第1章 ~運命の再会そして…~
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RX-7にさくらと新出を乗せて工藤邸に向かう。さくらは毛布にくるまれて眠っているようだ。呼吸が少し速い。
「肺炎にならなければ良いんだが…」
新出が呟いた。
工藤邸の前で車を停めたとき、時間は夜の7:00を回っていた。
安室がさくらを抱き上げ、新出が呼び鈴を鳴らす。すぐに昴が家の中から飛び出してきた。
「さくらっ!」
普段の温厚な昴とはかけ離れた、余裕のない彼がそこにいた。
「詳しいお話をしたいのですが。中に入れていただいても良いですか?」
新井の言葉に昴はハッとする。
「これは気がつきませんで。もちろんです。どうぞ」
そう言うと二人を家の中に招き入れた。
まずは客室に案内し、さくらをベッドに寝かせた。
安室がさくらから離れると、先生は聴診器を出して胸の音を聞く。眉間にしわを寄せたまま小さくため息をついた。
その後3人はリビングへと移動した。
「まずは今日、なぜさくらさんがここを飛び出したのか」
新出の言葉に昴の肩がわずかに動いた。
なぜ自分達に内緒で出て行ったのか。
RX-7は彼女が呼んだのか。
聞きたいことは山ほどあるのに、いざとなると言葉が出ない。いつから自分はこんなに臆病になったのだろう。昴は視線を背け、奥歯を噛みしめていた。
「今日彼女に会ったのは偶然でした」
口火を切ったのは安室だった。
「彼女の様子を彼女の上司に説明しなければならず、会えても会えなくても阿笠博士の元を訪れる予定でいました」
初めは下を向いていたが、そこまで話すとやや顔を上げる。
「途中でずぶ濡れのさくらさんを見つけて、すぐに車に乗せました。外は土砂降りでしたから…。
どこに行こうとしていたのか訊ねると、『新出先生のところに行きたい』というのでそのまま送って行きました」
昴は黙って聞いていた。
(彼女の上司…ベルモットのことか。さくらが彼を呼んだのではなく、全くの偶然だったのか)
そのことに心底安堵する。しかしまさか新出先生のところに行こうとしていたとは。
「さくらさんがなぜ、私のところに来たかお分かりですね。」
新出の問いかけに昴は頷いた。
「PTSDの治療をするためですね。彼女は今日も発作を起こしました。彼女のことだ。これ以上周りに迷惑をかけられないと。そう考えたのでしょう」
いつもそうだ。スコッチの時もバーボンの素性がばれるのを恐れ、ジンの気を逸らすためにビジネスの話を持ち出していた。悲しむことも泣き叫ぶことも後回しにして、結局神経をすり減らして。
ここに来てすぐだって、みんなの迷惑になると思い、フラフラな状態で出ていこうとしていた。
誰かの為に。そして迷惑をかけないように。彼女の中にあるのはそればかりだ。もっと自分を大事にして欲しいのに。
「本当にそう思っているのですか?」
「どういうことですか?」
新出先生の質問に、くってかかるような物言いになってしまう。
「さくらさんは今日私のところに来て言いました。『PTSDの治療をしてください』と。辛い治療になるよと私は伝えました。その時彼女はこう言ったんです。『私には守らなければならないものがあるから』」
「ッ!?」
「つまり彼女の中に守りたいものが明確にあるんです。迷惑をかけられないとか、そんな弱い理由ではなく…ね」
昴は新出の言葉にハッとした。
そうだ。思い出した。
5年前彼女は別の組織でNOCの仲間を命懸けで守っていた。共に戦ってきたかけがえのない仲間を。
あの時のさくらは桁外れに強かった。屈強な男数人を手負いの仲間を守りながらどんどん倒していた。
結局仲間を守りきることはできず、さくらの心に深い傷を残した。あの時からきっと諦めてしまったのだろう。
