第4章 ~両親との記憶~
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ラスティーはUSBメモリを手に取り、ジンから渡されていた写真と一緒にバッグにしまった。
「う…ん……だめだ、めまいが…」
ラスティーはPCデスクに手をついたものの、崩れるように膝をつき、そのまま倒れ込んだ。
吐き気は治まったが、グラグラと揺れるような強いめまいが襲う。体を起こそうにも力が入らない。
「は、早く家に帰りたいのに…。これじゃあ…」
焦れば焦るほど呼吸が浅くなり、自分を追い詰める。
ゆっくり呼吸をしようと意識はするが、思うように体が動かない。
やがて爆破の時の情景がフラッシュバックした。
凄まじい轟音
悲鳴
倒れている人々
大量の血
むせかえるような埃と煙
損傷の激しい遺体
「はぁ、はぁ、はっ、はぁ、はっはっ」
浅く短い呼吸を繰り返し、その回数だけが増えていく。指先がピリピリとしびれ、目の前がだんだん暗くなった。
(しゅう…い……さ…)
ブラックアウト寸前に赤井の顔が浮かんだ。
その時だった。
「ラスティー!」
ベルモットが部屋に飛び込んできた。
「べ…ル…」
「やっぱり過呼吸を起こしたのね。何度ノックしても返事が無いからおかしいと思ったの」
ベルモットがラスティーを抱き起す。呼吸がしやすいようにソファーに座らせ、自分の方にもたれさせた。
抱きかかえるようにして背中をさすり、呼吸を合わせて「ゆっくりゆっくり」と声を掛けた。
15分程過ぎた頃——
ようやく息苦しさから解放され、指先のしびれも次第に取れてきた。
ベルモットに抱きかかられているためか、頬に伝わる人肌に安心する。
「ありがとう、ベルモット。もう…大丈夫そう…」
ラスティーは目を閉じたままベルモットに声をかけた。
「バカね。まだ指先が冷たいわ。顔色も真っ青よ」
ラスティーの顔にかかった髪をかき上げ、ベルモットはそのままそっと頭を撫でた。
ラスティーはゆっくり目を開けたが、すぐにその表情が歪む。
「ッ!」
「ほら、まだめまいがあるでしょう。無理をしてはダメ。バーボンを呼んであげるわ。家まで送らせるわね」
ベルモットは何度かラスティーの頭を撫でると、スマホを取り出しバーボンに連絡を取った。
ガチャ
「遅くなりました……ベルモット。ラスティーの様子は…どうですか?」
ベルモットが連絡をしてから30分後。
車を降りてから走って来たらしく、少し息を切らしたバーボンが部屋へと入ってきた。
「過呼吸の発作は何とかやり過ごしたわ。でも、めまいがまだあるみたい。
顔色も良くないし自力で帰宅は無理そうなの。悪いけど送り届けてもらえるかしら?」
「何があったんです?」
ベルモットに抱きかかえられるようにして眠っているラスティーの顔を見て、バーボンは心配そうに訊ねた。
「ジンが……昨日の爆破現場の写真を彼女に見せたのよ。
カーディナルの爆破は証拠が残らない。なのに証拠になりうる爆破装置の残骸が見つかって…。それをラスティーに調べさせたのよ。
当然写真は…まだ遺体がいたるところに散乱している時に撮影されたものだから…」
ベルモットはラスティーの頭を撫でながら、バーボンに今までの事を説明した。
「…なるほど。分かりました。彼女を送り届けて…しばらくは様子を見ます」
バーボンはラスティーを抱き上げ、ベルモットにそう告げた。
「ええ。お願い。あなたも……彼女を守ってあげて」
「守る? どういうことですか?」
ベルモットの言葉に、バーボンが反応した。
「ッ、別に…今更の事ではないんだけど…。ジンが…いずれその子を抱く気でいるわ。
私が睨みをきかせているから、すぐに手を出すことは無いと思うけど…。ただ最近、その子との距離感が以前のそれより近いのよ…」
「ッ! 分かりました」
動揺を悟られないように静かに返事をすると、バーボンはアジトを後にした。
**
安室の車は工藤邸へと向かっていた。
途中さくらが目を覚ます。
「ん…? ココ…くる…ま…?」
「さくらさん、大丈夫ですか?」
さくらは安室の声を聞いて、驚いた顔をしていた。
「ベルモットが僕に連絡をしたんですよ。あなたを送り届けてくれって」
「す、すみません…。そういえばベルモットがそんなことを言っていたような…。お手数をおかけしてしまって…」
さくらは慌てて倒されたシートから体を起こした。
「おっと、まだ急に起き上がってはダメですよ。
顔色は真っ青なままです。めまいがあるのでしょう?」
安室は左手でさくらの体を制した。そのままさくらはシートに身をゆだねる。
「かなりしんどい任務でしたね」
「ええ……」
さくらは小さくうなずいた。
「安室…さん。今回の爆破は組織のカーディナルの仕業で間違いありません。ただキョファン貿易は、ビルごと爆破されるであろうことは読んでいました。
ビルを爆破された際には、裏で行っていた偽札作りもろとも、組織にその罪を着せるために」
「何だって?! そんなことをしたら、自分たちが死ぬんですよ! 何のためにそんな…」
恐ろしい計画に、安室は険しい顔になる。そしてハッとしたようにつぶやいた。
