第4章 ~両親との記憶~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝食後——
少しでも昨日の心の緊張をほぐそうと、変装を終えた昴の提案で二人は散歩に出掛けた。
「いいお天気ですね」
「うん。秋晴れ~って感じ。落ち葉もいっぱいだね」
住宅街を抜けて少し距離のある公園の方へ。
二人で肩を並べて歩いた。
トン……
ふいに、昴の左手とさくらの右手がぶつかった。
「手…繋いでも良いですか?」
「…そういう事は聞かないで…スマートに繋いでよ…。サプライズバーティーの時みたいに」
視線を泳がせ、さくらは口を尖らせる。
照れているのか頬が少し赤い。
「それは失礼しました」
そう言い終わらないうちに昴はさくらの手を取った。
スルリと指を絡めると、自分の方へ引き寄せる。
「ほら、こうすると恋人同士みたいだ」
「『みたい』じゃなくて、恋人でしょ」
「ハハハ。そうでした」
「もう! 昴さんったら…わざとでしょ?」
「…バレましたか。あなたに『恋人でしょ』って言って欲しかったので」
軽口をたたきながら二人は公園の中を歩いた。
カサ、カサ、カサ
ガサッ…ガサッ…
二人の歩く音が響く。
枯れ葉を踏む乾いた音が耳に心地よかった。
舞い落ちる銀杏(いちょう)の葉。どこからか子どもの笑い声も聴こえる。
ふとさくらの脳裏に、昔同じような風景を眺め、音を聴いた記憶がよみがえった。
『…ガサッ…ガサッ…』
『カサカサカサ! カサカサカサ!』
『わ~すごい! 落ち葉いっぱいだね~』
『2組のみんな~! 全員ついてきているか~』
『は~い! あれ? 先生! りおちゃんがいないよ?』
『え? 広瀬さんが?』
『せんせ~ぇ! あそこにりおちゃんいるよ!』
『……!』
『…』
『…』
「さくら!!」
昴の声にハッとした。
「え? あれ? 私…」
「急にしゃべらなくなったと思ったら、表情が無いのでどうしたのかと…。」
昴がさくらの顔を覗き込んでいた。
「落ち葉を踏む音を聴いていて…。そしたら…子どもの頃の事が…」
「子どもの頃?」
「うん。たぶん…小学校の2、3年生くらい…。
授業で散歩に出掛けた時の事を…」
(また…子どもの頃の記憶が…)
昴の表情が一瞬険しくなる。とはいえ、さくらの顔を見る限り苦しい記憶ではなさそうだ。
「落ち葉で遊んだのですか?」
「ううん。私だけみんなの列から離れて……何か見つけたのよ。何を見つけたんだろう…」
それ以上はどうやっても思い出せなかった。
「また何かのきっかけで思い出すかもしれませんね。焦らずにいきましょう」
昴は優しく声をかけると、ふたりは再び歩き出した。
散歩を終えて工藤邸に戻る。程よい疲労感を感じてりおはソファーへ身を預けた。
「疲れましたか?」
「うん、少しね。だいぶ体力が戻ったと思っていたけど…。まだまだね」
昨日の爆破現場での奮闘と、社長宅での任務を考えれば疲れているのも当然だ。
「少し横になったらどうです? 休める時に休んでおかないと…」
昴はブランケットを手にするとりおに近づく。
「それなら昴さん、隣に座って」
そう言ってりおは体をずらした。開けられたスペースに昴が腰を下ろす。りおは体の向きを変え、昴に抱きついた。その首元に顔をうずめ、スンッと匂いをかぐ。
「こ、こら。散歩に行ってきたから少し汗臭いでしょ。匂いをかがないでください」
昴が慌てて声を掛けた。
「汗の匂いなんてしないよ。でも昴さんから秀一さんの匂いがする。当たり前なんだけど…不思議…」
昴の胸に体重を預け、目を閉じた。
「ん~…。やっぱりこれだけじゃ物足りない…。昴さんちょっとごめんね」
言うが早いか、りおは昴の首元のボタンを外す。一つ、二つ、三つと外されて昴は焦った。
「え? りお?!」
りおはそのまま、はだけた昴の首元に顔を寄せる。
「あ~…秀一さんの匂いと人肌…気持ちいい…」
小さく呟くとその肌にチュッとキスを落とした。
「ッ! ちょっ……と! 何して?!」
柔らかいりおの唇を肌で感じ、昴の背中にゾワリと何かが這い上がる。それを知ってか知らずか、りおの手は昴の服の中に入り込んだ。
「ッ!」
りおは赤井のわき腹から腹部に触れるのが好きだ。筋肉の形を確かめるように、優しく…ゆっくり撫でる。
本人は無意識なのかもしれないが、実はその触れ方が…意外にクルのだ。
「ふ…ぅ…ッ…りお……だ、ダメだって…そんな風に触ると…はぁ…抑えられなく…なる…からっ!」
昴は表情を歪め、りおの手を掴んだ。服からその手を抜き出すと「ふう…」とため息をこぼす。
「こら…《昴》に抱かれたいのか? 『私を抱くのは秀一さん』とか言いながら、この仕打ちは…」
そこまで言って気が付いた。
すぅ——……
「え……? 寝てる?」
赤井の匂いと人肌に満足したりおは、そのまま寝息を立てていた。
「まったく…お前は俺を生殺しにするのが得意だな…」
呆れたようにつぶやくと、昴はりおの体を抱きしめて一緒にソファーに横になった。
「りおが抱きついていてどうせ動けないし。このまま一緒に昼寝だな」
昴の体の上でピッタリと頬を寄せて眠るりおに、そっとブランケットを掛け、昴はふて寝を決め込んだ。
1時間半ほどして、りおのスマホが鳴った。
その音で二人は目を覚ます。
「あ、あれ…私寝てた…?」
「りお…起きたか…。俺も寝てた…」
りおが体を起こし、続いて昴も体を起こした。
「昴さん…服がだいぶ乱れてるけど…」
目を擦りながら、変声機チョーカーが丸見えの昴に声をかけた。
「『乱れてる』じゃないでしょう…あなたがやったんです」
シャツのボタンを留めながら、昴の口調に戻して答える。
お陰でこっちは欲求不満だ、夜になったら覚えておけよとは口に出さないでおいた。
「あれ……そうだったっけ?」
どうやらまだ寝ぼけているようだ。
りおは半分しか開いていない目で、スマホを見つけるとそれを手に取った。慣れた手つきで操作する。
「ッ!」
メールアプリを起動してメールの差出人の名を見た時、それまでの空気が一変した。
「ジンからメールだわ…。今日の夜アジトに来いって」
「新たな任務か?」
「分からない。今回の事、このまま終わるとは思えないし…。社長宅の報告もあるから…行ってくる」
「くれぐれも無茶しないでください。
あなたはまだカウンセリング中…つまり万全ではないって事なのですから」
昴は心配げにりおに忠告した。