第4章 ~両親との記憶~
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バタン
工藤邸の玄関ドアが閉まる。りおはゆっくりと靴を脱いだ。りおのすぐ後ろに居た昴も、靴を脱ぐと二人はリビングへと向かう。
「ふぅ…」
小さく息をついて、りおはソファーへなだれ込んだ。
「やはりカウンセリングを受けると疲れますね。
コーヒーを淹れてきますよ。その間に手を洗ってきてくださいね」
昴が優しい笑顔を向けて声をかけた。
「うん。ありがとう」
りおの返事を聞いて昴はジャケットを脱ぎ、シャツの袖をまくりながらとダイニングへと向かった。
ウェストホールディングスの事件後PTSDの症状を悪化させたりおは、ノエルやコナンの進言もあり、昴と…いや赤井と一緒に暮らすことを決めた。
退院後は体力の回復を優先し、無理が無いよう赤井のフォローを受けながら穏やかな日々を過ごしている。
とはいえ、予想外の事が起きるのは日常茶飯事。
コナンの策略でスコッチの兄との出会いがあったり、爆弾男の騒ぎに巻き込まれたり。
二人にとっては『それなりに』穏やかな日々…かもしれない。
手洗いを終え、りおがダイニングに姿を見せる。
イスに腰かけると、コンロの前でミルクを温めている昴の姿を眺めた。
りおの視線に気づき、昴が顔を上げた。
「どうしました?」
「ん? ふふっ…。改めて…昴さんと一緒に暮らしているんだな…って思っちゃって」
「フッ。そうですね。でも、オドゥムの刺客に狙われた時も、西村病院での事件の後も、アパートには帰らずココに居ましたけどね」
セットしたドリッパーにそっと湯を注ぎながら、昴は優しい口調で答えた。
コーヒーの香りがダイニングにふわりと広がる。
「あの時は…いずれアパートに戻るつもりでいたから…。気も張っていたし、なんていうか…気持ち的に一線を引いてた感じだった」
「一線?」
「うん。この線を越えたら…アパートに戻れなくなっちゃうなって。離れがたくなるから…」
自分が最も安心する場所ーーそこへ踏み込んだら、再び離れる時に辛くなる。
もっとそばに居たい。
もっと触れたい。
もっと声を聞いていたい。
溢れる感情を押し殺すことは簡単な事ではなかった。
8月に工藤邸を出た時、その辛さをイヤという程感じていた。同じ思いをしたくなかった。
「今は……どうなのですか?」
コーヒーとカフェオレが入ったカップを持って、昴がダイニングテーブルに近づいた。「今はそんな心配もなく……どっぷりと。
まるで日向ぼっこをしている猫のような気分」
「ははは。それは幸せそうだ」
カフェオレをりおの前に置き、昴はりおの隣に腰かけた。
「私も今は同じ気持ちです。あなたが8月にここを出ていった時は、これで良いんだと思う気持ちと寂しさとで、正直複雑でした。日が経つにつれて心配で。
それなのにあなたときたら…。
私の心配をよそに、公安の潜入で男とホテルに行ったり、(番外編『My Love>Your Love』)エヴァンと接触したり。生きた心地がしませんでしたよ」
「あはは…温泉旅行の時にも同じこと言われた気がする…。心配かけてばかりだね。ごめんね、昴さん」
昴の言葉にりおは肩をすくめた。
「良いんですよ。それも含めて《りお》なんだと最近分かりました。さ、もう謝るのはナシですよ。温かいうちにカフェオレをどうぞ」
ゆらりと揺れる湯気の向こうで、昴はやさしく微笑んだ。
カフェオレを飲み、二人はリビングに戻る。
しばらくすると、ソファーでくつろいでいたりおから、穏やかな寝息が聞こえてきた。
(だいぶお疲れのようだな……)
昴はブランケットを出し、起こさないようにそっとりおの体に掛けた。
気持ちよさそうなりおを見てフッと口角を上げると、再びソファーに深く座る。
背もたれに頭を預け目を閉じた。
昴自身も、最近はりおに忘れられた夢を見ていない。
《すべてを受け入れる》という覚悟が出来たからだろうか。お陰で心穏やかに生活している。
スコッチの兄と会うというイレギュラーな事もあったが、りおの方も良い状態が続いていた。
退院後から週に1度あったカウンセリングも、次回から2週に1度になる。
食事も以前と変わらないくらいに取れるようになり、顔色も良い。
昴は目を開け視線をりおの方へ向ける。
(だが今日のドクターの話では、記憶の混乱がまだわずかに残っていると言っていた。
今は落ち着いているが、今後も忘れていた事を思い出したり、辛い経験をフラッシュバックすることがあるかもしれない。
りおからあまり離れるなと言っていたな…)
それでも6月の頃に比べれば、精神的に強くなってきたと感じることも多い。
少しずつ少しずつ……行きつ戻りつではあるが、良い方へ変わってきている。このまま快方へ向かってくれれば……。
祈るような気持ちで昴は視線を落とす。
「……ぅ、ん…しゅ…ちさ…」
「…ッ」
不意に名を呼ばれ、昴は顔を上げた。
りおはよく眠っている。見ればわずかに表情を緩め、まるで笑っているようだ。
(いったいどんな夢を見ているのやら…)
日向ぼっこをする猫のように眠るりおを見て、昴は満足そうに微笑んだ。