「君からのメールでは、キョファン貿易はオドゥムと繋がっているとあった。…いや、むしろ会社の人間がオドゥムの構成員ということか」
「そうです。最高指導者のために自分の命をあっさり捨てられる。オドゥムはそんな輩の集まりです。」
恐ろしい事実に、安室はごくりと喉を鳴らした。
「キョファンビルは偽札作りの工場だった。
コムンセク市のフェセク総合病院の院長も、オドゥムの構成員の一人だと考えれば、そこを窓口に偽の外貨を『調度品』と偽って日本からK国に輸出できます。
コムンセク市まで運ばれれば、C国までの輸送は簡単ですから。
偽札がオドゥムの資金源の一つであることは、疑う余地はありません。そして組織もそれを見逃すはずがない。
それを逆手に取り、偽札製造の罪を組織に着せてダメージを与える…。
今回の爆破は、オドゥムによってそうなるよう仕組まれたものだった」
さくらは今回の事を詳細に安室に告げる。
その内容はあまりにも現実離れしていた。
人の命がこうも軽く、且つ簡単に失われてしまう事に、さくらも安室もショックだった。
「組織も、今回の事は想定内だったようです。オドゥムの計画に乗る形で資金源を断ち、尚且つ罪を着せられぬよう、用意周到に現場の撮影まで行って…」
そこまで話すと、さくらは苦しげに胸元に手を当てた。
呼吸は浅く速い。薄く開いた唇はみるみるうちに色を無くしていく。
「さくらさん、それ以上は…! もうよしましょう」
安室は路肩に車を止めると、さくらの背中をさすった。
掛けてやるは言葉も見つからない。
ただただ、背中をさすってやることしか安室には出来なかった。
少し落ち着いたことを確認すると、車を飛ばし急いで工藤邸へと向かった。
工藤邸到着後——
昴は多くを語らずさくらを部屋で休ませた。落ち着いたところで、安室は昴にすべてを話した。
昴は時折小さくうなずくと、終始黙ったまま聞いていた。
ある程度は予測していたことだった。だがすべてがオドゥムによって仕組まれたものだったとは驚きだ。そしてそれを組織もある程度把握していたとは。
「さくらさんから証拠のUSBメモリを預かりました。組織はこれを警視庁にリークするようにと言っていたようです。これについては公安で対処します」
「分かりました」
昴は静かに答えた。
「これで、しばらく大きな任務は来ないと思います。
ベルモットがジンに彼女の様子を話すでしょうし。ただ……」
「ただ?」
まだ何かあるのか?
安室の言葉に、昴は不思議そうに問いかけた。
「ジンが…さくらさんを自分の物にしようと狙っている…、とベルモットから聞きました」
「な…?!」
「ラスティーはジンのお気に入り。組織ではそう言われています。
それでも今まで何も無かったのは、おそらくベルモットが睨みをきかせていたから。そのベルモットが危機感を募らせていました。
彼女の睨みだけでは止められなくなってきた…と言う事なんでしょうか?」
(ジンがりおを狙ってる? そういえば以前……キスマークを付けられてきたことがあった…)
安室の言葉に昴は動揺を隠せない。思わず拳を握りしめた。
「あと…、以前から感じてはいたのですが…ベルモットの距離も気になります。
彼女は警戒心が強い。にもかかわらずさくらさんに対する態度や距離感は、見ていてドキッとするほど近い。
まるで姉妹や親子を思わせるような近さです。
さくらさんが、それにずいぶん助けられているのも事実ですが、あまりの近さに彼女の正体がバレるのではと心配しています」
安室の言いたいことは昴にも理解できた。
自分がライとして潜入している時にも、実は同じことを感じていたからだ。だが、その理由も分かっている。
「ベルモットはケンバリから彼女を連れ帰る時に同行しています。さくらの《仲間を守るための死闘》も、《仲間の為に流した涙》も彼女は見ている。
日本に帰って来てからも、傷ついたさくらをずっと面倒見ていたのはベルモットでしたからね。
『情が移った』といえば軽々しいですが、きっと似たような感情がベルモットの中にあるのかもしれません」
昴は安室の疑問に答えるように話した。
「…あなたも…その時同行していたんですよね?
ベルモットと同じ感情を抱きましたか?」
昴の話を聞いていた安室は、ふと思ったことを口に出した。
「ええ。『仲間と共に死ぬ』という覚悟を決めている人間を、無理やり船に乗せて連れてきたんです。
仲間の最期を告げる爆発を見た時の姿は、今でも忘れられないですよ。ベルモットの気持ちも分からなくはない」
フッと笑うと昴はソファーから立ち上がる。
窓辺に近付き、ズボンのポケットに手を入れると暗い工藤邸の庭を見下ろした。
「腐ったリンゴも…人並みの心があったのかもしれませんね。
もっとも…安室さんが心配する通り、さくらの素性がバレるのは心配ではありますが…。さくらもその辺は分かっているのだと思います」
昴は振り返り、再び安室の顔を見ると自信の表情を見せる。
「それならば…良いのですが…」
昴の自信はどこから来るのだろう…安室はそう思いながら、曖昧な返事をした。
「さくらさんがアジトに行くときは、出来るだけ僕も近くにいるようにしますから…」
そう告げると安室はRX-7に乗り、去っていった。