第4章 ~両親との記憶~
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カランコロ~ン
「いらっしゃいませ~」
ドアベルの音を聴いて梓が声を掛ける。
「あ、さくらさん。いらっしゃ……」
梓の声で顔を上げた安室は、そこまで言いかけて表情が変わる。
「どうしたんですか? 顔色…真っ青ですよ」
慌ててさくらに駆け寄った。
「え? そうですか? さっきちょっと走ったからかもしれないわ。最近運動不足で」
照れくさそうに笑う顔は、どう見ても疲れているようだった。
「なら良いんですけど…」
そう言って安室はカウンターではなく、ゆったり座れるソファーの席へと案内した。
「カフェオレを下さい。それを飲んだら帰りますから」
「そうですか…すぐ準備しますね」
短いやり取りして、安室はカウンター奥へと入っていく。
さくらはボンヤリと視線を窓の外に向けた。すでに日が落ち夕闇が迫っている。
店の中は温かいのに、カーディナルと話した後の寒気のようなものはまだ残っていた。
(早く報告をして…早く帰ろう…)
すでに目を開けている事も億劫になっていた。
「…さ……ん…」
「さくらさん! 大丈夫ですか? やっぱり今日はもうお帰りになった方が良いのではないですか?」
目を開けると、さくらのすぐ横で安室がさくらの顔を覗き込んでいた。
どうやら窓にもたれるようにして眠っていたらしい。
「あむ…」
体を起こすと同時にグラリと傾いた。
「おっと!」
安室がさくらの体を抱き留める。
『次のターゲットは警察。決行は2日後』
安室との距離がゼロになった瞬間、さくらは安室に耳打ちする。
『何?! 次は警察? しかも2日後?』
さくらからの報告に、安室は一瞬だけ驚いた顔をした。
「あ…すみません。ちょっとめまいがしちゃって」
さくらはそうつぶやくと安室から体を離した。様子を見ていた梓が心配そうに声をかける。
「安室さん。少し早いけど今日はもう上がりで良いですよ。さくらさん調子悪そうだし、送って行ってあげて下さい」
「分かりました。じゃあ着替えてきます。
さくらさん、このまま横になってて良いですから。すぐに戻りますね」
安室は梓に向かって返事をすると、さくらに声をかけた。
「梓さんも、安室さんも…ごめんなさい…」
さくらはソファーに体を預け、そうつぶやくと目を閉じた。
ブォオオン、ブオロロロ……
RX-7のエンジンが止まると運転席と助手席双方のドアが開く。
「大丈夫ですか?」
安室は運転席を出ると助手席側へと急いだ。
「ええ、大丈夫です。お仕事中でしたのにスミマセンでした」
先ほどよりはしっかりした足取りでさくらは立ち上がる。だが一歩踏み出すとわずかにフラついた。
「ほら、まだフラフラしていますよ」
安室はさくらの肩を掴み、倒れないように支えながらインターホンを鳴らした。
「次のターゲットが警察?」
安室からの話を聞いて昴は驚く。
「ええ。さくらさんがアジトで仕入れてきた情報です。しかも決行は2日後。
すぐに報告しようと無理をしてポアロに来たようです」
工藤邸にたどり着くと、さくらはそのままソファーで眠ってしまった。
「かなり衝撃的ではありますが、それくらいでこんなに体調が不安定になるとは思えない。アジトで…何か思い出したのかもしれません」
安室は青白いさくらの顔に視線を移し、厳しい表情を見せる。
「本来でしたら公安の情報を、あなたにお話しする義理は無いのですが…。今回はさくらさんの記憶にも影響を及ぼしかねない。不本意ですが『FBI』にではなく、『星川さくらの恋人』に情報の共有を許可しています。
ですから、このことはあなたの胸の中だけに留めてください。何かあれば正規ルートであなたのボスに協力要請を出しますので」
「分かりました」
昴はしっかりと安室の顔を見つめて返事をする。
