第4章 ~両親との記憶~
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りおは洗濯物が入ったカゴを持ち、外へ出た。
昴も外に出て花壇の掃除を始めている。
「ん~~! 良い天気ね~~」
まさに秋晴れ。風は少し冷たいが、日差しは暖かく絶好のお洗濯日和だ。
パンパンとシワを伸ばしては洗濯物を干していく。
ハンガーにかかったシャツが、気持ち良さそうに揺れていた。
「さて、これで洗濯終わり! 昴さ~ん! カゴ置いたらそっち手伝うね~」
「わかりました。お願いします」
少し離れた昴に声をかけ、カゴを手に家の中に入ろうと体の向きを変えた時だった。
ビューッ!!
一際強く風が吹いた。
カサカサカサカサッ!!
落ち葉が一気に舞いがる。
ざわざわっと木々が鳴り、ギーッギーッと物干しが揺れ、金属の擦れる音がした。
「ッ!」
その瞬間——。
りおの目の前に、20年前の公園が広がった。
*****
「わぁ、まずいな~。先生に見つからないうちに合流しなくちゃっ!」
小学校の課外授業。
商店街で店の人から話を聞いて、徒歩で帰る途中だった。
クラスの列は交通量の多い通りを避けて、公園の中を歩く。久しぶりに訪れた公園にはキレイな葉や実がたくさん落ちていて、幼いりおは目を輝かせる。
思わず「あれも! これもキレイ!」と拾ううちに、クラスの列からずいぶん遅れてしまっていた。
「もう~っ! 先生歩くの速いよ……公園出るまでに追いつくかなぁ…」
りおは息を切らして走る。ふと空を見上げた。ザワザワと風が木々を揺らし、雲が厚みを増している。天気を気にしてか、引率の先生の歩みがいつもより速い。
その時、突然ゴォッと強い風が吹いた。銀杏の黄色い葉が強い風で舞い上がる。
足元の葉も、風はさらっていった。
「ぅわぁっ!」
砂が目に入りそうになり、思わず立ち止まる。手で顔を覆い、そのまま風が止むのを待った。
「ふぅ~…ビックリした…」
りおは目を開ける。周りは何事もなかったかのように静かだった。
ギーッ、ギッ…ギギーッ
静けさの中に、かすかに金属の擦れる音が聞こえた。
何だろうと思って辺りを見回すと、作業用のつなぎを着た男が車の整備をしていた。
「車…直してるんだ…」
初めはそう思った。だがすぐに違和感を感じる。
「あれ…パパの本に書いてあったのと似てる…」
母以上にあまり会う事のない父。父の事が知りたくて、時々父の部屋の本やノートをコッソリ見ていた。
そこに書かれていたものと同じものが、男の足元に置かれている。
「パパの本には『危険な物』の事が書いてあるってママが言ってた…。じゃあ、あの男の人は悪いことをしている人かも…」
つなぎを着ている男をジッと見る。
男は車の方を向いているので顔はよく分からないが、髪をオールバックにしているのが確認できた。
他の特徴も見ようと思ったその時、男が振り向いた。
「ッ!!」
鋭い眼差しに思わずりおは後ずさりをした。
全身鳥肌が立ち、ガクガクと震えが止まらない。今まで感じたことのない恐怖だった。
「広瀬さ~~ん! 広瀬りおさ~ん!」
ふいに名を呼ばれた。振り返れば担任の先生が心配そうにりおを見ている。
「先生!」
踵を返し、慌ててそちらに向かって走った。
「ダメじゃないか~。列から離れちゃ。迷子になっちゃうぞ」
「は、はい…ごめんなさい…」
かろうじて返事をしたものの、先生の言葉は全く耳に入らない。
ただただ、背筋が凍るような恐怖だけが残った。
*****
ギーッギーッ
物干しが揺れ、再び金属音が聞こえた。
「ッ!!」
ハッと我に返る。
爆弾を仕掛けていたつなぎの男…オールバックの髪…鋭い眼差し…——。
間違いなく、若かりし日のカーディナルだった。
『仕事を目撃されたのは後にも先にも一度切り』
『両親もろとも殺したさ』
カーディナルから聞いた言葉が蘇る。
あれって…あれって…私の事?
私のせいで?
あまりの衝撃に胸が苦しくなる。
「はーっ、はーっ、はーっ、はーっ」
息を吸っているのか吐いているのか分からなくなった。
心臓がバクバクと激しく脈打ち、その音しか聞こえない。
喉の奥が、胸が、心が痛い。
膝から崩れるようにその場に座り込んだ。
「りお?」
昴は異変に気付き走り寄る。
りおは地面にうずくまり、胸を押さえて苦しそうに呼吸していた。
「おい! りお! どうした? 苦しいのか?」
昴は顔を覗き込み問いかける。
答えは返ってこず、「はーっはーっ」という苦しそうな呼吸音が聞こえるだけ。
涙がポタポタと地面に落ちた。
「父と…母が…死んだの……私の…せい…」
「?!」
苦しい呼吸の間に、りおがつぶやく。
「お前…何か思い出したのか?」
昴はりおの両肩を掴み、上半身をゆっくり起こす。辛そうな表情でりおの顔を覗き込んだ。
「……ぐぅッ…!」
りおは一際苦しそうに胸を押さえた。
息が苦しい。心臓をもぎ取られるような痛み。
全身から汗が噴き出す。
「はぁっ、はっ、はっ、はっ、はっ」
「りお、ゆっくり息をするんだ!!」
昴が声をかけるがその言葉は耳には入らない。浅く短い呼吸がさらにりおを追い詰め、体は再び前のめりになっていく。
だんだんと意識が遠のき、そのまま昴の腕の中へ倒れ込む。
昴はただ抱きしめる事しか出来なかった。