第4章 ~両親との記憶~
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「ジェームズ…。あなたは二人の死についても知っているのですね?」
「…」
昴の問いかけにジェームズは何も答えない。
目を閉じしばらく考える。やがて静かに目を開けた。
「ああ。知っている。殺されたんだ。今、我々が追っている組織の者にね」
組織と聞いて、昴は細めていた目を見開いた。
「じゃ、じゃあ二人が知り得た情報って…」
「おそらく組織に繋がるものだった。
二人は長い年月をかけて、旅客船の爆破事件が組織と繋がっているところまで掴んだ。
この時カズマは、組織の中心にかなり近いところまで来ていたんだ。コードネームを与えられる直前まで。だが、組織に二人の正体を気付かれてしまった。
きっかけは…。組織の者が任務に就いているところを、りおくんが目撃したことだった。それを彼女は母親に話した。
組織が起こすつもりだった事件が事前に察知され、計画は失敗した。
りおくんに任務を目撃された男が、彼女の存在に気付いていた。そしてすべてがバレ、組織は家族もろとも抹殺する計画を立てた」
「な?!」
両親の正体がバレたきっかけがりおだった?!
残酷な真実に衝撃が走る。そして組織の恐ろしい計画に怒りを覚えた。
昴は手のひらに爪が食い込むほど、強く拳を握り閉めた。
「あの日。家族が久しぶりに顔を揃えた日。
3人で出かけたんだ。水族館に行くはずだった。りおくんはとても楽しみにしていた。
海までもう少しという山間の道を車で走行中、カズマ達が乗った車は、前後そして対向車線を車で囲まれ、銃撃を受けた。
車の左側は山。完全に囲まれてしまったため、逃げ道は無い。ガソリンタンクを撃ち抜かれたら一巻の終わりだ。
二人は娘だけでも助けようとしたんだ。事故現場が全てを物語っていた」
ジェームズの眉間にギュッとしわが寄る。奥歯を噛みしめ、一度深呼吸をした。
「大きな左カーブで減速し、後ろを塞いでいた車と接触してスキを作った。次の右カーブでわずかに広くなった山側の草むらに、組織の者に気付かれぬようドアを開け、娘を車から脱出させた。
そのまま加速し前の車に追突。制御できなくなった彼らの車は、前の車を除く2台を巻き込んで、大きな右カーブを曲がり切れず激突し爆発炎上した」
そこまで話すとジェームズは大きく息を吐いた。
「りおくんは頭を打っていたが、その時はまだ意識があった。炎上する車まで自力で歩いたようなんだ。
事故の一報で救急車が到着した時、車の近くで倒れていたと聞いた。すぐに病院に運ばれ手当てを受けたが……。
頭を打った事、精神的なショック、そして幼い時からあまり両親と過ごせなかった。これらの事がすべて複雑に絡まって…両親の記憶が曖昧になってしまったのだろうな」
全てを話し終え、ジェームズは立ち上がり、窓の外を見た。
「これが私の知っているすべてだ。分かっただろう。すべてを語れば、辛い現実を彼女に伝えねばならん。一部だけを語ろうとすれば、どこかで事実が歪められる。
ならば伝えない方が良い。彼女は幼かった。多少記憶が戻ったとしても一番伝えなくて良い所は…彼女には分からないだろう」
ジェームズの言葉は昴の心に重く響いた。
「本当は君にも伝えるつもりはなかったんだ。
真実を知りながら、知らぬふりをして彼女のそばに居るのは辛い事だ。君にそんな思いをさせたくなかった」
ジェームズは昴の方に向き直り頭を下げた。
「許してくれ。私の心が弱いばかりに、君にすべてを話してしまった。私も限界だったんだ。誰かに話して楽になりたいと思っていたのも事実だ。本当にすまない」
昴は首を横に振った。
「謝らないでください。私は私の意志でここに来ました。真実を知ることが彼女の為になるのか、それを知りたくて。
話を聞いて分かりました。いずれ…すべてを私の口から彼女に話します」
昴の言葉にジェームズは驚いた顔をした。
「なに?! 彼女に話す? 何をバカな…。そんなことをしたら彼女は…」
ジェームズの言葉にかぶせるように昴は続ける。
「彼女のスキルを甘く見過ぎですよ、ジェームズ。
一度突破口を見つければ、時間がかかっても必ず真実にたどり着きます。隠そうとすればするほど、長い時間彼女を苦しめ傷つける。
現に中途半端に思い出された記憶に振り回され、彼女は混乱している。それならば折を見て私の口から伝え、すべてを昇華出来るまでそばにいます」
昴の強い決意がその言葉に現れていた。
「それに…彼女はもう幼子ではありません。しっかり前を向いて歩けるんです。
彼女の母親がそうであったように」
昴の言葉にジェームズはハッとした。
「そうか…。そうだな」
「ミシェルの事件で、重要参考人と接触した刑事の名を聞いた時は我が耳を疑ったよ。しかも君の正体を知る《星川さくら》という女性が、《広瀬りお》だと知った時は言葉も出なかった。
2回目の合同捜査会議で、憔悴した彼女を見た時は驚いた。すぐにルナの娘だと分かった。両親を亡くした時のルナと瓜二つだったから…」
そう言って視線を上げるとジェームズは微笑み、昴の顔をじっと見つめる。
「そしてまさか、ルナの娘と自分の部下が恋仲になるとはね…。縁とは本当に不思議なものだね」
ジェームズは僅かに微笑むと窓から空を見上げた。
「赤井くん。彼女を頼んだよ」