「しかしこの後どうされるのですか? もし警察が派手に動き回れば、さくらが疑われてしまいます」
「ええ分かっています。先ほど車の中で聞いた話では、2日かけて仕込みをすると言っていたようです。
つまり現時点でまだ仕掛けられていないと見て間違いない。庁舎内を気付かれないように警戒し、現行犯で逮捕するしかないでしょうね…」
安室は腕を組んで答えた。
「それについては管理官にも打診してあります。心配には及びません」
安室の目は自信に満ちていた。
「分かりました。そちらは安室さんにお任せします。さくらの事は私が」
「ええお願いします。こちらの事は心配するなと伝えてください」
僅かに笑みをうかべてそう話すと、安室は工藤邸を出て行った。
「りお? 起きてください。ここで寝てしまっては風邪を引きますよ」
「う…ん…」
体を揺すられ、りおは重いまぶたを開けた。
「あれ…私寝てた…? 安室さんは?」
「一通り話を聞きました。その後すぐに帰られましたよ。爆弾の事は心配するなと言っていました」
伝言を聞き、「そう…」とだけ呟くとりおは黙り込む。
「アジトで何かありました? 顔色が良くなかったので安室さんも心配していましたよ」
昴の問いかけにりおは何か迷うような素振りを見せる。そして一度大きく息を吐きだした。
「それが……カーディナルの昔話を聞いて…」
「昔話?」
「うん。昔…爆弾を仕掛けている所を小さな女の子に目撃されて…ターゲットの暗殺に失敗したって話を聞いたの」
りおは目元に手を当て、ゆっくりと話した。
「なるほど。それでその女の子は?」
「カーディナルが…両親もろとも殺したって」
「…ッ!」
「女の子は爆発で死体も残らなかったって言ってたわ」
「…」
昴は拳を握り閉めた。
「それを聞いて…発作を?」
「ううん。発作は起こしてないわ。ただ…何か引っかかるの。心がざわざわして…落ち葉が…」
「落ち葉?」
「うん、落ち葉。黄色い葉が…風で…。それ以上は…分からない」
りおは目を閉じ下を向いた。
「無理することはありませんよ。ゆっくりで良いのですから」
昴はりおの隣に腰を下ろすとそっと抱きしめた。
(さっきの話…おそらく幼いりおが目撃した【組織の任務】の事だ。見られたのはカーディナルだったのか…。
しかも両親の殺害にもヤツは関わっていた。車が爆発炎上し、子どもの死体が見つからなかったから、組織は子どもが跡形もなく吹き飛んだと思っていたのか)
組織に命を狙われていたにも関わらず、両親の死後子どもの命を狙いに来なかった事に合点がいく。
(落ち葉か…。思い出すのも時間の問題だな。状況によっては…伝えねばならんだろう)
昴の胸元に頬を寄せるりおを見て、昴は切なげに目を閉じた。
***
「ターゲットは警察か…。ジンは…ヘビのように執念深いな…」
安室は公安のセーフハウスに来ていた。簡易のイスに座ると足を組み物思いにふける。
「《警察》を襲うとなれば警視庁か? それとも警察庁か? だがどちらもセキュリティーは万全だ。容易に忍び込むことは出来ない。どうやって爆発物を仕掛ける気だ?」
警視庁の庁舎も、警察庁が入っている中央合同庁舎も、爆破物を持って簡単に忍び込めるところではない。
「いや待てよ。すでに出来上がっている物を…。そうすれば、それを目的の場所に置くだけで済む。
ああ、でも…建物を崩壊させるほどの量は…」
安室はアゴに手を当て、カーディナルの思考を辿っていた。
「そういえば…『ジンは公安に一泡吹かせたいらしい』んだったな…。だとすれば、建物など崩壊せずとも《警察の中枢で爆発事件があった》という事実だけで充分じゃないか?
それだけで警察の信用は完全に地に落ちる」
安室は思わず立ち上がった。
「2日という仕込みの必要性…。おそらくあの方法で…。
しかも今回の事件は組織が絡んでいるため一課が対応するのは限界があるだろう…。
少し情報を下ろしてやらねばならんな…」
安室はスマホを取り出した。