第4.5章 二人の遠出~長野旅行編~
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警察学校で冴島と話した翌日。
昴とさくらはポアロへと顔を出した。
カランコロ~ン
ドアベルの音と共に中に入ると、そこには安室と梓、そしてコナンがいた。
「あれ、昴さんとさくらさん。今日はどうしたの?」
オレンジジュースを飲んでいたコナンが、カウンター席に並んで座った二人に声をかける。
「ああ、ちょっと気分転換にね。家との往復ばかりでも何ですし、コナンくんもいるかと思って寄ってみたんですよ」
だいぶ笑顔を見せるようになったとはいえ、本調子には程遠い。カーディナルの死後、ボンヤリしていた状態を知るコナンは心配げに声をかけた。
「さくらさん、調子はどう? 無理してなぁい?」
さくらはコナンの問いかけにニコリと微笑んだ。
「うん、大丈夫よ。コナンくんにも心配かけちゃってごめんね。私がコントロール出来ない時は昴さんがちゃんとしてくれるから…」
「そう…。なら、良いんだけど…」
心配げに表情を曇らせたコナンの頭に、安室がポンと優しく手を置く。
「せっかく来ていただいたのですから、甘いものでもどうですか? さくらさんもお好きでしょ?
そういえば…今日はあなたの好きなラズベリーのショートケーキもありますよ」
自分たちに出来ることはこうやって励まして、『いつでもどんな時でもさくらの味方だよ』と態度で示す事だ——。
安室の手はそう言っているように感じた。
「ラズベリー……? ふふふ」
さくらが笑い出す。そんなさくらを昴もまた嬉しそうに見つめていた。
「安室さん。私、そのラズベリーのケーキ食べたいです」
何か懐かしいことでも思い出したように、さくらは安室に声をかけた。
「かしこまりました」
「じゃあ、私もそれ戴こうかな」
「え、あなたも食べるんですか?」
沖矢さん、甘いものお好きでしたっけ? と安室はちょっと驚いた顔をした。
どうやら《沖矢昴》の中の人が、甘いものを食べるイメージが無いようだ。
「ええ。たまに食べたくなりますね、甘いもの」
ニコリと微笑む顔は、いつも通り爽やかな沖矢昴の顔。
「か、かしこまりました。お飲み物はお二人共いつもので良いですか?」
「「はい」」
なんか調子狂うなぁ……と小さくつぶやいて、安室はカウンターの奥へと入っていった。
「家との往復ばかりって言ってたけど、どこか出かけてるの?」
コナンは昴を見上げ問いかけた。
「昨日はさくらの知り合いのところに行きました。あとは病院と……気分転換に少しドライブしたくらいですかね。
つい最近まで、ろくに話す事もできませんでしたからね」
「ああ、そっか……そうだったね」
一部とはいえ、二十年間隠されていた事実を目の当たりにしたのだ。さくらの混乱は大きい。
ゆっくりゆっくり。さくらのペースで心の整理がつくのを待つしかなかった。
「昴さんにも、コナンくんにも、哀ちゃんや博士にも心配かけたよね。ごめんね。
まだ何となく本調子じゃないんだけど……。でも、だいぶいつも通りに過ごせるようになったのよ」
さくらの優しい笑顔を見て、コナンもようやく表情を緩めた。
「はい、おまたせしました」
安室が笑顔で奥の厨房から姿を現した。カウンター越しにラズベリーのショートケーキと飲み物を置く。
昴にはコーヒー。さくらにはカフェオレ。
「わぁ! 美味しそう!」
ラズベリーがサンドされたふわふわのスポンジケーキ。白いホイップが可愛らしくデコレーションされ、フレッシュなラズベリーがちょこんと乗っている。その上から赤いラズベリーソースがかけられ、グリーンのチャービルが飾られていた。
「ふふ。さくらは甘いものには目がありませんね」
ショートケーキを前にして、目を輝かせているさくらを見て昴が笑う。
「そりゃ私に限らず、女性は甘いものに弱いですからね」
いただきますと言って、さくらが一口ケーキを食べた。
「……美味しい……」
ゆっくり味わうように口を動かす。ラズベリーの甘酸っぱさとクリームの甘さが舌の上で溶けた。
「ッ! さくら? 大丈夫ですか?」
さくらの顔を見た昴が声をかけた。
「…美味しい……ラズベリー…美味しいよ…。
ごめん昴さん。今日は涙腺弱いみたい…。美味しいのに…涙が止まらない…」
美味しい美味しいと言いながら、さくらは涙を流す。
安室と梓、そしてコナンは少し驚いた顔をしたが、黙ってさくらを見守った。
「気が済むまで泣いて良いですよ…。あなたにとってラズベリーは特別ですからね」
昴はさくらの涙を右手で拭うと、そっと左手で肩を抱き、さくらの頭に頬を寄せた。
**
少し涙の味がするケーキを食べ、昴とさくらは席を立つ。
みんなごめんね、といって涙を拭うさくらの姿はどこか儚げだった。
(早く元気なさくらさんに戻ってくれよ…。じゃなきゃ、すげぇ調子狂うんだ。
さくらさんが笑って、その横で赤井さんが笑ってて…それだけでオレも元気になれる気がするんだ。不思議だよな…)
コナンはレジへと向かう二人を見つめる。
「ごちそうさまでした」
「また、いつでも気分転換に来てください」
「はい。また寄らせてもらいます」
安室と昴が言葉を交わす。
カランコロ~ン
会計を済ませた二人が店を出て行くのを、コナンはジッと目で追った。
「あ…ッ!! そうだ!!」
不意に何かを思い出したコナンは立ち上がり、店の外へと飛び出す。
「昴さん!」
探偵事務所の階段付近で、昴とさくらが立ち止まった。
「どうしたんだい?」
昴がコナンに声をかけた。
「今思い出したんだけど……。実は昨日、諸伏警部から連絡が来たんだ」
「諸伏警部から?」
「うん。東京で何件も爆破事件があったから、みんな大丈夫かって」
主には事件の遭遇率ナンバーワンのボクを心配してたけど、と照れくさそうにコナンは言う。
「でね、長野は今実りの秋で良いシーズンだから、気分転換に良かったら遊びにおいでって言ってたよ。
連絡をくれれば、泊まるホテルも手配できるって。
前回の温泉旅行はアクシデントが多かったけど、さすがに今回はオドゥムも来ないでしょ?
今日見てて思ったけど…さくらさんの心のメンテナンスが必要だと思うんだ。
だから、昴さんとさくらさんで行って来たらどう? っていうか行ってきて。ボク連絡しておくから!」
有無を言わさぬ物言いで、コナンが詰め寄る。
「ど、どうしますか? さくら?」
私は構いませんが…、と昴はさくらに訊ねた。
突然のコナンの提案にさくらも驚いていたが、すぐに何か考えるように目を伏せる。
「色々あって…確かに疲れちゃったな…。諸伏警部にも会いたいし…。景色が良いところも行ってみたい」
さくらはゆっくりと昴を見上げる。その顔はわずかに微笑んでいた。
「じゃあ、決まりだね! この後すぐ連絡しておくから! 出発は明日で良い?」
「あ、明日? ずいぶん急ですね……。まあ善は急げと言いますから。良いでしょう。
コナンくん、お願いします」
とんとん拍子で話が進み、昴とさくらは明日から長野へ旅行に行くことが決まった。