第4章 ~両親との記憶~
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その日の午後——
学校を終えた少年探偵団たちが工藤邸にやってきた。
「さくらお姉さ~ん!」
歩美が嬉しそうにさくらに駆け寄る。
「またここでお兄さんと住んでるって聞いたよ」
さくらを見上げ、そっとその手を握ってきた。
「うん。ちょうど二週間くらい経ったかしら。一人はやっぱり寂しくて。
ココに居れば昴さんもいるし、皆ともたくさん会えるしね」
さくらの言葉を聞いて、歩美は嬉しそうに微笑んだ。
「またたくさん会えるね。歩美、お姉さんが元気になったのは嬉しかったけど、夏に出て行っちゃって…すごく寂しかったの」
「そっか…私達だけじゃなくて、歩美ちゃんにも寂しい思いさせてたんだね」
さくらは床に膝をついて目線を合わせると、申し訳なさそうに歩美を見た。
「え? 『私達』? ってことは、昴さんも寂しいって言ってたんですか?」
光彦の鋭いツッコミに、さくらは「エッ?!」といったまま固まった。
「そういや、兄ちゃんに『姉ちゃん居なくて寂しいか』って聞いても、ちゃんと答えてくれなかったよなぁ」
元太まで一緒になって突っ込んできた。
「ゴホン」
その場に居づらそうに、昴が咳ばらいをする。
「僕たちには『寂しい』だなんて、一言も言ってくれなかったのに…。やっぱり寂しかったんじゃないですか」
二人はニヤニヤと昴を見上げた。
「ま、まあ…寂しくないと言えばウソになりますね。二か月も一緒にいたわけですし…」
「素直に寂しいって言えば良いのに…」
歩美にまでダメ出しされて、さすがの昴も言葉に詰まっていた。
「そういえば哀ちゃんとコナンくんは?」
苦笑いをしながらさくらが三人に声をかけた。
「哀ちゃんとコナンくんもじきに来るよ。今、博士のお手伝いしてる」
どうやら子どもたちは下校後に一旦博士の家に寄り、おやつを食べてきたようだ。二人はその片付けを手伝っているらしい。
おそらくこの三人も手伝ってはいたのだろうが、邪魔ばかりしていて「先に行け」と言われたのだろう。
しばらくするとニコニコ顔で哀とコナンがやってきた。手には美味しそうな匂いのする包みを持っている。
「はい、これ今日の子どもたちのおやつだったの。
残り物じゃないわよ。とてもおいしく出来たから今追加で焼いてきたの」
「わぁ! ありがとう! ん~。良い匂い!!」
包みを開けると出来立てのパンケーキだった。
「子どもたち、早くあなたに会いたいらしくて『早く行こう!』ってうるさくて。三人を先に来させちゃってごめんなさいね」
邪魔ばかりして危なかったんだもの…と、ほんの少しふくれた顔で哀が言うと、予想通りだったことにさくらは思わず笑った。
「ん~。良い匂いですね。ちょうどお茶にしようかと思っていたところだったので…。
さくら、せっかくですから冷めないうちにいただきましょうか」
お茶を入れますね、と言って昴はダイニングへと向かう。
「あ、私も手伝うわ」
さくらが昴の後を追うと、私も! オレも! ボクも! と探偵団たちがゾロゾロとついていった。
昴がお湯を沸かし、お茶のセットを用意した。
さくらはその間にパンケーキをお皿に並べている。
手際よく準備をする二人を、子どもたちはニヤニヤしながら見ていた。
「おめーら、なんか目つきがいやらしいぞ。特に光彦!」
コナンが呆れ顔で光彦をつっついた。
「だって、なんか夫婦みたいじゃないですか。
『昴さん、これ美味しそうよ。あーんしてみて♪』とか、『ああ、美味しいよハニー』とか言わないかな~と思いまして…」
光彦の《夫婦の妄想》が止まらない。
ほのかに頬を染め、目がキラキラしている。
「お茶の準備を見ているだけで、良くそこまで妄想できるわね…」
眉間にしわを寄せ、頭を押さえた哀が大きなため息をついた。
(光彦んちの親は…そんなこと…やってんのか?)
コナンは、片方の口角をピクピクさせながら、ははは…と乾いた笑いを浮かべた。
光彦が妄想を繰り広げている間、昴とさくらはお茶の準備を進めていく。
「さくら、そこのシロップ取ってください」
「は~い」
昴に言われてさくらは戸棚に近づき、中にあるメイプルシロップを手に取った。
その姿を見て歩美が声をあげた。
「あ! メイプルシロップもおいしいけど博士の家は、はちみつしかなかったの…。
歩美たちは、はちみつを掛けたよ。それもすごくおいしかった~」
「はちみつ?」
歩美の言葉にさくらが反応した。
『お前の……い…な!』
頭の中のモヤがかかった部分から、何か声が聞こえる。
さくらはこめかみを押さえ目を閉じた。
『…!』
『お前の目、はちみつみたいな色だな!』
『日本人じゃないんだろう!』
『そんな目の色の子…ほかにいないじゃん』
『みろよ! あいつの目、日が当たると金色だぞ』
『なんか…気持ち悪いね…』
『…!』
『……』
「…さ…ん……さん…」
「さくらお姉さんッ!! どうしたの?」
「えっ?」
気が付くと歩美がさくらの服を引っ張り、心配そうにこちらを見上げていた。
「あ…。ご、ごめんね。ちょっとボーッとしちゃった」
さくらは歩美の頭をそっと撫で、謝罪した。
「もう大丈夫。さて、パンケーキいただこうかな」
ニッコリ微笑んでダイニングの席に座る。
その様子を昴が心配そうに見つめていた。