第4章 ~両親との記憶~
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数日後。
ジョディが工藤邸を訪れた。
「はい、これ。ジェームズから頼まれたの」
「ああ、すまない。助かるよ」
リビングのテーブルにファイルが置かれた。
「それにしてもこれ何なの? ずいぶん古い資料だけど」
ジョディが昴に声を掛ける。
しかし昴はファイルを手に取るとソファーに腰かけ、ページをめくり始めた。
その顔はいつになく真剣で、こちらの声など届いてはいないだろう。
「もう……」
ジョディはため息をついた。
夕方——
大学から帰宅したりおを出迎え、昴は玄関に入ると捜査資料が届いたことを伝えた。
「さすがね。もう届いたの?」
りおは嬉しそうだ。
「ええ。午前中にジョディが届けてくれました。私もザッと目を通しましたけど…」
そう言いかけた昴の顔は浮かない。
なぜそんな顔をしているのか、りおには察しがついた。
「大した事は書かれていなかった? 大丈夫。それも想定内よ。ガッカリしたりしないから」
りおは昴に微笑むと、足早にリビングへと向かった。
さっそくファイルを手に取る。ソファーに座るとページをめくった。その姿を昴はジッと見守っていた。
《〇月〇日 午後12時47分通報
ニューヨーク港に停泊中の豪華客船にて爆発事件発生
爆発による火災は4時間後に鎮火
乗員乗客136名全員の死亡確認
爆弾は船の燃料部分、客室、パーティー会場に設置され、ほぼ同時に爆発。乗客に逃げ場はなく、爆発による死者と火災による死者が大半。数名海に飛び込み避難した者もいたが、致命傷を負っていたため、泳ぐこともままならずそのまま溺死
被害にあった船では船上パーティーが開かれていた。
日本の企業が企画したもので、計画ではパーティー後、港を離れクルージングを行う事になっており、国内外の参加者を募っていた》
「さすがに組織で見たデータより詳しく書かれているわ。被害者の身元も全員分かっているし…。パーティーの参加者を募っていたから、名簿があったのね」
りおは必要なところはメモを取りながら読み進めていた。
名簿にも目を通したが、特段気になる名は無い。
あるページまで進み次のページを開こうとした時、昴がその手を掴んだ。
思わずりおは顔を上げる。昴の表情は硬く、何かを言いたげだ。
「? どうしたの?」
「それ以上は…ダメだ」
「え…どうし…」
「現場写真が添付されている。遺体の写真も多い」
「ッ!」
「爆破現場だ。やめておけ」
「わ、分かったわ…。ありがとう。止めてくれて」
りおはページから手を離す。
昴も掴んだ手を離し、表情を緩めた。
日本の企業名も聞いたことのない名前。
被害者も3分の1が日本人だった。ただ、犯行声明も無く、犯人に繋がる手がかりは何一つない。
目撃証言もほとんどなく、事件はお蔵入りとなっていた。
「どうです? 何か気になる事はありましたか?」
昴はりおに声をかけた。
「うん。まずこの日本企業の名前…聞いたことが無いし、もう少し調べた方が良いみたい。
あと、この被害者名簿ももう少し調べたいわ。アメリカのニューヨーク港でのパーティーとクルージングだったのに、客の3分の1が日本人っていうのも…ちょっと引っかかるし。
まあ、もしかしたらこの企業の関係者かもしれないけど」
「分かりました。このファイルはここに置いておきますから、好きに使ってください。
ただし、先ほどのページ以降は見てはいけませんよ」
昴の言葉にりおは素直にうなずいた。
***
組織のアジトではジンとカーディナルが顔を合わせていた。
ジンがソファーに座ってタバコをふかしている。
カーディナルはそれをぼんやり眺めていた。
いつもは物腰こそ柔らかいが、一切のスキを見せない男だ。それが今日はスキだらけ。その様子にジンが声をかけた。
「どうしたカーディナル。らしくないな、ボーっとして」
「いや、ラスティーはどうしているかと思ってね。私が撮ってきた写真を見た時、だいぶ苦しそうだったから」
「気になるのか?」
ジンの眉がわずかに動いた。
「ああ、昔似たような子に会った気がしてね」
「昔?」
「もう20年も前だし、彼女のはずはないんだが」
カーディナルはフッとため息をつく。
はらりと落ちた前髪をかき上げた。
「昔惚れた女か?」
「ふふふ。なら良いね」
「……昔…バラした女か…」
「まあ、そんなところだよ」
カーディナルは顔の前で両手を組んだ。
これ以上は聞くなとけん制しているような目で見られ、ジンは軽く鼻で笑う。
「フン。バラした女の事を20年も覚えているヤツの気が知れねえな」
「確かに」
二人は笑う。
「まあいい。…次のヤマだ」
ジンの鋭い目が怪しげに光った。