第4章 ~両親との記憶~
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美味しいパンケーキをいただきながら、昴とさくらは子どもたちの楽しい話を聞いていた。
「ボクたち、この前迷子の猫探しをしたんですけど…」
光彦が嬉しそうに話し出す。
「元太くんが、『にゃ~ご!』って猫の真似をしておびき出そうとしたんですけど、全然効果なくて……」
「そうそう! その後も、せっかく見つけた迷子の猫ちゃん、元太君の声に驚いて逃げちゃったし」
「ふふふ。探偵のお仕事、そんなこともやっているのね」
どうやら少年探偵団は近所の困りごとを時々請け負っているらしい。子どもらしい失敗談にさくらは声を上げて笑った。
「結局猫ちゃんはコナンくんが見つけてくれて、無事に飼い主のところに帰ったんだよ」
「さすが小さな名探偵ね!」
さくらが笑顔を向けると、コナンは「ハハハ…」と苦笑いを浮かべる。
(こんなの、俺の仕事じゃないっつーの…)
コナンはやれやれ…、とため息をつく。その隣で哀が意地悪そうに微笑んでいた。
「そうだ! 真似っこといえば歩美たちね、今度国語の時間に劇やるの。動物の真似っこするんだよ」
元太の猫真似を思い出し、歩美がさくらの顔を見ながら教えてくれた。
「劇? なんの劇をやるの?」
「ボクたちは《三匹の子ブタ》をやるんです。5人1組でそれぞれ案を出し合いながら、オリジナルのストーリーを作るんですよ」
「へ~ぇ。楽しそうね。本来の《三匹の子ブタ》ではオオカミさんは懲らしめられちゃうけど…。劇のオオカミさんが最後どうなるかは、みんな次第なわけね」
「オレ、オオカミが良い奴になったら良いと思う!」
突然元太が大きな声で提案した。
「オオカミが悪い奴だなんて、誰が決めたんだよなぁ。
どの話でも悪者にされて可哀想だよ」
元太は心底納得いかないという顔で力説した。
「言われてみれば確かにそうですね…。
《三匹の子ブタ》も《赤ずきん》も《七匹の子ヤギ》も、みんなオオカミは悪者です」
「ホントだ~。オオカミさん可哀想…。せめて歩美たちの劇では良い役にしてあげたいね」
(オオカミが……可哀想…?)
子どもたちの言葉に、さくらの肩がピクッと揺れる。
それと同時に、霞がかってっていた遠い昔の記憶が、わずかに見え隠れした——
物語を読む優しい声が聞こえる。
大人の……男の人の声だった。
『りお…オオカミは……なりたい……。…その……なんて…だろ…う?』
直後に子どもの笑い声が響く。
「これ…笑っているのは…私…?」
物語の続きをせがむように、嬉しそうに笑っている。
今度は女の人の声が聞こえた。
『……に…ペン…ダ…ント……必ず…忘れな…いで…』
「ペンダント? 一体何のこと? 二人は誰なの?」
断片的に聞こえる声に、りおは必死に耳を傾ける。
忘れないで…って? どういうこと? 誰に? 何を? どうすれば良かったの?
「ペンダントって何? 何も知らない! 覚えてない! ねえ! 教えてよ!」
しかし、それ以上は何も聞こえない。
やはり、自分は何か大事なことを忘れているのではないか? 何とも言えない不安感に襲われた。
やがて耳に栓をされたような閉塞感を感じる。
記憶の扉が閉じ、空間が狭まるような圧迫感。途端に息が苦しくなった。
ドサッ!
ダイニングのイスから崩れるようにさくらが落ちた。
「さくら?!」
「お、お姉さんッ?! 」
「さくらさん!!」
昴が慌てて駆け寄り抱き起す。子どもたちもその周りに集まった。
「ふ…ぅ…ッ…」
さくらは胸を押さえ、苦しそうに息をしている。
「さくらッ! 大丈夫ですか?!」
昴はさくらの頬を軽く叩き、意識をこちらに向けようと声をかけた。
閉じていた目がゆっくり開き、アンバーの瞳と視線が合う。ふうふうと短い呼吸を繰り返していた。
「私が分かりますか?」
昴が声をかけた。
「え、ええ。分かる…わ…昴さん……ごめんなさい…。おどかして…しまって…」
さくらは自分の目の前で、心配そうに事態を見守っている昴や子どもたちに声をかけた。
「よ、よかった…お姉さん…。大丈夫?」
歩美が恐る恐るさくらに声をかける。
「うん。大丈…夫……ごめん、ね…」
さくらはゆっくり答えると笑顔を見せた。
哀がさくらの手首に触れ、顔を覗き込む。
「意識はあるようだけど脈が弱いわ……。顔色も良くないし呼吸も浅い…」
「ベッドで横になりましょう。少し休めば気分も良くなると思います」
昴はさくらを抱き上げ、部屋へと向かった。
**
「ようやく……落ち着いたみてぇだな」
ベッドで穏やかに眠るさくらを見て、コナンは安堵のため息をつく。
子どもたちを家に帰し、工藤邸には昴と哀とコナン、そして眠っているりおだけになった。
「でも……子どもたちと楽しく話していたのに、急に倒れたのはなぜかしら?」
哀は先ほどまでの事を思い出しながら、小首を傾げた。
「ドクターから、記憶の混乱がまだわずかに残っていると言われています。
忘れていた事を思い出したり、辛い経験をフラッシュバックすることがあるかもしれないと。
子どもたちの会話の中に何かを思い出す、きっかけがあったのかもしれません」
「『きっかけ』ね…。それが倒れてしまうほどショッキングな記憶だという事なのかしら?
それを完全に思い出した時…彼女に何も起きなければ良いけど…」
「ッ!」
哀のつぶやきを聞き、昴はハッとする。
思い出すことが良い事ばかりだとは限らない。
むしろ辛い記憶だからこそ、脳は『忘れる』という措置をとったはずだ。
これ以上何も起こらないでくれ ———
そう祈らずにはいられなかった。