第1章 ~運命の再会そして…~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
先生たちが帰ったあと、昴はコナンに電話をした。
彼は工藤邸でシャワーを浴び、カフェオレを飲んだあと博士に送ってもらって一旦毛利探偵事務所に帰っていた。
「もしもし、昴さん?さくらさんは?」
2コールしないうちに出たということは、気にしてスマホを手元に置いていたのだろう。
「先ほど新出先生とRX-7の彼とふたりで送り届けてもらいました。風邪をぶり返してしまって。詳しい話はまた明日」
短いやり取りをして電話を切った。そしてもう一件…彼女を心配している人物…。阿笠博士にもさくらの無事を伝えた。
氷水を入れた洗面器とタオル、氷枕を持って客室に入る。氷枕をあてがい、冷たいタオルを額にのせた。
時間が戻ったような錯覚を覚える。
あの時と違うのは…
自分の中にもドロドロとした嫉妬というものが存在すると知ってしまったこと。彼女自身もまた、変わろうとしていることだった。
そういえば昼からさくらも自分も何も食べていなかった。
さくらにはおかゆを作るとして…自分は…と、冷蔵庫の作り置きを思い出していると玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開けると鍋を持った博士と、ピクニックに使うようなカゴをもった哀が立っていた。
「二人共お腹を空かせていると思ってな」
博士は笑顔を向ける。
哀は「感謝しなさいよ~」といつものポーカーフェイス。口角が上がっていることは黙っていよう。
二人共さくらが無事に戻ったことに安堵しているようだった。
***
RX-7のキーを玄関の所定の位置に置く。
靴を脱いで部屋に入ると、まっすぐ和室まで進み布団に倒れこんだ。
一度大きく深呼吸をしてすぐさま体を起こす。布団の横にあるテーブルに向き直り、その上にあるPCの電源を入れた。PCが立ち上がるとすぐさまロックのかかったアイコンをクリックしてパスワードを入れる。
そこには警察学校時代の友の写真が何枚か残されていた。5人で肩を組みいたずらっぽく笑う。訓練の後に教官に撮ってもらったものだ。
この写真を撮った少し後だったと思う。風呂に入るため着替えを取りに、部屋へ戻った時だった。
*****
「ゼロちょっといいか?」
ヒロが俺の部屋に顔を出した。
『どうした? 話なら風呂でもできるだろ?』
そんなやり取りをしたと思う。
「実は…実はさ、俺…す、好きな子がいるんだ」
真っ赤になって恋の相談を持ちかけてきた親友はびっくりするほど初だった。
『え?!ヒロ好きな子がいるのか? そんなん松田たちにバレたら…』
「思いっきりからかわれるに決まってるだろッ! だから、これは俺とゼロの秘密にしておいてくれ」
『それは良いけど…ヒロが好きになった子っていったい誰なんだ?』
「先月俺たちと半年遅れの新入生が入ってきただろ。その中にめちゃめちゃ頭のいい子がいるんだ。運動神経も良くて、すごく可愛いんだよ!」
『へぇ。ヒロけっこう顔にこだわる方なんだ』
「あ、いやそうじゃなくて! 優しいんだよ。すごく。
頭良いことを鼻にかけることもしないし。この間偶然声かけられちゃって」
『え?何か言われたのか?』
「あ、いや、これ落としましたよって」
『それ別にヒロだから声かけたわけじゃないじゃん。落し物したからだろ』
「そりゃそうだけど…。今度ちょっと話しかけてみようと思ってて…。だからその時、松田たちを足止めしといてくれよ。あいつらに知られたら何言われるか…」
結局次の日、ヒロは落し物を拾ってくれたお礼に、缶ジュースをその後輩におごったらしい。
それをきっかけによくおしゃべりをしていたようだった。俺は親友の恋を応援してやりたい気持ちもあったが、ほんの少し付き合いが悪くなった事にちょっと嫉妬していたと思う。
ヒロと後輩が話をしている姿を見かけると、出来るだけ見ないようにしてその場から離れていた。
そんなこんなで後輩の顔をまともに見たことが無かったから、全く記憶に残っていなかった。
PCに残された写真を丁寧に見ていく。
すると1枚だけ、ヒロが女の子の隣で嬉しそうに話をしている写真があった。何かの訓練のあとだったと思う。
ふたりは写真の左下に小さく写っていた。そっと拡大してみる。
警察学校の制服を着た、今よりずっと幼く見えるさくらがヒロと楽しげに写っていた。
そういえば後輩の子の名前…ヒロはなんて言ってた?
目をつぶり、安室は記憶をたどる。
ハラダ、ハシモト、ちがう、それは同級生だ。
ハ、ヒ…ヒロタ、ちがうな…。ヒ…ヒロ…セ……そうだヒロセ、広瀬だ。
下の名前…なんだったか…。ん~~………ん?…りお? りお! そうだ! 広瀬りお!
名前をフルネームで思い出せたところで、公安のNOCリストにアクセスする。
黒の組織のリストには掲載がない。そういえばさくらは黒の組織の前に、別の組織にいたとベルモットから聞いた。
以前の組織《ケンバリ》からたどっていく。
するとそこには広瀬りおの名前と写真。そして現在潜入中の組織が黒の組織であり、コードネームは《ラスティー》であると記載されていた。
ヒロの好きだった子がさくらで。
さくらの初恋の相手がヒロだった。
そして彼女は自分と同じ組織に潜入しているNOCだった。なんてことだ。どうして黙っていたのだろう。
遡って考えてみれば、ライとスコッチと3人で行う任務もあったはずだ。
そう…初めて彼女に会ったのは…赤井の妹に駅で会った時。あの任務の詳細なデータと説明を持ってきたのはラスティーだった。
さくらはスコッチがヒロだと気付いたはずだ。もちろんスコッチもラスティーがさくら、いや…りおだと気付いたはず。
不意に、コードネーム以外の名前、《星川さくら》の名前を教えてもらった時のことを思い出す。
『私はラスティーというコードネームを気に入ってるの』
『ラスティーというカクテル大好きよ』
安室はある事に気付きハッとした。
【ラスティー・ネイル】
ウイスキーをベースにした甘めのカクテルだ。しかもそのベースになるウイスキーは…
《スコッチ》
ラスティーという名でスコッチに近づいたさくら。
お互いに知らぬふりをして関わりを絶つ。素性も本名も隠して、コードネームで呼び合う。
スコッチは気付いていただろうか。そのコードネームに彼女の秘めた思いが込められていたことを。
そしてもう一つ気付いてしまった。あの時のベルモットの言葉を…。
『公安の裏切り者…。名前はなんだったかしら? そうスコッチの死も目撃してしまったらしいわ』
彼女はスコッチの死をその目で見たというのか?!
新出が昴に言っていた《彼女の心の闇》
それは到底自分たちが受け止めきれないほど、大きなものなのではと安室は思った。
あの男に全てを受け止め切れるのだろうか。安室の胸はざわついた。
そして一つの疑問が頭をよぎる。
スコッチの死を見ていたのなら、なぜ彼女は沖矢昴の下にいるのだろうか…。
《沖矢昴》=《赤井秀一》だと知らないのか? もし知らないで敵のそばにいるのなら…。
心の中に溢れ出る赤井秀一への怒りが、じわじわと再び燃え上がるのを感じた。