自分は大切な人達を守れない。守れないならせめて…大切な人達の迷惑になりたくない…と。
「さくらが本当に…『守りたいものがある』といったんですか?」
「ええ。もうお気付きになりましたね。彼女の中で何かが変わろうとしています。それも良い方向にね。
きっとそうさせたのは、あなたや阿笠博士、哀ちゃん、そして安室さんのおかげですよ」
安室は自分の名前まで出てきて正直驚いた。自分は彼女に何も出来ていないのだから。
「そんな彼女の気持ちに答えて、治療を行っていきたいと思うのですが。一つ彼女に条件を出しました」
そこまで言うと、新出は背筋を伸ばし昴の顔を見る。
「沖矢さん、あなたに立ち会っていただきます。それと場所はここで行います」
「ここで私も立ち会うのですか?それは構いませんがいったいなぜ?」
昴も顔を上げ、新出を見る。
「ここ数回、発作時のあなたの処置が素晴らしいからです。おそらくあなたがそばにいなければ、彼女は大怪我をしていたかもしれません。
治療時、大きな発作を起こす可能性は十分あります。最善の策を知っているあなたがいるのは心強い。
また、あなた達が勝手がわかるこの場所の方が、医院より安全だと判断したからです」
「そういうことなら。喜んでお引き受けします」
「良かった」
先生は安堵の表情を浮かべる。それもすぐ真顔になり、こう続けた。
「ただし…。あなた自身も覚悟をしておいてください。彼女の中にある闇を全て受け止める覚悟です。私も…そのつもりでいますから」
もとよりそのつもりだ。
小さく、しかし力強く昴は頷いた。
そこまで話をして先生は、
「今日は帰ります。明日また来ます」といって玄関に向かった。
「心配なのは彼女の体です。今日ずぶ濡れになってしまって風邪をぶり返してしまったようです。肺炎の疑いもあります。抗生剤が効いてくれるといいのですが」
何かあれば連絡くださいといって、新出は安室と共に工藤邸を出て行った。
新出と安室はRx-7に乗り込む。
「じゃあ、スミマセン。医院までお願いします」
新出が安室に声をかける。
「分かりました」
安室は返事をすると車を発進させた。
しばらくすると再び新出が安室に声をかけた。
「あの場で言うとメガネの彼が嫉妬すると思って言いませんでしたけど…。先ほど診察室で、さくらさんとあなたの事を話したんですよ」
「え?」
思わずハンドル操作を誤るところだった。
「動揺しているのですか?ホントの話ですよ」
新出にクスクスと笑われた。
「『彼は私が守りたい人のうちの一人です。辛い仕事も彼のおかげでなんとか立っていることができたんです。彼が近くにいる。例え会うことがなくても。もう何年も彼の存在に支えられていました』と、そう言ってましたよ」
安室の顔が赤くなる。だがすぐに疑問が生じた。
確かに初めてあったのは何年も前だが、お互いの事を話したり食事をしたのはつい1ヶ月ほど前からだ。
「どうしました?」
赤くなったと思ったら急に難しい顔になったので、新出が安室に問いかけた。
「いや、出会ったのは何年も前ですが、話をするようになったのはつい1ヶ月前なんです。どうして何年も前からそんな風に思ってくれていたのかと…」
「そうなんですか?」
先生も不思議そうだ。
「ああ、そういえば」
何かを思い出したように先生がつぶやいた。
「熱で朦朧としてたようで、ハッキリとは聞き取れなかったのですけど…。安室さんは初恋の人の親友…だったと言っていました。ヒロ先輩とかなんとか…。
それだけ言って眠ってしまったので、夢の話かもしれませんが…」
その言葉に安室は耳を疑った。
(初恋の相手がスコッチ、いやヒロだった? ヒロ先輩って…警察学校に何か関係が?)
答えが出ぬまま新出医院に到着する。彼女の容態は時々連絡してくれると約束してくれた。医院を後にして、安室はヒロのことを考えていた。