第4章 ~両親との記憶~
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夜——
ラスティーはアジトの自室に赴いた。
来客を知らせるノックが響く。
トントン
「今開けるわ」
そう返事をしてドアを開けると、そこにはジンが立っていた。
「ノエルの事で……ずいぶん参っていたそうじゃないか」
ジンの鋭い目がラスティーを捉える。
「ええ…。まあ…ね…」
「ノエルの事は誰から聞いた?」
表情は変わらないが、明らかに何かを疑っているような声だった。
「ニュースを観て……ノエルに何度か連絡を取ったけど繋がらなくて。
いやな予感がしたからバーボンに訊いたのよ。バーボンも気になって調べていたらしいわ。
彼はウォッカを問い詰めて聞き出したようだけど」
「ウォッカ……チッ! アイツか…」
ジンが舌打ちをした。
「ウォッカを怒らないであげて。かなりあなたを心配していたようだから。
私も感じていたけど……あなた、ノエルとは古い知り合いだったんじゃないの?」
ラスティーの言葉に一瞬だけジンの動きが止まる。
しかしその口から放たれた言葉は氷のように冷たかった。
「フン。それがどうした? 昔から顔(ツラ)を知っていた。ソイツがヘマをして死んだ。それだけだ」
「そう……。なら…良いんだけど…」
悲し気に下を向くラスティーを見て、ジンは小さくため息をつく。
「フン…。まあ、お前ぐらいは悲しんでやってもいい。
アイツはずいぶんお前を気に入っていたからな…」
「……」
その言葉はジンなりの弔いのようにも感じた。
目を逸らしたままのラスティーの横をすり抜け、ジンは部屋の中へと入った。
「お前に頼みたい仕事というのは、数日中に組織が起こすヤマの後始末だ。
まだ何が起こるかまでは言えねぇが、事後の組織に繋がる証拠を消してほしい。現場での作業もあるかもしれない。
その時は死体が怖いだの、人の死がイヤだの、言ってる暇はない」
「分かったわ」
「計画実行後、詳細を伝えるメールを送る。それを確認して証拠をすべて洗い出し、消せ。
何も人を殺せと言ってるわけじゃないんだ。後ろめたいことも無かろう」
ジロリと向けられた眼差しは、矢を射るように鋭い。
「ええ、悪いわね。仕事を選ばせてしまって」
ラスティーはジンの目をじっと見つめる。
「いいや…。むしろお前のスキルは高く買っている。頼んだぞ」
ジンはわずかに目を細め、フッと口元に笑みを浮かべる。
そっとラスティーの頬に左手で触れると、驚くほど優しい手つきで撫でた。
「ッ!」
その行為に驚き、ラスティーが息を詰める。
「お前のその顔…悪くない」
ジンは口角を引き上げ、ハハハと愉快そうに笑うと、部屋から出て行った。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
ジンの態度に緊張したラスティーは荒い呼吸を繰り返す。心臓が激しく脈打った。
胸に手を当て、呼吸を整える。最後に「ふー」っと大きく息を吐いた。
(組織が起こすヤマか…。死体がどうのって言っていたから、おそらくさっき降谷さんがメールで伝えてきた件ね)
ラスティーはPC用のイスに腰掛けると目を閉じた。
アジトに向かう前、降谷から1件のメールが届いていた。組織内で何か事件を起こす動きが出ている——、と。
今のところ分かっているのは、『組織にとって邪魔になった取引先』を闇に葬り去る計画のようだということだけ。
しかも《爆破》という手段で。
(ジンは現場への作業についても言及していた。
おそらく取引先を建物もろとも爆破…。
しかも数日中って事は…明日かもしれないって事?
ダメだ。これだけじゃあ場所も取引先も特定できない!)
