これで暖が取れる」
少しずつ大きな枝へと火を移し、ようやく安定した焚火となった。
「りお。大丈夫か?」
「うん。だいぶ痛みが引いたわ」
「そうか…」
安心したように微笑む昴だが、そのシャツは雨に濡れ肌に張り付いている。
「ねえ…風邪ひいちゃうよ。シャツ濡れてる…」
「火のそばに居るから大丈夫だよ」
昴はりおの頬を撫で微笑んだ。
「そうだ…諸伏警部に連絡しないといけないね…」
「ああ。だがこの辺りスマホが圏外なんだ。
沢を下っても良いが途中滝もある…。りおは頭を打っているし、ここで大人しく救助を待った方が良いだろう…」
昴は時折焚火に枝を足しながら今置かれている状況を整理した。
「警部から夕方連絡をくれと言われていただろう? 車は鏡池の駐車場だし、夜まで音信不通となればこの辺りを探してくれるかもしれない」
「ん。そうだね…」
パチパチと木が弾ける音が響く。日が傾き、気温はますます下がっている。鼻を赤くしたりおが体を起こした。
「おい…大丈夫か?」
「うん。寒いから…そばに行っていい?」
2人は隣同士で座り、昴は上着を再びりおの肩にかけ直した。
「これじゃあ昴さんが寒いでしょ?」
「りおとくっついていれば暖かいよ」
二人は黙って焚火を眺めていた。
***
「おかしいな…そろそろ市内に戻って来ても良い頃なんだが…」
長野県警捜査一課。
諸伏は自分のデスクで時計を見上げた。夕方の5時を回っている。だいぶ日も短くなり、すでに外は暗い。戸隠はこの時間グッと冷え込む。
そろそろ連絡が来ても良いはずなのだが…。
「あら、どうしたの? さっきから時計ばかり見ちゃって」
同じく長野県警捜査一課の上原由衣刑事が諸伏に声をかけた。
「ええ。実は今日、東京で知り合ったお二人を観光案内する予定だったのが、今回の事件で流れてしまいまして。今朝そのお二人で戸隠に出かけたのですが、まだ戻らなくて…」
「え? 戸隠でしょ? もう真っ暗よ。こんな時間まで観光しているはずないじゃない。もしかして道にでも迷っているんじゃないかしら?」
「ナビ付のレンタカーなのでその心配はないと思うのですが…。何度かスマホに電話しているのですが、圏外らしくて繋がらないのです」
「じゃあ、尚の事心配ね。ちょっと待ってて」
上原はそう言い残して、自分のデスクの電話を手に取った。
「もしもし長野県警の上原です。戸隠観光センターの所長さん、いらっしゃいますか?」
どうやら地元の観光センターへ問い合わせをしたようだ。
「ええッ? 何ですって? で、残っている車の車種とナンバーは?」
はい、はい、と上原がメモを取る。そのメモを諸伏が覗き込んだ。
「ッ! この車…さくらさんたちのレンタカーだ!」
「それ、本当なの? 昼過ぎからずっと鏡池の駐車場にあるって観光センターの所長さんが…。
センターの人達総出で探したけど、奥社にも九頭竜社にも観光客はいないし、植物園の遊歩道も探したけど人はいないって…」
上原の報告を聞いて諸伏は考え込む。
「奥社に行くと言っていました。まさか登山道へと入ってしまったのでは…」
「登山道って…あそこは上級クラスの登山コースよ。一観光客がひょいひょい登れるところでは…」
「だから! 遭難したかもしれないんですよ!」
言い終わらないうちに諸伏は捜査一課の部屋を飛び出す。
「わ、私も一緒に行くわ!」
後を追うように上原も飛び出していった。