第4章 ~両親との記憶~
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翌日——
昴とりおはアパートの一室にいた。
「他に持っていくものはありますか?」
「え~っと…着替えもだいぶ運んだし、キッチンの食材もキレイにしたし…。後は…貴重品くらいかな」
戸棚や冷蔵庫の扉を開けては、一つずつ確認をしていく。
空っぽになった棚の中を見て、りおはため息をついた。
「ふぅ…ホントにこれで一区切り。私の帰る場所は昴さんの所しかない」
その言葉に昴が微笑む。
古紙をまとめる手を動かしながら、「これで正真正銘、一緒に暮らす事になりますね」と嬉しそうだ。
「うん…」
昴の顔をチラリと横目で見たりおは、照れくさそうにうなずいた。
ここは公安で所有するアパート。
りおがメインで使ってきた部屋。
荷物は大方工藤邸に運び込んだが、そこも本来は工藤夫妻の家。あくまで仕事の一環で居候させてもらっているに過ぎない。
万が一家主が帰国したり不測の事態があった場合、一時的でも昴と二人で使えるように、この部屋の大きな荷物はこのまま残すことにしてある。
りおは貴重品をいくつかテーブルに並べた。
保険証やパスポート、《星川さくら》名義の偽造したものもある。その中に1枚、古びた写真が挟まっているのを昴が見つけた。
「?」
思わず写真を手に取る。
「ああ、それ。旅行の時に秀一さんに『見せて』って言われていた、両親の写真よ」
そういえば。つり橋を落とされて山小屋で一泊した時に、そんな話をしていた。
昴は手にした写真をじっと見つめた。
よく見ると病室だろうか。
ベッドで体を起こし、赤ん坊を抱いている女性と、その女性の肩を抱き、赤ん坊の手を握って微笑む男性が写っていた。
男性は髪も瞳も黒く日本人だと分かる。
顔つきは優しく、輪郭や唇の形がりおと良く似ている。
女性の髪は暗めのブロンドで、りおの髪よりは明るい。
瞳はアンバー。日本人ではなさそうだ。カメラに向かって微笑む笑顔は、りおにそっくりだった。
「りおも写っていますね。ずいぶん小さいですけど」
「ああ、うん。生まれたその日に撮ったらしいわ。だから肌も真っ赤だし、髪の毛もそんなに無いでしょ」
「あなた目元は母親似、口元は父親似なんですね。
フフッ。赤ん坊の時のあなた、無防備にリビングで寝落ちしてる時の顔と同じですよ」
「え~。この頃から変わってないの? 私…」
ショック~と言いながら笑うりおの顔は、何となく寂しそうだった。
「どうしました?」
「え? あ、ううん。なんでもない……。そうだ、持っていく物まとめているんだった」
りおは慌てて立ち上がり、荷物の準備を再開した。
「あと……これも」
そう言ってりおがテーブルに置いたのは、缶のカワイイ小箱だった。
「これは何ですか?」
「私が小さい頃の宝箱」
「宝箱?」
「そう。子どもの頃大事にしていた物が入ってるの。
高校生の時に祖父が亡くなって、色々整理してたら出てきたのよ。私、両親の記憶も曖昧だから、祖母が『いつか思い出すきっかけになるかもしれないから、大事にしなさい』って」
「中……見ても良いですか?」
「ええ。どうぞ」
それなりに年季が入っているが、大事にされていたと分かる状態だ。
小さな缶のフタを開けると女の子の好きそうなものがいくつも入っていた。
「ウサギの小さなぬいぐるみに、おもちゃの指輪。小瓶に入ったビーズ、キレイな貝殻。お土産で貰ったらしいウサギのキーホルダーとルーぺ」
昴が中の物を取り出しテーブルに並べると、一つずつ声に出して教えてくれた。
「ずいぶん小さなぬいぐるみですね」
「ああそれね、たぶんお手玉だと思う」
「ほ~ぅ。こんなかわいいお手玉もあるのですね。
キーホルダーもウサギ…。小さい頃のりおは、ウサギが好きだったのかもしれませんね。
あとこれは…ルーペなんですか? スコープのレンズの様にも見えますけど。何に使ったんですか?」
「さあ……これを見ても何も思い出が無いの。
覚えていない。みんな忘れちゃった」
寂しそうにりおはつぶやいた。
「このルーペ、直径は4センチほどで厚さは1センチ弱くらい? 持ち手も無い。
丸い合金の枠にアクリルのレンズ。枠には紐を通す突起がついてるけど、紐は無い…。
祖母の老眼レンズだったのかな」
「まあ、そう見えなくはないですが…。あなた…老眼レンズで遊んでいたのですかね?」
「《おばあちゃんごっこ》とか? ずいぶん渋い遊びね、それ」
昴の言葉に思わずりおが吹き出す。
クスクスと笑うりおを見ながら、『みんな忘れちゃった』と寂しそうにつぶやいた顔を昴は思い出した。
「私の前で…無理して笑うことは無いですよ」
「!」
昴の言葉にりおの動きが止まった。
「前にも言いましたが…。泣きたいときは泣いてください。辛いときは辛いと言ってください。
無理をしないで。嘘を付かないで欲しいのです」
昴はりおの肩を引き寄せ抱きしめた。
「う…ん、うん。分かった…。ありがとう…」
りおは昴の肩にもたれかかると小さく返事をした。
髪で目元は見えなかったが、その声は僅かに震えていた。
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