第4章 ~両親との記憶~
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「広瀬、ちょっと良いか?」
りおは公安デスクで仕事中、風見に声を掛けられた。
見上げた風見の顔は若干青ざめているように見える。
「はい。何でしょう?」
「前にあった商業ビルの爆破予告、覚えているか?」
「ええ。結局爆弾は無く、イタズラだった時の事件ですね。単独犯で、犯人も捕まったはずですけど」(番外編『メロディ』より)
「ああ。その時の犯人、『爆破予告をすれば金をやる』と誰かにそそのかされていたらしいんだ」
「誰かに?」
どういうこと? 単独犯だったはずなのに。
りおの顔が一気に険しくなった。
《誰か》と言う事は、つまり計画を立てた人物が別に居るという事になる。
「そしてその犯人が、先ほど何者かによって射殺された」
「えっ!?」
思いもしない報告にりおは目を見開いた。
「犯人は逮捕時一貫して『計画から予告まですべて一人でやった』といっていた。
ところが今日の裁判で、『金欲しさに、ある人物の計画に乗っただけだ』と突然主張をひっくり返した。
その後裁判所を出る時、そのわずかな時間に狙撃された」
「そ、狙撃?!」
りおは思わずイスから立ち上がる。
「ああ。頭を撃ちぬかれて即死だった」
風見の言葉に、りおは切なげに視線を落とした。
「かなり腕のいいスナイパーだ。現場の状況と狙撃ポイント近くの防犯カメラの映像から、降谷さんは組織のコルンを疑っている。
つまり……商業ビルの爆破予告も組織が絡んでいる可能性が高い。ましてや、キョファン貿易の爆破も最近の事だ。
組織内に爆破担当が未だ出入りしている事も鑑みると、次の行動に出る可能性が高い」
風見は淡々と続ける。
りおは黙って彼の言葉を聞いていた。
裁判中にこれまでの主張をひっくり返し、その後裁判所を出る時に狙撃されているということは、傍聴席に組織の誰かが居たのだろう。
被告人はコードネームを持たない組織の末端。彼が組織を裏切る事も想定していたのかもしれない。
予想通り、今後の組織の行動に不利益な事を口走り、消された。いわば組織の捨て駒に過ぎなかった。
(こうも簡単に人の命が奪われる)
りおは下を向いたまま、辛そうに目を閉じる。
心を痛める部下を見て、風見もどう声を掛けるか迷っていた。結局気の利いた言葉は出てこず、淡々と業務連絡をすることしか出来ない。
「しばらく登庁は控えた方が良い。奴らが何を考えているか分からん。
先日の諸伏警部と一緒に遭遇した事件も、本来はこの事件と同じような経過を辿るはずだったのかもしれない。
結果的に爆破予告すら出なかった、ただの《暴力事件》になってしまったが…。
そこにお前が関わってしまっているのも心配だ。
まして組織の動きが活発になっている時に、ここを出入りしている姿を見られるのもマズイ。今日はこのまま帰れ」
「わ、分かりました…」
風見の言っていることは正しい。
組織が絡んだ事件に、ラスティーとしてではなく《星川さくら》としてかかわる事も、まして《広瀬りお》としてかかわる事もリスクが大きすぎる。
りおは返事をするとデスクを片付け、帰路についた。
「ただいま…」
りおは工藤邸にたどり着くと、力なくソファーに座った。
頭の中に《爆破予告》《狙撃》《コルン》《組織》というキーワードがグルグルと回る。考えることを放棄するように、背もたれに頭を預け目を閉じた。
「お帰りなさい。随分早いですね。何かありました?」
疲れた表情のりおに、昴は近づき声をかけた。
「ジン達が……また動き出したみたい」
「ジンが?」
昴の柔らかな表情が一瞬で険しくなる。
「前に爆破予告をして捕まった男が、今日の裁判で突然主張をひっくり返して…。その直後に狙撃されて…」
「さっき、ニュースでやっていましたね。射殺されたと」
「降谷さんは、狙撃はコルンじゃないかと…」
りおの声はだんだん小さくなる。昴はそっと隣に座ると、りおの手を握った。
「組織が活発に動き出したから、『警視庁に出入りするな』と言われたのですね」
「うん」
「それならいい機会ですし、少し休んだらどうです?
