第4.5章 二人の遠出~長野旅行編~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
やがて二人は随神門にたどり着く。そこから杉の並木道が続いていた。
「すごい…。ホント圧巻だね…」
一度晴れた霧が再び立ち込め、整然と並ぶ杉並木と相まって、辺りは厳かな雰囲気が漂う。
「ちょっと飛ばし過ぎましたね。疲れていませんか?」
手を繋いだまま昴が問いかける。
「うん…。大丈夫…だけど……だんだん…坂が…急に…なってない?」
さくらが指摘する通り、進むほどに勾配が急になっていた。視界に入る道は先へ行くほど視線が上にあがる。
「まだ先は長いですし、この辺りで一休みしませんか。周りも散策したいですしね」
「うん…そうだね…」
休憩用に置かれた小さなベンチを見つけ、昴はさくらに座るよう促す。近くには川が流れており、小鳥のさえずりも耳に心地良い。
「水分取りましょうか」
昴がペットボトルを差し出した。
「ありがとう」
礼を言って受け取るとさくらはキャップを回す。
「あ、あれ…開かない…」
疲れが出たのか手に力が入らない。何度かチャレンジしているとスッと昴の手が伸び、ペットボトルを取られた。
パキッ
「はいどうぞ」
「重ね重ねありがとう」
再び差しだされたペットボトルを受け取って、さくらはゴクリと飲んだ。
「やはりハイペースでしたか。体力はまだ戻っていませんからね…」
立ったまま水分を補給する昴は、さくらの顔を覗き込むと心配そうに声をかけた。
「はは…。まさかここまで体力が落ちているとはね…ごめん。昴さん」
工藤邸で再び暮らすようになって心身の回復には気を使っていたものの、体力の回復はあまり進んでいない。
「この旅行は体力づくりにもなりそうですね。ペースを落として、ゆっくり景色を楽しみながら行きましょう」
「うん。そうだね」
心の静養と体の回復。今回の旅行でどちらも叶うと思うと、心が少し軽くなる。やはり家にこもってばかりではダメね、とさくらは笑った。
二人は赤と黄色に色づいた葉と川の流れ、小鳥のさえずりを十分に堪能して、再び奥社に向けて歩き出した。
杉並木の景色を楽しみながら進むと、その先に石段が見える。
「奥社までもうすぐですよ」
「うん。でもここが最大の難関ね……」
ガイドブックにも載っていた奥社に続く石段。奥社参拝の際、最も苦しい場所である。
二人は石段に足を掛けた。一段一段確実に上っていく。かなりの急勾配なので焦りは禁物。とはいえ心臓破りの石段に、さすがの昴も息が切れ始めた。
階段といっても、建物の中のそれのようにキレイに整えられたものではない。
勾配に合わせて石を並べ土を盛った段差、というのが正しい。平らなところはないし段の幅もまちまちで、一段上がって数歩歩かなければならないところもあれば、大人の足の大きさほども幅がない段もある。
視線を落とし、足元を確認しながら登らなくてはならない。初めこそおしゃべりをしていた二人も、やがて口数が少なくなった。
時々足場の悪いところで昴がさくらの手をとる。そのうち、その手は繋がれたままになったことに、さくらは気づいていなかった。
奥社の建物がようやく見えたところで分岐の道がある。「登山口」という小さな看板が立っていた。
「ココを左に行くと…戸隠山の登山道ですよ。登山コースとしては…かなりの…難易度…なんだとか」
「へぇ…。いつかチャレンジ…してみたいと…思うけど…とりあえず…今、じゃ…ない…わね」
「です…ね」
すでに話をするのもキツイ。二人はふうふうと呼吸を整えながら話す。
「ねえ昴…さん」
「なんです…か?」
「さっきから…気に…なって…いるん…だけど…石段に…不自然なキズ…あるよね?」
「奇遇です…ね……実は私も…気になって…いました」
二人は顔を見合わせて立ち止まった。そこでさくらははたと気付く。
(あ……ずっと…手、繋いでたんだ……)
急に照れくさくなって、パッと手をはなした。昴は特に気にすること無く、石段にしゃがみ込む。さくらも遅れてしゃがみ込み、二人で注意深く石段のキズを見た。
「最近のキズね」
「ええ。何か…重い物を引きずったような…そんな跡ですね。100kgあるかないか…か?」
「…100kg前後の…重い…物?」
さくらは照れて赤くなった顔が見えないようにして汗を拭う。ふうと大きく息をついた。
「ええ…例えば…建設資材とか…」
「奥社に改装予定ってあったっけ?」
「いえ…そんな予定はガイドブックにはありませんでしたし…そもそも資材を運ぶ車が…参道に入れませんけど」
昴もまた、さくらの質問に答えながら汗を拭った。
「だよね…。人が…運べる大きさで…重い物…?」
そんなのあるかな、と二人で休憩がてら石段に腰かけ考える。
「「ッ!」」
パッと浮かんだ『答え』に二人は同時に叫んだ。
「「金塊!!」」
寸分たがわずピッタリとハモる。思わず互いの顔を見て笑った。
「可能性はあります。現在の価格で考えて、金塊一億円分でもサイズは20㎝×5㎝×11㎝ほど。それが五個あったとしても人が運べない大きさではありません。ただ重さは90㎏をゆうに越えるでしょうが…。
しかしそれをクリアすれば、丈夫なアタッシュケースにでも入れて、登山道から崖下に落とせば誰にも見つかりません。ほとぼりが冷めた頃に取りにくれば…」
「でも…証拠は無いわ…。駐車場から最短距離の参道口から来たとしても、ここまでかなりの坂道。ケースひとつとはいえ90㎏を運べるかしら…」
さくらは口元に手を当てて考え込んだ。
「さくら、お忘れですか? 犯人の中には現役の警察官もいます。一般人より武術に長けていますし、体力作りもしています。
確かにこの急勾配…一人では厳しいですが二人以上いれば不可能ではありません。後は…自分の目で探すしかありませんが」
昴が片目を開けてさくらを見る。
「あ〜あ。またこうやって首突っ込んじゃうんだね」
「ふふ。そうは言ってもほっとけないでしょ。私も、あなたも」
「だね」
言葉とは裏腹に、二人は楽しそうに笑う。
「それじゃあ、さくら! 行きますよ」
「うん」
分岐の道を左に曲がり、二人は登山道へと足を踏み入れた。