ウェストホールディングスの事件で体調を崩し、現場からも組織からも一時距離を置いていた。ラスティーが持っている情報は皆無だった。
(後は…降谷さんがどれだけ掴んでいるか…だけど…)
とりあえず、アジトを出て分かったことだけでも連絡しなければ…。ラスティーはそっと立ち上がった。
ふと、自分の頬に手が行く。
先ほどジンに触れられた感触が残る…。
ブルリと身震いした。恐怖とは違う。
なにか心がザラつくような違和感といえば良いだろうか。
赤井に触れられたような幸福感や気持ちよさは無い。
「連絡だけして…早く秀一さんの所へ帰ろう…」
何度かゆっくり深呼吸をすると部屋の照明を落とし、アジトを後にした。
工藤邸に戻ると、変装を解いた赤井がリビングで待っていた。
「おかえり。りお。体は大丈夫か?」
「うん、平気。久しぶりにアジトに行って気を張ったから疲れたけど…」
上着を脱ぎ赤井にハグをねだると、すぐに抱きしめてくれた。
しばらくして赤井は腕の力を抜き、りおの体から手を離すが、りおはまだ赤井の体にしがみ付いている。
「どうした? 何かあったか?」
再びりおの体を抱きしめると、トントンと一定のテンポで優しく背中を叩く。
「ううん。温かくて…良い匂いがする…離れたくない」
赤井の胸に頬を摺り寄せた。
「疲れているんだろう。風呂に入って休め。話は明日しよう」
「ううん、大丈夫。今…聞いて欲しいの」
赤井はしばらくりおの様子を伺っていたが、やがて「分かった」とうなずき、りおの肩に手をかける。
りおは赤井の顔をゆっくり見上げ、二人は体を離すとソファーに腰かけた。
「ふ~~」
大きく深呼吸をして、りおは先ほどジンと交わした話の内容を伝えた。
「数日中に何か事件を起こすと言っていたんだな」
「ええ。私にその後処理をしろと。組織に繋がる証拠を洗い出して消せと…」
「詳細については聞いてないのか?」
「事件後にメールをすると言われたわ。場合によっては現場に行く可能性も示唆された。
その時は死体が怖いだの、死がイヤだの言ってる暇は無い…って」
そこまで話して、りおは大きなため息をついた。
「お前が《死》に敏感なのはジンも知っている。だからギリギリまで教えないのだろう。
恐らく現場に入るとなれば、一人で行かせることはしないだろうな…。誰か補助が付くはずだ。
ベルモットが有力だが…もしかすると別のヤツかもしれん」
赤井はアゴに手をあて考え込んだ。
「実は組織に、爆弾の事に精通しているヤツがいると聞いたことがあるんだ。組織で起こす爆破事件は、主にそいつが実行犯だとな。
もし今回どこかを爆破するつもりなら、またそいつが動く可能性があるな…」
考えを巡らし、ありとあらゆる可能性を模索する。
そんな赤井の手をりおはそっと掴んだ。
「?」
「どうした?」
「事件そのものを…事前に止めることは…出来ない?」
もし本当に爆破事件が起きれば、死者を多数出す可能性がある。
関係のない民間人にも被害が出ることだってあり得るのだ。出来れば事件そのものを止めたいが…。
「…詳細をバーボンが掴んでいれば話は別だが…。
降谷君はお前からの情報を聞いてどうだった?」
赤井の問いかけにりおは首を横に振った。
「事件を起こす動きをキャッチしただけで、詳細は掴んでいないって。
ギリギリまで粘ってみるとは言っていたけど…」
「そうか…」
二人の間に沈黙が流れた。現状ではどうすることも出来ない。
こんな時、自分たちの無力さを感じる。
どんなに最善を尽くしても、全てを守れるわけじゃない。
何度も何度もそんな経験はしてきていた。頭では理解している。
それでも…慣れることは決してない。
「りお、思いつめるな…。俺たちはやれることを全力でやるだけだ」
肩を引き寄せ抱きしめた。抱きしめて、苦しい胸の内を共感しあう。
「…うん。そうだね。ありがとう秀一さん」
赤井の優しさと体温を感じて、りおはそっと目を閉じた。