FBIの捜査資料を渡してから、あなたろくに寝ていないでしょう?」
昴はニッコリと微笑んでりおを抱きしめると、そのままりおを抱き上げた。
「えっ? あ、ちょっ……昴さん?!」
りおの抗議も聞かず、昴は抱き上げたまま部屋へと運んだ。ベッドに寝かせると毛布を掛ける。
「このまま少し寝てください。昔の事を思い出した時にも、少なからず体に負荷がかかっているはずです。もう少し労わってあげないと」
昴はベッドサイドに膝をつき、小さな子をあやすようにりおの心臓のあたりを優しくトントンとたたく。
「子守歌でも歌ってあげましょうか?」
「え? 昴さんの子守歌? 聞かせてくれるの?」
「え……」
りおに歌を聴かせるなんて、そんな気はさらさらなかったのだが、思いがけずりおが嬉しそうに言うので今更冗談だったとは言い辛い。
昴はため息をつくと、小さな声で歌い出した。
♪♬Rock a bye baby on the tree top
When the wind blows the cradle will rock~ ♬
「わ…ホントに歌ってくれた…。マザーグースの子守歌…『Rock a bye baby/ロッカバイ ベイビー』ね。……ふふふ…今度…秀一さんの声でも……歌って……ね……」
りおは嬉しそうにつぶやくと、子守歌を聞きながらスーッと眠ってしまった。
(まさか母さんが秀𠮷を寝かしつける時に歌っていた歌が、役に立つとはね…)
意外に覚えているもんだな…と、自分に感心しながらりおの顔を見る。
幸せそうな寝顔を見て昴はフッと笑ったものの、
(母親に歌を歌ってもらった記憶も…きっと残っていないのだろうな…)
そう思うと不憫に思えた。
(俺のこんなうろ覚えの歌で良ければ…時々歌ってやるよ…)
昴はそっとりおの頭を撫でた。
どれくらいか時間が経ち、りおは重いまぶたを開けた。
太陽がだいぶ傾いているようだった。
良く見ると、自分の隣で昴も気持ち良さそうに眠っている。
「昴さん」
何度か声を掛ける。
「う…ん…」
やがて小さな声が聞こえ、昴の顔がぎゅっと歪んだ。
パチリと目が開くと、ペリドットの瞳と目が合う。
「おはよ。昴さん」
「ん……あれ、俺も寝てた…? お前の寝顔見てたら気持ち良さそうで……。
『ちょっとだけ』と思っていたんだが…」
ちょっとじゃすまなかったみたいだ…
寝ぼけ顔で言う昴の顔を見て、りおは少し悲しげに微笑む。
「昴さんも最近寝てないんじゃないの?
私の心配ばかりじゃなくて、昴さんも一緒に休まないとね」
「では、この次は一緒にお昼寝しましょうね」
昴の体を心配するりおに笑顔で答えた。
(お前とくっついて寝て、昼寝だけで済むかどうかは分からんが…)という言葉は飲み込んだ。
夕方6時過ぎ。
仲良く夕食の準備をしている時だった。二人のスマホが同時に速報を伝えた。顔を見合わせ、スマホを手に取る。
《沢袋駅に爆破予告》
画面に出た文字に二人は言葉を失った。
ニュースアプリを確認していると、りおのスマホが鳴り出す。画面を見ると風見からだった。
「広瀬。ニュースは見たか?」
「ええ。見ました。沢袋駅に爆破予告があったと」
「今公安と爆破物処理班が向かっている。降谷さんはちょうどアジトに向かっているところだと連絡があった。
一課も総動員で周辺の誘導に当たっている。
現場もアジトも大丈夫だから。お前は動くなよ」
「で、でもッ!」
「大丈夫だよ。少しは俺にも活躍の場を持たせろ。お前は沖矢さんのそばにいるんだ。いいな」
そう言って電話は切れた。
「りお。彼の言う通りです。組織の目もある。あなたはまだ、心も体も決していい状態では無いという事を少し自覚してください」
「……はい…」
りおは小さくうなずいた。
翌日——
結局今回もまた、以前の事件と同様に爆弾は仕掛けられていなかった。
ネットに書き込みがあったようで、それが瞬く間に拡散したようだ。書き込みをしたPCも特定され、都内のネットカフェに設置された防犯カメラを解析中だ。
「組織と関わりがあるのかしら」
「今は何とも。連絡を待つよりほかはありませんね」
昴は今朝届いた新聞を広げ、事件の詳細を読んでいた。
りおの手にはカフェオレの入ったカップ。
湯気がゆらりと揺れている。その湯気越しに昴の顔を見つめていた。
「どうしました? 私の顔に何かついていますか?」
りおの視線に気づき、昴が声を掛ける。
「えっ…あ…ううん」
りおは慌てて視線をそらした。それを見て昴は小さくため息をつく。新聞をたたんでテーブルに置くと、コーヒーを一口飲んだ。
「もどかしいですか?」
「え?」
「現場に行けないことが」
昴は視線をコーヒーカップに向けたまま問いかけた。
「……現場に行けないもどかしさもあるわ。そして、旅客船の事件も…何も分からない。
何もかも行き詰ったこの状況が…すごく辛い」
昴は視線を上げ、りおの顔を見た。辛そうにうつむく姿に心が痛む。
再び視線を落とすとしばし考え込んだ。
しばらく沈黙した後、昴は何かを決心したように顔を上る。
「りお、今日は阿笠邸に居てもらっても良いですか? 私はちょっと出掛けてきます」