第4章 ~両親との記憶~
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「昴さん。連れて来てくれてありがとう」
りおは運転する昴に礼を言った。
「いいえ…。二人が抱き合った時はちょっと嫉妬しましたけど」
え~…親子くらい年が違うのに~? と、りおは口を尖らせた。
「親子だろうと兄弟だろうと、他の男と目の前で抱き合ってる姿を見れば妬くでしょ、普通」
「昴さんが世良さんと抱き合っても、私は別に嫉妬しないよ」
「え、しないんですか?」
「しないよ」
「それは真純が男っぽいから…とか?」
「いや、別に普通に女の子だって思ってるよ」
「じゃあ、なぜ嫉妬しないんです?」
「妹だからじゃない?」
「ふ~ん……」
なんだか納得がいかない顔をしているが、もう面倒くさいので、りおはそのまま知らんぷりを決め込んだ。
「でも…結局ペンダントの事とか…何も話に出なかったね…」
父の元同僚の冴島に会えば、ペンダントの事も何か聞けるかと持ったが、今日の話の中ではそれに結びつく話は何もなかった。
「いつでも聞きに来て良いと言われていますし、あなたの体や心と相談して少しずつ謎を解いていきましょう。慌てる必要はありませんよ」
「うん…そうだね…」
りおは助手席から見える景色を眺めながら答えた。
両親が何者なのか、そして何を追っていたのかは知る事が出来た。そしてそれが今、自分が追っている相手であることも。
しかし、りお自身が両親の事を全て思い出したわけではない。
断片的に思い出した記憶と人から教えられた事実。
まだまだ知らないことや覚えていないことがたくさんある。
両親は娘に何を託し、伝えたかったのか——。未だに分からないままだ。
「少しずつですが、PTSDの方も改善しているようですね。過呼吸を起こしても短時間で回復しますし、血を見ても発作を起こさなくなったのは良い傾向です。
このまま改善していけばペンダントの事も近いうちに訊く事が出来るでしょうし、すべての謎が解ける日がきっと来ますよ」
「うん…。そうだね。ありがとう、昴さん」
昴に褒められてりおも嬉しそうな顔をした。
その日の夜——。
赤井とりおは同じベッドで抱き合っていた。赤井の胸元に頬を寄せ、りおはまどろんでいる。
「すぐに回復したとはいえ、今日も発作を起こしたからな…。体は大丈夫なのか?」
「うん…平気だよ……ん~…秀一さんの匂いがする…」
りおは赤井に腕枕をしてもらい、ぴったりくっついて気持ち良さそうだ。
「こ~ら。今日は発作を起こしたから抱かないって言っただろ。それなのに俺のベッドに潜り込んできて抱っこしろなんて…。俺を可哀想だと思わないのか?」
こういうのを生殺しっていうんだぞ。分かってるか?
赤井はブツブツと文句を言っている。
(抱いたって良いのに…ヘンに律儀なんだから…)
りおはTシャツ越しに赤井の鍛えられた腹部を撫で、胸元にキスをいくつか落とした。
「りお……それは誘っているのかな?」
「さあ…どうでしょう? 推理してみて」
「推理するには、お前に触れないとわからないな…」
赤井はニヤリと笑うと、りおに口づける。
ゆっくり舌を絡めながら、その手はりおの体をなぞった。
今回の《貿易会社の爆破事件》から始まった数々の《爆破事件》や《カーディナルの死》。
死に敏感なりおにとって辛い事件だった。
そして冴島の話の中で、両親の死の場面が近づいた時にも発作を起こした。
例えPTSDが改善したとしても、すべてを思い出す時にはかなりのダメージがあるだろうと赤井は覚悟している。
図らずして事件を通し、りおの生い立ちを知った。
両親や祖父母、父親の同僚などたくさんの人に愛されながらも、多くの人の死が複雑に絡み合い、寂しい思いをしてきた。
もちろん公安警察として二つの組織に潜入してからも——。
(組織に潜入している以上、危うい立場なのは変わりない。何が起こるか、どんな時に失われている記憶が戻るか分からない。
けれど俺はどんな時でもりおを守ってやる。そして絶対に一人にしない。もう寂しい思いは二度とさせない)
りおへの強い気持ちが溢れ、キスは熱を帯びる。
より深く、より感じるところへと貪るように舌を絡めた。
「は…ぁ……どう? 推理はできた?」
ようやく唇を離し、りおは蕩けた表情で赤井に問いかけた。
「ああ。案外簡単な推理だったよ。お前は俺に抱かれたがっている。そして俺もお前を抱きたい。
どうだ? 当たっているか?」
赤井もまた、全身を紅潮させながらも余裕のあるフリをして、りおに問いかける。
「ふふふ。アタリ。あなたがいてくれれば…私は何もいらない…。あなたがいるだけで…それだけで…生きていける…」
ふわりと微笑んで両手を広げた。
「抱いて、秀一さん」
「ああ。俺もお前が欲しい」
二人の影が重なった時、りおの胸元でチェーンが音をたてる。シーグラスのペンダントが輝きながら揺れていた。
==第4章完==