第4章 ~両親との記憶~
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梨善町で爆破事件があったちょうどその頃。
昴とりおはリビングでくつろいでいた。
穏やかな表情を見せるりおの横顔を、昴はコーヒーを飲みながら覗き見る。
ショッピングモールの爆破事件では、重軽傷者は多数出たが死者は無かった。
りおは文句を言っていたものの、FBIの捜査資料からもしばらく遠ざけた。
2日かかってようやく落ち着いたりおを見て、昴はホッと胸をなでおろす。
(まだ事実を話すには早い。両親の死の真相を話すには……りおにとって最も残酷な事実を話さないといけない。それは今ではない)
昴はコーヒーカップを置くと、テレビをつけた。
『……繰り返しお伝えします。つい先ほど、梨善町のビルで爆発がありました。今回の爆発では《爆破予告》は無く、警察ではこれまでの《予告》と同一犯かどうか、慎重に調べを進めています』
「「ッ?!」」
「また爆破事件?」
「そのようです。今度は予告が無かったようですが…」
(またか…)
昴は心の中で舌打ちをした。
思わずりおに視線を向けるが、彼女の視線はテレビにくぎ付けだ。やがて爆破現場の映像が流れる。
LIVEと書かれたテロップと共に、現場の様子が映し出された。
「建物は……崩れていませんね」
「うん」
ドローンに搭載されたカメラが爆破が起こったフロアを映す。
「6階だけ爆破したのね。こんな真似ができるのは……やっぱりカーディナルの仕業…」
映像を見て、すぐにりおはピンときた。
こんな器用に一部だけを爆破するなんて。建物の構造や爆弾の量、すべてを計算できなければ無理だ。
そんなことが出来るのは——自分が知っている限り、《彼》しかいない。
「6階に組織のターゲットがいた、という事でしょうか」
昴がりおに問いかけた。
「うん、たぶん。そして…事件はまだ続くかもしれない」
「どういうことですか?」
りおの言葉に、昴は鋭い目を向けた。
「爆弾のない爆破予告。そして爆破予告後の爆破。この二つの出来事は…おそらく警察組織を混乱させる為。
もしくは、それによって警察叩きをさせて上手く機能させないようにする為かもしれないわ。ジンが考えそうな事よ」
りおは昴の顔を見ながら答えた。
「あえてミスを誘い、相手の動きを封じ込める。
そのスキにターゲットを次々と襲うのよ。
その上、今まで『有った』予告が『無い』ってだけで、世間も警察もパニックを起こす可能性だってあるわ」
「なるほど。心理作戦ですね。今までは予告が有る事で狙われている場所が分かっていたから、人々は比較的冷静でいられた。
しかし、今度は予告なしでどこを爆破されるか分からない。人々の恐怖を煽るにはうってつけだ」
昴は納得したようにつぶやく。
「ええ、そういう事」
すべてはジンの思惑通りに進められている。爆発がカーディナルの仕業であれば証拠は残らない。
捜査一課が何かを掴むのは難しいだろう。だが、どこかで事態を打開しなければならない。
(夕方…アジトに行ってみる必要があるわ。おそらく仕事を終え、カーディナルも来ているだろうから)
テレビでは、事件を目撃した市民が興奮気味に状況を説明する姿が映され、りおはそれを切なげに眺めていた。
夕方——
ラスティーはアジトの自室の前に居た。部屋に入ろうとした時、ふいに声を掛けられた。
「ラスティー。久しぶりだな」
「あら、カーディナル。どうしたの? こんな時間に」
ちょっと白々しかったかな…と思いながらあえて訊ねた。
「ああ。昼前に一仕事終えたところさ。ジンに報告がてら来たんだ。君は? 最近姿を見なかったが」
カーディナルはラスティーに近づく。
「ええ。ちょっと体調が…ね」
「そうか……。あの写真が原因か?」
思い当たるのは貿易会社社長の遺体写真。
死に敏感なラスティーには、ちょっと刺激が強すぎたようだ。
「ええ、まあ。こんなだから、ジンにもベルモットにも迷惑かけっぱなしでね…。ホントごめんなさい。
あなたにも迷惑かけたし、良かったらコーヒーでも一杯どうかしら?」
ラスティーは自室のドアを開けて誘う。
「おお、そうだな。別に迷惑などとは思っていなかったが…。私もちょうど今アジトに着いたばかりでね。
一杯ご馳走になろうかな」
カーディナルは微笑むと、ラスティーの部屋へと入っていった。
「すぐに淹れるわ。ちょっと待っててね」
ラスティーはそう言って上着を脱ぐと、手を洗いコーヒーメーカーをセットし始めた。
「ああ。慌てなくて良いよ」
部屋の中をぐるりと見回しながら、カーディナルは返事をした。
「今回で2度目だが、女の人の部屋なんてそうそう入ったこと無いから…。なんていうか…新鮮だね」
「そう? 特に女性らしいものは置いていないけど」
コーヒーメーカーのスイッチをONにして、ラスティーはカップを用意した。
「まあ確かに。可愛い物や美しい飾りを置いているわけでもないし。女性としては割とシンプルといえるかな。そういえば、君はタバコを吸うのかい?」
「いいえ。なぜそんなことを?」
「そうか。いや、部屋の中はタバコの匂いがしないのに、君からわずかに匂ったから…」
「ッ!」
(昴さんのタバコか……前もジンに言われたことがあったな…)
ラスティーは一瞬ドキリとした。
「あ~。それ、大学で付いたのかもしれないわ。大学の研究室は喫煙者が多いの。特に教授たちは姿が見えないな~って思うと、だいたい喫煙室にいるから」
「なるほど」
適当にごまかしたが、特にそれ以上追求されることも無かった。
「はい。コーヒー。お待たせ」
「ああ。ありがとう」
ラスティーはカップをカーディナルに手渡した。
カップからはゆらりと湯気が上がる。
コーヒーの良い香りが部屋いっぱいに広がった。
「ところで、昼前に一仕事済ませて来たって言ってたけど…。それって梨善町の…?」
「ああ。そうだよ」
熱いコーヒーを一口飲みながらカーディナルは答えた。
ラスティーは「ふ~ん」と言いながら、コーヒーにミルクを入れた。
「じゃあ、ショッピングモールの爆破…。あれも?」
マドラーでそっとカップの中に円を描く。
黒い液体が優しいカフェオレ色に変わった。
「ああ。ジンのアイデアだよ。これだけ爆弾のない予告が続いたから、警察も油断しているだろうと言ってね。
思っていた以上に上手く行ったよ」
コーヒーを味わいながらカーディナルは満足げに話す。そんな余裕顔を、ラスティーはカフェオレを口にしながらちらりと視線を上げて覗き見た。