第4章 ~両親との記憶~
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翌朝。
昴はさくらを連れ、病院を訪れた。昨日の様子をドクターに告げる。
「なるほど。それで倒れてしまったというわけですね」
ドクターは熱心に話を聞いてくれた。
「分かりました。じゃあ、さくらさんは隣の部屋で待っていてくれるかな?」
ドクターはニッコリ微笑むと看護師に指示を出し、さくらを別室へと案内させた。
「先生、どうなんですか?」
昴の問いかけにドクターは黙ったままだ。
「まだ、何とも言えませんが…」
そう前置きをして重い口を開いた。
「さくらさんの、子どもの頃の記憶が戻りかけているのは間違いないと思います。
9歳で事故にあったという事でしたが、おそらくその時に精神的なショックを受けた。それによって事故以前の記憶が曖昧になったのでしょう。
今回の事件によって再び記憶の混乱が起こり、今まで忘れていた事が徐々に思い出されているのだと思います」
ドクターはゆっくりと、言葉を選びながら話す。それを昴は固唾を飲んで聞いていた。
「子どもの頃の記憶が、彼女にとって良い事ばかりかどうかは分かりません。
特に事故の事は本人にとって辛い事だったからこそ、心の中にしまい込んだのでしょうから…。
今の状態でそれを思い出すのは、症状を悪化させてしまう可能性があります。
また、事実と違う記憶を事実だと思い込んでしまう事もあります。そのため余計に苦しむことになるのです」
ドクターの最後の言葉に昴は唇を噛んだ。
確かに西村の事件後にさくらが見るようになった悪夢は、首を切断された西村が昴と置き換わり、パニックを起こしている。
(さくらが忘れている子どもの頃の事…。当時を知っている人がいれば…。9歳の時にいったい何があったんだ……)
さくらは両親と死に別れてから、彼女を育てた祖父母もすでに他界している。
せめて……何か手がかりがあれば良いのだが。
「とにかく何をきっかけに記憶が戻るか分かりません。
記憶が戻った時に、以前のような発作を起こす可能性もあります。出来るだけ彼女と一緒にいてあげてください」
「分かりました」
昴はそう答えるとドクターに礼を言って部屋を出た。
それから1週間ほど——
りおは工藤邸でのんびりと過ごしていた。
その後は何かを思い出すことは無く、体調も以前と変わらないほど回復していた。
「昴さ~ん! 洗濯するので部屋のシーツ持ってきてくださいね~」
「分かりました」
りおは自室からシーツを持って洗面所へ入ると、洗濯機の中に入れた。
「枕カバーも入れたし、あとは昴さん待ちね」
洗濯機の操作パネルとを押し、洗剤を入れる。後はスタートボタンを押すだけだ。
ふと、ポケットに入れていたスマホが震えている。画面を確認すると送信者はジンだった。
穏やかだった顔がわずかに緊張する。覚悟を決めてメールアプリを開いた。
『今夜アジトに来い。任務だ』
短いメールだった。
(任務……か)
しばらく画面を見つめ考えていたが、「ふう」と小さく息を吐いてスマホをポケットにしまう。
(アジトに行くって言ったら…昴さん許してくれるかなぁ…)
シーツを抱えて洗面所へとやってくる昴の足音を、りおはぼんやりと聞いていた。
**
「ダメに決まっているでしょう」
洗濯し終わったシーツを干した後、メールの事を告げると、一も似も無く即答された。
「いや、でも。ジンからの仕事を断るわけには…怪しまれちゃうし…」
「ジンからの仕事だからです。何か大きな仕事の可能性があります」
昴は怖い顔をしてりおを見た。
「まあ…多分そうだと思う。…でも話だけでも聞いてこないと、公安として潜入している意味が無いでしょう?」
「それは…」
りおの正論に昴の言葉が詰まる。
「とにかく話だけ聞いてくる。どうしても無理そうなら断ってくるから」
「あなた…断れるんですか? ジンの仕事を。誰かが殺されたりするのかもしれないのですよ? それを放っておけるのですか?
ましてや、また何かを思い出したり、発作を起こしたらどうするんです?」
「ッ…」
昴の言葉に今度はりおの言葉が詰まった。
彼の言っている事は正しい。けれど、組織がまた何か動き出そうとしている。それを探るために自分は公安警察から潜入しているのだ。
返事が出来ず、そのままりおは下を向く。
その姿を見て昴がため息をついた。
「必ず…どんな任務なのか…私に教えてくれますか?」
「え?」
「公安として知り得た情報だからと、私に秘密にするなら行かせません。
ですが…ちゃんと私に話してくれるなら…行っておいでと背中を押すことは出来ます」
「す、昴さん!」
「もちろん、規則を破れとは言いません。警察組織が違う事も十分分かっています。
それが足かせになるのなら、私が安室さんに承諾を取ります。
彼なら…今のあなたの状態を知っている安室さんなら…おそらく私の意向を察してくれるでしょう」
昴はそのままスマホを手にした。
《安室透》を画面に出すとそのまま通話にタップする。
『もしもし?』
2コールで安室の声が聞こえた。
**
電話を切ると昴はニッコリ微笑んだ。
「彼も承諾してくれましたよ。情報の共有についてはFBIにではなく、あくまで私個人のみという条件付きで許可を頂きました」
「かなり強引に押し切っていた気がするけど…。でもまさか…ホントに許可を取るなんて」
りおはあきれ顔だ。
「こうでもしなければ、言い出したら聞かないあなたを説得できませんし…。アジトにいる時は彼にあなたの事を頼むほかありません。そのことも伝えねばなりませんでしたからね」
ニッと笑った昴の顔を見て、参りましたとりおは両手を上げた。