第1章 ~運命の再会そして…~
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さくらは薬が効いているのかよく眠っていた。
昴は博士たちが持ってきてくれた夕食を取り、夜11時を回ったところで変装を解いた。
赤井に戻って客室に戻るとさくらが目を覚ましていた。
「…さくら…」
名前しか呼べなかった。なんと声をかけて良いのかわからない。
「しゅ…いちさ…ん」
赤井の顔を見てさくらは安心したように微笑む。
「ごめんね。ごめんなさい。勝手な真似をして。でも、もう逃げたくなかった」
さくらは体を起こし、少し苦しげに息を吐いた。
「私甘えてた……。現実から逃げて、もうあんな苦しい思いはゴメンだって。逃げ切れると思っていた。でも……。
組織が『エンジェルダスト』を世に広げようとしていると知って…もう逃げられないと思った」
ごほっごほっごほっ!!
一気の喋ったせいかひどく咳き込む。
「さくら…もう分かった。分かったから…」
赤井が見かねて制止するも、さくらは構わず話し続ける。
「私の大切な人達は、私がこの手で守りたい。同じ失敗はしない。それに…」
さくらは昴の顔を見上げる。
「私の大切な人達は、私なんかよりずっと強くて、頼りになる人たちばかりだから…。そうでしょ? 秀一さん」
はぁはぁと肩で息をしながら、いたずらっぽく笑う。
「ああ、もちろんだ。おとなしく守られていることが出来ない奴らばかりだよ」
俺を含めてね。そう言ってさくらを抱きしめた。さくらも赤井の背中に手を回す。その行為が嬉しくて赤井はさくらの頭に頬を寄せた。
長い時間、こうしてお互いの体温を確かめ合っていた。
「秀一さん…」
どれくらいかして、さくらが赤井の名を呼ぶ。
「ん? どうした?」
抱きしめたまま返事をした。
「お願いが2つあるんだけど」
「なんだ?」
今度は体を離してさくらの顔を見て返事をした。
「少しおなかが空きました」
そう言った直後に「ぐ~~っ」とさくらの腹の虫が自己主張をした。あまりのタイミングの良さに思わずふたりで笑ってしまう。
「もう! そんなに笑わないで!」
豪快に笑いすぎてさくらがすねた。
「すまんすまん。あんまりタイミング良かったから。腹が減るのは良い傾向だ。どれ、博士たちが作って来てくれたお粥を温めてきてやるよ。
それと、もうひとつのお願いは何かな?」
そう笑顔を向けて訊ねると、さっきまで拗ねていたさくらがスッと目をそらす。
「どうした?」
優しくもう一度声をかけた。
「前にやってくれたみたいに、あなたの胸の音を聞きながら一緒に寝て欲しいの」
さくらは下を向いたまま、小さな声でつぶやいた。
「あの時のあなたが、間違いなく私のところに帰ってきたと確認したいの」
(ああ、そうか…)
発作を起こした時、何度か自分の胸の音を聞かせて安心させた。しかしほとんどが沖矢昴の姿でだった。
「わかった。一緒にいてやるから好きなだけ確認すると良い」
赤井の言葉を聞いてさくらは嬉しそうに微笑んだ。
**
博士の作ってくれたお粥一人前をなんとか食べきった。
以前は半分しか食べられなかったのだから、少しは良くなったといって良い。とはいえ、まだまだお粥を食べている状態では体力がつかない。焦りは禁物だろう。
新出に処方してもらった薬を飲み、再び横にさせる。洗い物だけしてくるからと言って、赤井は客室を出た。
カチャカチャと食器をすすぎ、シンクの横に伏せていく。タオルで手を拭き、時計を見ると夜中の1時になっていた。
ここ数日あまり眠っていなかったので、
(今夜は少し休めそうだ…)
そんな事を考えながら赤井は客室に戻った。
さくらは目を閉じていたが、ドアが開く音がするとすぐに目を開けた。ベッドにスペースを開けるように体をずらす。
赤井は空いたスペースに体をすべり込ませた。ベッドの中はさくらの熱で温かい。顔が見えるように横向きに寝ころんだ。
さくらは右手でそっと赤井の顔に触れる。頬を、目元を、鼻筋を、唇を、親指でゆっくりゆっくりなぞっていく。
少しくすぐったかったが、彼女なりの「生きてる」を確かめる儀式なんだろう。されるがまま、さくらのしたいようにさせていた。
そのうち左肩を押されて仰向けに寝かされる。
さくらは上半身を起こし、赤井を見下ろした。
「瞳の色…キレイ。まるで宝石のペリドットみたいね…」
そういって目の縁にキスをした。続いて頬に。鼻筋に。触れるだけの優しいキス。
唇には、端っこを触れるか触れないかのキス。次は首筋に顔を埋める。
熱があるせいでさくらが触れるところだけ熱い。
しばらく首元にすり寄ったあと、いつもはチョーカーがあるところにキスをする。
唇をスルーした分、そこはちょっと強めのキスだった。
「!」
ほんの少しピクッと体が反応してしまった。
一瞬さくらの動きが止まる。
今度は赤井のうなじ辺りに唇を寄せた。
そこに先ほどと同じ強さで今度はちゅっとリップ音を立ててキスをする。
チクリとわずかな痛みがあり、思わず「っん!」と声が出てしまった。再びさくらの動きが止まる。
次は丁度心臓があるあたりに耳をつけた。
冷静を装っているが、先ほどのさくらからのキスで赤井の心臓は早鐘のようだ。
「秀一さん…」
不意に名を呼ばれる。
「すごいドキドキしているよ」
そう言われて「バレたか」とおどけてみせた。
「お前にあんな風に触れられたら、いくら俺でもオオカミになるかもしれないぞ」
ウソのようなホントのような。無防備なさくらに軽い忠告をした。
「ふふふっ! オオカミかぁ」
笑いながら今度はのど仏の辺りにキスされた。
「お、おい…」
首をすくめて抗議するが、今度は耳にキスされる。さすがにマズい。体を反転させて、今度はさくらが仰向けになり赤井が見下ろす形になる。
「ごめんね。私秀一さんに触れたかったの」
両手で赤井の頬に触れる。
「あなたの顔に血しぶきが飛んでいるところを、私は2度も見たわ」
言葉の最後は震えていた。
一度目はスコッチの返り血を浴びた顔
一度目はキールに頭を撃たれた顔
さくらの目から涙がこぼれる。
その涙をすくい取るように、今度は赤井がさくらの目の縁にキスをした。
続いて頬に。鼻筋に。最後は唇に。
熱で火照ったさくらの顔に次々優しいキスをする。
「俺は生きているよ。ただいま、さくら」
赤井の言葉に、さくらはようやく微笑んで返事をしてくれた。
「お帰りなさい。秀一さん」