第4章 ~両親との記憶~
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混乱に乗じて現場を離れ、二人は昴の車に乗り帰路についていた。助手席でさくらはウィッグを外し、スマホを手にする。
現場での救助活動中に、さくらのスマホにジンからメールが届いていた。
キョファンビルを爆破し関係者を殺害した事、会社のPCにもダメージを与えた事などが書かれている。
そして会社社長の自宅住所が記載され、自宅のPCデータを調べるよう指示がされていた。
メールを確認したさくらは、小さく息を吐いた。
「ジンからですか?」
昴は運転をしながらさくらに声をかけた。
「ええ。会社の社長は今日の爆破で死んだようです。この後組織の誰かが死亡確認に行くみたい。
私は社長の自宅へ行くよう指示が出たわ。警察が介入する前に、社長のPCを調べろって」
「それなら、あなたが現場入りする必要は無さそうですね。社長宅にこのまま行きますか?」
「ええ。お願いします」
昴はさくらの返事を聞いて車のウィンカーを出し、車線を変更した。
二人を乗せた車はキョファン貿易会社社長《金富賢/キムプヒョン》宅の前で停車する。
車から降りると、二人の影は夜の闇に紛れた。
ジンからのメールによると、社長は独り身。家族はいない。自宅のセキュリティーシステムを解除すると、二人は室内へと侵入を開始した。
3LDKのマンションの一室。部屋数は少ないが、かなりの広さがある。
主に書斎として使っていたであろう部屋に入り、PCを立ち上げた。
「……あった…これか……」
中をくまなく調べると、コムンセク市の病院長と『調度品』という名目で、幾度も取引をしていた。
恐らく中身は『偽札』だ。
過去にさかのぼると、かなり前ではあったが組織の関係者と思しき名が何度か出ていた。
『黒澤陣』という名もあった。
その他のファイルも調べると、偽札作りに必要不可欠な『原版』の製造を、組織が行っている旨の記述がある。
つまり、偽札製造は組織のプロジェクトとして行っていた、という動かぬ証拠になる。
もちろんそのような事実は聞いたことがない。
「やっぱり…何かあれば組織に罪を着せるつもりだったのね…」
それら全てのデータを、公安用のUSBメモリと組織用のUSBメモリにコピーする。
その後、組織に繋がる不都合なデータはすべてデリートした。
「さくら、警察が来ます。急いで」
窓際で外の様子を伺っていた昴が、さくらに声をかけた。
「了解。あと少し」
ジンに証拠として渡すため、デリートした状態のファイルを再び組織用にコピーをし、USBメモリをPCから抜き取った。
「これでOK。あとは私達の痕跡を消して、セキュリティーをロックしていかないとね」
二人は部屋を出ると、潜入前と同じように部屋にロックを掛け、警察と入れ替わるようにマンションのフロアを後にした。
二人が工藤邸へと戻ってきたのは夜8時を回っていた。
途中デリで調達したサラダや惣菜をダイニングテーブルへと置く。
「とりあえず、シャワーを浴びないと…」
昴は土埃やすすで汚れ、ガラス片であっちこっち裂けてしまったジャケットを見ながら呟いた。
「ホント。汗にホコリにひどいことになってますからね。
私、食事のセッティングしておきますから、昴さん先にどうぞ」
りおが声をかけたが、当の昴は返事もせず微動だにしない。
りおが頭に「?」を浮かべていると、昴は遠慮がちに声をかけた。
「あの……りお…。一緒にシャワー…浴びませんか?」
「え?」
「ガラス片を浴びましたし、お互いにケガをしていないか確認しないと…」
「なんか取って付けたみたいな理由だけど…?」
「これでダメなら、他にいくらでも理由付けますけど」
「…ッ! も~~。分かりましたよ…。私も早くシャワー浴びたいし…。メチャクチャ恥ずかしいけど…」
りおは顔を真っ赤にして視線を泳がせた。
対照的にニコニコ顔の昴は、りおの肩に手を掛けると二人でバスルームへと向かった。
お互い裸になって浴室へ。
止水栓をひねると温かい湯がザーーと二人に降り注いだ。
「りお、後ろ向け。背中に傷が無いか見てやるよ」
「う…うん」
湯気で白くなった浴室で、りおは赤井に背中を向ける。
「うなじのところ、何か所か切れてる。あと…右膝も。ワンピースを着ていたからか……ガラス片が飛び散った時に切ったんだな」
「あ……そういえばヒリヒリする」
「ちょっとしみるが我慢しろよ」
赤井はシャワーヘッドを手にすると、うなじに湯を掛ける。乾いてこびりついた血をそっと指で撫でるように洗い流した。
「ふふふ。しみるというよりくすぐったい」
りおは肩をすくめた。
右膝も深くはないが、長さが10センチほどの切り傷があった。血がかさぶたの様に固まっている。
うなじと同じように湯を掛け、こびりついた血を洗い流した。
「ん。あとはケガしてないな」
満足そうに赤井がつぶやいた。
「次は秀一さんの背中を拝見します」
「ああ、頼むよ」
「背が高くて良く見えないから、イスに座って」
バスチェアに座らせて、背中をくまなく調べた。
「秀一さんも、首の後ろにいくつか傷がある。
私の事をかばってくれたから…。あと腕のところ…。これは救助活動中に擦った?」
左の肩から二の腕にかけて、大きな擦り傷があった。
「ああ。大きな瓦礫に体を挟まれた人がいて…。なんとか人の力で動かせそうだったから、肩を入れて持ち上げたんだ。
向こう側へ瓦礫をひっくり返そうと思ったんだが、他の瓦礫や鉄筋が邪魔して上手く行かず、結局自分側へ転がした時に擦ってしまったようだ」
「そっか…。大きなケガにならなくて良かった。
ちょっとしみるよ。シャワーかけてキレイにする」
シャワーヘッドを手に取ると傷にかけた。